目次][][][年次リスト

第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第2章 高成長が続く中国経済の現状と展望

第3節 調和のとれた持続可能な発展に向けて

1.「第11次5か年計画(27)」の主な特徴

●新たな思想に基づく計画
 2006年3月の全国人民代表大会では、第11次5か年計画(06〜10年)が採択された。03年より発足した胡錦涛国家主席・温家宝総理政権下における初めての5か年計画となる。
 これまで中国では1978年のトウ小平による改革・開放路線の開始以来、「先富論(28)」等を理念として高い経済成長を達成してきたが、所得格差、環境破壊、経済構造の不均衡等の様々な矛盾や問題が際立っている。現政権はこれらの問題に対処し、2020年までに全面的な小康社会(いくらかゆとりのある社会)を構築するため、これまでの成長至上主義から人を主体とした立場(「以人為本」)に基づき、調和のとれた持続可能な社会の実現(「和諧社会」)を目指すとしている。この指導理念は科学的発展観(29)と呼ばれており、この5か年計画に反映されている。

●第11次5か年計画の概要
 前述のように、第11次5か年計画では従来の成長重視から安定とバランスを重視しており、その内容のうち重要な任務として以下の六つが提示されている(第2-3-1表)
(イ)社会主義新農村の建設
 第一に、三農問題(農業・農村・農民)の解決を図ることが掲げられており、社会主義新農村を建設するとしている。社会主義新農村とは現政権の新たな概念で、「都市と農村の経済・社会発展を堅持した上で、生産増、生活水準及び公衆衛生の改善、民主的な管理を行う」としている。具体的には、農業を効率化し農民の収入を増やすことや、農村のインフラ強化、教育、文化及び医療衛生の整備等へ取り組むことなどが課題として掲げられている。
(ロ)経済成長方式の転換
 経済成長の過程で生じた数々の問題の根本的原因は、経済構造が不合理で成長方式が粗放型であるとし、産業構造の最適化・高度化、サービス業の発展、資源節約・環境保全等を実現しながら発展を目指すとしている。
(ハ)地域間のバランスのとれた発展の促進
 西部大開発等により地域間格差の是正をさらに進めるほか、国土開発に関し、国土の有効利用と産業構造の調整を推進するため全国を四つの地域(30)に区分し、それぞれの地域の特性を踏まえ地域間の調和のとれた、合理的な地域発展構造を形成していくことの重要性が強調されている。また、都市化を推進し、都市と農村の二極構造を徐々に改善するとしている。
(ニ)自主創新
 中国独自の技術創造や技術革新を国家戦略として推進し、知的財産権と有名ブランドを持った国際競争力の強い優良企業を形成することとしている。特に、情報、バイオ産業等の戦略的産業分野及び軍民両用技術に関する特定プロジェクトの実施を挙げている。
(ホ)改革の深化と開放の拡大
 78年以降の経済社会変化は改革・開放と密接に結びついていると改めて意義付けており、今後も引き続き経済体制の改革に加え、政治、文化及び社会管理体制を一段と改革することとしている。また対外政策に関しては、相互利益やウィンウィン(win-win)を目指す開放路線を継承する中、対外貿易構造の転換や外資利用の質的向上を図ることなどが示されている。
(ヘ)調和のとれた社会の構築
 具体的には、人口問題への取組、就業機会の拡大、社会保障制度の拡充、衛生環境の向上、公共安全の確保等により、経済成長の基礎となる社会を安定させることが重視されている。

●2種類の数値目標
 第11次5か年計画の特徴として、市場の役割を重視し、「市場が主、政府が従」という指針を示し、従来の計画に比べて詳細な数値目標が削減されている。またその目標は「所期性」と「拘束性」の二つに区分されており、「所期性」はあくまで達成目標であり、市場を通じて達成が図られるもの、「拘束性」は市場で調整されない分野である一部の公共サービス等、法律に基づき管理が強化されるもので必ず実現しなければならないとされている(第2-3-2表)
 このうち重要な数値目標は、以下の二つである。(1)2010年までの計画期間中の平均成長率を7.5%(所期性)とし、前計画期間(01〜05年)の実績より下回る水準に定めた。これは各地方政府に経済成長率を盲目的に追求することを禁止し、経済構造や効率性のバランスをとって経済運営を実施することが重要であると注意喚起する意味を持つ。(2)省エネルギーと環境保全に努めるため、エネルギー単位消費量を20%削減すること(初年度の06年は4%の改善が目標)、主要汚染物質排出総量を10%削減することを拘束目標として定めた。

●課題1:産業の高度化
 中国経済のこれまでの成長には、当然様々な要素があったわけであるが、基本的には、加工貿易型の輸出にみられるような、低コストで豊富な労働力を基盤とした労働集約型の成長であったといえよう。この豊富な労働力を有するという比較優位は今後もある程度続いていく可能性が高いが、それでも、(1)地域や職種によっては労働需給の逼迫がみられ、特に上海や広州といった沿海部の比較的早くから成長を遂げた地域においては、ASEAN等と比較した労働コストの優位性が失われつつあること(第2-3-3図)、(2)中長期的には2015年頃に労働力人口(15〜64歳人口)が減少に転じると見込まれていること(後掲第2-3-6図) (31) 、(3)労働集約型の発展にとどまるのであれば所得の飛躍的な拡大は望めないことなどに鑑みれば、特に先進地域においては、産業高度化が望まれるところでもあり、また、必要なものともいえよう。
 産業高度化としては、大きくは、(1)非効率な部分を淘汰し効率化を進めていくこと、(2)業種内での構造変化や新業種の開拓を通じて労働集約型から資本・技術・知識集約型の成長へと転換していくことが考えられ、前述の六つの重要任務には、「経済成長方式の転換(産業構造の最適化・高度化)」、「自主創新」といった項目が掲げられている。
 5か年計画では、第3編において産業別の発展に向けた方針が示されているが、IT産業、バイオ産業等のハイテク産業については、技術開発も含めた積極的な発展を掲げているのに対して、自動車、鉄鋼・化学等の素材系産業、軽工業や繊維産業等においては、再編、淘汰、品質向上といった表現を用いて効率化を図っていく方針が読み取れる。項目的にはかなり総花的な内容となっているものの、業種ごとの濃淡が読み取れる。
 また、第4編では、これまで遅れがちだったサービス業の発展について、透明で公平な参入制度の確立等により民間資金のサービス業への投入を奨励し、サービス業の比率を高めるといった積極的な記述がみられる。
 このほか、第7編においては、イノベーションの強化や人材育成策等が掲げられており、こうしたことも、知識集約型の成長への転換という産業高度化に資するものである。
 中国政府は、この5か年計画において、一部の業種で盲目的拡張により生産能力が過剰になっていること、経済成長方式の転換が遅いことを認識し、産業構造の最適化・高度化等を掲げているところである。しかし、第1節で述べたように、03〜04年にかけてみられたのと同様な過剰投資が再発していることなどをみると、まだ粗放的な経済成長からの転換という考え方が浸透しているとは言い難く、計画だけではなくいかに具体に実現していくかが今後の課題であろう。

●課題2:資源利用の効率化の推進
 また、重要任務「経済成長方式の転換」には資源節約・環境保全等の実現といった内容が含まれている。中国経済の規模が大きくなる中で、環境問題としても大きな関心事であるが、中国の持続的な経済成長にとっても重要な事項である。資源利用の効率化によって、(1)エネルギー投入を減らすことによるコスト削減、(2)変動が比較的大きいエネルギー価格の影響の軽減といった経済的メリットが生じると期待される。しかし、非効率がさらに拡大するような場合には、エネルギー資源価格への影響や、より長期にはエネルギー制約が経済成長を抑えてしまうといったことも懸念される。
 中国経済のエネルギー効率は、他国と比較しても非効率であり、04年のエネルギー原単位(単位GDP当たりのエネルギー消費)をみると、世界平均の2.7倍、日本の7.7倍非効率ということになる(第2-3-4図)。また、経年的にもここ数年は実質経済成長率を上回るペースでエネルギー消費が増加する傾向にある。
 第2-3-5図は極めて単純な仮定をおいた上で(32)、資源利用の効率化が将来のエネルギー使用量をどの程度変化させるかをイメージしたものである。04年の中国の一次エネルギー使用量は世界の約14%を占めるが、仮に現在のエネルギー効率が2030年まで変化なく続くとすると、使用量は04年の5倍弱程度、世界の約3分の1を占めることとなる。他方、5か年計画の目標に沿うかたちで毎年4%の効率化が図られた場合、使用量は04年の2倍以下(世界シェア約6分の1)にとどまる。また、前者は2030年の世界使用量を後者より30%近く増加させることとなり、2030年までの累積では、前者は後者に比べて04年の世界使用量の4倍以上の量の増加となる。仮に、計画に示されるような効率化が進まず、このようなことになれば、エネルギー価格への影響も懸念され、また、そもそもこのような経済成長が達成できるのかさえ疑問となる。
 5か年計画では第6編において、資源節約型の環境に優しい社会の建設を目指し、エネルギーを節約していくことを掲げている。具体には、産業構造の最適化(エネルギーを多く消費する産業の比率を低下させるなど)、省エネルギー技術の開発・普及、生産・輸送・消費の各段階における制度整備や監督強化、石油代替製品の普及(代替液体燃料の規格の制定)等が述べられている。しかしながら、計画初年度である06年1〜6月期のエネルギー原単位は、むしろ前年比0.8%の悪化となってしまっている。今後のさらなる努力が必要であり、計画の着実な実施が期待される。


目次][][][年次リスト