(2)パート・アルバイト労働者の賃金上昇率

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一般労働者(フルタイム)の賃金上昇の動きに続き、パート・アルバイト労働者の賃金上昇率の地域差について、最低賃金引上げとの関係もみながら確認していきたい。

(人手不足感の高まりと最低賃金引上げにより賃金が底上げ、地域全体の所得増加に寄与)

最初に、求人情報サイトに掲載されている募集賃金を抽出・集計した週次のビッグデータから、都道府県別に時給の推移を確認したい(図表1-19)。データが利用可能な2017年以降の推移をみると、全国的に上昇傾向が継続している。しかしながら、地方部の募集賃金の上昇は都市部よりも緩やかであり、全国的なバラつきはやや拡大している。

直近2年間(2022年4月から2024年4月)の上昇率をみると、全国平均では5.9%となっており、特に北海道で8.5%と全国で最も高い伸びとなっている。こうした賃金上昇の背景には、サービス業を中心とした人手不足感の強まりによる労働需給のタイト化に加え、最低賃金引上げによる効果も含まれる。近年では、2022年10月に全国加重平均で+31円(+3.3%)、2023年10月に+43円(+4.5%)の最低賃金引上げが行われたため、全国的にこの時期を境に募集賃金は大きく上昇している。

2022年10月と2023年10月の2回の最低賃金引上げが、パート・アルバイト労働者の募集賃金(時給)にどのように影響を及ぼしたか確認するため、最低賃金引上げ時の各都道府県の最低賃金上昇率(政策要因)を横軸、パート・アルバイト労働者の募集賃金上昇率を縦軸にとって、分布をプロットすると、最低賃金の伸びが1%高い地域では、パート・アルバイト労働者の募集賃金の伸びは平均して0.55%程度高いという相関関係が確認された(図表1-20)。

次に、最低賃金引上げの影響を含むパート・アルバイト労働者の時給上昇が地域経済に与える影響について、簡易的に試算を行い規模感の把握を行ってみたい(図表1-21)。

具体的には、「①パート・アルバイトの労働者数」、「②パート・アルバイト労働者の募集賃金上昇額」、「③パート労働者の年間総労働時間数」、を乗じることで「④都道府県別の名目雇用者報酬増加分」を求め、これに更に「マクロ的な消費性向(=名目家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃)/名目県民雇用者報酬)」を乗じて、都道府県別に名目消費の増加分を求めている5

試算結果をみると、2022年度と2023年度の最低賃金の引上げ効果を含む募集賃金の上昇により、全国計で7,800億円程度(年間のGDP比で0.1%程度)の名目消費押上げ効果があったと計算される。都道府県別には、就業者数に占めるパート・アルバイト労働者の割合により押上げ効果に地域差はあるが、各都道府県で2年間で県内総生産(年間)の0.1~0.3%程度の押上げ効果があったと計算され、こうした募集賃金の上昇は消費の増加を通じて、地域全体の所得増加に寄与している。

コラム1:カイツ指標(最低賃金/募集賃金)の地域差

本コラムでは、最低賃金引上げの波及効果の地域差という観点で、募集賃金と最低賃金の比率である「カイツ指標6」を都道府県別にみてみたい。データをみると、東京都や大阪府では全国平均(0.89)を下回る一方、青森県や宮崎県では1に近くなっている(コラム1図表1)。

また、各地域のカイツ指標が中期的にどのように変化してきているかという点で、2017年から2024年にかけてのカイツ指標の変化幅を都道府県別にみると、東京都や大阪府といった都市部や北海道、沖縄県では上昇幅が小さく、地方の方が相対的にカイツ指標の上昇幅が大きいことが分かる(コラム1図表2)。上昇幅が大きい地域は、最低賃金は引き上げられたものの、募集賃金がそれに応じて上がっていない地域であり、元々カイツ指標の水準が高い地方部において、最低賃金に近い賃金で働く雇用者の割合が高まっていることが示唆される。最低賃金引上げとともに、こうした指標の上昇幅の地域差も注視していく必要がある。


脚注5 募集賃金の上昇に応じてパート・アルバイト労働者の所得が増加したことを想定した簡易的な計算。使用データの詳細は付注1-1参照。
脚注6 ここでは「最低賃金/平均募集賃金」の比率として計算を行っている。一般的に、「カイツ指標」が1に近づくほど最低賃金に近い水準で働いている雇用者の割合が多く、最低賃金引上げによる波及効果も大きくなる。
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