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第3節 企業・雇用・家計の動向

本節では、地域経済がどのような状況にあったのかを、企業、雇用、家計の分野ごとに分析する。

1.企業の動向

(1)生産の動向

(東日本大震災発生前は、輸出やエコカー補助金終了の影響を受けた鉱工業生産)

地域別の生産動向を鉱工業生産指数の推移でみると、エコカー補助金や家電エコポイントといった政策の効果や輸出に支えられて、2009年4月頃から10年3月頃までは、全ての地域で増加基調であった。しかし、10年4月以降になると、多くの地域でそれまでの増加の勢いが緩やかになり、特に9月~11月の間は、北陸を除く関東、東海、九州など多くの地域で伸びの鈍化が顕著となった。ただし、12月以降は再び同年8月までの増加基調に戻った(第1-3-1図)。

第1-3-1図 鉱工業生産指数の推移
第1-3-1(1)図 鉱工業生産指数の推移 第1-3-1(2)図 鉱工業生産指数の推移
(備考)
  1. 各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業生産指数」により作成。
  2. 地域区分はB

9~11月の生産の伸びの鈍化は、アジアの景気回復テンポの鈍化等を受けた輸出の鈍化や9月のエコカー補助金終了に伴う自動車生産の落ち込みによる輸送機械の減少、IT関連の在庫調整に伴う電子部品・デバイスの生産減少などが要因と考えられる。一方、12月以降の伸びの高まりは、エコカー補助金の終了による自動車生産の大幅減少が底を打ったこと、輸出で持ち直しの動きがみられたことなどによる(第1-3-2図、第1-3-3図、第1-3-4図)。

第1-3-2図 地域別輸出の動向
第1-3-2図 地域別輸出の動向
(備考)
  1. 財務省「貿易統計」により作成。
  2. 季節調整値。括弧内は2010年の金額ウェイト。
第1-3-3図 主要3業種の鉱工業生産指数(季節調整値)の推移
第1-3-3図 主要3業種の鉱工業生産指数(季節調整値)の推移
(備考)
経済産業省「鉱工業生産動向」により作成。
第1-3-4図 鉱工業在庫指数
第1-3-4図 鉱工業在庫指数
(備考)
  1. 経済産業省「鉱工業生産動向」により作成。
  2. 季節調整値、期末在庫。

業種別の寄与度をみると、10~12月期において生産が減少した東海、関東、九州などでは、輸送機械がマイナスに寄与した。一方、10~12月期にも堅調に増加している北陸では、海外向けで好調な一般機械がプラスに寄与した(第1-3-5図)。

第1-3-5図 鉱工業生産 業種別寄与度の推移(2010年7~9月期、10~12月期、2011年1~3月期、4~6月期)
第1-3-5図 鉱工業生産 業種別寄与度の推移(2010年7~9月期、10~12月期、2011年1~3月期、4~6月期)
(備考)
  1. 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業指数」により作成。
  2. 電子部品・デバイスにおいて、北海道と四国は電気機械の生産指数を用いて作成。
  3. 2005年基準、季節調整値。
  4. 地域区分はB

(東日本大震災の影響により、3月には、生産は東北、関東、東海など多くの地域で大幅に減少)

生産の持ち直しの動きは2011年に入ってからもみられていたが、3月に東日本大震災が発生すると、その影響により、四国を除く全ての地域で減少することになった(前掲第1-3-1図)。特に東北では、震災による生産設備の毀損や操業の停止などにより、大幅に減少した。関東では、輸送機械の部品の供給不足や計画停電に伴う操業率の低下などにより、そして東海では輸送機械の部品の供給不足などにより、減少した。これらの地域における一か月間の減少幅は、リーマンショック後よりも大きかった。また、阪神・淡路大震災が起きた95年1月の近畿における減少幅(4.7%減)と比較しても、今回の東北の減少幅(35.1%減)は極めて大幅なものであった(第1-3-6表)。

第1-3-6表 鉱工業生産指数 リーマンショック時との比較
第1-3-6表 鉱工業生産指数 リーマンショック時との比較
(備考)
  1. 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局・ガス事業北陸支局「鉱工業生産動向」により作成。
  2. 地域区分はB

(4月は一般機械、5月以降はサプライチェーンの立て直しにより輸送機械を中心に生産が持ち直し)

震災後の地域別の鉱工業生産指数の動きを説明するにあたり、まず、震災後の業種別の鉱工業生産指数の動きを、2011年2月の水準を100としてみてみる。輸送機械はサプライチェーンの寸断により3月に大幅に減少し、4月も極めて低い水準にあったが、5月以降はサプライチェーンの立て直しとともに上昇した。また、一般機械はアジア向け需要が堅調であり、4月には上昇基調に戻り、5月には震災前の水準まで戻っている。一方、電子部品・デバイスは、震災の影響に加えて世界的な市況の悪化などにより、4月以降も弱い動きを示している(前掲第1-3-3図、第1-3-7図)。

第1-3-7図 半導体・電子部品の世界市場の動向
第1-3-7図 半導体・電子部品の世界市場の動向
(備考)
  1. SIA "Historical Billing Reports"、(社)電子情報技術産業協会「電子部品グローバル出荷統計」により作成。数値は、3か月移動平均原数値。
  2. 「電子部品グローバル出荷統計」は、(社)電子情報技術産業協会の会員企業80数社から提出された、連結ベース(グループ間取引調整後)の出荷額データをとりまとめたもの。

輸送機械は他の業種に比べて大幅に減少しているが、その主たる要因としては、自動車生産のための部品の中でも、輸入等による代替が効かない重要部品、例えば用途ごとのカスタム生産が多いマイコン(半導体)などを製造する工場は、その多くが東北や北関東に立地しており、これらの工場が被災したことにより、自動車の完成車の生産の多くが一時的に全面停止せざるをえなかったことなど、東北や北関東に立地する自動車の中間財を製造する電子部品・デバイスなどの業種の被災が輸送機械の製造に波及したことが挙げられる。

(東北、関東では生産設備の復旧・稼働再開、東海などではサプライチェーンの立て直しにより、持ち直した生産)

震災後の地域別の鉱工業生産指数の動きをみると、2011年4月には、生産設備の復旧・稼働再開や一般機械の輸出向けが堅調であったことなどから、東北(11.0%増)、関東(5.7%増)で大幅に増加した。5月には、サプライチェーンの立て直しにより東海(5.9%増)で大幅に増加した。このように4月以降は多くの地域で生産が持ち直し基調にある。

全国的な持ち直し基調の中で、5月に北海道および北陸で減少したのは、それぞれ輸送機械、電子部品・デバイスが減少したことなどによる。また、6月に九州で減少したのは、一般機械などの減少によるものであるが、前月比0.3%減と僅かな減少であった。四国のみが4~6月の間、3か月連続で減少するという他の地域とは異なった動きを示しているが、これは、四国の鉱工業生産に占める輸送機械のウェイト(5.0%)が小さいため、サプライチェーンの寸断と立て直しによる変動が小さい一方、半導体集積回路など電気機械の生産が減少したことなどによる(第1-3-8図、第1-3-9図)。

第1-3-8図 鉱工業生産指数の前月比(2011年4月、5月、6月、7月、8月)
第1-3-8図 鉱工業生産指数の前月比(2011年4月、5月、6月、7月、8月)
(備考)
  1. 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局・ガス事業北陸支局「鉱工業生産動向」により作成。
  2. 地域区分はB
第1-3-9図 地域毎の鉱工業生産指数に占める輸送機械のウェイト
第1-3-9図 地域毎の鉱工業生産指数に占める輸送機械のウェイト
(備考)
  1. 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業生産指数」により作成。
  2. 2005年基準。
  3. 地域区分はB。ただし、東海は岐阜、愛知、三重の3県、北陸は富山、石川、福井の3県。

さらに、輸送機械のウェイトが大きい関東(15.2%)、東海(37.5%)、中国(14.8%)、九州(15.4%)などの地域でも、震災の影響及びその後の持ち直しの動きに違いがみられる。これらの地域の中では、東海が他地域に比べて3月の減少幅が大きく、その後、再び増加に転じる時期も遅かった。これは、東海では輸送機械のウェイトが群を抜いて大きかったことに加え、輸入等による代替が効かない重要部品のサプライチェーンが主に東日本に構築されていたことなどによるものと考えられる(第1-3-10図)。

第1-3-10図 鉱工業生産指数(季節調整値)の推移
第1-3-10図 鉱工業生産指数(季節調整値)の推移
(備考)
  1. 各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業生産指数」により作成。
  2. 地域区分はB

これに対して、輸送機械のウェイトが低い北陸(4.2%)や近畿(7.0%)などでは、アジア向け需要が堅調である一般機械が増加に寄与した一方、市況の悪化により電子部品・デバイスが減少に寄与したことが鉱工業生産の動きの要因となっている(前掲第1-3-5図)。

なお、鉱工業生産について、震災前の2月の水準を100として8月の水準をみると、九州では102.0、四国では100.7と2月の水準にまで戻ったが、その他の地域では戻っていない。その中でも東北が89.7と最も低く、震災の影響が依然として大きいことが分かる(前掲第1-3-10図)。

(北海道などでみられた代替生産)

被災による工場設備の毀損や計画停電の影響で生産ができなかったり、制約されたりした品目を、他地域にあるグループ工場などで生産するという代替生産が、震災後に北海道などで行われた。業種別の地域の鉱工業生産の動きをみると、東北では、2011年3~4月に石油製品、化学、パルプ・紙、鉄鋼、食料品・たばこなどが減少している一方で、例えば、北海道では、3月には石油・石炭製品が震災前の2月の水準より高くなっており、4月もパルプ・紙と食料品が高くなっている。同様に九州においても、化学、パルプ・紙、石油・石炭製品、食料品・たばこなどが3月、4月に高くなっている。こうした動きは代替生産の動きを反映していると考えられる。代替生産はサプライチェーンが寸断したことによって行われるので、当然被災地の生産の復旧やサプライチェーンの持ち直しの動きとともに縮小していくはずである。事実、5月頃から北海道と九州において、上記の業種の生産水準の減少がみられた(第1-3-11図)。

第1-3-11図 東北、北海道、九州における業種別鉱工業生産指数(季節調整値)の推移
第1-3-11図 東北、北海道、九州における業種別鉱工業生産指数(季節調整値)の推移(東北) 第1-3-11図 東北、北海道、九州における業種別鉱工業生産指数(季節調整値)の推移(北海道、九州)
(備考)
  1. 各経済産業局「鉱工業生産動向」により作成。
  2. 地域区分はB

(地上デジタル放送への完全移行による、液晶テレビの生産の増加)

2011年7月24日6に地上デジタル放送への完全移行となるため、その前に地上デジタル放送関連製品の生産が増加した。液晶テレビの鉱工業生産指数の動きをみると、09年4月には188.2だったものが、10年12月には348.7となった。この間の急激な増加は、家電エコポイント制度に加えて、この地上デジタル放送への完全移行の効果によってもたらされたと考えられる。他方、11年5月以降の液晶テレビの増加は、家電エコポイント制度終了後なので、もっぱら地上デジタル放送への完全移行に伴う駆け込み需要によるものであると考えられる(第1-3-12図)。

第1-3-12図 液晶テレビの生産動向の推移
第1-3-12図 液晶テレビの生産動向の推移
(備考)
経済産業省「鉱工業生産動向」により作成。

(円高等による企業活動の先行き悪化懸念)

2011年7月頃から顕著になっている円高は、企業活動を慎重化させる一因となっている(第1-3-13図)。

第1-3-13図 対ドル円レートの推移
第1-3-13図 対ドル円レートの推移
(備考)
日経NEEDSより作成。

景気ウォッチャー調査の企業動向の現状判断DIをみると、8月は前月差3.4ポイントの低下となり、低下幅は11年3月以降で最大となった。さらに、企業動向を製造業、非製造業に分けてみると、8月は製造業が前月差6.1ポイントの低下、非製造業が1.5ポイントの低下となり、輸出企業の多い製造業の低下幅が大きい。また、震災以降は製造業の現状判断DIが非製造業のDIを上回りながら上昇してきたが、8月には両者のDIが逆転している。企業動向の先行き判断DIをみても、8月には製造業は3.8ポイントの低下となり、3月以来5か月ぶりの低下となった(第1-3-14図)。

第1-3-14図 景気ウォッチャー調査 企業関連DIの推移
第1-3-14図 景気ウォッチャー調査 企業関連DIの推移
(備考)
内閣府「景気ウォッチャー調査」により作成。

企業動向関連のコメントでは、輸送機械分野を中心に製造業で生産が急速に回復していることが指摘されているものの、円高の急激な進行に対する企業の懸念が広くみられている。例えば、「景気ウォッチャー調査(2011年8月調査結果)」では、「輸出向け価格も円高でさらに採算が悪化」、「メーカーは円高等で利益なき繁忙に」、「価格競争力が失われ、受注に至らず」、「取引先からのコストダウン要請が始まった」、「現地生産や海外調達への切換えを懸念」といったコメントがみられた。

また、9月についても企業動向の現状判断DIは前月差2.3ポイントの低下となり、2か月連続の減少となった。製造業では前月差0.3ポイントの低下であるのに対し、「円高の影響で輸出関係の荷物は大幅に減少している」というコメントにみられるように、円高の影響が輸送業などの非製造業まで広がってきていることから、非製造業では同4.4ポイントの低下となっており、円高等による企業活動の先行き悪化が懸念される。

(2)設備投資、企業倒産等の動向

(新興国需要や次世代自動車・スマートフォン関連の需要を背景として、堅調な設備投資)

地域別の設備投資動向を詳細に調査している日本政策投資銀行「設備投資計画調査」(2011年7月調査)をみると、11年度(計画)は、工場新設投資の一段落により鉄鋼などが減少する北海道と、薄型ディスプレイ関連の投資の一服、太陽電池関連大型投資の反動により電気機械などが減少する近畿と九州の3地域で、減少が見込まれている。その他の北関東、四国、北陸など7地域では、新興国需要などによる輸出増加や次世代自動車、スマートフォン関連の部材・二次電池関連への堅調な需要を背景として、一般機械、化学、輸送機械を中心に増加する見込みとなっている。特に、北関東では、新興国向けを中心に需要が好調な一般機械や、維持補修投資が増加する電力などを中心に、前年度比40.3%増と高い伸びとなっている(第1-3-15図)。

第1-3-15図 地域別設備投資
第1-3-15図 地域別設備投資
(備考)
  1. 株式会社日本政策投資銀行 「2010・2011・2012年度 設備投資計画調査」により作成。
  2. 全国の数値は、都道府県別投資額未回答会社の計数と沖縄県の計数を含む。
  3. 地域区分はA

また、総設備投資額に占める震災復旧・復興投資の割合をみると、10年度実績では全産業0.6%だったのが、11年度計画では6.8%の増加となっている。業種別にみると、製造業が9.2%、非製造業が5.0%と、製造業の方が相対的に高くなっている(第1-3-16図)。

第1-3-16図 総設備投資額に占める震災復旧・復興投資の割合
第1-3-16図 総設備投資額に占める震災復旧・復興投資の割合
(備考)
  1. 株式会社日本政策投資銀行 「2010・2011・2012年度 設備投資計画調査」により作成。
  2. 対象会社数:292社(製造業132社、非製造業160社)
    *震災復旧・復興投資が1百万円以上の会社を集計
  3. 震災復旧・復興投資がゼロとの回答があった会社は982社

(震災により悪化した資金繰り環境)

「企業短期経済観測調査(短観)」(日本銀行)における地域別の資金繰り判断DI7をみると、2010年9月調査から11年3月調査8にかけては、北関東、南関東、東海、北陸、近畿、中国、九州の7地域で資金繰り環境は改善した。しかし、11年6月調査では、震災等の影響により、東北、東海、北陸、近畿、九州、沖縄で横ばいとなり、その他の地域では悪化した。特に北関東、南関東では前回調査からそれぞれ4ポイント低下、3ポイント低下し、他地域に比べれば悪化幅が大きかった。しかしながら、生産の急速な回復や資金繰り支援策等9の効果もあり、全国ベースでは小幅の悪化に留まった。なお、同年9月調査では、九州と南関東を除く地域で資金繰り環境が改善している。特に、東北は依然として「苦しい」超ではあるものの、「苦しい」超幅が大幅に縮小している(第1-3-17図)。

第1-3-17図 日銀「短観」における資金繰り判断DIの推移
第1-3-17図 日銀「短観」における資金繰り判断DIの推移
(備考)
  1. 日本銀行各支店「短観」より作成。
  2. 北関東は日本銀行前橋支店管内、南関東は同横浜支店管内である。
  3. 「楽である」と回答した企業数構成比-「苦しい」と回答した企業数構成比(%ポイント)。

(南関東を除く全ての地域で前年を下回った公共工事請負金額)

地域別の公共工事請負金額は、2010年度は公共事業関係の予算の削減を受けて、全ての地域において前年度を下回った。11年度も4~9月累計でみると、南関東を除く全ての地域で前年を下回っている(第1-3-18図)。南関東で前年を上回ったのは、地方自治体による下水道の工事などによる。なお、東北では、10年度には12.4%減であったのに対し、11年度には2.6%減と減少幅が縮小しており、がれき処理や仮設住宅建設を含む被災3県での災害復旧の公共工事請負金額が、5月以降は高い水準で進捗している(第1-3-19図)。

第1-3-18図 公共工事請負金額の推移
第1-3-18図 公共工事請負金額の推移
(備考)
北海道建設業信用保証株式会社、東日本建設業保証株式会社、西日本建設業保証株式会社「公共工事前払金保証統計」により作成。
第1-3-19図 被災3県災害復旧の公共工事請負金額の推移
第1-3-19図 被災3県災害復旧の公共工事請負金額の推移
(備考)
東日本建設業保証株式会社「公共工事前払金保証統計」により作成。

(東北では、倒産件数は前年比減少しているものの、今後も企業状況に留意が必要)

倒産件数の前年同期比をみると、10年7~9月期から11年7~9月期まで、東北では減少が続いた。一方、東北に隣接する北関東では、震災後の11年4~6月期に宿泊業や飲食業などを含むサービス業他における倒産の増加により全体の件数がプラスに転じたが、7~9月期には再びマイナスに戻った。

東北で倒産件数の前年比減少が続いている要因としては、震災による被災中小企業向けに新たな資金繰り支援が開始されたことに加え、被災地については、「不渡報告の記載猶予」、「破産手続開始決定の2年間の留保」、「中小企業金融円滑化法に係る開示・報告におけるみなし謝絶ルールの適用除外」10などの救済措置が行われていること等があるものと考えられる。ただし、東北の11年7~9月期の倒産件数の産業別内訳のうち、サービス業他が前年同期比5.5%増と大きく増加した点には留意が必要である(第1-3-20図)。

第1-3-20図 倒産件数 産業別寄与度
第1-3-20図 倒産件数 産業別寄与度
(備考)
株式会社東京商工リサーチ「倒産月報」により作成。

東日本大震災関連倒産11については、震災発生から11年10月7日までの累計の倒産件数が全国で382件あり、最も件数が多いのは南関東の109件、次に東北75件となっている(第1-3-21図)。また、東北を県別にみると、岩手県21件、福島県18件、宮城県10件となっている。ただし、東北は倒産件数は少ないが、岩手、宮城、福島3県の沿岸部に本社がある4280社の中で、今後の事業継続意向がある企業は全体の55%に留まるとの調査結果12もある。企業経営の厳しさが今後倒産件数の増加として現われてくる可能性もあり、被災3県の企業状況は予断を許さない。なお、382件を産業別にみると、件数順に製造業が99件、サービス業他が86件、建設業67件と続いている。震災発生直後は消費自粛等によるサービス業他の倒産が多かったが、時間が経過するにつれて受注減少の影響などによる製造業の件数が増加している。

第1-3-21図 東日本大震災関連倒産件数
第1-3-21図 東日本大震災関連倒産件数
(備考)
  1. 株式会社東京商工リサーチ「倒産月報」より作成。
  2. 地域区分はA
  3. 震災発生から10月7日までの倒産件数の累計。

(企業の動向のまとめ)

生産の持ち直しの動きは2011年に入ってからもみられていたが、3月には東日本大震災の影響により、四国を除く全ての地域で減少することになった。特に東北では、震災による生産設備の毀損や操業の停止などにより大幅に減少した。関東では輸送機械の部品の供給不足や計画停電に伴う操業率の低下などにより、また東海では輸送機械の部品の供給不足などにより、生産が減少した。その後は、東北、関東でも生産設備の復旧・稼働再開などにより、東海などではサプライチェーンの立て直しなどにより、持ち直している。設備投資は、北関東、四国、北関東などでは、新興国需要などによる輸出増加や次世代自動車、スマートフォン関連の部材・二次電池関連への堅調な需要を背景として、増加する見込みである。企業倒産は、東北では震災後も前年比で減少が続いているが、引き続き企業経営をとりまく厳しい状況に留意する必要がある。


6 岩手、宮城、福島の3県に関しては、アナログ放送が終了する時期を最大1年間延長する等の措置を規定した「東日本大震災に伴う地上デジタル放送に係る電波法の特例に関する法律」(平成23年法律第68号)が2011年6月15日に制定された。
7 資金繰り判断DIは、「楽である」と回答した企業数構成比と「苦しい」と回答したそれとの差(%ポイント)。
8 2011年3月調査の回答期間は、11年2月24日~3月31日。
9 政府は中小企業の資金繰り対策として、2008年10月に緊急保証制度の創設とセーフティネット貸付等の強化を行った。また、09年12月には、中小企業金融円滑化法を施行した。さらに10年2月には、09年度第二次補正予算成立を受けて、10年3月末で期限切れを迎える予定であった緊急保証制度を、11年3月末まで実施する「景気対応緊急保証制度」に衣替えし、保証枠を拡大するとともに対象業種の指定業種を原則全業種に広げた他、利用企業の認定基準を改めた。
なお、東日本大震災の被災中小企業向けに新たな資金繰り支援が創設された。内容は、主に3つに分類できる。1つ目は政府系金融機関によって提供される特別融資、2つ目は信用保証協会によって提供される特別保証、3つ目は、中小企業基盤整備機構の共済に加入している事業者に関して別枠で用意されている特別貸付である。
10 金融庁は2011年5月31日、東日本大震災の被災地域にある金融機関等が、中小企業金融円滑化法の開示・報告について、被災地域の実情に応じた形で行うことで、同法に基づく貸付条件の変更等に、より積極的に取り組むことができるよう、中小企業金融円滑化内閣府令等の改正を行った。それにより、借り手である中小企業者等から貸付条件の変更等の申込みを受け付けた後、東日本大震災により、債務者と連絡を取ることが困難である場合その他やむを得ない理由のため、審査に追加的な時間が必要となる場合には、当該借り手に係る債権の額及び件数を注記の上、「みなし謝絶」ルール(貸付条件の変更等の申込み後3か月を経過しても審査中である債権は「謝絶」として取扱う)の適用除外とすることができることとなった。
11 東日本大震災関連倒産は、原則として次の3つのどれかに該当するものを集計。1つ目は、震災により施設・設備・機械等に被害を受けて経営破綻した(直接型)。2つ目は、以前から経営不振だったが、震災による間接影響を契機に経営破綻した(間接型)、3つ目は、震災の影響による経営破綻が、取引先や弁護士等への取材で確認できた(直接・間接型)。
なお、すでに震災前に再建型の法的手続を申請しながら、震災による影響で再建を断念し破産手続に移行したケースなどは、倒産件数のダブルカウントになるため集計から除外。また、「事業停止」や「弁護士一任」、「破産手続き中」などの企業は、今後の展開次第で事業再開の可能性もあるため、「実質破綻」として「倒産」と区別。
12 帝国データバンク株式会社が実施(2011年7月8日公表)。調査期間は11年6月6日~30日。調査内容は、震災後の活動状況、今後の事業継続方針についての現地聞き取り。
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