第2章 第2節 2 地域からアジア・中国への輸出の動向

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(貿易統計の税関別・品目別のデータ)

上記のような輸出動向を踏まえた上で、次に日本の各地域からアジア及び中国への輸出動向についてみてみる。ただし、各地域から世界への輸出動向を直接把握できるような統計は存在しないことから、ここでは貿易統計の税関別・品目別のデータを活用する。これは全国9つの税関(函館、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、門司、長崎、沖縄)の各税関管内に所属する各港(空港、港湾。第2-2-4表)で把握した輸出金額を、各税関ごとに集計したものである。このデータをここでは各地域からの輸出の動向を示すものと見なして分析をする。

第2-2-4表  各税関の管轄区域内の港名

第2-2-4表

(備考) 財務省「貿易統計」(外国貿易等に関する統計基本通達 別表第3 港符号表)により作成。

ただし、その場合、以下の点には注意が必要である。

  • (1)各税関の管内と本報告書における地域区分とは対応していないことである。例えば、函館税関がカバーしている港は、本報告書の区分でいえば、北海道と東北の一部である。他方、東北の港は、函館、東京、横浜の各税関の管内に分かれている。また、山口県を除く中国地域と四国がともに神戸税関の管内に所属しているほか、北陸は大阪税関に所属している。さらに、山口県と九州の一部が門司税関に所属する結果、九州は門司と長崎の各税関に分かれている(第2-2-4表)。
  • (2)生産地のある地域と輸出する港の地域が異なる場合が考えられることである。例えば、東京税関の所管する港である羽田空港、成田空港には全国から物品が集まってきていると考えられるが、それらが具体的にどの地域で生産されたものかについて追跡することは困難である。

このような限界があることを踏まえた上で、以下、各税関ごとの対アジア、対中国輸出の状況をみることにする。

(税関別のアジア・中国向け輸出の特徴)

第2-2-5表は、沖縄を除く168税関の対アジア、対中国輸出金額の上位3品目を並べたものである(ここに記された比率は、当該税関の総輸出金額に占める当該品目の輸出金額の比率であり、数値の幅は、データ集計期間内(2008年1月~2010年5月(函館税関は2010年8月まで)におけるそれぞれの比率の高値、低値を示している)。品目の順位を定めるにあたっては、2008年から2010年5月までの金額を合計したもので比較した(函館税関のみ2010年8月までの合計)。品目の分類は、食料品、原料品、鉱物性燃料、原料別製品、一般機械、電気機器、輸送用機器17、その他、という大分類に従っている。以下、この表から読み取れる特徴をまとめてみよう。

第2-2-5表  アジア、アジア内の中国への全国及び各税関の輸出上位3品目
―中国向け食料品は函館税関から、アジア、中国向け輸送用機器は名古屋税関から輸出―

第2-2-5表

※各品目の代表製品

  • 原料品:採油用の種、生ゴム、木材、コルク、人造繊維
  • 鉱物性燃料:石炭、コークス、石油製品原料別製品:革、革製品、毛皮、ゴム製品、ゴム加工材料
  • その他:照明器具、家具、下着類、時計、楽器。

(備考)

  1. 財務省「貿易統計」(税関別国別品別表 輸出)により作成。
  2. データの集計期間は2008年1月~2010年5月(但し、函館税関については2008年1月~2010年8月)。
  3. 色付きは、全国の当該品目の比率と比べて、各税関の当該品目の比率が大きく上回っている部分。
  • (1)日本全体からアジアと中国への輸出を比べると、上位3品目はいずれも電気機器、一般機械、原料別製品となっており、その比率にも大差はないという結果になっている。
  • (2)日本全体から世界への輸出とアジア、中国への輸出とを比較すると、世界への輸出のうち最大のものが自動車をはじめとする輸送用機器であるのに対し、アジア、中国への輸出では、輸送用機器は上位3位に入っていない(いずれも5番目)。
  • (3)第2-2-5表の網掛けの品目は、全国の当該品目の比率に比べて、各税関の当該品目の比率が大きく上回っている品目であり、いわば当該税関の特徴的な品目である(第2-2-5表)。これをみると、函館税関の対中国の食料品、名古屋税関の対アジア、対中国の輸送用機器、門司税関の対中国の輸送用機器、長崎税関の対アジアの輸送用機器、そして、東京税関及び大阪税関の対アジア、対中国の電気機器が特徴的な品目となっている。それぞれについて少し詳しくみてみよう。

ア)函館税関の対中国の食料品輸出

全国からの対アジア、対中国の食料品輸出が1%未満であるのに比べて、函館から中国向けの食料品は11~18%と高い。対アジアでも6~13%である。函館税関の管内は北海道、東北の一部であり、地域別鉱工業生産指数のウェイトの大きさをみると、食料品・たばこは北海道で1位、東北で2位である。函館税関は、その背後にある地域の産業構造を反映して、特に中国向けの食料品の輸出金額が大きくなっていると考えられる。

イ)名古屋税関の対アジア・対中国及び門司税関の対中国の輸送用機器輸出

輸送用機器の比率をみると、名古屋税関の対アジア輸出では17~22%、対中国輸出では18~27%、また、門司税関の対中国輸出では16~22%となっている。これは輸送用機器の輸出が日本全体から対アジア、対中国輸出に占める割合が8~11%に止まっているのに比べると高い。これも、各税関の背後地である東海や九州の産業構造において輸送用機器のウェイトが大きいこと(鉱工業生産指数における輸送機械のウェイトは東海で1位、九州で2位)を反映している。

なお、長崎税関の対アジア輸送用機器輸出も53~62%と極めて大きい。これは、長崎には大きな造船所があり、輸送用機器でもタンカーや貨物船といった船舶の輸出の影響が大きいと考えられる。船舶の輸出は、対シンガポール、香港、マレーシア向けが中心である。

ウ)東京税関及び大阪税関の対アジア、対中国の電気機器輸出

対アジア、対中国の電気機器の輸出は、東京税関で32~38%、大阪税関で39~45%となっている。電気機器は、全国でも対アジア、対中国輸出の品目別トップであるが、東京、大阪の各税関の比率が全国を10%ポイント以上も上回っているということは、電気機器の対アジア、対中国輸出は東京税関、大阪税関が中心となっていることを表している。これは、東京税関の管内には成田空港が、大阪税関の管内には関西国際空港があり、半導体等電子部品等は比較的軽いため、両空港から空輸されていることが要因となっている可能性がある。実際、東京、大阪の近郊にはあるものの、その管内に大きな空港を抱えていない横浜、神戸の各税関における電気機器の輸出比率はそれほど高くはない。

(地域からアジア・中国向け輸出を伸ばす上でのポイント)

以上を参考にしながら、各地域ごとの対アジア、対中国輸出のパターンを考えると次のようになる。

北海道の食品や東海の輸送用機器のように、当該地域の産業構造を反映した品目を、アジア、中国に輸出しているパターンである(上記ア、イ)。この前提となるのは、アジアや中国にニーズがあることであり、現状では、そのような地域はそれ程多くないと思われる。

しかし、対アジアや対中国輸出を増やすために、逆にアジアや中国の需要に合わせて、地域の産業構造を見直すという考え方もありうる。その場合には、地域の産業構造を大きく転換することは容易ではないので、実際には既存の産業構造を活かしながら、アジア・中国のニーズに合うものを生産し、輸出することが求められる。

また、上記ウの例にみられるように、地域の産業構造とは無関係に、むしろ、大規模国際航空等の輸送インフラの充実を武器に全国から物品を集めて輸出するパターンもある。ただ、このパターンは既存インフラが充実している大都市圏に限られ、地方圏が新たにインフラを充実させて、このパターンで対アジア、対中国輸出の増加を図るということは現実的ではないだろう。また、このパターンでは、ある地域の輸出が他の地域に振り替わるだけで、全体としての日本の輸出の底上げにつながるとは限らない。

これらのパターンに基づいて、現時点における地域の対アジア、対中国輸出に向けた具体的な可能性を考えると次のようになる。

まず、自動車をはじめとする輸送用機器の可能性である。日本が誇る環境技術を活かしたハイブリッド車や電気自動車といった環境対応車に対する潜在的需要はアジアでもあるはずである。例えば、中国ではガソリン車の普及はかなりの勢いで進んでいるが、環境対応車の普及はその価格の高さがネックとなって進んでいない。しかし、環境問題への対応が国家戦略の一つとなっている中国では、環境対応車の普及は重要な課題の一つとされており、環境対応車へのニーズは高いものと考えられる。

そもそも、輸送用機器の輸出に関しては、上記(2)でも示されるように、対世界に比べて、対アジア、対中国に占める比率が低いことから、これを引き上げる余地について検討する必要がある。そのためには、対アジア、対中国では、環境対応車あるいはそのための中間財の輸出を日本全体として増やすことが考えられるが、その中で、輸送用機器のウェイトが高いにもかかわらず、現時点ではそれほど、アジア、中国へ輸出していない地域からの輸出が促進されることが期待される。

もう一つは、農産物も含めた食品関係のアジア、中国への輸出である。函館税関からの対アジア、対中国の輸出を除けば、食品の輸出に占める割合は1%未満に過ぎないが、北海道以外にも、東北のコメ、北関東の野菜、南九州の畜産といった競争力のある農産物を生産する地域があることを考えると、これらの地域からアジアや中国へ、高品質で安全な農産物等を輸出する可能性を検討することが考えられる。


16.沖縄税関からの対世界、対アジア、対中国の輸出総額は、日本の対世界、対アジア、対中国の輸出総額の0.09%、0.15%、0.07%と小さく、月によって数字が大きく上下する(数字はすべて2008年1月から2010年5月までの合計より計算)。
17.鉱工業生産指数では「輸送機械」、貿易統計(税関)では「輸送用機器」という用語を使用しているため、本報告書では、貿易統計による分析箇所は「輸送用機器」を使用する。

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