第2章 第2節 3 アジア・中国への輸出促進に向けた地域における取組
(アジア・中国への輸出に向けた地域の取組例)
ここでは、地域におけるアジア、中国への輸出促進の取組をいくつか紹介する。ここでも、現実に成功している事例ばかりでなく、取組を開始したばかりでその成果はこれからという事例も含まれていることには注意する必要がある。
(ケース1)福岡県の「あまおう」
近年アジア向けの輸出が増加している果実にいちごがある。アジアにおいて高級品として認知されており、2008年の輸出額は約2億円にまで増加した(第2-2-6図)。輸出先は、香港、台湾が全体の9割以上を占めており、アジアをターゲットとした代表的な果物であるといえる(第2-2-7図)。
第2-2-6図 いちごの輸出金額の推移
(備考)
- 財務省「貿易統計」により作成。
- 分類は税関「輸出統計品目表」を使用(ストロベリー…0810.10-000)。
第2-2-7図 いちごの輸出先
(備考)
- 財務省「貿易統計」により作成。
- 分類は税関「輸出統計品目表」を使用(ストロベリー…0810.10-000)。
例えば、福岡県では、2003年より「あまおう」というブランドのいちごを、香港を中心にアジア各国・地域へ輸出している。「あまおう」とは、福岡県が独自に開発した品種であり、その特長である「あかるい」、「まるい」、「おおきい」、「うまい」の頭文字をとったものである。現在では「あまおう」は高級果実としてアジアの富裕層、中間層の支持を得ている。また、福岡県では、県農産物の商品価値を高めるために、輸出ブランドマーク(まる福マーク)を考案し、韓国、シンガポール、台湾、香港等で商標登録を行っている。こうしたブランド化を通じて、「あまおう」以外の商品においても、アジアへのアクセスが容易であるという地理的優位性も活かして、輸出が活発化することが期待される。
(ケース2)北海道の秋サケ
欧米における健康志向の高まりや中国など新興国の経済成長を背景に、水産物の需要も高まっている。
北海道漁業共同組合連合会では、秋サケ、ホタテ、昆布などの道産水産物の輸出に取り組んでいる。輸出を始めたきっかけとなったのは、国内の魚価の低迷対策と国内で需要のない魚の種類やサイズ等の販路拡大の取組である。アジア向けに輸出している代表的な水産物としては、秋サケがある。秋サケは輸出の約9割が中国向けであり、中国で加工された後、欧米向けに再輸出されている(第2-2-8図)。
第2-2-8図 秋サケの輸出先
(備考)
- 財務省「貿易統計」により作成。
- 分類は税関「輸出統計品目表」を使用(太平洋サケその他…0303.19-000)。
秋サケの輸出金額の推移をみると、2006年までは順調に増加したものの、2007年、2008年は主要な輸出先である中国向け輸出品の検査が厳格化された影響や、リーマンショック後の円高の進行等により減少した(第2-2-9図)。しかし、2009年には水産物全体では輸出が減少したのに対し、秋サケは再び増加に転じており、今後も事業の拡大が期待されている。
第2-2-9図 秋サケの輸出金額の推移
(備考)
- 財務省「貿易統計」により作成。
- 分類は税関「輸出統計品目表」を使用(太平洋サケその他…0303.19-000)。
(ケース3)栃木県の味噌の加工食品
栃木県で加工食品の製造、販売を行っているある企業では、規格外品の野菜を原料とする「東京調味みそ」という調理用みそを開発し、2009年から香港、中国を中心に輸出している。地域まちおこしの一環として県から打診を受け、県や地元のマーケティング協会、JAの協力の下、香港の展示会に出品したことが輸出のきっかけとなっている。
商品を海外で販売する上で工夫した点は、商品名に「東京」という文字を入れることで日本らしさをアピールしたことである。また、商品の差別化を図るため、野菜ディップのつけ味噌として販売している。同社の味噌商品は、農林水産省から輸出有望加工食品に選定されるなど、ブランド力の向上も図られている。
味噌の輸出金額の推移をみると、アジア向けは堅調に推移しており、今後もアジアの健康志向などを追い風に輸出額の増加が見込まれている(第2-2-10図)。
第2-2-10図 味噌の輸出金額の推移
(備考)
- 財務省「貿易統計」により作成。
- 分類は税関「輸出統計品目表」を使用(味噌…2103.90-100)。
以上、食料品関連について具体的事例を掲げたが、農林水産物全体のアジア向け輸出は近年基調的に増加してきている。2008年、2009年は世界的な景気後退や円高の影響により農林水産物の輸出額も減少したものの、2000年以降は増加基調にある(第2-2-11図)。特に2009年についてみるとアジア向けの輸出は全体の約7割を占めるに至っており、我が国の農林水産物の重要な輸出先となっている(第2-2-12図)。
第2-2-11図 農林水産物の輸出額の推移
(備考)
- 財務省「貿易統計」を基に農林水産省が作成した「農林水産物輸出入概況」より作成。
- アジアは、香港、台湾、中国、韓国及びASEANの合計。
第2-2-12図 農林水産物の輸出先
(備考)
- 財務省「貿易統計」を基に農林水産省が作成した「農林水産物輸出入概況」より作成。
- アジアは、香港、台湾、中国、韓国及びASEANの合計。
- 北米は、アメリカとカナダの合計。
食料品以外では、アジアでも高齢化が進みつつあることや、経済発展に伴い富裕層が増えてきていることを背景に、日本の質の高い医療に対するニーズが高まってきている。
前節で述べた医療ツーリズムは、医療のサービスに対する需要だが、医薬品や医療機器についても、一定の需要が存在する。アジア向けの医薬品と医療機器の輸出額をみても、いずれも増加基調となっている(第2-2-13図、第2-2-14図)。すなわち、2004年から2008年までの輸出額の伸び率をみると、医療機器は対世界が30.0%に対して対アジアが53.9%、医薬品は対世界が28.1%に対して対アジアが52.9%となっており、我が国の医薬品、医療機器への需要が世界以上にアジアで高まっていることが分かる。その意味で、医療も今後は輸出が期待できる分野である。
第2-2-13図 医療機器の輸出金額の推移
(備考) 厚生労働省「薬事工業生産動態統計」より作成。
第2-2-14図 医薬品の輸出金額の推移
(備考) 厚生労働省「薬事工業生産動態統計」より作成。
こうしたことを背景として、電子部品や精密機械関連の中小メーカーの中には、今後成長が見込まれる医療分野に参入する動きがある。他方で、自動車等と同様に、医薬品や医療機器における価格競争は厳しく、日本の大手医療機器メーカーの中には生産拠点をインドや中国等に移転し、現地で生産する動きもみられる。
(地域がアジア、中国へ輸出を伸ばすためのポイント)
本節では、アジア、中国向けの輸出品として有望なものを取り上げてきた、具体的には環境対応車、高級品としての農産物、最新の医薬品・医療機器に対するアジアでの需要が期待できることをみてきた。
こうしたことを踏まえて、地域におけるアジア、中国への輸出を伸ばすためのポイントを考えてみると、アジアからの観光客誘致の際の考え方と同様の考え方が浮かび上がってくる。すなわち、人を招くのと同様に、物を輸出する場合も、日本の強みをどう活かすか、アジアの人々が今何を望んでいるのか、アジアにはない日本独自のものをいかにアピールするか、といった視点がポイントになるということである。
日本の強みを活かしたものとしては金型製品のように、我が国の中小企業が有する精巧な技術を基にしたものが考えられる。
また、高級品としての農産物として有名なのは中国等で贈答品として好まれる我が国のコメである。条件さえ整えばコメは有望な輸出品となりうる。この他、日本の農産物には安全面での評価も高い(第2-2-15図)。安全性を売りにすれば、新鮮さと合わせて、農産物は近隣のアジア諸国への新たな輸出品となりうる。例えば、農薬使用量を低減でき、安定供給が可能な植物工場で生産された野菜の輸出なども考えられる(第2-2-16表)。
第2-2-15図 タイにおける日本産果実への評価(日本産果実に対するイメージ(複数回答))
(備考)
- 農林水産省「平成18年度 食料・農業・農村白書」より作成。
- 農林水産省調べ。
第2-2-16表 植物工場の利点と課題
(出典)
- 「植物工場を巡る現状と課題」。
- (農商工連携研究会植物工場第1回ワーキンググループ資料)(2009年1月16日)。
さらに、アジアになく、アジアで評価が高いものとしては日本のアニメがあり、アジアでは一種のブームとなっている面もある。アニメなどのソフトコンテンツも有望な輸出品となりうるであろう。