第2章 第1節 4 外国人観光客誘致のための地域共通のインフラのあり方
(観光客誘致に必要とされる共通のインフラ)
地域が外国からの観光客を誘致する上で必要と考えられているインフラがある。一般的には、それを欠いた場合、地域の取組にかかわらず、その効果は十分にあがらないと考えられている。ここでは、その例として、地方空港と観光に関する情報発信とを取り上げ、検証してみたい。
(地方空港の役割)
地域がアジアから観光客を増やそうとするのであれば、アジアの多くの都市と当該地域を結ぶ地方空港があることは有利であると考えられがちである。しかし、問題は、空港の維持には多額の財政負担を必要とすることであり、負担に見合った効果が実際に期待できるのかという点である。実際には、空港はありながら、十分に活かされていない空港が多いのが現状である。
例えば、現在、日本国内に存在する地方空港の国際線就航状況(2010年夏期当初スケジュール)をみてみると、日本国内の各地方空港は、韓国や台湾を中心とした外国都市と結ばれている。特に九州の福岡空港は18都市、北海道の新千歳空港は9都市と結ばれている(第2-1-7図)。しかし、多くの地方空港は2~3の都市としか結ばれておらず、中には1都市だけという空港もある。そして大半の空港が赤字となっている。
第2-1-7図 地方空港の国際線就航状況
そもそも、空港があるからアジアからの訪問客が増えるというものではない。空港が利用されるには、空港を利用するだけの価値がなければならない。まずは、各地域がアジアの人々を惹きつけるだけの魅力をもつ必要がある。魅力さえあれば、地方空港があればそれを利用するようになるであろうし、もし地方空港がなければ、成田や羽田などを経由して来日し、当該地域へは国内交通機関を使って訪れることになろう。
(訪日者が必要とする観光に関する情報発信のあり方)
日本に降り立った外国人は、観光地で観光をするにしても、国内を移動するにしても、食事をするにしても、情報を必要とする。それも、自分が理解できる言語による情報を必要とする。
韓国、台湾、中国、香港の4か国・地域の訪日客に対して、日本滞在中にあると便利な情報の内容を尋ねた調査によれば、交通手段に関する情報を求める割合が高く、韓国を除く台湾、香港、中国では50%を超えている(第2-1-8表)。次いで、宿泊施設、観光施設に関する情報のニーズが高い。韓国からの訪日客は他国と比べて日本で望む情報はいずれも低いが、これはそもそも過去の訪日客数や現在も日本に滞在している人が多く、他の3か国・地域に比べて、日本に関する情報が事前に行き渡っているということもその背景にあると考えられる。
第2-1-8表 訪日外国人別 日本滞在中にあると便利な情報(複数回答)
(備考)
- 観光庁「訪日外国人消費動向調査 平成22年度第1四半期結果」より。
- 全体は日本を出国する訪日外国人全体を指す。ただし、1年以上の滞在者、日本に居住している者、日本に入国しないトランジット客、乗員は除く。
実際に、駅構内等では日本語、英語、ハングル、中国語といった多言語表記がみられるようになってきたが、多くの場合には、外国語表記といっても英語のみのケースが依然として多い。アジアからの観光客を呼び込む前提として、少なくとも道路、鉄道、バス等の交通関係については、英語のみならずハングルや中国語も含めた多言語表記を徹底する必要がある。
ここでは、外国人観光客への情報発信に関する各地の取組例を紹介しよう。
- (1)九州運輸局と九州観光推進機構は、キャンペーンの一環として、2010年7月に、韓国の人気ブロガーを招待して、九州を旅してもらい、その体験をブログから韓国国内に情報発信してもらった。
- (2)福岡市タクシー協会では、タクシーによる観光を楽しんでもらうため、2010年5月より「指差し行き先マップ」によるサービスを開始した。これは福岡都市圏を走る約7,000台のタクシーに英語・中国語・韓国語の3か国語で表記された福岡市内のマップと指差し会話集を備えつけ、乗務員が外国語を話せなくても外国人客が目的地に到達できるように工夫されたものである。
- (3)岐阜県高山市は、誘導案内板などの多言語表記化に取組んでおり、特に市のホームページでは11言語で観光情報を発信している。これらの取り組みが「旅行者の受け入れ姿勢の質が高い」などと評価され、仏・ミシュラン社の旅行ガイドで最高の三つ星を獲得した。
以上、地域がアジアから観光客を呼ぶための共通の土台ともいうべきインフラとして、地方空港の有無と、観光に関する情報発信のあり方を取り上げた。前者については予算面の問題があるとともに、観光地としての魅力そのものが問われている。他方、後者については、案内の多言語表記化を進めるという比較的着手しやすいことを行うだけでも、観光客誘致に向けた他地域との競争において有利になると思われる。
〈コラム〉中国からの訪日観光の特徴
中国からの訪日客の日本国内における消費活動をみるために、銀聯カード15の日本国内での取扱額及び加盟店数の推移をみると、いずれも右肩上がりで増加し続けている(第2-1-9図)。また、韓国、台湾、中国、香港の4か国・地域からの訪日客が買い物にかける一人当たりの品目消費額をみても、中国からの訪日客の消費意欲が強いことがわかる(第2-1-10図)。このことは、本文中でも述べた中国からの訪日観光客の特徴である買い物ツアーといった性格の一端を表している。
第2-1-9図 日本国内での銀聯カードの取扱高と加盟店数の推移
(備考) 三井住友カード株式会社より提供。加盟店数は各年の3月現在。
第2-1-10図 国籍・地域別 買物における一人当たり品目別消費額(観光客)
(備考) 観光庁「訪日外国人消費動向調査」平成22年度第1四半期結果より作成。