第2章 第1節 3 アジアからの訪日客誘致のための地域における取組

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(アジアからの観光客誘致にむけた地域の取組例)

ここでは、アジアからの観光客誘致の取組をいくつか紹介する。ただし、現実に成功している事例ばかりでなく、取組を開始したばかりでその成果がこれから現れてくる事例も含まれていることに注意が必要である。

(ケース1)医療ツーリズム

医療ツーリズムとは、観光地にて人間ドック等の検診や医療行為を受けるツアーである。すでに世界約50カ国で行われており、市場規模も年々拡大傾向にある。日本政策投資銀行の報告書によると、医療ツアーが行われる目的には様々なものがあるが、中でも「最先端医療を受ける」「より質の良い医療を受ける」といった目的が全体の7割を占めており、「低コスト」は全体の7%に止まっている。日本でも、特に東アジアの富裕層をターゲットに、良質、最先端の医療を提供して、観光客を誘致していこうという試みが始まっている。

例えば、栃木県の鬼怒川温泉では、医科大学が中心となり、温泉との連携をとって、人間ドック受診を希望する外国人観光客の受け入れの体制整備に取組んでいる。この医科大学は中国の富裕層をターゲットに温泉と医療を組み合わせたツアーを開発し、ツアー後の医療フォローをするために、中国の大学病院とも提携している。

ただし、医療ツーリズムの受け入れ実績では、官民を挙げて取り組んでいるタイやシンガポールが先行している。こうした現状の中で実績を上げていくためには、医療目的の旅行者にいかなる点をアピールすべきかを考える必要がある。

(ケース2)スクリーンツーリズム

スクリーンツーリズムとは、映画やドラマを通じて、その視聴作品の撮影に使われた現場を訪れるツアーである。これまでにも、中国で2008年に公開された映画において北海道の道東地区がロケ地に採用されたことから、その映画を見た中国からの観光客がそのロケ地に大勢訪れるようになったということがあった。また、秋田でも、2009年に韓国ドラマのロケ地に選ばれ、韓国からの観光客が多く訪れている。

この流れに乗って、いくつかの自治体では積極的にロケ地誘致が行われている。鳥取県では、2010年12月から現地で放送される予定の韓国ドラマのロケ地に選ばれており、国内外からの観光客誘致に活かそうとしている。静岡でも、中国ドラマの撮影ロケ地の誘致に成功している。

(ケース3)台湾のサイクリングブームを受けた広島県の取組

広島県では、台湾でのサイクリングブームに着目して、瀬戸内しまなみ街道(広島県尾道市~愛媛県今治市)の島巡りサイクリングをPRして台湾からの観光客を誘致している。その結果、2010年6~7月の広島-台北便の乗客数が約2倍に増え、2010年8月からは広島-台北の定期便が週1便増便された。

(ケース4)青森県の地吹雪体験

青森県五所川原市ではユニークな体験を売りにしたツアーを企画し、好評を博している。降り積もった雪が強風により舞い上げられる厳しい環境の中をただ歩くというものであるが、これが近年、雪の降らない台湾や香港からの観光客に人気を呼んでいる。

(事例から導かれる観光客誘致に向けた新たな考え方)

以上の事例の中から浮かび上がってくる今後の観光客誘致にあたってのヒントを整理してみたい。

アジアの多くの国々で今後高齢化が進むことが予想される中で、「医療・健康」はアジア共通のキーワードであることがこれまでも言われてきた。これを踏まえて、最先端の技術といった日本の強みを活かして観光客を呼び込もうという取組が上記ケース1の医療ツーリズムである。日本の強みということであれば、他にもアニメなどのソフトコンテンツを観光に活かす戦略もある。また、日本の環境技術は世界的に高い水準にあるといわれているが、それを実際に見せる工場ツアー、企業ツアーといったものも考えられる。日本の強みは多くの地域においても強みである。したがって、この切り口で成果をあげるためには、似たような取組を行う他の地域と競合することにもなる。このため、行政や市民だけで取り組むのではなく、病院、企業、大学等の他の経済主体との連携も必要となってこよう。

ケース2やケース3は、アジアのブームに乗った取組といえる。この場合、ブームという性格上、一過性に終わってしまう危険性もある。それでも、何もなければアジアから人を呼び込むことは困難であるので、そのきっかけを作るという意味では新たな切り口となりうる。観光はサービス業であり、「ブームに合わせる」ということは、アジアの人々が求めるサービスと地域の取組をマッチさせるということでもある。日本もアジアの一員であり、感性の面で共通する点も多いことを考えると、今後も思いがけない成功事例が出てくるかもしれない。例えば、日本はCOP10の会合で里山の再生を提案したが、アジアの著しい成長の中でアジアの自然が失われつつあるとすれば、「里山ツアー」といったものがアジアの人々の感性に訴えることがあるかもしれない。

ケース4は、他のアジアの国々にはあまりない日本独自の気候や自然をアピールする取組である。ASEAN諸国やインドといった国々を念頭におけば、四季に恵まれた我が国ではこの切り口からも多くのチャンスを見出せるかもしれない。例えば、満開の桜などはアジアで更にアピールしても良い。また、韓国、台湾などそもそも地理的に近い国・地域だけではなく、地理的に日本からより遠い国にもアピールすることを考えると、ビジネスでの訪日と組み合わせて、このような日本独自の気候・自然を楽しんでもらうことも考えられる。

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