第2章 第1節 2 アジアから日本の各地域への人の流れ

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(宿泊旅行統計調査)

次に、日本の各地域とアジアとの間の人の流れをみてみよう。アジアから日本の各地域への人の流れを直接示す統計はないので、ここでは、観光庁の宿泊旅行統計調査を用いて、アジアのうち、特に韓国、中国、香港、台湾から各都道府県への宿泊者数を、地域別に集計したものをみる。

先にも述べたとおり、韓国、中国、香港、台湾の4か国・地域の訪日客数は、アジアからの客数の85%前後を占めている。そこで、まず、これら4か国・地域からの日本の各地域への人の流れを分析し、そこから人の流れを呼び込むためのポイントを整理することとする。

「訪日外客統計」によると、2009年のアジアからの訪日客数481.4万人のうち、観光目的は344.5万人(71.5%)と7割超を占め、ビジネス目的は72.2万人(15.0%)、それ以外(留学、短期滞在等)は64.7万人(13.4%)となっている。東京、大阪といった大都市圏では、企業が集中していることもあり、観光以外のビジネス目的等の宿泊者が一定数存在することが想定されるが、地方圏は大都市圏に比べて、観光目的の宿泊者が多いと考えられる。したがって、地方圏を含む各地域の比較をする際には、観光の観点からみることに意味があると考えられる。

観光の観点から考えることは、地域活性化を考える上でも重要である。「観光白書2010」(国土交通省2010年6月)によれば、旅行消費による生産波及効果(生産誘発係数)は1.74とされ、公共事業投資(1.96)、科学技術関連投資(1.63)、情報化投資(1.86)の生産誘発係数に匹敵するとされている。観光のもたらす経済効果は決して小さくない。

(中国、台湾、韓国からの観光目的の特徴)

第2-1-5(1)~(3)図は、宿泊旅行統計調査を基に、2009年の都道府県別の延べ宿泊者数を地域別に集計した上で、韓国、中国、台湾、香港からの宿泊者数の中で、それぞれトップとなった国・地域別に日本の各地域をグループ分けした結果を示している。それによると、それぞれのグループごとに次のような特徴がある。

Aは中国からの宿泊者がトップのグループである(第2-1-5(1)図)。このグループは、いわば大都市圏であり、南関東、近畿、東海、北関東が含まれる。中国からの訪日客は大都市圏に宿泊するケースが他より多いということを示している。大都市圏なのでビジネス目的も含まれていると考えられるが、第2-1-4(3)図で2009年のビジネス目的の訪日客数に占める中国のシェアは、韓国に大きく差があり2番目であるにもかかわらず、地域別でトップということは、中国からの訪日客は観光目的で大都市圏に滞在することも多いと推測される。確かに、中国からの団体客による東京や大阪における電気製品等の買物ツアーはしばしば話題になっている(コラム参照)。

第2-1-4(3)図 訪日客シェア(ビジネス客)

第2-1-4(3)図

(備考) JNTO「訪日外客統計」より作成。

第2-1-5(1)図  中国からの宿泊者数がトップの地域
―3大都市圏を含む地域―

第2-1-5(1)図

(備考)

  1. 観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成。
  2. アジア計には、上記4か国・地域のほか、シンガポール、タイが含まれる。

Bは台湾からの宿泊者がトップのグループである(第2-1-5(2)図)。これには、北海道、東北、北陸、沖縄が含まれる。北海道や沖縄というと、スキーや海などの自然を楽しむ観光というスタイルが想定される。また、沖縄の場合は、台湾から地理的に近いことが台湾からの観光客を呼び込んでいることもあるだろう。東北、北陸についても、自然に恵まれ、温泉もあること等が魅力となっていると考えられる。

第2-1-5(2)図  台湾からの宿泊者数がトップの地域
―北海道、沖縄など自然に恵まれた地域―

第2-1-5(2)図

(備考)

  1. 観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成。
  2. アジア計には、上記4か国・地域のほか、シンガポール、タイが含まれる。

Cは韓国からの宿泊者がトップのグループである(第2-1-5(3)図)。これには、九州、中国、四国が含まれる。これらの地域については、韓国に地理的に近いという要因が大きいものと考えられる。特に九州では韓国からの宿泊客が他を圧倒して多くなっており、中でも、大分の別府温泉などが人気である。

第2-1-5(3)図  韓国からの宿泊者数がトップの地域
―韓国から距離的に近い地域―

第2-1-5(3)図

(備考)

  1. 観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成。
  2. アジア計には、上記4か国・地域のほか、シンガポール、タイが含まれる。

もちろん、国・地域によってパターンを固定化して考える必要はない。台湾からの訪日客でも買い物ツアーを楽しむ場合もあるだろうし、中国からの訪日客でも日本の自然に触れたいという人もいるであろう。実際、これら4か国・地域の観光目的の訪日客に事前に期待したことを挙げてもらった調査結果によると(第2-1-6表)、中国からの観光客は買物よりも温泉への期待が高いことや、香港からの観光客の約7割が買物への期待が高い。また、多くの項目で中国からの観光客の日本での観光への期待が、他の3か国・地域より高くなっている。これは、中国からの訪日客が今後も増える可能性があることを示唆している。

第2-1-6表 訪日外国人別 訪日前に期待したこと(複数回答、観光客のみ)

第2-1-6表

(備考)

  1. JNTO「訪日外客訪問地調査2009」より。
  2. 全体は滞在期間が2日以上、90日以下の訪日客全体を指す。

(アジアからの観光客を誘致する上でのポイント)

これまで、アジアから日本の各地域への人の流れについて、特に観光客の誘致という観点からみてきた。これまでのところを整理すると次のようになる。

  • (1)中国からの観光目的の訪日客数が依然として韓国・台湾より少ない一方で、彼らの日本観光への関心が高く、しかも、受け入れ側である我が国が個人観光ビザの要件緩和に取組んでいることから、今後も中国から日本への観光客数が増加することが見込まれる。
  • (2)上述の調査に示されるように中国からの訪日観光客の日本の温泉や自然への期待は高い。このことから、今後、日本の自然といった買物以外の魅力をアピールすることが中国からの観光客を新たに誘致する上でのポイントになるのではないか。そのように考えると、現時点ではまだ中国からの観光客が少ない北海道、九州などにも大いにチャンスがあるものと思われる。
  • (3)ASEAN、インドといった国々は、現在、アジアからの訪日客数の約15%程度を占めるに過ぎない。しかし、これらの国々は高い経済成長率を誇っていることから、こうした国々からの訪日客数の伸びをいかに高めるかも課題である。ただ、韓国をはじめとする4か国・地域に比べると、インドなどは地理的に遠いというデメリットがある。デメリットを上回る魅力として何を訴えるのか。韓国等4か国・地域からの観光客を惹きつけている電気製品等の買物や、温泉等の自然といった既にある考え方を基に観光客を増やすことを考えるのか、それともこれ以外の新たな切り口により訪日客を誘致するのかを考える必要がある。

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