第1章 第1節 2 新分野への展開
(今後の生産の拡大が期待される環境関連分野)
鉱工業生産指数の動きを全国全体でみると、2008年10~12月期から景気の谷である2009年1~3月期まで大きく低下した後、上昇に転じているが、景気の谷を越えて1年半を経てもなおリーマンショック前の水準には戻っていない。そのような中で、指数全体への寄与はまだ小さいものの、前回の景気の谷(2009年3月)以降、高い伸びを示している品目がある。太陽電池モジュール、LED(発光ダイオード)、リチウムイオン電池などの環境関連品目がそれである(第1-1-15図)。
その中でもリチウムイオン電池は、それを搭載した電気自動車が2009年に市場に投入され、一部量産がスタートしており、今後の市場拡大が期待されている。そこで、ここではリチウムイオン電池についてみてみよう。
リチウムイオン電池は、国内生産量の約8割を近畿が担っている。リチウムイオン電池メーカーの国内製造拠点が近畿を中心に集積している背景としては、(1)近畿では従来から電気機械、化学、窯業・土石等の素材・部材製造業が集積しており、電池技術に応用可能な技術が存在していたこと、(2)本社、研究開発、生産というバリューチェーンが近畿の近接エリアで成立していたこと、などが挙げられる。
第1-1-15図 成長が著しい品目の生産の推移
―前回の景気の谷(2009年1~3月期)時点の生産水準を大きく上回っている環境関連品目―
(備考)
- 経済産業省「鉱工業指数」より作成。季節調整値。
- 今回の景気の谷としている2009年3月を含んでいる09年1~3月期の指数を100とした。
(環境関連分野の生産に向けた政策支援)
自動車向けのリチウムイオン電池については、電気自動車やハイブリッド車の市場拡大を想定し、大手自動車メーカー各社が200~300億円の大型投資に着手している。この背景には、環境関連を企業が成長分野と見込んでいるのに加え、政府の補助金等の政策支援も影響している。
2009年12月8日に「明日の安心と成長のための緊急経済対策」がとりまとめられ、それを踏まえて、2009年度の第二次補正予算で「低炭素型雇用創出産業立地推進事業費補助金」が盛り込まれた。この補助金は、将来の成長が見込まれるリチウムイオン電池・LED(発光ダイオード)照明などの分野において、国内投資を増加させる企業に対し、国がその経費の一部を補助するものである。
この補助金の予算額は297億円で、受付期間は2010年1月29日~2月25日であった。経済産業省の採択結果をみると、本補助金により新規の設備投資を行った企業は42社あり、新設される生産拠点は30都道府県にわたる。その42社を地域別(各経済産業局毎)にみると、北海道1社、東北3社、関東11社、中部2社、近畿12社、中国8社、四国2社、九州3社となっており、近畿、関東が多い。分野別では、リチウムイオン電池関連が21社、LED照明関連が10社、電気自動車関連が5社、太陽電池関連が4社、先進的原子力発電等が2社となっている。分野別の地域分布をみると、リチウムイオン電池関連の投資は既に産業が集積している近畿が多く、LED関連および電気自動車関連では関東が多い4。
<事例紹介>「低炭素型雇用創出産業立地推進事業費補助金」の活用による設備投資-リチウムイオン電池関連投資の例-
京都府京都市に本社がある大型リチウムイオン電池の開発・製造・販売会社のA社は、長期的に国内10万台相当のリチウムイオン電池の供給体制を目指すため、滋賀県栗東市に新工場の建設を行い、2012年初頭からの稼働を予定している。新工場では電気自動車用リチウムイオン電池を年間440万セル(新世代電気自動車50,000台分)製造する見込みである。A社では新工場以外に、既に滋賀県草津工場において年産60万セル(同6,800台分)、京都工場において100万セル(同11,000台分)を生産しており、新工場を含む3工場合計の生産能力は年産600万セル(同67,800台分)となる。新工場の建設のための総投資額375億円のうち50億円を「低炭素型雇用創出産業立地推進事業費補助金」で賄う。
4.なお、2010年度においても9月10日に閣議決定された「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」において同事業の拡充が盛り込まれ、これに基づき、2010年9月30日~11月18日の期間に公募が行われている。