第1章 第1節 1 企業の動向
(輸出と政策効果に支えられて持ち直してきた生産)
地域別の生産動向を鉱工業生産指数の前期比伸び率でみてみると、全ての地域において、2009年1~3月期までは生産の減少が続いたが、09年4~6月期には増加に転じた。その後、全ての地域で、2010年1~3月期まで4四半期連続の増加となった。そこで09年1~3月期から2010年1~3月期までの間の生産の伸び率を地域別に比較してみると、東海が42.2%、九州が36.0%と、全国の伸び率(27.1%)を上回る高い伸びを示している。これらに次いで、東北、中国地域が比較的高い伸び率となっている。これらの地域の伸び率に対する業種別寄与度をみると、東海では輸送機械、九州では輸送機械と電気電子(電気機械、情報通信機械、電子部品・デバイスを合わせたものをいう)、中国地域では鉄鋼と輸送機械、東北では電気電子の寄与が大きい(第1-1-1図)。
第1-1-1図 鉱工業生産指数 業種別寄与度の推移
(2009年1~3月期→2010年1~3月期)―全国平均を上回る東海、九州の生産の伸び―
(備考)
- 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業指数」により作成。
- 電気電子は、電気機械、情報通信機械、電子部品・デバイスの加重平均により作成。北海道及び四国の電気機械は、情報通信機械と電子部品・デバイスを含むため、電気機械を使用。
- 2005年基準。
- 地域区分はB。
そこで、輸送機械と電気電子の寄与度が高い東海、九州、東北に焦点を当て、それぞれの地域における輸送機械と電気電子のウエイトと生産の伸びをみてみよう(第1-1-2図、第1-1-3図)。それによると、東海は、輸送機械のウエイトが他地域の倍以上の大きさがある上に、輸送機械の伸びも7割を超える高い伸びとなったため、生産全体の伸びに対する寄与度も大きかったことが分かる。他方、東北は、電気電子のウエイトが全地域中最大であったため、電気電子の伸びは全国の伸びを若干上回る程度であったものの、生産全体の伸びに対する寄与度が大きくなったと考えられる。九州は、電気電子と輸送機械のウエイトがいずれも全地域中2番目の大きさとなっており、両業種の伸びも比較的高かったため、両業種の寄与度は大きかったと考えられる。
第1-1-2図 各地域の生産に占める輸送機械、電気電子の付加価値ウェイトの合計
―生産の伸びが高い地域とウェイトの合計の大きい地域がほぼ対応―
(備考)
- 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業指数」により作成。
- 電気電子は、電気機械、情報通信機械、電子部品・デバイスのウェイトの合計。
- 北海道及び四国の電気機械は、情報通信機械と電子部品・デバイスを含むため、電気機械のウェイトを使用。
- 2005年基準。
- 地域区分はB。
第1-1-3図 鉱工業生産指数(季節調整済) 業種別伸び率(2009年1~3月期→2010年1~3月期)
―鉱工業生産全体の伸びを上回る輸送機械、電気電子―
(備考)
- 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業指数」により作成。
- 電気電子は、電気機械、情報通信機械、電子部品・デバイスの加重平均により作成。
- 北海道及び四国の電気機械は、情報通信機械と電子部品・デバイスを含むため、電気機械を使用。
- 2005年基準。
- 地域区分はB。
こうしたことから、2010年1~3月期までの特徴は、輸送機械や電気電子がより集積している東海、九州、東北といった地域を中心に生産が持ち直してきたことにあるといえる。輸送機械と電気電子は、いずれも輸出型産業であり、かつ、エコカー補助金や家電エコポイントといった政策の影響を受ける自動車、テレビ等に関連した業種である。つまり、地域における生産の高い伸びは、輸出と政策効果に支えられていた面が強かったともいえる。
(2010年4~6月期以降、輸出の鈍化やエコカー補助金終了により、生産の伸びが鈍化)
それまで大幅に増加していた生産は、2010年4~6月期以降、多くの地域で伸び率が鈍化した(第1-1-4図)。これは、アジアの景気回復テンポの鈍化等を受けた輸出の鈍化(第1-1-5図)やエコカー補助金終了に伴う自動車生産の落ち込み、IT関連の在庫調整に伴う電子部品・デバイスの生産減少などが要因と考えられる(第1-1-6図)。地域別にみると、東海と中国地域で大きく減少した。東海では、輸出の鈍化やエコカー補助金終了に伴う自動車生産の落ち込みにより、輸送機械が落ち込んだことの影響が大きかった。また、中国地域では、輸出の鈍化等により鉄鋼が落ち込んだことが寄与した。他方、鉱工業生産に占める食料品の付加価値ウェイトが高い北海道では2010年7~9月期に生産が増加に転じたが、これは2010年7、8月の猛暑により、食料品の中の清涼飲料水等が例年以上に大幅に増加したためである。また、九州の伸びの鈍化が緩やかだったのは、アジア向けが好調な半導体製造装置など一般機械が増加に寄与したことなどによる。
第1-1-4図 鉱工業生産 業種別寄与度の推移(2010年1~3月期、4~6月期、7~9月期)
―2010年7~9月期には、輸送機械と電気電子が多くの地域でマイナスに寄与―
(備考)
- 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業指数」により作成。
- 電気電子は、電気機械、情報通信機械、電子部品・デバイスの加重平均により作成。北海道及び四国の電気機械は、情報通信機械と電子部品・デバイスを含むため、電気機械を使用。
- 2005年基準。
- 地域区分はB。
第1-1-5図 商品別輸出通関額
(備考)財務省「貿易統計」により作成。
第1-1-6図 鉱工業在庫指数
(備考)経済産業省「鉱工業指数」により作成。
(政策の影響を受けた輸送機械や電気電子の生産)
地域の生産の動きに影響を与えている輸送機械、電気電子について、その出荷の前期比伸び率を国内向けと輸出向けに分けてみてみよう。
輸送機械、電気電子の全国ベースの出荷指数は、2009年4~6月期から増加に転じた。同4~6月期から2010年1~3月期までの出荷の伸び率に対する輸出向けおよび国内向けの寄与度をみると、両業種ともに持ち直しの要因としては、概して輸出よりも家電エコポイント制度やエコカー補助金制度といった経済対策によって支えられた内需の影響が大きかったことが分かる。
なお、2010年4~6月期以降は、輸送機械、電気電子ともに出荷の伸び率が鈍化もしくはマイナスに転じている。これは、輸送機械はエコカー補助金終了に伴う自動車生産の落ち込みや輸出の鈍化を反映している。電気電子も、輸出の鈍化を受けてマイナスに転じているが、国内向け出荷は、増加幅は縮小したものの依然としてプラスで推移している。これは、家電エコポイント制度の影響や、猛暑によりエアコンの生産が好調であったこと等を反映している(第1-1―7図)。
第1-1-7図 鉱工業出荷の業種別出荷先別寄与度
(備考)
- 経済産業省「鉱工業出荷内訳表」より作成。
- 電気電子は、電気機械、情報通信機械、電子部品・デバイスの加重平均により作成。
- 各業種の出荷指数、その内訳である輸出および国内の指数は、個別に季節調整を行っているため、輸出及び国内の寄与度合計は出荷指数の前期比とは一致しない。
- 2005年基準。
(エコカー補助金終了や円高等による先行きへの懸念)
2010年末になると、エコカー補助金制度の終了に伴う受注の減少や2010年8月頃から顕著になっている円高は、企業活動を慎重化させる一因となっている。実際、景気ウォッチャー調査の企業動向の現状判断DIをみると、2010年8月は前月差5.5ポイントの低下となり、低下幅は2009年11月のドバイショック以降で最大となった。さらに、エコカー補助金の終了による生産調整の本格化や、円高等で輸出環境が悪化しているとみられたこと等から、9、10月も低下した。11月には上昇したが、これは家電エコポイント制度の変更を前にした駆け込み需要による一時的な影響が大きいと考えられる。企業動向の先行き判断DIをみても、8月に大きく低下した後、横ばいで推移している。この時期、製造業においては、エコカー補助金制度の終了に伴う生産調整が当面続くことへの懸念の他、円高によって生じる生産の海外移転に伴う受注減や受注単価下落等への懸念などのコメントがみられた(第1-1―8図)。
第1-1-8図 景気ウォッチャー調査 企業関連DIの推移
(備考)内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。
(多くの地域で増加が見込まれる設備投資)
地域別の設備投資動向を詳細に調査している日本政策投資銀行「設備投資計画調査」(2010年6月調査)でみると、2010年度(計画)は、不動産などが減少する近畿と、化学やガスなどが減少する四国の2地域で減少を見込んでいるが、それ以外の8地域では、新興国需要などの輸出増加や政策効果による内需の回復を背景として、電気機械、輸送機械を中心に増加する見込みである。特に、北陸は、電源開発投資がある電力や、部品・部材関連投資がある電気機械、窯業・土石などを中心に、前年度比35.0%増と高い伸びとなっている(第1-1-9図)。
第1-1-9図 地域別 設備投資
―大半の地域で設備投資増加―
(備考)
- 日本政策投資銀行 「2008・2009・2010年度 設備投資計画調査」により作成。
- 沖縄のデータは除く。
(多くの地域で減少した工場立地件数)
全国の工場立地件数は、2007年下期(7~12月期)以降、減少が続いてきたが、2010年上期も前年同期比で17.8%の減少となった。この件数は、2002年上期の384件を下回り、半期別の集計を開始した1980年上期以降では最低の水準となった。地域別にみると、南関東を除く全ての地域で減少しており、特に北陸では一般機械、中国地域では輸送機械の工場立地数の減少などから、前年の半数以下の立地件数となっている。しかし、2008年上期の166件から2009年上期には63件へと大幅減少した東海では、2010年上期も62件となり、下げ止まりがみられる(第1-1-10図)。
第1-1-10図 地域別製造業立地件数
―多くの地域での減少―
(備考)
経済産業省「平成22年上期(1~6月)における工業立地動向調査について(速報)」により作成。
業種別でみると、一般機械や輸送機械などの落ち込みが大きい一方、食料品は北関東や東海などで増加しており、景気の影響はあまり受けずに、安定している(第1-1-11表)。
第1-1-11表 主要製造業の地域別立地件数
(備考)
経済産業省「平成22年上期(1~6月)における工業立地動向調査について(速報)」及び「平成21年上期(1~6月)における工業立地動向調査について(速報)」により作成。
(前年を下回った公共工事請負金額)
地域別の公共工事請負金額は、2009年度において多くの地域で前年度比で増加し、建設業等における資金繰り環境の改善の要因の一つとなったが、2010年度は、4~10月累計でみると、公共事業関係の予算の削減を受けて、全ての地域において前年を下回っている(第1-1-12図)。
第1-1-12図 公共工事請負金額の推移
(備考)
北海道建設業信用保証株式会社、東日本建設業保証株式会社、西日本建設業保証株式会社「公共工事前払金保証統計」により作成。
(改善している資金繰り環境)
日本銀行「企業短期経済観測調査(以下、「短観」という)」における、地域別の資金繰り判断DI2の推移をみると、公共工事の増加や資金繰り支援策等3の影響もあり、2009年6月調査以降、全ての地域で「苦しい」超幅の縮小傾向が続いた。そして、2010年6月調査では、三大都市圏は「楽である」超に転じ、地方圏でも多くの地域で「苦しい」超幅が縮小となり、9月調査においても、同様の傾向が続いている(第1-1-13図)。
第1-1-13図 「短観」における資金繰り判断DIの推移
(備考)
- 日本銀行各支店「短観」より作成。
- 北関東は日本銀行前橋支店管内、南関東は同横浜支店管内である。
- 「楽である」と回答した企業数構成比-「苦しい」と回答した企業数構成比(%ポイント)。
- 2009年9月は旧基準値。
(減少している企業倒産)
倒産件数の前年比伸び率をみると、2008年は、建設業の倒産件数の大幅増加を反映して、公的支出の比率の高い地方圏における倒産件数の伸び率が高かった。しかし、経済対策による公共事業関係費の追加や公共事業の前倒し執行などから、地方圏の倒産件数は2009年4~6月期に前年比減少に転じ、それ以降も減少が続いた。三大都市圏でも、2009年10~12月期に減少に転じ、その後も減少が続いた。地方圏と三大都市圏を比べると、地方圏の方が減少幅が大きいが、それは地方圏における建設業の減少幅が大きかったことを反映している(第1-1-14図)。
第1-1-14図 倒産件数 産業別寄与度
(備考)
- (株)東京商工リサーチ「倒産月報」により作成。
- 「三大都市圏」は南関東、東海、近畿を、「地方圏」は北海道、東北、北関東、北陸、中国、四国、九州・沖縄を示す。
- 2.資金繰り判断DIは、「楽である」と回答した企業数構成比と「苦しい」と回答したそれとの差(%ポイント)。
- 3.政府は中小企業の資金繰り対策として、2008年10月に緊急保証制度の創設とセーフティネット貸付等の強化を行った。また、2009年12月には、中小企業金融円滑化法を施行した。さらに2010年2月には、2009年度第二次補正予算成立を受けて、2010年3月末で期限切れを迎える予定であった緊急保証制度を、2011年3月末まで実施する「景気対応緊急保証制度」に衣替えし、保証枠を拡大するとともに対象業種の指定業種を原則全業種に広げた他、利用企業の認定基準を改めた。