第3章 第1節 3.産業間の「結輪」

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各地域が強みを持つ産業、独自性を有する産業を、他の産業と結び付けることで、さらなる相乗効果を産み出そうという試みも進められている。政府においても、経済産業省と農林水産省が、農林水産業と商工業等のつながりで産業活性化を図る「農商工連携」を推進しているところである。

異業種間の「連携」には、農林水産業と製造業や観光業などの商業との連携、地域に伝わる伝統産業と製造業やIT産業との連携など、種々様々なケースがあるが、その中から地元産業の活性化に取り組む事例を以下で取り上げる。

(1) 地域に伝わる技術との結輪

山形県の企業から構成される山形カロッツェリア2研究会では、山形の鋳物や木工などの伝統的な地場産業で築かれた優れた職人技術を活かし、同県出身の工業デザイナーを中心に、世界に通用する現代的なデザインの製品開発に取り組んでいる。これまで、工芸品に先進的なデザインを施した椅子や絨毯、鉄瓶などを作り出し、国内外で好評を博している。

また、秋田県の小坂鉱山では、鉱山で培われた技術をリサイクル事業に活かす試みが進められている。小坂町は、日本有数の銅山の町として明治時代後期に発展を遂げたが、その後、1990年に銅山は閉山となり、人口も鉱山最盛期の3万人から約7千人にまで減少した。しかし、閉山後は、鉱山で培った精錬技術を活かし、都市部で使い終わった携帯電話やパソコンなどから希少金属(レアメタル)を回収し、リサイクルする最先端の技術が育っている。2008年には、町内の企業が、廃棄物からの精錬が可能な新型炉を稼動し、国内でも注目を集めている。

(2)地域が強みを持つ農業との結輪

東京都内の農業ベンチャー企業では、バイオ技術とIT技術とを融合させ、農薬に頼らない微生物を使った野菜栽培方法を生み出している。同社では、バイオ技術を用いて病害虫に強い独自の培養土を開発し、大学とも連携しつつ、パプリカ、トマト等の無農薬栽培に取り組んでいる。また、ハウス栽培でもIT技術の活用を図り、ハウス内の水や温度をIT(コンピュータ)で管理するハウス栽培向け制御システムを開発した。さらに、同社の手法に興味を持った山形県の建設会社が新たな事業展開として農業に参入し、同社の技術と培養土の提供を受けてトマトのハウス栽培を始めるなど、農薬を使わない安心・安全な手法として注目されている。

建設業と農業との結び付きも多くの地域で進みつつある。需要不足にあえぐ建設業にとっては、雇用の場の確保のため、農業で新たな事業展開を図る事例が少なくない。建設業自体が、日頃、重機を扱い、土に触れる仕事であるということから、農業に参入しやすいという側面もあるとみられる。

例えば、宮城県の建設会社では、県内の栽培実績のある自治体と地元農家の協力を得て2005年よりワサビ園を開設、ワサビ栽培を開始し、加工品開発も進めている。ワサビ園の開設時には、同社の土木技術を活かしたが、それ以外の面では、地元の大学から栽培管理技術の指導を受けるとともに、販売においては、老舗蒲鉾店等と連携するなど、地域内の複数の団体との連携により事業を広げている。また、鹿児島県の建設会社では、特区制度を活用し、県内の遊休農地で焼酎の原料であるサツマイモの栽培を開始し、地域の雇用の維持・創出が図られている。

企業の農業参入にはいくつかの障壁があるため、これらを取り除くべく、環境を整えることがさらなる就農支援に結びつくと考えられる。「企業等の農業参入に関する意向調査・事例調査報告書」(2007年度 日本アグリビジネスセンター(調査対象3,471、回答数1,237))では、既に農業参入している80社が回答しているが、農業部門の売上が1千万円未満である企業が8割となっており、農業の収支状況については、「ほぼ目標どおりの経営を達成している」との回答が16.2%であるのに対して、「3年後には達成したい」(33.8%)や「5年後には達成したい」(24.3%)といった回答が比較的多くみられた。さらに、「目標の達成は困難である」が18.9%、「経営の縮小又は撤退を考えている」が6.8%と、厳しい回答もみられた。

同調査では、既参入企業から「(農業に)可能性を感じる」「やりがいがある」というコメントや、他方で、「農業ではなかなか利益が上がらない」「収益率が低いので将来に向けた検討が必要」「圃場が荒れていたので改良に時間と費用がかかる」「思ったよりリスクが大きい」といったコメントも出されている。課題は多いものの、地域が強みを有する農林水産業との連携を促すことで、地域全体の活性化を進めることが期待される。


2.
カロッツェリアとは、イタリア語で(車の)ボディ工房を意味する。北イタリアでは部品・素材調達からデザイン開発、組立まで地域一体となって推進する伝統的な生産方式をとっている(山形カロッツェリア研究会ホームページより)。

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