おわりに-「地域」という舞台を創り上げる力
本報告書では第1部で地域経済の動向について分析した。ここ1年の地域経済の動向をみると、地域によって回復の状況に差があるためばらつきはあるものの、全体としては回復に向かっている。地域経済においてもバブル期の負の遺産が解消してきており、企業部門の好調さが継続している。全体的に人手不足感が強まっている一方で、雇用の改善の動きに頭打ち感のみられる地域がいくつかみられるところがやや懸念される。
第2部第1章では、地域社会の目線の近いところにある中心市街地を取り上げ、地域経済全体が回復に向かっている中でとりわけ回復の遅れている現状とその要因を確認し、活性化に当たっての課題について分析した。
第2部第2章では、公的部門への依存の高い地域ほど回復に遅れがみられていることから、近年の官から民へという流れを象徴するものの1つである指定管理者制度が効率的な運用が確保されるための方策についても分析した。
こうした分析を踏まえ、今後、地域が一段と発展するためのいくつかの要素となるものを考察する。
政府は舞台を支える裏方
重要なのは、政府が、現在の民需主導の景気回復を持続させるような経済運営を推進し、そのための必要な改革に取り組むことである。成長を持続させることで、それぞれの地域の底上げを図ることが期待される。
また、創意工夫に取り組んでいる地域が、産業構成や元々の資源賦存に差があることで、自由な競争に任せていては地域の力が発揮できないことがないように、地域を支援する仕組み作りも政府の重要な役割である。
さらに、地方政府においては、自らの効率性を高めるとともに、指定管理者制度の活用などによって、民間の潜在的なニーズを顕在化させるような行政を推進することが求められるだろう。
地域の特性を見極める
また、地域においては、その特性をしっかり見極めることである。現在の景気回復は製造業が先導したものであり、地域経済が全体的に回復に向かっているなかで、回復の度合いにはばらつきがみられている。こうした中、製造業の立地の弱い地域が製造業に注力することで発展するのは容易ではない。県内総生産に占める製造業の比率をみると、最高県は40.4%、最低県は5.7%とかなりの差があるためである。他地域と比較して、自地域の強みを見極めた上で、その分野を成長させるような取組みが求められる。地域には、強烈な個性が必要となってくるのである。
「地域」という独創的な舞台を作る
さらに、地域の特性は1つである必要はない。地域の産業、文化・風習、風土、食べ物等々、地域の特性を表すものはいくつも存在するはずであり、また、常に新しい特性を見つけるための取組みも怠らないことである。それらが混然として集合体となった、地域としての総合力は、その地域名を人々が耳にしたとき、いくつものイメージを思い浮かべ、その地域に対する憧憬を想起させることになる。
このイメージの力は「地域ブランド」という考え方につながる。「地域の経済2005」では地域ブランドについて分析し、製造業の立地の弱い地域がむしろブランド力が高く、観光客を惹きつけているという関係を明らかにした。地域のブランド力を高めるという考え方を人々の間で共有することが重要になる。
さらに、地域が愛されるためには住民が誇りを持てるもの、地域の宝物を見出すことである。それによって、地域に対する愛着度が増し、ファン層が拡大すれば、地域にいながら、日本全国あるいは世界を相手にするに等しい。例えば、室蘭市では「鉄の町」をPRするためにボルトやナットなどを溶接して作ったフィギュアを作っており、販売するたびに即日完売するほどの人気を誇っている。こうした試みを通して、外に向けては地域の魅力をアピールし、中に向けては深い愛着を根付かせることとなろう。
「地域」という舞台が魅力あふれるものになるためには、その地域に住まう人々-行政であり民間企業であり住民であり-が独創的な役者であり、脚本家であり、演出家であることが必要である。それとともに、政府はその舞台を裏方としてしっかり支え、スポットライトを当てていく。地域を創り上げるという人々の思いの結集が、地域が時代を切り開く原動力になるに違いない。