第2部 第1章 4.街づくりに向けた新たな動き
中心市街地を活性化させるためには、とにかく人出を増やすことが重要であることが分かっている中で、従来型の施策とは一線を画する施策が採られるようになってきている。具体的には郊外店の規制をすることで中心地に大型店を呼び込むことや、実際に中心地に住む人を増やそうとする方策である。
行政は、長期的な視点に立って、街づくりを考えると、この地域を重点的に支援することが望ましいということを、消費者・住民が全面的に納得するだけの論拠を十分に説明していく必要がある。ここでは、代表的な視点・主張を紹介しよう。
(1)人口減少・少子高齢化社会への対応
より長期的な視点から対応を求められるものとして、高齢化や人口減少への対応が挙げられる。
中心市街地を活性化する理由の1つとしてよく指摘されているのは、中心市街地の住民は高齢者であり、交通弱者であるから、高齢者の買い物機会を確保する必要がある、ということである。高齢者の外出手段をみると、都市規模を問わずに徒歩が最も多いものの、「自分で運転する車」や「家族が運転する車」を挙げる人は都市規模が小さくなるにつれて多くなっている(第2-1-25(1)図)。中でも自分で運転する車は全国平均で30%強、町村では40%超となっている。さらに自動車の運転頻度を確認すると、小都市と町村では70%ほどとなっており、高齢者が交通弱者であると一括りにしてしまうことにはやや違和感がある(第2-1-25(2)図)。ただし、小都市や町村ではバスや電車など公共交通機関の利用が極めて少なく、代替の交通手段がないために車の運転をせざるを得ない状況にあるとも考えられる。また、半数近くの高齢者が車の運転をしないという状況をかんがみると、高齢者に配慮した街づくりはやはり必要と言える。
第2-1-25図 高齢者の外出の状況 (複数回答可) |
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(1)外出手段 |
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(2)自動車の運転頻度 |
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また、高齢化が進行するなかで、コミュニティ意識の希薄化への懸念を指摘する声もある。総務省「社会生活基本調査」をみると、「まちづくりのための活動」に参加している人の割合は、都市規模が大きくなるにつれて低下する傾向にある。しかも、96年の18.8%から、01年(直近の調査年)には14.0%と低下している8。都市規模別にみても、大都市(11.3%→8.8%)、中都市(16.7→12.3)、小都市A(19.7→14.8)、小都市B(24.9→18.0)、町村(26.6→20.6)と全規模で低下している。
人口については、05年を100とした場合、10年後の2015年は南関東と沖縄を除く全地域で、20年後の2025年には沖縄を除く全地域で人口が減少することが予測されている(第2-1-26図)。中でも北海道、北陸、中国、四国は05年対比で10%近くも人口が減少することが見込まれている。
こうした状況下において、行政サービス・公共サービスを維持するためには、人口を拡散させるよりも、出来るだけ一所に集めたほうがより効率的になるであろう。
第2-1-26図 おおむね全地域で減少の見込まれる将来推計人口 | ||
(1)大都市圏 |
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(2)地方圏 I |
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(3)地方圏II |
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(2)コンパクトシティの概念
人口減少社会に対応したまちづくりという考え方から、現在、「コンパクト・シティ」という概念が広がりを見せている。先進地と言われる青森市では、街づくりの理念に「青い森・青い海に抱かれたコンパクト・シティの形成」を掲げ、市街地の拡大を抑制し、都市機能を集約化・複合化することを進めている。青森市の成功は、同市が豪雪地帯であり、「郊外型街づくりの社会的コストを「豪雪費用の無尽蔵な増大」という分かりやすい形で提示し、自治体と住民のコンセンサスを作り上げた」ことを指摘する有識者もいる9。
さらに地方財政状況の悪化や、地球温暖化対策の観点もコンパクト・シティ論に拍車をかけている。
財政の弾力性・健全性を計測するために用いられる指標をみると、経常収支比率、公債費負担比率、起債制限比率全てで10年前と比較して悪化している(第2-1-27表)。また、各市区における1人当たり歳出額と人口密度を並べてみると、人口密度の低い地域は1人当たり歳出額が高くなるという傾向がみられる(付図2-1)。将来的に人口減少が予測されるなか、人口をなるべく集積させることによって行政コストの削減に資するとも考えられる。
第2-1-27表 地方財政の弾力性を示す指標は10年前に比べて悪化 | ||||||||||||
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(備考)総務省「地方財政の状況」により作成。 |
各地の自動車保有率、ガソリン支出額、ガソリン価格等から1世帯当たりの自家用車による二酸化炭素の排出量を試算すると、全国平均で1.6tの二酸化炭素を排出している計算になる(第2-1-28図)。中でも、自動車保有率の高い北関東や北陸では2tを上回っており、相当な量であることが分かる。家庭から排出される二酸化炭素は年間5.9tと試算されており、自家用車の占める割合が極めて高いことが分かる。
第2-1-28図 自家用車のCO2排出量の推計(1世帯当たり) | ||
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05年に発効した京都議定書では、先進国は二酸化炭素等の排出量を90年のレベルに抑制することが求められている。そこで、月に10回自家用車で買い物に出かけると仮定して、うち1回を車以外の手段を活用した場合に排出される二酸化炭素の削減量を試算する。自転車あるいは徒歩にした場合の削減効果が一番大きいのはもちろんであるが、バス利用であっても、年間約200万t弱は削減できることになる(第2-1-29図)。
第2-1-29図 月10回車で買い物に行くと仮定して、 うち1回を車以外の手段にした場合のCO2年間削減量(試算) |
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(3)改正まちづくり3法の概要とそれに付随する動き
政府はいわゆる「改正まちづくり3法」案を国会に提出し、法律は06年5月に成立、8月に施行された。今回改正されたのは都市計画法と中心市街地活性化法の2法である。
改正都市計画法は、1)1万m2を超える超大型店や娯楽施設の立地を商業・近隣商業地域・準工業地域に限定、2)市街化調整区域内での大規模開発を許可できる基準を廃止し、病院、学校、庁舎等の公共公益施設を開発許可等の対象とする、などから成り立っており、人口減少・超高齢化社会に対応したまちづくりを実現し、都市の拡大を防止させる狙いがあるとみられる。また、改正中心市街地活性化法は、1)中心市街地活性化に関する基本理念の創設、2)内閣総理大臣が本部長になる「中心市街地活性化本部」を創設、3)「選択と集中」により、市町村が作成する基本計画の内閣総理大臣の認定制度の創設と支援措置の拡充、4)多様な民間主体が参画する中心市街地活性化協議会の法制化等から成り立っており、『コンパクトでにぎわいあふれるまちづくり』というコンセプトにより中心市街地への都市機能の増進及び経済活力の向上を総合的かつ一体的に推進する制度となっている。
06年9月には「中心市街地の活性化を図るための基本的な方針」が閣議決定され、現在、各市町村において、改正法に基づく活性化計画の作成に取り組んでいるところである。
また、地方自治体は国に先行もしくは追随して、国の基準よりも厳しい条例を制定する動きが相次いでいる。これらは主に大型店の出店規制と景観規制に2分される。
例えば福島県では出店規制を全国で初めて制定し、6,000m2以上の店舗の出店(あるいは増床)に際し、雇用確保などの地域貢献を求めるガイドラインを施行している。
また、国の「景観法」が05年6月に施行されて、景観の保全・形成のため地方公共団体に一定の強制力を持たせるものとなっている。これによって地方自治体では、主に高さや色合いに関する規制を設ける動きがみられる。
最近の動きとしては、札幌市でこの3月から市内のほぼ全域に24m~60mまでの5段階の建築物最高限度を設定した10。京都市では市中心部の幹線道路沿いの「田の字」地区では高さ制限を45m→31mに、それ以外の地区では31m→15mに引き下げることを柱とした新規制を07年度の施行を目指している。また、宮崎市では、建築物の色を数値化して評価し、周辺環境と馴染まなければ建設を規制する都市景観条例の改正案を10月から施行することとしている。
(4)街なかに住むということ
近年、中心地へのマンション建設が積極的に行われるようになってきている。例えば福島市ではJRの駅周辺だけでも7棟、土浦市でも6棟が建設中、7棟が計画中等々、事例には事欠かない。これには、1)地価の下落によって建設コストが抑制される、2)郊外から中心地への人口回帰、といった要因が重なっていると言われている。さらに、改正法では、「中心部への都市福利施設の整備」「街なか居住」を推進しているところである。
地価の状況を確認すると、各都道府県の県庁所在地の中心部の住宅地価において、91年当時にピークだった標準地と当該市の平均の比率を算出すると、全国平均では91年の7.1倍が06年には1.9倍に低下している(第2-1-30表)。このうち、33都市では2倍未満となっており、前述の商業地よりも中心部とそれ以外の地価の差が縮小していることが分かる。
第2-1-30表 中心市街地の住宅地価格
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(千円)
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全国平均 7.1 1.9 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(備考)国土交通省「地価公示」より作成。 |
こうした状況を背景に、「街なか居住」に対する支援を行っている自治体もある。個人向けの施策の多くは取得費用や家賃に対する補助を行うものであり、金額は100~200万程度が目安となっている。地方の住居取得金額の平均値はおおむね3,000万であるから、そのうち約3~6%が補助金として助成されることになる(第2-1-31表)。
第2-1-31表 中心部の居住や大型店誘致への主な支援策
自治体名 | 事業名 | 開始年月 | 対象者 | 条件 | 内容 |
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青森市 | 中心市街地にぎわいプラス資金 | 06年4月 | 個人、法人 |
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酒田市 | 酒田市住宅改善資金貸付 | 03年4月 | 個人 | 中心市街地の区域に建設する1戸当たりの床面積がおおむね30m2以上で、居住室、台所、便所及び浴室を有する賃貸住宅の新築工事、増築工事及び賃貸住宅に用途を変更する工事 | 1戸当たり20万円以上200万円以内(10万円単位で、1戸当たりの工事費の80%以内の額) |
福島市 | 大型空き店舗対策 | 99年4月 | 商工会、商工会議所、TMO |
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宇都宮市 | 若年夫婦世帯家賃補助制度 | 04年4月 | 40歳未満の夫婦 | 中心市街地にある民間貸付住宅が対象。市税滞納がないこと | 家賃の1/2(上限3万円)を60月補助 |
高崎市 | 中心市街地活性化対策資金 | 06年4月 | 県内個人・中小企業、小売業に限っては県内外の大企業も可 | 高崎駅を中心とする245haのエリアへの出店。業種は小売、卸、食事中心の飲食、理美容など | 上限10億円を年利1.3%で融資 |
新潟市 | 都心居住促進活動助成金 | 05年4月 | 個人、法人、団体いずれも可 |
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補助率1/2 限度額100万円 期限1年 |
甲府市 | まちなか居住再生プラン(賃貸住宅への入居) | 02年4月 | 街中区域に新たに移住してきた世帯 | 他の家賃補助を受けていない、市税滞納無しなど | 月1万円 |
〃 (共同住宅の建設工事) | 02/4/1~ 05年度 | 法人 | 1棟に4戸以上の住戸があること、40m2以上であること | 50万円×戸数(40戸限度) | |
松本市 | 企業事務所誘致促進事業補助金制度 | 94年4月 | 法人 |
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取得の場合
賃貸の場合
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浜松市 | 特定都心機能集積支援制度 | 06年4月 | 出店者 | 10年以上継続可能であること、従業員10人以上の新規雇用 | 新規出店に伴う初期投資の1/2以内、かつ5億円を上限 |
豊橋市 | 豊橋市商業近代化特別資金(中心市街地商業活性化推進資金) | 01年4月 | 中心市街地区域内の中小商業者又は中心市街地区域内に出店する商業者 |
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融資:事業者につき 5,000万円以内(年利1.3~1.5%) |
京都市 | 京町家再生賃貸住宅制度 | 04年10月 | 京町家を賃貸住宅として再生する民間事業者 | 準特定優良賃貸住宅型京町家再生賃貸住宅:供給戸数5戸以上、床面積50~125m2、管理機関10年など | 建築主体工事費及び屋内設備工事費の2/3(予算の範囲内において市長が認めた額) |
姫路市 | ベンチャーオフィス支援事業 | 05年度 | 個人・法人 | 事業を開始してから5年以内又は新規開業、支援対象決定日から4か月以内に入居完了 | 事務所の賃借料の1/2、月額75,000円かつm2あたり月額1,500円が限度、入居から2年間 |
北九州市 | 北九州市住まい支援事業 | 05年4月 | 市内郊外地区から中心市街地への移住者 | 市内に3か月以上継続して居住し、世帯主の年齢が39歳以下の世帯もしくは市内に1年以上継続して居住いる世帯 | 5年間、1%の利子補給 5年間最大100万円(年最大20万) 住宅金融公庫や民間金融機関の住宅ローンが対象、利子補給対象借入金は5,000万円が限度 |
(備考)各自治体ホームページ、新聞報道等により作成。
(5)街なかに住みたいか
街なかへの居住者が増えれば、買い回りの便利さによって、その付近の商店街も一息つけるかもしれないが、支援策のメニューがそろって来つつあるとはいえ、実際に住みたいかどうかは別問題のようである。
世論調査において、居住希望地を「街なか」か「郊外」で尋ねたところ、「郊外」が「街なか」に倍以上の差をつけた(第2-1-32図)。辛うじて、東京都区部では街なか居住希望者が郊外居住希望者を上回ったが、その他は都市規模が小さくなるほど、郊外居住希望者が多くなっている。
第2-1-32図 現在の居住地別にみた居住希望地 |
(備考)内閣府「住宅に関する世論調査(04年11月)」により作成。 |
街なかに住みたい理由としては、日常の買い物、医療や福祉、通勤や通学、それぞれにおいて「利便性が良い」ことが挙げられている(第2-1-33図)。街なか居住者を増やすためには、そうした要望を叶えるべく、環境整備を進めることが肝要と言えよう。
第2-1-33図 街なかに住みたい理由(複数回答) |
(備考)内閣府「住宅に関する世論調査(04年11月)」により作成。 |
(6)今後の街のあり方
今後の街のあり方としては、「街の中心部の賑わいを維持する・取り戻すようにすべき」とする人が全体の3割程度と最も多くなっている(第2-1-34図)。これを都市規模別にみると、あまり差がみられず、どのようなところに住んでいても、街の中心部について、何らかの手立てを講じるべきと考える人が多いことを示している。
一方で、「今のままでよい」と回答した人も3割弱存在しており、都市規模別にみると、大都市や東京都区部で多いと結果になっている。
第2-1-34図 今後のまちのあり方 |
(備考)内閣府「小売店舗等に関する世論調査(05年)」により作成。 |
(7)終わりに-新時代の街づくり
街づくりはその土地に暮らす人々の意思の集合体と言える。
大型店が出店してきて、中心市街地がさびれ、街の顔として淋しいから、大型店の出店を規制するという対症療法では堂々巡りである。現在問題となっているのは「中心市街地」対「郊外」という構図であるが、過去において、中心市街地から郊外への機能移転を望んだのも住民である。人出を街なかに回帰させるためには、消費者・住民がそこに住むもしくは行くことが「必要」と思わせるような仕組みを整えることが重要であろう。
街づくりにあたっては、将来の街の様子を見据えて、住民がどういう街づくりを望むのかをきちんと把握したうえで、明確な信念やヴィジョンを持って取り組むべきである。
8. | 調査項目は、96年の調査では「地域社会や居住地域の人に対する奉仕」、01年の調査では「まちづくりのまめの活動」となっている。 |
9. | 清水紀男、「朝日新聞けいざい羅針盤」06年6月8日。豪雪地帯における除雪費は地方財政を圧迫する一因にもなっている。例えば、札幌市では05年度の一般会計予算のうち、公債費を含まない6,885億円のうち、雪対策に使用する金額は146.5億円と、約2.1%を占めている。 |
10. | 06年3月31日施行、施工前にはマンション等の駆け込み建築が目立った。 |