第2部 第1章 3.活性化のためのヒント

[目次]  [戻る]  [次へ]

前述のとおり、消費者が望む中心市街地への希望は、約3割がワンストップサービス、次いで生鮮食品などを中心とした生活必需品が買えることであった。この消費者のニーズには十分に応える形で活性化をすすめることが重要と言えよう。

(1)繁栄している中心部商店街の秘訣-景気ウォッチャー調査のコメントから-

中心部の商店街は衰退の憂き目に会い、売上の減少に加え、空き店舗の増加に悩んでいるところが多いが、目を凝らしてみると、わずかながら好調なところも存在する。

「景気ウォッチャー調査」において、中心部の商店街の「景気が良くなっている」あるいは「良くなる見込みである」という回答者のコメントを抽出し、何が要因で良くなっている/良くなるのかを探ることにしよう(第2-1-22表)。

コメントを俯瞰して言えるのは、良くなっている要因として、人出が多くなっている、もしくは人出が戻ってきていることが挙げられている点である。人出、つまり来街者が多くなれば、街に活気があふれ、小売店の売上も上がることが予想される。これは至極当たり前のことであるが、活性化のためには、いかに人出を取り戻すかが鍵である。

では、人出の増加に成功した商店街はどのような取り組みを行っているのだろうか。

まず挙げられるのはイベントである。これは多くの活性化計画にも取り入れられている。ラーメンサミット、音楽イベント、公園でのイベント、佐賀城下雛祭り等々、中身は様々である。イベントには継続性、常に何かを仕掛けることが重要である。そうでないと、イベントを行っていない時期には人出がばったり落ちることにもなりかねない。事実、「毎月色々なイベントを行っているせいか、やや集客が増えた」というコメントもある。イベントを「毎月」開催することが消費者に認知された結果と言える。

中心部の商店街には核店舗として、百貨店や大型商業施設を有するところも少なくない。これらの集客力を高めることで、商店街への波及も期待される。実際、百貨店の改装終了後に来客数が増えたというコメントもある。ただし、大型店は中心部、郊外型を問わず、撤退リスクもつきまとう。大型店に頼った集客をしていると、それが撤退したときに、重大な影響を被る恐れのあることは認識しておくべきであろう。

中心部の商店街の衰退した最たる理由は、前節で見たとおり、郊外型の大型ショッピングセンターの台頭である。景気が良くなっている中心部の商店街であっても、全国津々浦々にくまなく出店攻勢をかけている大型店の影響は避けられないと見られる。そうした状況下で、中心部の商店街は郊外型大型店とどのように付き合っているのだろうか。キーワードは「棲み分け」である。安価なものを売る量販店と中心部の商店街で棲み分けをすることである。同じ商品を同じように売ることでは差別化は図れない。一線を画すためには飽くなき工夫が必要である。「個店なりに品揃えを工夫、年配者向けの商品が増えているとともに、客が増加」というコメントもある。

第2-1-22表 景気ウォッチャーコメントからみる、中心商店街繁栄の要因
地域 業種 コメント コメント時期
(人出の増加)
東北 商店街代表者 ・好天に恵まれたせいか10月の中心部商店街の人出は例年より多い。物販はともかくとして飲食店関係、特にコーヒーショップ等では来客数が2けた増のところも複数店あり、最近では珍しい傾向である。 03年10月
南関東 小売関連 ・この2か月くらい、来客数、販売量ともに増加している。商店街のインフォメーションセンターを訪れる客の数が飛躍的に増加しており、春休みだけの傾向かと思っていたが、春休みが終わった後も、順調に推移している。 03年4月
北陸 小売関連 ・ゴールデンウィークの売上は例年や前年より良かった。商店街を歩く人の買物袋もいつもより多く、客に買う気が出てきたようにみえる。 05年5月
九州 非製造業 ・街中の人出や商店街の客数を見るとはっきりと増えている。季節的なものかは分からないが、少なくてもここ数か月前と比べると人出は多くなっている。 06年3月
(イベントの開催)
北海道 小売関連 ・大手百貨店の閉店に伴い、客の流動状況に変化がみられたことに加えて、ラーメンサミットといった地域イベントや百貨店での集客イベントなどにより、商店街への来訪者が増加した。また、2回あった連休での観光客の入り込みにより、ホテル・飲食店が好調である。 03年9月
東北 小売関連 ・厳しい状況は残っているが、当地域は、ゴールデンウィークが好天に恵まれ、桜の満開で観光客が多かった。特に中心商店街では大イベントを実施し、集客があり、各店の売上が良くなった。 06年5月
四国 小売関連 ・春休み期間中もかなり人出が出て、それが終わっても、イベントが商店街近くの場所で行われて、それに対して観光客がかなり入込んで、全体的な通行量、にぎわいというものも出てきているように思う。 06年4月
九州 小売関連 ・2月15日から佐賀の城下雛祭りと言うことで3月下旬まで催されており、商店街に少し客が増えている。特に土日、県外からも多い。 03年2月
九州 小売関連 ・商店街で毎月いろいろなイベントを行っているせいか、やや集客が増えたような感じがする。ただこれが直接売上に結びついている業種とそうでない業種とのばらつきはあるが、町の中が多少にぎわった感じがする。 03年4月
(郊外型大型ショッピングセンターとの付き合い方)
東北 小売関連 ・一中心商店街としては大衆向けの安価な商品を扱う量販的店との棲み分けがそろそろ進んできた。 05年8月
九州 小売関連 ・商店街では個店なりに品揃えを工夫しており、年配層向けの商品が増えていると共に客が増えており、単価的にも若干良くなっている。 04年4月
(中心部の核店舗)
北海道 小売関連 ・商店街の大型店2店舗が改装オープンしたことで、商店街の来客数が増え、飲食店や生地屋、眼鏡屋、カメラ屋などの店で前年の売上を上回った。 03年3月
(通販・電子商取引への参入)
北関東 小売関連 ・通販業務を行っている店舗では販売量の増加がみられる。電子商取引をこれから検討される店舗も多くなっている。 04年6月
(備考)内閣府「景気ウォッチャー調査」により作成。

(2)活性化のヒント-どこが何で栄えているのか

小売業は長期的にマイナストレンドである中、その都市の商圏以上の消費者を吸引している所もある。

小売吸引度という指数がある。これは当該地域の人口から想定される商業販売額(具体的には全国ベースの1人当たり商業販売額×当該地域の人口)と、実際の販売額との比率を算出したものであり、1を上回っていれば、他地域の商圏から吸引しているとみなすものである

04年度の小売吸引度の上位20位をみると、東北から6都市、北関東から4都市、南関東から2都市、東海から2都市、近畿から3都市、中国、四国、九州からそれぞれ1都市がランクインする。

ここではそれらの都市のケーススタディから、活性化のためのヒントを探ることとする(第2-1-23表)。

まずは人口の増減をみる。人口が増加しているのは宮城県古川市、長野県佐久市、千葉県成田市、静岡県御殿場市、滋賀県長浜市の5都市に過ぎず、人口増加から商業販売額を伸ばすことはあまり期待できない。

一方で、交流人口を増加させることは不可能ではない。このためには、他地域・他都市に勝るような何らかの魅力がなければならない。交流人口は言わば、魅力のバロメーターと言えるからである。交流人口が圧倒的に多いのは、静岡県御殿場市である。富士山観光の玄関口であるため、当たり前と言えば当たり前である。ただし、2000年に大型アウトレット店が開業したこともあってさらに吸引力が伸びている面も否めない。交流人口の多いところは、群馬県南部の中心地である高崎市や、1,000万人の年間参拝客を誇る成田山新勝寺や成田空港を擁する千葉県成田市が続く。

商業販売額に占める商店街比率(中心市街地と駅前の商業集積地の販売額)をみると、10年前と比較して軒並み低下しているものの、長野県佐久市と松本市、熊本県本渡市は上昇しており、群馬県高崎市、新潟県村上市も減少幅が小さくとどまっている(第2-1-24図)。長野県佐久市は長野新幹線や上信越自動車道の開通後、商圏が拡大したことが大きいとみられる。松本市は元々の商圏自体が大きいことに加えて、松本城や1か月に及ぶサイトウ・キネン・フェスティバルの開催など観光都市としても知られている。熊本県本渡市(現:天草市)は中心部の商店街に大型店が隣接しており、大型店の集客効果が商店街に上手く波及している事例と言えよう。群馬県高崎市や新潟県村上市はそれぞれの地域の中心都市として周辺地域からの吸引が比較的大きくなっているのだろう。

なお、20都市のうち半数近くが郊外型大型店の進出によって売上を伸ばしている。とりわけ山口県の下松市では人口がここ10年間で横ばいの中、商業販売額がじわじわと増加しており、これは93年に周南地区初の郊外型大型店が出店したことを契機に、大型店が続々と進出していることによる。郊外型大型店の占有率は全国の市町村で1位の82%にまで達している

滋賀県長浜市や和歌山県御坊市は観光による集客効果が大きい。前者は中心市街地のみならず、地域活性化の先進成功事例として常に語られる「黒壁スクウェア」を擁しており、年間の交流人口は250万を超える。後者は熊野古道の紀伊路ルートや営業距離が短いことで知られる日本有数のミニ鉄道「紀州鉄道」を抱えている。

第2-1-23表 小売吸引度が高い市の属性の示唆
県名 市名 小売
吸引度
居住人口
(千人)
交流人口
(千人)
キーワード 特徴
千葉県 成田市 1.796 99 10,430 観光 成田山 年間1千万人の参拝客
海外への窓口 成田空港
秋田県 横手市 1.684 40 3,497 交通の要所 南北に国道13号及び湯沢横手道路、東西に国道107号及び秋田自動車道が通る交通の要衝
秋田県 大曲市 1.662 38 3,497 郊外店・ 交通の要所 秋田自動車道、秋田新幹線が通る交通の要
郊外店が多く、近隣市町から買い物客を集客
山口県 下松市 1.488 55 3,220 郊外店 周南地区の「ザ・モール周南」出店以後大型店が次々と進出。市内の商業面積に占める大型店の占有率は全国の市町村でトップの82%
宮城県 古川市 1.465 74 3,374 交通の要所 東北自動車道、東北新幹線開通など県北西部の拠点
近隣の町(岩出山町、鳴子町)の買回購入先第1位(81%)
静岡県 御殿場市 1.463 85 24,051 観光・郊外店 富士山、御殿場プレミアムアウトレット
和歌山県 新宮市 1.456 32 4,912 観光 世界遺産 紀伊山地山岳霊場に至る参詣道にある商店街「神倉商店街」が集客
滋賀県 長浜市 1.430 63 2,534 観光 長浜城、黒壁スクエア、長浜曳山まつり、その他戦国時代の史跡
長野県 佐久市 1.427 68 7,541 郊外店・交通の要所 上信越自動車道・長野新幹線の開通以来、県外資本の大型店舗が次々と林立し大きく発展、上田市と並ぶ東信地方の中心都市
和歌山県 御坊市 1.421 85 1,831 郊外店 地元資本の郊外大型店があり、周辺市町村から買い回り客を集客
山形県 新庄市 1.404 41 1,029 交通の要所 国道13号と47号、JR奥羽本線と陸羽東・西線が交わる交通の要所として発達 99年には山形新幹線が新庄市まで延伸、最上地区の中心都市に
長野県 松本市 1.400 202 7,286 地域の中心地・郊外店 国道19号沿線にロードサイド型商業施設が林立 周辺市町村から集客 サイトウ・キネン・フェスティバルなどイベントも
熊本県 本渡市 1.395 39 849 地域の中心地 天草地方の市町村で最大の人口を擁し、天草芦北地方の行政、商業、交通の中心地 市街地中心部の商業地の店舗数は全市の約6割を占める
千葉県 旭市 1.389 40 郊外店・ 観光 市内を東西に走る国道126号沿線にロードサイド型商業施設が集積
九十九里浜に面しており、夏季には海水浴客で賑わう
群馬県 高崎市 1.382 244 19,926 地域の中心地 商業圏の中心地、他市町村からの依存度も高い
高知県 中村市 1.381 34 1,772 郊外店 中心市街地は碁盤目状に区画されており、「土佐の小京都」として知られるが、周辺地域での新市街地形成やロードサイド点が増加
群馬県 渋川市 1.381 48 4,444 交通の要所 群馬県のほぼ中央で古くから交通の要衝として栄える
伊香保、草津など広域リゾート(温泉)への玄関口
秋田県 本荘市 1.366 45 4,700 郊外店 郊外に大型商業施設が集積
周辺中小都市から買い回り客を集客
新潟県 村上市 1.354 31 597 地域の中心地 県北の商業圏の中心都市 官公庁や工業・商業の集積が進んでおり、流入人口が多く、地域の中心としてして発展
三重県 上野市 1.318 60 5,705 地域の中心地 周りに町村が隣接し、地域の中心都市として発達
忍者に関する資料世界一の博物館「伊賀流忍者博物館」や「芭蕉翁記念館」も人気
(備考) 1. 経済産業省「商業統計表」、国土交通省「全国幹線旅客純流動調査」、各自治体のホームページ等により作成。
2. 小売吸引度=当該市町村の小売販売額/当該市町村の人口
当該市町村の商業人口=当該市町村の小売販売額/一人当たり販売額(全国)
3. 交流人口とは、各都市が所在する生活圏に他の生活圏から流入する人口。
4. 小売吸引度、居住人口は04年、交流人口は2000年、市名は04年10月時点の名称。
5. 秋田県大曲市は05年3月に合併し大仙市、宮城県古川市は06年3月に合併し大崎市、熊本県本渡市は06年3月に合併し天草市、高知県中村市は05年4月に合併し四万十市、秋田県本荘市は05年3月に合併し由利本荘市、三重県上野市は04年11月に合併し伊賀市となっている。
第2-1-24図 年間商品販売額に占める中心商業集積地の比率
第2-1-24図
(備考) 1. 経済産業省「商業統計表」により作成。
2. 中心商業集積地とは、「商業統計表 立地環境特性別統計編」の商業集積地区細分、駅周辺型商業集積地区と市街地型商業集積地区。

以上から言えることは、郊外型大型店と中心市街地が共存するためには、様々な仕掛けが必要、ということである。人口を増加させることで活性化を図るのは容易ではないが、交流人口を増やすことは地域の魅力を高めれば可能である。そのためにはイベントなどを「継続的に」仕掛けていくことが有用である。つまり、常に何かが楽しいと思わせるものがあり、何よりも差別化を図ることが必要なのである。


4. もちろん、当該地域の1人当たり消費額が全国平均を上回っていれば、小売吸引度の数値は上がる。
5. ここでは政令指定都市、県庁所在地を除いている。なお、04年の商業統計表を用いて作成しているため、市名は04年10月時点で統一している。市町村合併によって、市名の変わったものは以下のとおり、秋田県大曲市→秋田県大仙市(05年3月~)、秋田県本荘市→秋田県由利本荘市(05年3月~)、宮城県古川市→宮城県大崎市(06年3月~)、三重県上野市→三重県伊賀市(04年11月~)、高知県中村市→高知県四万十市(05年4月~)、熊本県本渡市→熊本県天草市(06年3月~)。
6. 下松市では郊外型大型店の立地により中心市街地としての機能が低下していたが、05年に駅前市街地再開発事業が着工され、現在、市を象徴するシンボルゾーンの形成が進んでいる。
7. 黒壁銀行の保存を中心とした活性化策に取り組む前の長浜市の中心商店街は、ある日曜日の午後1時の通行者が「人間4人と犬1匹」だったことはよく知られている。

[目次]  [戻る]  [次へ]