第2部 第1章 2.これまでの施策
これまでの国の施策のうち、中心市街地の商業の活性化に関連する施策をいくつか分析してみる。
(1)旧中心市街地活性化法に基づく中心市街地活性化基本計画の提出状況
「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律(以下、「旧法」)」は、98年に成立・施行された。市町村は旧法・旧基本方針に基づき中心市街地活性化基本計画を作成し、国に写しを送付、これに対し国が支援をするという仕組みであった。また、基本計画に基づいて実施される中小小売商業高度化事業に関してはTMO(まちづくり機関)がTMO構想を作成し、市町村が構想を認定、TMO構想に基づく事業を実施する場合にはこの事業計画を経済産業大臣が認定し、支援するという仕組みになっていた。旧法施行後、中心市街地活性化基本計画の提出件数は2000年にピークを迎え、以降、年々減少している。一方で大店立地届出件数をみると、旧法の施行された2000年には急減したものの、その後03年度まで年々増加していた。ここ3年はほぼ横ばい状態となっている(第2-1-16図)。
第2-1-16図 大店立地届出と旧法に基づく中心市街地活性化基本計画提出件数 | |||
|
人口規模別にみると、10万未満の地域が約2/3と圧倒的多数を占めている。中でも、人口5万未満の市と町村が半数近くとなっており、人口規模が小さくなるほど、計画を作成し、中心市街地活性化に取り組む傾向にあった。人口が小規模であるほど、中心市街地空洞化・衰退の影響が深刻であることを示していると言えよう(第2-1-17図)。
第2-1-17図 旧法に基づく中心市街地活性化基本計画提出市町村の内訳 (06年7月末現在) |
|||||
|
(2)活性化計画の中身
旧法に基づく作成された活性化計画の中身をみると、「吸引力を高める=中心市街地に来訪する人を増やす」ための取組みが一番多くなっている(第2-1-18図)。具体的には、「文化・交流・福祉などの機能を強化する」、「イベントなどを催す」、「商業などの魅力を高める」でおおむね3等分される。このうちイベントの開催や商業の魅力を高めるには、個々の商店主、あるいはTMO関係者、ひいては市町村の担当者のアイディアや努力が実を結ぶと言えよう。
それ以外には、「快適に過ごせる環境を整える」ために、街並みや景観、歩きやすい環境、公園等の憩いの場を整備するというハード面を強化する取組みや、「実現に向けた仕組みと環境作り」のために専門家派遣や計画作りの作成支援事業、新規事業者の育成といった取組みが並ぶ。
第2-1-18図 取組別の分類(06年7月末現在) |
(備考)中心市街地活性化推進室ホームページにより作成。 |
(3)中心市街地活性化関連予算の内訳
中心市街地活性化関連の予算として、中央省庁では約1兆円の予算を計上している(05年度当初予算ベース)。これは様々な事業に対し、中心市街地のみに使える予算ではなく、中心市街地以外でも活用ができるものも含まれているが、中身をみると、道路や公園、公益施設等の整備事業の予算規模が大きくなっている。(第2-1-19表)
第2-1-19表 05年度 中心市街地活性化関連予算 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
(4)特区の活用
特区における「まちづくり関連」に分類される認定計画は、累計数で26件(現在数11件3)となっている(全901件中、第12回認定まで)。
うち5件は、大店立地法の手続きを簡素化し、中心部に大型店を呼び込むことを目的としている。これは出店申請から実際の出店に至るまで最低8ヶ月かかっていたものをより短期に実現させようと言うものであり、特区での成果を踏まえ、改正中心市街地活性化法では、中心市街地において都道府県等が区域を定めれば適用可能な制度となっている(第2-1-20表)。
水戸市では中心市街地活性化の起爆剤として、地元百貨店が中心市街地に06年3月に移転開業した。今のところ、売上は旧店舗の2.3倍、来店客数は3倍と、極めて好調に推移している。岐阜市では百貨店の改装とともにその周辺で人出が増えていたという報告もある。
一方、特区における「まちづくり関連」の認定第1号となった宇都宮市には2000年12月に閉店した地場の老舗百貨店跡地に、03年11月に大型スーパーが出店した。手続き簡素化のメリットをフル活用し、出店申請から出店までわずか2週間足らずの超スピード出店が成立し、特区の目的は達成したと言える。さらに05年4月にも撤退した百貨店の跡地が商業ビルとして再生した。しかし、直近(05年)の中心市街地の通行量調査では2年前に比べて、休日の通行量が3割近くも減少するなど、鳴り物入りで大型店の出店を呼び込んだほどの効果は発揮されていない。また、古川市(現:大崎市)ではシネコンを併設した大型商業施設が06年3月に開業し、シネコンの集客はまずまずと言われているが、商業施設のテナントは06年11月末の時点で2割が空いている。
中心地に大型店を呼び込んだ5件の特区においては、「規制の特例措置」が着実に活用されており、今のところ半分程度の地域で期待どおりの効果が発揮されている。
第2-1-20表 大型店出店のための手続を簡素化した特区の効果 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||
(備考)構造改革特別区域推進本部、各自治体ホームページ、新聞等により作成。 |
(5)都市再生の取組
内閣に設置されている都市再生本部においても「稚内から石垣まで」をキャッチコピーに都市の再生に関する取組に対する支援の1つとして全国都市再生モデル調査を実施している。
この調査を活用し、例えば、八戸市では、中心市街地の小路横丁に設けられた屋台村が観光客に大人気となったことから、「小路」を巡るルートを作る動きが始まっている。また、富山市では全国初の本格的なLRT(ライト・レール・トレイン)が06年4月に開業し、市民の足となることが期待されている。さらに中心市街地である総曲輪地区において大型商業ビルや大型の駐車場ビルの建設も進んでいる。
(6)消費者が望む中心市街地の役割
一方で、消費者が望む中心市街地像をみると、必ずしも旧法下の政策が採ってきたものと一致しているわけではない。
直近の調査で最も多かった役割は、「小売店舗、金融機関、役所、病院などの施設が集中し、まとまったサービスが提供される」ことである。キーワードは「ワンストップサービス」である(第2-1-21図)。
次に挙げられていたのは「生鮮食品などを中心とした生活必需品が買える」ことである。「商業などの魅力を高める」と対応するかもしれないが、やみくもに大型店を作るよりも、生鮮食品に絞ったほうがむしろ特色が出ると言えるかもしれない。例えば、金沢の近江町市場は未だに市民の台所として利用されており、街なかへの来訪をしやすくするために、バス路線の整備をしている。また、特区を活用し、景観に配慮するために道路標識を縮小化することも進められている。
3番目に挙げられていたのは「地元の人々が集まり、話し合うコミュニティとしての役割」である。なお、97年の調査では「まちの中心部に対して望むこと」という質問項目に対して、コミュニティの中心としての役割を挙げる人が最も多かった。
ここから読み取れることは、コミュニティとしての役割、つまり公民館などの交流施設やコミュニティ広場のようなものを整備するよりも、ワンストップサービスが望まれているということである。これには様々なサービスが集積する必要性がある。役所や金融機関こそ中心地に残っているケースが多いが、病院や小売店舗はすでに郊外に移転してしまったケースも多くみられる。これらをもう1度中心地に呼び戻すことで中心地に訪れる人が再び増加することが期待されるのである。
第2-1-21図 消費者の抱くまちの中心部の役割や中心部への希望(複数回答) |
(備考)内閣府「小売店に関する世論調査(97年、05年)」により作成。 |
3. | 「規制の特例措置」の全国展開により、その「規制の特例措置」のみを活用している特区計画は逐次取り消されることから、認定されている現在数は少なくなる。 |