第2章 2.景気の踊り場をもたらした2つの要因
景気の踊り場的な状態をもたらした要因は2つ考えられる。1つは04年秋口以降の生産の減速であり、もう1つは同時期における個人消費の低迷である。
(1) 生産は減速から横ばい圏内へ
今回の景気回復局面は、輸出が回復し、それに伴って、生産が持ち直したことから始まった。こうした中、地域の生産をけん引しているのは、電子部品・デバイスと輸送機械である。実際、各地の生産をみると、これら2つの業種が生産に占める割合が高いところほど、生産が増加するという傾向がみられる(第2-2-1図)。
第2-2-1図 IT部品・輸送機械のウェイトと鉱工業生産増加率との相関 (地域の生産は、IT部品と輸送機械がリード | |||||||||||||||
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しかし、04年の秋口ごろから、IT関連分野における世界的な在庫調整を受けて、電子部品・デバイスの生産が全国的に鈍化し、それに伴って、各地域の生産も軒並み減少した。また、もう1つのけん引役である輸送機械も、原料である鋼材不足の影響を受けて、生産が一時的に減少する地域もみられた。
05年に入り春先までには、在庫調整が進展した結果、電子部品・デバイスの生産は、北海道、東海、北陸、近畿、中国で持ち直した。一方で、東北、関東、九州には引き続き減少局面となっていた。なお、この時期においては鋼材不足も解消されたため、輸送機械はおおむね全地域で生産を下支えするものとなった。
05年4-6月期になると、東北や関東においても電子部品・デバイスの生産調整は終了し、再び生産をけん引するまでに至っているが、九州ではなおも調整局面が続いている(第2-2-2図)。
第2-2-2図 電子部品・デバイスの調整局面はほぼ終了 | ||||||||||||
04年10-12月期 | ||||||||||||
05年1-3月期 | ||||||||||||
05年4-6月期 | ||||||||||||
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これは何が原因しているのだろうか。電子部品・デバイスの中身をみると、九州では集積回路製造業の比率が際立って高くなっており、この部分の不調が大きく響いていると考えられる(第2-2-3図)。
第2-2-3図 電子部品・デバイス工業に占める集積回路製造業の構成比(03年) | |||||||||
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ただし、電子部品・デバイスの在庫循環図をみると、05年4-6月期には、おおむね全地域で45度線の付近もしくは、それを上回った地域もみられる。九州においても、45度線をまたぐ状況となっており、今後生産が持ち直していくことが期待される(第2-2-4図)。
第2-2-4図 電子部品・デバイスの在庫循環 | ||||||||||||||||
全 国 | 中 部 | |||||||||||||||
東 北 | 近 畿 | |||||||||||||||
関 東 | 九 州 | |||||||||||||||
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(2) 天候要因が影響した個人消費
景気の踊り場的な状態をもたらしたもう1つの要因は個人消費の低迷である。この原因としては、異常続きの天候が挙げられる。
04年は歴史に残るような天災の続いた年であった。特に盛夏から秋口にかけて、史上最高数の台風が上陸したことに加え、10月22日には、震度7、マグニチュード6.8を記録した新潟県中越地震2が発生した。さらに、10月から12月にかけて、暖冬だったことも、冬物商品の売上に影響を及ぼした。
これらは消費者心理に大きく影響した。景気ウォッチャー調査で家計部門の現状判断DIで家計関連分野の景況感をみると、04年8月に横ばいを示す50を割り込み、その後晩秋まで景況感の悪化が続いた。特筆すべきことは、景況感の悪化が、旅行やレジャー施設関連だけではなく、家計部門のほぼ全分野にわたったことである(第2-2-5図)。
第2-2-5図 業種別にみた家計部門の景況感 |
小売関連 I |
小売関連 II |
サービス関連 |
(備考)内閣府「景気ウォッチャー調査」により作成。 |
地域別にみても、同様に04年8月以降、おおむね全地域で景況感が急速に悪化した。新潟県中越地震の発生した翌月の11月には、東北は37.4まで落ち込んだ(第2-2-6図)。
第2-2-6図 地域別にみた家計部門の景況感 |
大都市圏 |
地方圏 I |
地方圏 II |
(備考)内閣府「景気ウォッチャー調査」により作成。 |
景況感の悪化は実態としての消費にも影響した。大型小売店販売額(既存店)をみると、04年10-12月期は全地域で前年同期を下回ったうえに、その減少幅が7-9月期と比べて大幅に悪化した地域が続出した。これは百貨店、スーパー、コンビニのいずれの業態にも当てはまったことである(第2-2-7図)。
第2-2-7図 04年秋から冬にかけて軒並み落ち込んだ大型小売店販売額 | ||||||
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しかし、年が明けてから、個人消費の潮目が変わってきた。元々個人消費の弱さは異常なまでの天災要因によるものであるから、異常さがなくなれば、持ち直すのは当然と言える。
家計部門の景況感は緩やかに上昇し、再び50をうかがうまでに至っている。地域別にみても、2月に沖縄が50まで持ち直し、9月現在では北海道、東海、近畿、沖縄の4地域が50超えをしている。
実態としての消費も持ち直している。百貨店販売額(既存店)をみると、05年4-6月期になって、中部3、近畿、中国では前年を上回っている。その他の地域は前年を下回っているものの、その減少幅は縮小している(第2-2-8図)。これは天候が比較的良かったことに加えて、所得面の持ち直しがみられたことも背景にある(後述する)。また、いわゆるクールビズの推進に当たって、様々なファッションの提案がなされ、ファッションに対する関心が増したことも要因に挙げられるだろう。
第2-2-8図 年初よりは持ち直しの動きもみられる百貨店販売額 | |||||||||
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さらに、2月に中部国際空港が開港し、3月に愛知万博が開幕したことが国内旅行の活性化につながっている。大手旅行業者13社取扱金額4をみると、3月以降は前年を上回る傾向がみられる。主要観光地である北海道や沖縄の観光客数も回復し、特に沖縄は年明けからほぼ毎月、その月としての過去最高の観光客数を記録している(第2-2-9図)。北海道も、来道者数が回復傾向にある。
第2-2-9図 回復する北海道・沖縄の観光客数 |
(備考)北海道は北海道観光連盟調べ。沖縄は沖縄県観光リゾート局調べ。 |
2. | 97年1月17日に発生した阪神大震災は震度7、マグニチュード7.3。 |
3. | 中でも、東海は愛知万博の開催によって、観光客による土産需要なども功を奏して、格段に高い伸びとなっている。 |
4. | 鉄道旅客協会「大手旅行業者13社取扱金額」によると、国内旅行の前年同月比は05年3月2.5%、4月0.8%、5月△1.7%、6月3.4%、7月2.7%。 |