第1章 第2節 2.(2) 地域ブランドの確立による地域経済の活性化

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(2) 地域ブランドの確立による地域経済の活性化

1) 何故、今、地域ブランドなのか

90年代は公共投資が地域の景気の下支え効果を果たし、景気をある程度平準化していたのに対し、近年では、公共投資の減少が続いていることもあり、産業構成や輸出競争力の差異によって、景気の回復力に地域差が生じている。

このような状況下にあって、地域ではその資源や知恵を最大限に活用して、自立的に経済を活性化しようという意識が強まっている。構造改革特区や地域再生計画を申請し、認定を受けることもその手法の一つである。

こうした中、地域の特徴的な商品やサービスに、地域名を付加して、他地域のそれと差別化を図ろうとする、いわゆる「地域ブランド」を構築する取組みが、最近盛んになってきている。

そもそも、ブランドとは、商品・サービスの単価自体にブランドという付加価値がついて、価格が通常の製品よりも高くなるという仕組みである。ブランドが成り立つためには、その製品の品質自体が良いことはもちろんのこと、それ以上の何かを付けなければならない。また、ブランドが成立すれば良しというわけではなく、ブランドを維持・向上させるためにはたゆまざる努力が必要となる。しかし、働き手の減少が確実に見込まれる中で、付加価値の高い製品・サービスにシフトしていくことはむしろ当然とも言える。

地域ブランドとは、地域+商品・サービスを名称とすることによって、それ自体を一体化して、商品・サービス、ひいては地域そのものの価値を高めようとするものであり、道路や鉄道を作るには地域横断的でかなり大がかりなものになるのに対し、地域独自の取組みができる、つまり小回りが効くという利点があるとも考えられる。

2) 行政の取組み:商標法の改正

こうした地域ブランドの構築の取組みを受けて、行政側の支援体制も整ってきている。

地域名と商品名からなる商標を、団体商標として、より早い段階で登録を受けることが可能となる、いわゆる改正商標法が05年6月に成立した(06年4月施行)。

現行の商標法では、地域ブランドの登録に当たって、全国的な知名度を有していることが要件となるなど、かなり厳しいものとなっていた。05年1月現在、文字のみで商標登録をしている農水産品は、夕張メロン、前沢牛、佐賀牛など大変少ない12。また、文字商標だけで登録するのでなく、識別力のあるマーク等と組み合わせることによって、登録を認められる場合もあった(後述の関あじ・関さばは、このケースである)。

改正商標法では、事業協同組合等によって使用されたことで、複数都道府県に及ぶほどの周知性を獲得した場合には、地域団体商標として登録を認められるようになった。

この措置が認められるようになると、全国的な知名度を獲得する前の段階から、一般の産品と差別化を図りたいという要請に応えることになる。

3) 一村一品運動とどう違うのか

地域ブランドへの取組みは、かつての一村一品運動とはどう違うのであろうか。

一村一品運動は、70年代末に平松大分県知事(当時)が提唱したことから始まった。「ローカルにしてグローバル」をキャッチフレーズに、我が町・我が村の誇るものを1品で良いから、世界レベルの特産品に仕立て上げようという試みである。

この運動は全国に飛び火したが、発祥地の大分県以外では、「ふるさと創生一億円基金」やいわゆるリゾート法の成立に端を発した3セクブームなどに飲み込まれた感があった13

今回の地域ブランドへの取組みは、一見、一村一品運動と同様である。地域で誇れるものを作る、もしくは育てる取組みである。実際、ブランド化の成功事例として後述する「関アジ・関サバ」は、一村一品運動が事の始まりである。

一村一品運動は、運動の本質としては、モノでもサービスでも何か誇れるものが1つ見つかれば良かったのであるが、特産品、つまりモノに偏る傾向がみられた。

また、一村一品運動は、名前のとおり「町」や「村」といった一行政単位で行っているものであったが、地域ブランドは都道府県・市町村など様々な行政単位で行われている。

現在、地域名+商品名という形で商標登録されているものについて、地域名を分類してみると14(第1-2-2(7)図)、市町村名を利用したものが全体の半数以上を占めており、山や川の名前を取ったものも2割程度となっている。都道府県名や旧国名を利用したものは合わせて1割程度である。地域ブランドの推進主体として、市町村単位で行われているものが最も多いということは、より小さい単位で活性化のための取組みが可能であるということである。

地域ブランド化への取組みは、提供される財・サービスに広がりがみられ、地域区画も様々になってきており、一村一品運動よりも広がりを持ったものとして捉えることができる。

第1-2-2(7)図 商標登録の地域名別分類
第1-2-2(7)図 商標登録の地域名別分類
(備考) 1. 特許庁データベースより、内閣府にて集計。
  2. 図形・デザイン化された文字と合わせているのは含まれていない(関さば・関あじ、山形牛、仙台みそ等)。
  3. 複数の分類に該当するものは、分類不明としている。

すでに地域ブランド化に成功したものには、どのような特徴があるのだろうか、また、どのような手法を用いて成功したのであろうか。

4) 先行事例:a 関あじ・関さば

地図

豊予海峡の西側地域、佐賀関産の魚は、「関もの」と呼ばれる。「関もの」は急な海流にもまれて育つことが功を奏し、引き締まった肉質を持つ上に、適度な脂肪があり、今や美味しい魚の代名詞となっている。

中でも、88年から、大分県佐賀関町漁業協同組合(現大分県漁業協同組合佐賀関支店、以下「漁協」)がPR活動を展開したことにより、あじとさばのブランド化が確立した。

元々美味しいことに加え、その美味しさを保つために、漁業関係者から流通業者まで一丸となった取組みを行っている。網や他の魚と擦れて鮮度が落ちることのないように、一本釣りで捕獲し、配送は個別・少数に分けてゆったりと配送する。また、生簀内を泳ぐ姿(面)を見ただけで値を決める「面買い」が行われている。さらに、遠隔地に輸送する場合や消費者に直接販売する場合、鮮度を保つため、生けすから魚をすくいあげた直後に、脊髄を切断し、血を抜き、氷で冷やす作業を行っている(生けじめ)。

こうした取組みが功を奏し、関あじ・関さばは全国的に名が知られるようになったが、同時に他の場所で釣られた品質の悪い偽物が出回るようになった。このため、漁協は、97年に漁協のロゴマークとともに、関あじ・関さばを商標登録することになった。現在、漁協が出荷する関あじ・関さばには一匹ごとにタックシールが取りつけられている。こうした取組みが実を結び、関あじと関さばは同種の魚の10倍もの高値を保っていると言う。

ブランドとして展開する際に、「美味しい」ことは当たり前である。関あじ・関さばはその美味しさが食卓に届くまで保たれている「仕組み」が評価されているために、ブランド化に成功したと言える。これは地域の資源をそのまま活かした取組みである。

5) 先行事例:b 讃岐うどん

香川県はうどんの生産に適した風土を備えた地域である。年間を通して降水量が少なく乾燥した気候のもとで、良質の小麦と塩の生産が行われており、明治維新以降、農家の副業として、うどんの生産が広まった。

また、四国八十八箇所の霊場参りのお遍路さんをうどんでおもてなしする「お接待」が今でも残っており、地域固有の食文化として根付いている。

香川県では、「讃岐15うどん」に銘柄を統一し、全国製麺類公正取引協議会の表示に関する基準で、讃岐うどんが「香川県内で製造されたもの」と定義されるようになった。

2000年には讃岐うどんの食べ歩き本が全国発売され、人気を獲得した。複数のうどん専門店チェーンが各地に出店を進め、香川県を地場とする食品メーカーが冷凍の讃岐うどんを開発するなど、全国的に讃岐うどんの知名度が上がっている(第1-2-2(8)図)。讃岐うどん人気もあって、香川県への観光客が増加する効果が見られている(第1-2-2(9)図)。「うどんタクシー」(タクシーを借り切って、地元の有名店巡りをする、タクシー運転手から讃岐うどんの歴史なども聞ける)、「うどんスタンプラリー」(観光協会が主催、ラリー参加のうどん店や旅館を回って、スタンプを集め、希望商品を応募する)など、讃岐うどんを利用して、観光客の誘致に向けたあの手この手の取組みが図られている。

讃岐うどんは、元々、国産小麦を原料としていたが、小麦作付面積の減少とともに、今ではほとんど外国産が使用されている。香川県農業試験場は、国産小麦を使った讃岐うどんを復活させるべく、「讃岐の夢2000」を開発し、これを使ったものも作られるようになっている。

讃岐うどんは地域の食文化がブランド力を獲得した好例である。観光客や香川県自体のうどん生産量の増加という効果をもたらしている。また、讃岐うどんはその土地で本場のうどんを食べるという楽しみ以外にも、チェーン店や冷凍食品などでまずその味を試すことができることにも注目する必要がある。その土地でしか食べられないことに価値を置くか、各地への出店やレトルトの開発等でどこでも食べられるものを目指すのか、波及効果はどちらが大きいとは一概に言えないが、「本場の味を試したい」という欲求を呼び起こすものにすべきである。

第1-2-2(8)図 香川県のうどん生産量
第1-2-2(8)図 香川県のうどん生産量
(備考)農林水産省「米麦加工食品生産動態等統計調査」により作成。

第1-2-2(9)図 香川県の観光客数
第1-2-2(9)図 香川県の観光客数
(備考) 1.香川県「香川県観光客動態調査報告」により作成。 2.県内観光客は含まれていない。

6) 先行事例:c 夕張市

夕張市には、全国区、ひいては世界レベルの知名度を持つものが2つある。「夕張メロン」と「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」である。

夕張メロンは現行の商標法においても、地域ブランドとして商標登録を認められている稀有の存在である。つまり、全国的な知名度が高いということである。

特筆すべきは、メロンが全く外からやってきた作物だったことである。伝統的に生産されていたものではなく、基幹産業であった炭鉱が縮小・閉鎖され、地域の閉塞感が強まる中で、生産性の高い農作物を生産することで、地域の生き残りをかけて取り組み、成功したものである。

夕張市では55年ごろから、自然条件や環境に適合した農業振興が模索され、メロンをはじめ、長芋やアスパラガスなどの栽培がはじまった。中でもメロンは60年に組合が結成され、研究を重ねた結果、甘み・風味ともに優れた「夕張キング」が誕生した。以来、厳しい管理のもとで高い品質を維持している。夕張メロンはまちおこしにも一役買っており、ワインやゼリーなどの加工品の製造や、メロンがモチーフとなった観光施設が建設されている。その価格をみると、普通のメロンよりも約2倍近くの高値が付けられている(第1-2-2(10)図)。

第1-2-2(10)図 メロンの卸売価格
第1-2-2(10)図 メロンの卸売価格
(備考) 1. 農林水産省データベース、札幌市中央卸売市場ホームページにより作成。
  2. 98~2001年のメロンは、温室メロン、プリンスメロン、アンデスメロン、アムスメロン、その他のメロンの合計値。
  3. 夕張メロンは札幌市中央卸売市場での卸売価格。

また、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」は90年から毎年開催されている、国内でも老舗の映画祭である。

同映画祭の特徴は、「世界に羽ばたく映画人を育てる」という理念に基づき、商業映画に加えて、自主制作作品に対してもコンペティション部門を設けていることである。また、上映される映画は、怪奇物や特撮を使った作品が多く、これは全国、あるいは世界でもあまり例のないものである。

映画祭の波及効果もみられる。直接効果として、人口15,000人弱の町に毎年2万の観客を動員している。また、映画祭をきっかけに夕張市をロケ地とした映画の撮影も行われている16

以下では、現在、ブランド化に取り組んでいる事例を紹介しよう。

7) 地域ブランド化への取組み:a 江別小麦めん

江別市 地図

江別市は札幌近郊の人口12万17の都市である。「れんがの街」という歴史があるが、現在は札幌市のベッドタウンにもなっている。

同市は小麦の生産地としても有名である。同市で生産されている「ハルユタカ」は国産小麦初の強力粉の性質19」が開発され、春まきの難点は克服された。これは雪の降る地方でのみ可能な手法であり、北海道の風土を活かしたと言える。

「江別経済ネットワーク」は02年9月に発足した産学官連携の組織である。同ネットワークが03年11月に、ハルユタカなどの江別産小麦を使ったブランドラーメン作りをプロジェクトに採用した。道内有数の製粉会社と製麺会社が江別市に立地していることも幸いし、産学官に加えてNPO法人との連携によって、04年4月に「江別小麦めん」が誕生した。日は浅いが、市内ではすでに知名度を獲得しており、04年のお歳暮商戦では市内のスーパーで爆発的なヒットを記録したと言う。05年3月から東京都内のスーパーでも販売されるようになっている。

江別市によると、江別小麦めんの開発により、市民が自分を「江別市民」と意識するようになり、自地域に誇りを持つようになったこと、産学官の連携が重要であると再認識したことが最大の成果とのことである。また、「江別小麦めん」を地域ブランドとして商標登録する予定はなく、生産する企業サイドに任せる方針である。

8) 地域ブランド化への取組み:b 加賀野菜

伝統野菜である加賀野菜は、より生産性の高い一代交配種21」を発足させた。懇話会は、「地産地消」を旗印に、農家に対しては加賀野菜の栽培を、市場に対しては加賀野菜販売コーナーの設置を依頼して回るなど、加賀野菜の復興に向けた取組みを始めた(第1-2-2(11)表)。

金沢市は、加賀野菜の種子選抜・技術支援などにより、加賀野菜保存懇話会を後方から支援してきたが、96年に生産者、消費者、流通業者、農業団体などと一体となって、「金沢市農産物ブランド協会」を発足させた。協会は、昭和20年以前から栽培され、現在も主として金沢で栽培されている野菜の中から15品目22を加賀野菜として認定し、特に品質の優れた「秀品」に対しては、イラストとともに商標登録された「いいね金沢 加賀野菜」の認定シールを貼るなど、ブランドの認知に努めている。

協会が「いいね金沢 加賀野菜」を商標登録したのは、旧商標法では「加賀野菜」の商標登録ができなかったためである。そのため、当初、市では「金沢野菜」としての商標登録も検討されたが、ブランド化は、存続すら懸念される伝統野菜の生産振興と消費拡大が目的であり、市外近郊で生産される伝統野菜すらも排他的に差別化することが目的ではないとしてこれを取り下げ、「いいね金沢 加賀野菜」を商標登録したとのことである。

最近では、源助だいこんが大手コンビニエンスストアのおでんの具として採用され、加賀太きゅうりがテレビCMで人気になるなど、加賀野菜の知名度は上がりつつある。この間、「いいね金沢 加賀野菜」は、民間で生まれた加賀野菜というブランドを後方から支援し、ブランド価値を底上げする役割を担っていると言える。

一方、最近では比較的生産が容易な一部の品目において、県外など遠隔地で生産される偽物も出回り始めているとのことである。今後は、ブランド価値の維持のための取組みも求められるところであり、協会では市場で競合する品目ごとに商標登録することを検討している。

他方、加賀野菜の多くの品目は、栽培が難しいこと、農家の高齢化の進展と後継者難、宅地化の進展など様々な要因から、生産量が伸び悩んでいる。一部の品目を除き、加賀野菜だけでは農家が生計を立てられないという現実もある。市としては、まずは市民に加賀野菜に慣れ親しんでもらうことで消費の拡大を図り、農家が安心して生産できる環境を整えていきたいとのことである。

第1-2-2(11)表 加賀野菜の作付面積

(単位:ha)
  1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度
さつまいも 110.1 102.0 101.0 101.9 101.7 113.4
れんこん 67.2 67.8 67.0 59.9 64.0 64.0
たけのこ 206.0 206.0 206.0 206.0 206.0 206.0
太きゅうり 3.1 3.2 3.1 3.3 4.8 4.8
ヘタ紫なす 0.7 0.7 0.7 0.9 0.5 0.5
せり 0.6 0.6 0.6 0.5 0.3 0.3
金時草 3.5 4.0 4.2 4.2 4.2 4.4
加賀つるまめ 3.7 3.4 3.4 4.2 4.2 4.2
打木赤皮甘栗かぼちゃ 0.1 0.2 0.2 0.3 0.6 1.9
源助だいこん 1.1 1.7 1.7 2.7 2.7 2.7
金沢一本太ねぎ 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2
二塚からしな 0.1 0.1 0.2 0.2 0.2 0.2
赤ずいき 0.2 0.2 0.2
くわい 0.2 0.2 0.3
金沢春菊 0.2 0.2
15品目合計 396.2 389.7 388.1 384.4 389.8 403.3
(備考)金沢市農業センター資料により作成。

9) 苦戦の続く地場産業・伝統的工芸品

伝統的な工芸品は、地域名+商品名という形で他のものと識別できるようになっているものが多い23

また、上記と重なるものもあるが、いわゆる地場産業も地域名を冠するものが多く存在する(関の刃物、今治のタオル等々)。

これらは、その歴史とともにブランド化が確立しているが、国内需要の不振や安価な輸入品の台頭、加えてそもそもの生活様式の変化から厳しい環境に置かれている。例えば、伝統的工芸品の総生産額や従業員数はピーク時と比較して、約6割減少している(03年度)24

地域と商品名が結びついたものの知名度が高いことには問題もある。つまり、イメージの固定化が進めば、そこから脱皮することが難しいということである。しかし、知名度があるからこそ、再生に成功すれば、新たにブランド化を構築するよりも容易にできるという可能性を持っている。

10) 桐生織の取組み

桐生市は古くから織物の町として知られており、江戸時代には京都西陣と並ぶ産地となり、大正時代には織物関係の出荷額が国家予算の3分の1にも達した。しかし、高度成長期以降、織物産業の拠点が製造コストの安いアジアへ移行したため、衰退の一途をたどっていた。

こうした状況を打開するべく、96年から市や商工会議所が連携し、第1回桐生ファッションタウンウィークを開催した。桐生織を用いた作品を公募し、入選作品をショー形式で発表したり、着物を着て街中をめぐるイベントを開催したりという試みが続いている。しかし、この取組みをもってしても生産額は年々減少傾向にあり、取組みの始まった96年から直近までは約35%の減少となっている。ただし、その減少幅は伝統的工芸品全体よりはやや小幅となっており、取組みによって衰退を食い止める効果も多少はみられると言える(第1-2-2(12)図)。

第1-2-2(12)図 桐生織物の生産額
第1-2-2(12)図 桐生織物の生産額
(備考) 1. 桐生織物協同組合資料により作成。
  2. 桐生織物協同組合への加入工場のみ対象(2004年:180工場)。

11) 地域自体のブランド力

これまでは、「地域名+商品・サービス」という狭義の地域ブランドをみてきた。しかし、地域名自体にブランド力がある場合も少なくない。例えば、開港・洋館のイメージを持つ横浜や神戸、ラベンダー畑と富良野、古都京都等々である。実際に「地域ブランド力」25を調査したものが第1-2-2(13)図である。北海道、京都が突出して高くなっており、沖縄、大阪、東京が続く。

第1-2-2(13)図 都道府県別の地域ブランド力
第1-2-2(13)図 都道府県別の地域ブランド力
(備考) 日経リサーチ(2004年2月調査)「日経リサーチレポート2004-I(特集/「地域ブランド戦略サーベイ」はじまる)」により作成。

県内総生産に占める製造業の割合(製造業比率)とプロットすると、緩やかな逆相関となっている(第1-2-2(14)図)。製造業比率が低いところで地域ブランド力が高い傾向となっているが、むしろ、これは、製造業比率が低くても地域ブランド力を高めることによって、地域が活性化できることを示している。サービス業比率との相関をみると、緩やかな相関関係がみられる(第1-2-2(14)図)。内閣府では、今回の景気回復は製造業、特に輸出産業が主導し、地域の回復力に差がみられるのは、地域の産業立地に起因すると分析している26。今後、地域ブランド化を進めることで、景気回復のけん引役が変化することも期待される。

第1-2-2(14)図 製造業比率、サービス業比率との相関
製造業比率 製造業比率との相関
 
サービス業比率 サービス業比率との相関
(備考) 日経リサーチ(2004年2月調査)「日経リサーチレポート2004-I(特集/「地域ブランド戦略サーベイ」はじまる)」、内閣府(2005)「県民経済計算」により作成。

地域ブランド力は観光客の呼び込みに効果がみられる。観光入込客数とプロットしてみると、緩やかな相関関係がみられる(第1-2-2(15)図)。ブランド力を高めれば、観光客も呼び込むことができ、さらにブランド力が高まっていくという好循環が見込まれる。

第1-2-2(15)図 観光地入込客数との相関
第1-2-2(15)図 観光地入込客数との相関
(備考) 日経リサーチ(2004年2月調査)「日経リサーチレポート2004-I(特集/「地域ブランド戦略サーベイ」はじまる)」、(社)日本観光協会(2004)「全国観光動向」、各都道府県資料により作成。

12) ブランド化は即効薬ではない

地域ブランドが根付くためには、確かな品質に加えて、ストーリー性と独自性が必要である。例えば、関あじ・関さばは魚の輸送方法に斬新な工夫がみられ、讃岐うどんは地域の食文化が実を結んだと言える。その点で、道路を通す、工場を作るといった活性化の手法に比べると、より地域性・地域的な特徴が求められている。これは、自地域の資産を見直し、掘り起こすことにつながる。自地域に誇りを持てるかどうか、地域ブランドが成功するか否かは、そこにかかっているのではないか。

地域ブランドはこれによって全てが解決されるというものでもない。例えば、夕張メロンと夕張国際ファンタスティック映画祭という知名度の高い2つのブランドは交流人口の増加には寄与しているが、夕張市の人口自身は減少している(第1-2-2(16)図)。人口減少を反転させるには、基幹産業の活性化が一つの要件と言える。ブランド化に頼りすぎることはできないのである。

第1-2-2(16)図 映画祭観客動員数と夕張市人口
第1-2-2(16)図 映画祭観客動員数と夕張市人口
(備考) 1. 夕張市資料、総務省「国勢調査」、北海道庁ホームページにより作成。
  2. 夕張市人口の90、95、2000年は10月1日現在、2005年は7月末現在、それ以外は9月末現在。

地域ブランドは都道府県内の競争でもある。近隣地域で似たような産品を生産している場合には、ブランド化をいち早く成し遂げたところが活性化に成功すると考えられる。

成功事例をみてきたとおり、地域ブランドを確立させるには手間と時間がかかる。しかも、ブランド化を確立したとしても、その維持にもコストがかかる。その意味で、地域ブランドは地域活性化の即効薬ではない。効果は緩やかであるが、持続的に現れ、地域の体質自体を改善するのである。


12.
文字のみで商標登録をしているものは、工業品や加工品等では笹野彫、信州味噌、三輪素麺、佐賀海苔、役務では宇都宮餃子、富士宮やきそば、中房温泉がある。
13.
一村一品運動は、大分県で継続して取り組まれているほか、現在ではアジア諸国にも広まっている。
14.
「地名+商品名」という形で商標登録されているものの登録主体をみると、05年1月現在で9割ほどが企業によるもの、協同組合や市町村による登録は1割ほどにとどまっている。
15.
「讃岐」は、江戸時代まで使われた、香川県の旧国名。
16.
アメリカの著名な映画監督は、同映画祭に敬意を表してか、自作品に「夕張」の名前を使ったキャラクターを登場させている。
17.
04年10月1日現在、124051人。
18.
パンやめんに適している。
19.
種は雪の中で年を越し、2月、3月に芽が出る。通常の春まき小麦の収穫時期よりも10日ほど早く成長するため、北海道の雨の降る時期(8月10日ごろ)を外すことができる。
20.
二種類の原種を交配させて作り出した一代目の種子、すべての個体で優性遺伝子が表出し、形が良く、病気にも強いため、農家にとって生産性が高い。
21.
加賀野菜の命名者は同会の会長である。
22.
打木赤皮甘栗かぼちゃ、さつまいも(五郎島金時)、源助だいこん、二塚からしな、加賀太きゅうり、金時草、加賀つるまめ、ヘタ紫なす、加賀れんこん、金沢一本太ねぎ、たけのこ、せり、赤ずいき、くわい、金沢春菊
23.
伝統的工芸品産業の振興に関する法律として指定された207品目のうち202品目。
24.
(財)伝統的工芸品産業振興協会資料による。
25.
「地域ブランド力」は、ブランド独自性(他の地域と比べて特徴や違いを感じるか)、ブランド愛着度(その地域に愛着を感じるか)、購入意向(その地域ブランドを購入したいか)、訪問意向(その地域を訪れてみたいか)、居住意向(その地域に住んでみたいか)の5項目の合計得点。
26.
沖縄は元々製造業の立地が小さく、観光が主力産業である。地域ブランド力の高さは、他地域と比べた沖縄の観光業の強さを示しており、観光業主導による景気回復が実現している。

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