第1章 第2節 2.(3) 地域発のコンテンツ産業の可能性

[目次]  [戻る]  [次へ]

1) 大きな成長が見込まれるコンテンツ産業

映画、アニメーション、音楽などに代表されるコンテンツ産業は、IT(情報技術)産業の急速な進展などを背景として、今後高い成長が見込まれる産業の一つとなっている。

世界のコンテンツ市場の成長率は06年予測で6.5%と、世界GDP成長率よりも高く推移すると予測されており、特にアジア・太平洋地域は、コンテンツ産業全体の成長率よりも高く推移することが見込まれている27

また、人気ゲームソフト等を核とした関連商品販売などの経済波及効果を生むコンテンツの多角的展開、映画放映による観光への波及や、コンテンツを利用した商品マーケティングなど、コンテンツの戦略的活用により他産業と比べ非常に高い経済波及効果をもたらすとともに、文化への理解、国家ブランドの向上といった様々な効果を有することから、新たなリーディングインダストリーとして、我が国経済をけん引する可能性が期待されている28

このように大きな成長が見込まれるコンテンツ産業であるが、関連企業の多くが首都圏、特に東京に集中していることが知られている。アニメ産業の8割が東京に集中しており29、アニメ産業に関係の深いマンガ出版社、テレビ局、映画配給会社、ソフト出版社のほとんどが東京に立地している。

以下では、コンテンツ産業において売上げを順調に伸ばしている企業の取組みや成長要因を取り上げ、地方におけるコンテンツ企業の可能性を検討する。

2) コンテンツ産業における成長企業の状況

コンテンツ産業において、売上げを順調に伸ばし続けている企業のうち、特徴的な要因や取組みを行っている企業を取り上げるため、(株)帝国データバンクの「企業概要ファイル」に収録された企業の中から、次の条件に該当する企業を抽出し、成長企業と呼ぶ。

  • 各企業の決算において、最新期と前期の2期(2年)連続して売上高が10%以上伸びていること
  • 最新決算期において、売上高が5億円以上であること

さらに、上記の条件により抽出した16,234社の成長企業の中から、コンテンツ産業として、コミック誌などに関係する出版業および印刷業、映画やアニメの制作を行う映画・ビデオ制作業、有線テレビ放送などの放送業、広告代理業、ゲームや各種ソフトウェアの開発を行うソフト受託開発業およびパッケージソフト業、音楽配信や文字情報提供を行う情報提供サービス業、ネットワークの設計・保守などを行う情報処理サービス業に該当する企業を抽出した(以下では「コンテンツ成長企業」と呼ぶ。)。

コンテンツ成長企業は南関東に集中

コンテンツ成長企業の数は833社で全成長企業の5.1%、売上高は2兆5,361億円で同1.4%、従業員数は8万983人で同5.3%となっている。

地域別にみると(第1-2-2(17)図)、企業数では、南関東に529社(63.5%)の成長企業が集中している。次いで近畿113社(13.6%)、東海59社(7.1%)と三大都市圏を含む地域で8割以上を占めている。売上高と従業員数でも同様の傾向がみられ、南関東がおよそ6割を占め、三大都市圏を含む地域で8割以上となっている。

また、全成長企業に占めるコンテンツ成長企業の割合を地域別にみると(第1-2-2(18)図)、南関東は7.8%と全国平均を上回っている一方で、それ以外では全国を下回っており、ここでも南関東への集中がうかがえる。

さらに、コンテンツ産業における業種別の成長企業の地域構成をみても(第1-2-2(19)図)、映画・ビデオ制作業(94.4%)、情報提供サービス業(90.0%)が、南関東で非常に高くなっているほか、出版業(75.6%)、パッケージソフト業(69.0%)などその他の業種でも6割以上が南関東に所在している。南関東が50%を下回っているのは印刷業(42.6%)、放送業(34.2%)の2業種のみである。

第1-2-2(17)図 地域別にみたコンテンツ成長企業

第1-2-2(17)図 地域別にみたコンテンツ成長企業


第1-2-2(18)図 全成長産業に占めるコンテンツ成長企業の割合

第1-2-2(18)図 全成長産業に占めるコンテンツ成長企業の割合


第1-2-2(19)図 業種別地域別にみたコンテンツ成長企業数

第1-2-2(19)図 業種別地域別にみたコンテンツ成長企業数

(備考) 1. (株)帝国データバンクの企業概要ファイルを用いて、内閣府にて作成。
  2. コンテンツ産業とは、出版業、印刷業、映画・ビデオ制作業、放送業、広告代理業、ソフト受託開発業、パッケージソフト業、情報提供サービス業、情報処理サービス業。
  3. 地域の分類は、各企業の本社所在地単位とした。従って、例えば同一企業でも他県事務所の従業員数等は、本社所在地の都道府県に算入している。

ソフト受託開発業が企業数の4割を占める

業種別に成長企業の状況をみると(第1-2-2(20)図)、企業数ではソフト受託開発業331社(39.7%)、広告代理業99社(11.9%)、パッケージソフト開発業87社(10.4%)の順となっており、ソフト受託開発業の比率が高くなっている。売上高でも同様の傾向を示しているが、従業員数ではソフト受託開発業が6割を占めている。

ソフト受託開発業の企業数を地域別にみても(第1-2-2(21)図)、北海道(57.1%)、近畿(46.0%)、九州・沖縄(42.1%)、南関東(41.4%)で4割を超えており、東北、東海でも高くなっている。

第1-2-2(20)図 コンテンツ成長企業の業種別内訳

第1-2-2(20)図 コンテンツ成長企業の業種別内訳

第1-2-2(21)図 地域別にみたコンテンツ成長企業の内訳

第1-2-2(21)図 地域別にみたコンテンツ成長企業の内訳

(備考) 1. (株)帝国データバンクの企業概要ファイルを用いて、内閣府にて作成。
  2. コンテンツ産業とは、出版業、印刷業、映画・ビデオ制作業、放送業、広告代理業、ソフト受託開発業、パッケージソフト業、情報提供サービス業、情報処理サービス業。
  3. 地域の分類は、各企業の本社所在地単位とした。従って、例えば同一企業でも他県事務所の従業員数等は、本社所在地の都道府県に算入している。
  4. 第1-2-2(20)図の情報サービスは情報処理サービス業、情報提供サービス業。
  5. 第1-2-2(21)図のその他は情報処理サービス業、情報提供サービス業、放送業、映画・ビデオ制作業、印刷業、出版業。

3) コンテンツ成長企業の事例

成長企業の事例30をみると、独自のビジネススキームを導入している事例、特定の分野に特化して専門性を発揮・活用している事例、大手企業や同業他社・周辺企業との協力体制を構築している事例など様々な取組みがみられる。以下では具体的事例を紹介する。

[事例1] A株式会社(東京都渋谷区)映像情報制作・配給 他

[企業概要]資本金536百万円、売上高1,440→1,797百万円(2003.3→2005.3)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • 映画・映像を核としたコンテンツの制作・販売・権利運用等を総合的に展開
  • 売上に応じて利益の一部をクリエイター31に還元
[事業立地の要因]
  • 提携事業者等との迅速かつ密接な情報交換

映画、テレビ映像、インターネット向け映像、それらに付随したキャラクターグッズ、DVDなどの各コンテンツの企画開発、制作、管理、配給、販売、権利窓口の調整、権利運用、収益配分等(マネジメントビジネス)を総合的に行っている。主力は、映画・テレビ映像であり、実写、アニメーション(CGを含む)双方を手掛け、海外の提携会社とグローバルに展開している。

制作にあたっては、メインクリエイターと契約して総合的にプロデュース・マネジメントを行い、制作にかかる実作業は外注している。

クリエイターにも利益を還元

これまでのコンテンツ産業のクリエイターは、成果に見合った報酬制度などの契約面や管理面で不満を持つ者が多かった。A社では、当初よりクリエイターにも利益を還元するという経営姿勢を打ち出した事業展開を行っている。また、企画発案段階から海外市場を視野に入れている。

こうしたクリエイターとの契約関係は、従来の映像制作業界では一般的ではなかったが、映画、テレビなどに関係の深い業界から評価され、ビジネススキームとして確立できたことが事業領域等の拡大につながっている。さらに、3DCGアニメの代表作の成功により、クリエイターの制作意欲がさらに向上するなど好循環な状況が続くとともに、提携事業者からの評価も上がり、作品制作時の出資金集めも容易になっている。

首都圏での事業展開について

提携企業や出資企業が東京(首都圏)に集中しており、それらの企業との迅速かつ密接な情報交換が不可欠なため、東京を事業基盤としている。

今後の事業展開

売上に応じて利益をクリエイターに還元するという経営姿勢のもと、国内外、実写・アニメを問わず、映像コンテンツのマネジメントビジネスをグローバルに展開したいとしている。国内向けでは、引き続き制作会社や出資者・関連業界企業との連携を密にしていく。海外向けでは、既に米国の映像配給会社や香港の映像制作会社と業務提携を行っているが、さらにアジア、ヨーロッパなどの企業との業務展開も視野に入れている。

[事例2] 株式会社B(東京都新宿区)アニメ制作・版権32管理 他

[企業概要]資本金1,322百万円、売上高2,494→6,294百万円(2003.3→2005.3)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • アニメ制作を核としてグローバルに通用する映像・版権ビジネスを展開
  • 革新的なデジタル技術を背景とした優れたコンテンツで確固たるブランドを構築
[事業立地の要因]
  • 世界有数のアニメ産業集積地との地理的メリットを最大限に利用

SPCのビジネススキーム図

アニメを中心とした映像制作事業、およびそのアニメキャラクターの利用権を玩具・ゲーム・衣料メーカー等に与え、その対価としてライセンス料を得る版権管理事業を展開している。

版権管理事業で高収益を実現するモデルを確立

グループ会社において、質が高く、国際競争力を持ったアニメを制作し、その版権の利用により高収益を実現する事業モデルを確立している。

制作事業では、2DCGと3DCGの融合などの革新的なデジタル技術を用いて、テレビ向けアニメを中心に、企画・制作から編集までを一貫した制作工程を内製している。また、市場をアニメファン向け、キッズ向け、ファミリー向け映画と大きく3つに分け、ターゲットを絞った商品戦略・事業展開を行っている。

版権管理事業では、アニメ作品の製作委員会に対して出資を行うことで、版権収入を獲得するとともに、DVD化権や海外利用権などの窓口権利も積極的に獲得している。

また、日本で初めての革新的なSPC33方式によるアニメ制作スキームを導入している。これまでの製作委員会方式による事業では、関係者間のリスク分散は可能であったが、コンテンツの版権が制作会社に残らないとともに、統一的な版権利用などが困難であった。SPC方式は、コンテンツの版権が制作会社に残る画期的な仕組みで、版権の分散を防ぎ、長期間にわたる知的財産権の効率的な活用が促進される。また、資金調達面やコンテンツファンドの運用面で、従来モデルよりも効果的でより透明性の高い事業モデルが構築でき、さらに版権管理事業で収益を上げることによって資金が制作会社に回り、それがクリエイターにも還元され、さらに良いコンテンツを生み出すという好循環につながっている。

首都圏での事業展開について

アニメ制作は分業体制をとっているため、多くのクリエイターや制作会社が集中している首都圏での事業にメリットがある。作品の配送なども直接やりとりされるので、首都圏からは離れることができない。地方での事業は、ビデオ販売の強化や地方テレビ局とのタイアップ程度にとどめている。

今後の事業展開

評価が確立しているアニメファン向け事業を引き続き強化する。また、ファミリー向け劇場事業やキッズ向け事業などを積極的に拡大させていく予定で、テレビ局と共同で劇場向けアニメビジネスへの参画などを推進している。

新規事業としては、国内外での実写映画ビジネスに参入し、実写映画の品ぞろえを拡充していく。

[事例3] 株式会社C(東京都港区)音楽情報提供サービス 他

[企業概要]資本金352百万円、売上高851→1,118百万円(2003.3→2005.3)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • ターゲット層を明確に設定し、豊富なコンテンツサイトを提供
  • 主要サービスが携帯電話各社の公式ホームページとして採用され、知名度アップ
[事業立地の要因]
  • 信頼度の高い情報を圧倒的に早く入手可能

携帯電話を利用した音楽コンテンツ商品を提供しており、ヒットチャートやCDの発売情報などの最新音楽情報専門サイト、着信メロディーサイトなど47サイトを運営している。また、インターネット販売を利用した各種音楽関連商品の提供、出版業を行っており、CD、DVD、Tシャツ、楽器、キャラクターグッズなどを販売している。

音楽を中心に数多くのコンテンツを提供

一番の消費層である16~34歳を対象にしていることが成長の要因である。この年齢層は音楽好きが多く、音楽がキラーコンテンツ34になり得る点が強みとなっていることに加え、携帯電話を頻繁に使う年齢層とも重なることから、会員数が着実に増加している。

また、C社は、音楽番組専門のCS放送局から分離・独立して設立されたことから、提供する音楽コンテンツの質が高く、種類も豊富であったことも会員数の増加に大きく影響している。C社のブランドは若者に浸透しているほか、最新音楽情報専門サイトや着信メロディ提供サイトが、主要携帯電話会社の公式ホームページに採用されている点も強みとなっている。

このほか、文字情報サービス、映像情報サービス、音声サービス、リテールサービス分野で47サイトを運営するとともに、サイト運営からの派生事業として、CD、DVD、Tシャツ、楽器、キャラクターグッズなど約1,000点の音楽関連商品を販売するほか、生活情報雑誌を発刊し、相乗効果を生んでいる。

首都圏での事業展開について

事業に関係するアーティスト、音楽関係会社、興行主などが都内に集中しており、より信頼度の高い情報を得ることができる点や、地方に比べて情報を格段に早く入手できることが首都圏で事業を行うメリットである。

今後の事業展開

引き続き16~34歳をターゲット層に、音楽コンテンツに特化して事業を展開していく。05年6月から、携帯電話を使用した販売促進業務を支援するASP35サービスを開始し、携帯電話を使ったアンケート調査、メールマガジン配信、割引クーポン配布、商品案内、店舗紹介などのサービスを一括して提供することができるようにしている。

[事例4] 株式会社D(京都府京都市)ゲームソフト、携帯電話向けコンテンツ受託開発

[企業概要]資本金536百万円、売上高3,239→4,261百万円(2002.8→2004.8)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • 1,200本を越すタイトルを手掛けた実績が各方面への厚い信頼につながる
[事業立地の要因]
  • 様々な文化が融合し、優秀な人材が集まりやすい土地柄である京都

家庭用ゲームソフトや携帯電話向けコンテンツなど、幅広いソフトの受託開発を行っている。国内および中国上海市・杭州市にある子会社、専属の外注を含めた開発スタッフは約1,000名を超え、これまで1,200を超すソフトを手掛けた実績により、国内外のソフトメーカーなどからの信頼が厚い。

業界をまたぐ様々な提携(コラボレーション)を推進

D社は、83年から家庭用ゲームソフトを中心とした企画・開発の受託業務に一貫して携わっている。ソフトメーカーからは、協力して作品を作り上げるパートナーとして認められ、50社以上の企業と強力な信頼関係を構築している。プロジェクトを進める際には、常に提携企業から開発に関する最新情報を入手し、その情報を最大限に活かすほか、経営戦略・商品開発にフィードバックさせ、顧客に満足されるコンテンツを提供している。

また、ゲームと玩具、携帯電話と玩具、日本のゲーム業界と中国の携帯電話業界など、業界をまたぐ提携の提案を進めている。

地方での事業展開について

受託開発事業を専門としているため、地方での事業が可能である。インターネット環境の向上に伴い、さらに効率的な業務遂行が可能になっている。

また、京都には多くの大学や寺院があり、ハイテク・文化・歴史の融合したバランスの良い文化背景から、人を呼びやすい、集まりやすい土地柄であると考えている。

今後の事業展開

国内家庭用ゲーム市場は、携帯型ゲーム機向けソフトの需要がさらに高まっていくとみられることから、その受託開発業務に積極的に取り組んでいく。海外向けゲームソフト開発は、子会社を中心とした受託活動を活発化させるとともに、欧米や中国のゲームメーカーからのゲームデザインなどの部分的な開発ニーズに対応するなど、新しい需要の開拓にも取り組む。

また、中国市場において携帯電話向けコンテンツ供給が順調なことから、第3世代携帯電話36向けの事業免許解禁後に予想される需要の急増にも対応できる供給体制を確立させる。さらに、高性能携帯電話の普及が将来的に見込まれるロシア・ブラジルなどへのコンテンツ配信についても準備を開始する。

[事例5] E株式会社(大阪府大阪市)携帯電話向けコンテンツ、ゲームソフト開発・運用 他

[企業概要]資本金90百万円 売上高455→494百万円(2003.3→2005.3)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • “やりたいこと”が仕事の原点となり、プロジェクトを進める
[事業立地の要因]
  • 何か「面白いもの」、「新しいもの」を創造しようとする文化が根付いている関西圏

携帯電話向けコンテンツの開発・運用、ゲームソフト、パチスロ・パチンコの開発を行っている。携帯電話向けコンテンツ事業では、各携帯電話会社の公式コンテンツとして、様々なジャンルの企画・開発・運用を手掛け、ゲームや着メロなどエンターテインメント性の高いものが中心となっている。ゲームソフト開発事業では、家庭用ゲーム機ソフトのOEM37開発を行っており、多くのゲーム機メーカーで実績がある。アミューズメント事業では、パチンコ・パチスロの実機の企画・開発を行っており、プログラムやグラフィック・サウンドを開発のほか、遊技機本体のデザインも行う。

“やりたいこと”が仕事の原点となり、プロジェクトを進める

E社では、「これまでの業界内の下請け、孫請けといった古い習慣・システムから抜け出し、自社の価値観と質を重視した開発ができる環境を創り出す」ことを設立時からの目標・理念としている。E社では、やりたいことがある個人が仕事の原点となり、その情熱を理解し、賛同する人材を集めることにより各プロジェクトを進めている。メンバー間の議論により課題や目標がより鮮明になり、常に切磋琢磨する環境が作られている。その結果、ソフト受託開発事業などでは、一人ひとりが制約・条件・限界に挑戦し、当初の計画以上の付加価値を生み出し、E社にしかできない解決策を提案できている。また、企業の顧客サービス、携帯電話を使った販売促進、新しい視点を取り入れた低コストのシステム構築など、今まで培ってきた資産が提携企業の持つ資産と調和することで新しい価値を創造している。

地方での事業展開について

関西圏にはお笑い文化、何か面白いものを創造する文化が根付いている。「ものづくり」に対するこだわりを大切にする地域であることから、エンターテインメントを追求し、新しい物を創造することが目標のE社にとっては適した地域であると考えている。

今後の事業展開

コンテンツ事業では、自社で開発した既存の人気ゲームソフトを利用したユーザーを引きつけるようなコンテンツの追加や、一般消費者向けの企画を推進し、市場の拡大と利益の増加を図る。また、あらゆる企業と業務提携を行い、これまでの縦型発注開発フローを横型開発提携フローへと変えていくことでメーカーと対等なパートナーとなることを目指す。

さらに、プログラムやツールの再利用を促進し、ノウハウの蓄積や人材の採用・育成・強化を積極的に行うことで強固な社内ラインを構築し、より効率的で質の高い製品をより多く開発していく。

[事例6] 株式会社F(岐阜県各務原市)家庭用ゲームソフト開発 他

[企業概要]資本金55百万円 売上高517→1,018百万円(2003.3→2005.3)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • 徹底した顧客指向が支持を集める
[事業立地の要因]
  • 地価の安さや生活環境の豊かさなど地方ならではのメリットを生かす

家庭用ゲーム機向けゲームソフトの企画、開発および販売を行っており、特にシミュレーションロールプレイングゲーム38分野でユーザーから支持を得ている。また、携帯電話向けコンテンツの配信も手掛けており、ゲームソフトや着メロ・壁紙(自社のゲームソフト関連)などの配信サービスも行っている。

徹底した顧客志向が支持を集める

F社の創業当時(91年)は、バブルの影響が強く、家庭用ゲームに参入しようとする企業は、顧客よりも供給者側に立った商品展開・価格戦略が強かった。F社はそれらと一線を画し、いかに顧客に満足してもらえるか、固定客になってもらえるかという顧客中心主義で商品開発を行うとともに、流通業者、出版社やスタッフ間でも相手を考えるゲーム作りを行っている。この姿勢が顧客から支持されて根強いファン層が形成され、新作のゲームソフトを販売する際の下支えとなっている。

地方での事業展開について

メリットとしては、地代家賃などの固定費が安いことや、首都圏から発信される情報がある程度淘汰されて届くので余計な情報に惑わされなくて済むこと、また人材が流出しにくいことなどが挙げられる。デメリットとしては、光ファイバー回線などの最新通信基盤の整備が、都市部優先で行われ、地方での整備が遅れがちな点である。

今後の事業展開

今までの顧客を中心として、広告やその他出版物などへの露出を強化することによって、アニメファン、声優ファン、ゲームを時々する程度の人も取り込んでいく。また、米国の子会社を通して、欧米で増えつつある「オタク」を、ゲーム関連の商品などで取り込み、ファンの増大を狙う。

[事例7] G株式会社(大阪府大阪市)広告制作 他

[企業概要]資本金20百万円 売上高512→685百万円(2002.8→2004.8)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • 住宅、設備関連に特化することで、業界内の動向やニーズを的確に把握
  • 建築や住宅関連業界の専門知識を備えたスタッフをそろえ、社内一貫体制を構築

撮影風景

住宅・住宅設備・建築・環境・インテリア関連企業を顧客として、商品開発・マーケティングおよび販売促進、営業支援の各種ツール・キャンペーンなどの企画・撮影・制作全般を手掛けている。印刷媒体だけでなく、WEB、ビデオ、CF39の企画・制作、展示会・ショールーム・撮影用セットの計画から施工まで幅広く対応している。

撮影・CG制作に力を入れるほか、デジタル技術による画像処理からインターネットを核とするシステム構築まで企業ビジネスをサポートしている。

事業領域の特化がクライアントからの信頼につながる

住宅設備関連に特化したことで、業界の知識を熟知し、競合他社の動向や市場ニーズなど業界の展望を予測できることから顧客の支持を得ている。

社内で、インテリアコーディネーター、建築士など、建築や住関連業界の専門スタッフをそろえており、社内一貫体制で様々な視点から提案を行える点も強みとなっている。

地方での事業展開について

代表が大阪出身であるため、当地での創業となった。大阪のほか、東京や名古屋にも既に事業所を構えており、神奈川県伊勢原市にある撮影所では、短期アルバイトとして毎月10名程度を募集し、地元のシルバー人材センター等から採用している。

今後の事業展開

引き続き住宅設備分野に特化し、国内メーカーに対して、カタログ、広告宣伝物の企画・制作、イベント・ディスプレイの企画などを行っていくほか、新メディアの開発、DTP40制作、ホームページなどのWEB編集、コンサルティングを推進していく。既存の取引先には、印刷媒体に加えて展示会、ショールームなどの提案をしていく。

また、動画関係を扱う子会社を04年に設立しており、動画配信などへも注力していく。

[事例8] 株式会社H(北海道札幌市) 医療機関向けパッケージソフト開発・販売

[企業概要]資本金1,092百万円 売上高2,448→3,363百万円(2002.3→2004.9)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • 開発時に現役の医師が加わり、低コストで操作性の高い電子カルテシステムを実現
  • 他社システムも組み合わせ、総合的な医療情報システムを提供

ソフトウェアの一部

医療機関向けの自社パッケージ製品(病院向け、診療所向け、動物病院向けの3種類の電子カルテシステム)の開発と販売を行っている。また、医療機関に対して、電子カルテシステムと他社の医事会計システムや看護支援システムなどの部門システムを組み合わせ、総合的な医療情報システムの提供を行っている。

中小規模病院をターゲット

H社が創業した96年当時、電子カルテシステムは、一部の国公立大学病院などにしか普及しておらず、開発費用も数十億円にも上るため、一部の大手電機メーカーしか開発を手掛けていなかった。H社では、大手電機メーカーからその大規模病院向けオーダリングシステム41などを受託開発しており、そこで培った高い技術力と医療全般に関する幅広い知識を背景に、業界に先がけて中小規模病院をターゲットとして、当時としては低コストの電子カルテシステムを開発した。開発に当たっては現役の医師も加わっており、その操作性が高く評価された。

販売に当たっては、受託開発先である大手電機メーカーを始め、全国の医療情報システム会社と提携し、導入作業や保守まで連携したサービスの徹底を図った。医療機関に対しては、電子カルテシステムと他社の医事会計システム、看護支援システムなどの部門システムを組合せ、総合的な医療情報システムの提供を行うことで販売先の拡大に努めている。現在は、これらの販売提携先と効率的な営業を行いながら差別化を図っている。

地方での事業展開について

北海道出身者が集まって起業した経緯があり、同地に本社を置いている。地方で事業を行うメリットは、生活環境の良さ、生活コストの低さである。今後も主力製品の基幹部分の開発は同地で行い、販売では首都圏を中心にシェア拡大を図る。

今後の事業展開

医療機関における電子カルテの普及率42は数%と大変低いことから、地域の中核となる中小規模病院での普及率を高めるとともに、小規模な診療所クラスの医療機関に対しても普及を進めたいと考えている。また、全国の販売提携先との関係を強化することで、より魅力ある医療情報システムを提案し、市場自体の規模拡大も図る。

[事例9] 株式会社I(静岡県静岡市) タクシー事業向けシステム開発

[企業概要]資本金45百万円 売上高601→810百万円(2003.3→2005.3)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • タクシー業界に特化した独自のセミオーダー型システムを開発
  • 365日24時間対応など、充実したアフターサポート体制で他社と差別化を図る
[事業立地の要因]
  • 住環境の良さから本社を開発中心に位置づけ

タクシー事業向けのシステム開発を行っている。運行管理、給与計算、チケット管理などを行う一般事務処理ソフト、インターネットや携帯電話を利用するコールシステム、無線とGPS衛星の利用によるタクシー動態管理システム(無線製造業者と共同開発)の3システムが柱である。

タクシー業界に特化

タクシー業界は、サービス内容や業務管理が非常に複雑である。そこに特化し、タクシー業務の3本柱である事務処理・電話受付・配車処理業務の一元処理を可能とする独自のタクシー業務管理システムを開発した。システムはすべてセミオーダーメイドであることから、様々なニーズに対応することが可能となっている。

創業当初(83年)は静岡県内のみで展開していたが、98年に大手家電メーカーと業務提携したことで同社及び同社系列会社を販売店に獲得でき、また共同でタクシー動態管理システムを開発・商品化したことから全国展開するに至った。通信を利用した遠隔リモート保守によりソフトを修正できることで、顧客数の増加に伴うサポート体制が整い、県外の顧客拡大につながった。

また、システム導入後に発生した運賃改定など、ソフト修正にかかる追加料金をトータルサポート料金として定額化し、導入しやすくしており、休日や夜間にも対応できるように、365日24時間体制で保守窓口を開設している。これらが他社との大きな差別化につながっている。

地方での事業展開について

静岡県内のタクシー業界向けのシステム開発を目的としてスタートしたため、地元での起業となった。地方で事業を行うメリットは、地代家賃などの固定費の安さと従業員の通勤環境の良さである。また、インターネットの進展により更に高度なサービス提供が可能であるため、ネット環境の変化に対応することにより事業発展が可能と考えている。 一方デメリットは、人材を確保しにくいことや、従業員の教育における研修施設などが首都圏に集中しているため、教育コストがかかる点である。

今後の事業展開

タクシー業界に関連する企業の様々な顧客ニーズに対応するため、新技術の応用による各種運用システムの機能拡充を図る。また、新規システムの開発と商品化にも取り組むとともに、全国的な営業拠点の開設によるサポート面の充実と積極的な営業展開を図る。

また、タクシー業界以外に対しても、従来から蓄積したノウハウや技術を活かして新規事業の開発・事業化を推進することとしている。

[事例10] 株式会社J(福島県いわき市)地理情報システム関連ソフト開発

[企業概要]資本金54百万円 売上高261→614百万円(2002.9→2004.9)

[コンテンツ関連事業の特徴、成長の要因]
  • 地図情報に特化、長年蓄えられたコンテンツ量は大手を凌ぐ
  • 地元産学官の連携への積極的な参加が販売面に寄与
[事業立地の要因]
  • 地元出身者を積極的に採用し、開発者に育成

ソフトウェアの一部 2

地図情報と各種データベースを結びつけ、様々な情報を統合・分析し、分かりやすく地図表現する地理情報システム(GIS43)を主軸に据え、関連する地図整備事業、その他受託開発事業、技術者派遣事業などを手掛けている。

具体的には、まち探検や郷土研究など地域を題材にした学習の成果を電子地図上に書き込めるソフトや、災害発生時に発生場所や現地の災害状況などの情報をいち早く収集し、電子地図上に表示するソフト、不動産会社等が管理物件の位置や間取り、入居者の情報などを一元的に管理できるソフトなど、多数のGIS関連のソフトを開発、商品化している。

地図情報に特化

主力商品であるGIS関連ソフトは、長年にわたる開発により、一般企業だけではなく自治体や学校、個人に至るまで幅広い用途を考慮して制作されており、バリエーションが豊富であるとともに、大量のコンテンツが蓄積されている。

最近では大手企業との提携や協力関係が強まっており、販売力強化のために強い味方となっている。

また、地元の産学官連携プロジェクトへの参加や、大学・役所などとの交流を積極的に行っており、地元を中心とした人的・社会的な交流から、システム開発における新発想や新技術を生み出すための協力体制などが組まれるなど、地縁が製品販売にも好影響を及ぼしている。

地方での事業展開について

代表自身が当地出身であり、地元の活性化の観点からも当地での事業展開を重要視している。首都圏や県主要部への人材流失により、開発人員の確保が困難などデメリットも多いが、地元出身者を教育して開発者に育てることも重要な職務と捉えており、地域活性化に向けた産学官提携プロジェクトなどに参加するなど、立ち後れている地元経済の発展に貢献していきたいと考えている。

今後の事業展開

教育用ソフト、緊急災害用ソフト等を主体として、ソフト面でのバリエーションを拡げていく。また、大手企業との協力体制により、開発分野に注力してコスト削減につなげるとともに、パソコンメーカーや通信関連企業などと連携して販売体制を構築、拡大する。

4) 地方発のコンテンツ企業の可能性

コンテンツ産業における成長企業の取組みをみてきたが、映像・アニメーションや音楽コンテンツ制作・配信などのエンターテイメント系のコンテンツ産業では、クライアントや出版社、テレビ局、映画配給会社など関連企業が東京に集まっていること、東京の情報発信・収集基地としての利便性、優秀なクリエイターの確保などを理由として集中している。このため、この分野における地方発のコンテンツ企業は、現状では難しい面がある。

一方、地方に拠点を置くパッケージソフトやソフト受託開発などの成長企業の多くが、業者間の競合が少なく営業活動が行いやすいことや、人材が流出しにくいことなどを、地方における事業展開の理由に挙げている。また、情報の入手が若干遅いことをデメリットとして挙げる企業もあるが、インターネットの普及とともにデメリットは改善されるとしている。さらにインターネットの進展に伴って事業発展の可能性があるとしており、光ファイバー回線などの最新通信インフラ整備が必要であるとしている。

コンテンツ産業の今後を考えると、地方においても、特にシステム開発、ゲーム制作、WEB開発などの分野でみられるように、特定事業分野に特化・専門化することや、大手企業や同業他社との協力関係の構築と差別化による事業展開を図るなどの様々な方法により、事業を進展させていくことが望まれる。

そのためのインフラ整備、スムーズな資金調達スキーム確立など、地方でもコンテンツ産業が展開される環境づくりが求められる。

27.
経済産業省「コンテンツ産業の現状と課題~コンテンツ産業の国際競争力強化に向けて~」(05年2月)より。
28.
経済産業省「新産業創造戦略」(04年5月)では、2010年におけるコンテンツ産業の市場規模15兆円(うちデジタルコンテンツ国内市場規模6.3兆円)と展望しており、新しいフロンティア市場(ブロードバンド、海外市場)の立ち上げや、デジタルシネマの普及推進、人材育成、コンテンツ流通の多様化を通じて、コンテンツ産業の構造改革を進め、新産業としてのコンテンツ産業の飛躍的拡大のためのアクションプランが策定されている。
29.
独立行政法人労働政策研究・研修機構「コンテンツ産業の雇用と人材育成-アニメーション産業実態調査-」(05年3月)より。
30.
以下において紹介する成長企業の事例は、(株)帝国データバンクによる委託調査報告を基に内閣府においてとりまとめたもの。
31.
監督、脚本家、プロデューサーなど、コンテンツの企画開発、発案等の中心と成り得る人。
32.
著作権の一部で本来は出版権(図書専売権)を指すが、キャラクタービジネスの分野では、アニメ等のキャラクターを商品化する権利等の意味として使われる。
33.
特別目的会社(Special Purpose Company)。資産の原保有者から原資産を譲り受けて、資産担保証券、株式、債権の発行等の特別な目的のために作られた会社のこと。
34.
サービスやメディア等を大きく普及させるきっかけとなるような特別に人気の高いサービスや情報。
35.
Affiliate Service Providerの略。アフィリエイトとは、自身の運営するWebサイトやメールマガジンなどに任意の広告主の広告を掲載し、顧客の誘導を計る個人や企業のことで、ASPとは、アフィリエイトと広告主の募集やマッチング、アフィリエイトサービスを使った広告の成果調査、支払処理などの業務代行などを行う。
36.
世界標準規格(IMT-2000規格)に準拠した携帯通信のことで、1)2GHz帯の使用、2)固定電話並みの高音質、3)最高2Mbpsの高速データ通信、などが定義されている。
37.
Original Equipment Manufacturerの略。相手先ブランドで販売される製品を製造すること。また製造するメーカーを指す。
38.
コンピュータゲームの一ジャンル。独自の世界観やストーリーを持ち、キャラクターの成長要素を備えたロールプレイングゲームに、登場するキャラクターを駒に見立て、将棋やチェスのように与えられた盤面の上を動かし目的を達成していく戦略シミュレーションゲームの戦略性を併せ持つゲーム。
39.
Commercial Filmの略。テレビコマーシャル用の短い映画。
40.
Desk Top Publishingの略。出版物のデザイン・レイアウトをパソコンで行い、電子的なデータを印刷所に持ち込んで出版すること。
41.
病院全体をネットワーク化し、診療現場から医師・看護師が指示内容をパソコンに直接入力することで、薬局での処方箋処理や医事会計などの関連部門に即座に伝達する総合的な病院情報システム。
42.
厚生労働省「保険医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」(01年12月)では、06年度までに電子カルテシステムの普及率6割以上を目指すとしている。
43.
Geographic Information Systemsの略。

[目次]  [戻る]  [次へ]