第1章 第1節 2.構造変化の進む地域経済

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2.構造変化の進む地域経済

1.でみた人口減少・少子高齢化の進行は、地域経済にどのような変化をもたらしているのか、あるいはもたらすことになるのか。人口の絶対数が減少する中で、働き手が減少するといった、地域経済の成長を妨げる影響しかないのだろうか。以下では、その主な影響を考察する。

(1) 制約要因の高まり

1) 労働力率は低下

地域別の労働力率の推移をみると、98年ごろから低下傾向にある。これは高齢化が進行するなかで、労働力率の低い高齢人口が増加したことが要因と考えられる。一方、男性、女性別に分けてみた場合、低下傾向には変わりないが、女性の低下率のほうが小さくなっている。女性の社会進出により、労働力率の低下に歯止めがかかっていると言える(第1-1-2(1)図)。

第1-1-2(1)図 労働力率は男女とも全国的に低下傾向
第1-1-2(1)図 労働力率は男女とも全国的に低下傾向
各地域別の労働力率(2004年平均)
北海道 東北 北関東 南関東 東海 北陸
男女計 (5年前との差) 57.1 (△ 1.3) 59.5 (△ 2.8) 62.2 (△ 3.0) 62.1 (△ 2.1) 63.1 (△ 3.0) 62.1 (△ 3.0)
男 (5年前との差) 70.7 (△ 2.5) 71.9 (△ 3.9) 74.8 (△ 3.4) 75.5 (△ 3.6) 75.7 (△ 3.9) 73.5 (△ 3.0)
女 (5年前との差) 45.0 (△ 0.1) 48.2 (△ 1.7) 50.1 (△ 2.3) 48.6 (△ 0.7) 51.1 (△ 2.1) 51.6 (△ 3.0)
近畿 中国 四国 九州 全国
男女計 (5年前との差) 57.9 (△ 3.1) 59.5 (△ 2.2) 57.9 (△ 3.9) 58.7 (△ 1.1) 60.4 (△ 2.5)
男 (5年前との差) 71.9 (△ 4.6) 72 (△ 3.1) 69.5 (△ 4.8) 73.4 (△ 3.5) 73.4 (△ 3.5)
女 (5年前との差) 45 (△ 1.6) 48.1 (△ 1.5) 47.4 (△ 2.6) 48.2 (△ 0.4) 48.3 (△ 1.3)
(備考) 1. 総務省「労働力調査」により作成。1999年と2004年を比較。
2. 地域区分はC。ただし、九州に沖縄を含む。

2) 地域別にみた場合のニート

現在、フリーターやニートの存在が大きな社会問題となっている。厚生労働省「平成17年版労働経済の分析」によると、全国でフリーターは213万人、無業者(ニート)は64万人と推計されている。

これを地域別に、かつ15~34歳の総人口と比較したものが第1-1-2(2)図である。フリーターは北海道、東北、沖縄でやや高めとなっており、ニートは中国、四国、九州でやや高めとなっている。北陸はフリーター、ニートともに全国平均よりは低くなっており、労働力率が全国平均よりも高めに推移していることと相応する結果となっている。

第1-1-2(2)図 フリーター、ニートの比率
第1-1-2(2)図 フリーター、ニートの比率
(備考)総務省「労働力調査」、厚生労働省(2005)「労働経済の分析(労働経済白書)」により作成。2004年。

3) 生産年齢人口が減少

人口減少の進行は生産年齢人口の減少にもつながる。2010年の生産年齢人口をみると、2000年と比較して、全国平均で4%減少する見込みとなっている。中でも南関東の減少幅は大きく、5%強の減少が予想されている(第1-1-2(3)図)。

第1-1-2(3)図 減少が見込まれる生産年齢人口
第1-1-2(3)図 減少が見込まれる生産年齢人口
(備考) 1. 2000年は総務省「国勢調査」、2010年は国立社会保障・人口問題研究所「都道府県の将来推計人口」により作成。
2. 将来推計人口は中位推計。
3. 生産年齢人口は15~64歳。
4. 地域区分はA。ただし、九州に沖縄を含む。

4) 生産年齢人口の減少を緩和するもの

一方で、現在活用されていない資源が労働市場に参入した場合、労働力率を押し上げることが期待される。例えば、60~64歳の労働力率が、全年齢平均までに上がった場合を推計してみると、各地域で平均して0.4%程度の押し上げ効果がある(第1-1-2(4)図)。

第1-1-2(4)図 60~64歳の労働力率が全年齢平均並み となった場合の労働力率押し上げ効果
第1-1-2(4)図 60~64歳の労働力率が全年齢平均並みとなった場合の労働力率押し上げ効果
(備考) 1. 総務省「労働力調査」により作成。2004年。
2. 地域区分はC。ただし、九州に沖縄を含む。

また、ニートが全て労働力人口として労働市場に参入した場合を計算してみると、各地域で平均して0.5%程度の押し上げ効果が期待できる(第1-1-2(5)図)。

第1-1-2(5)図 ニートの労働市場の参入効果
第1-1-2(5)図 ニートの労働市場の参入効果
(備考) 1. 総務省「労働力調査」、厚生労働省(2005)「労働経済の分析(労働経済白書)」により作成。2004年。
2. 地域区分はC。ただし、九州に沖縄を含む。

定年延長の議論も含めて、経験の豊富な世代を本人の労働意欲に応じて働くことのできる環境作りを進めることや、ニートを労働市場に参加させることで、生産年齢人口減少の影響を多少なりとも緩和することができると言える。

5) 財政面の制約要因

特に高齢化は地方財政にも影響を与えることが見込まれる。

民生費は、児童、高齢者等のための福祉施設の整備や運営、生活保護の実施などの施策を推進するための経費である。地方公共団体の普通会計に占める民生費の割合をみると、90年代前半くらいまではおおむね10%前後となっていたが、その後緩やかに上昇し始め、03年度現在では15.7%となっている(第1-1-2(6)図)。

第1-1-2(6)図 地方公共団体の歳出総額に占める民生費の割合
第1-1-2(6)図 地方公共団体の歳出総額に占める民生費の割合
(備考)総務省「日本の長期統計系列」及び「平成17年版地方財政白書」により作成。

高齢化の進行を受けて、地方公共団体が社会福祉のために支出する民生費も、今後ますます増加すると見込まれる(第1-1-2(7)図)。民生費の多くが義務的経費であることをかんがみると、今後、政策的経費に回せる予算が圧迫されていくことが予想される。地方公共団体にとっては、ますます効率的・効果的な予算の使用が求められている。

第1-1-2(7)図 地方公共団体の歳出総額及び民生費の伸び
第1-1-2(7)図 地方公共団体の歳出総額及び民生費の伸び
(備考)総務省「日本の長期統計系列」及び「平成17年版地方財政白書」により作成。

(2) 新たな市場の可能性

しかし、少子高齢化の進行は制約要因ばかりが大きくなるわけではないことも考えられる。人口構造の変化に応じた新たな市場の可能性が見出せるのかもしれない。

1) 高齢者世帯の消費支出

高齢者世帯(世帯主年齢60歳以上の世帯)の消費支出で、全世帯平均よりも増加率の高くなっているものは、第1-1-2(8)図のとおりである。移動電話通信料が増加しているのが目立つが、自動車やテレビの購入も伸びている。仕送り金や授業料等は、子供や孫のための支出であり、高齢者の支出によって、若年層の生活が下支えされているとも考えられる。また、スポーツ月謝やペットフード、他の化粧品は生活を豊かにするための支出とも言える。

第1-1-2(8)図 高齢者世帯の支出(2000年→2004年 増加率)
第1-1-2(8)図 高齢者世帯の支出(2000年→2004年 増加率)
(備考) 1. 総務省「家計調査」により作成。
2. なお、他の化粧品は、香水、マニキュア液、アイシャドー、洗顔クリーム、白髪染など。また、仕送り金は、世帯票に記載のない者への生活費、下宿料、家賃、教育費などの全部又は一部を継続的に補助するための現金支出。

2) 各地域で進展する消費のサービス化

消費支出に対するサービス支出の比率、すなわちサービス消費比率の動向をみると、この10年の間に全地域で上昇しており、北海道、東北、北陸を除く地域はすでに40%台となっている(第1-1-2(9)図)。

第1-1-2(9)図 各地域で増加するサービス消費比率
第1-1-2(9)図 各地域で増加するサービス消費比率
(備考) 1. 総務省「家計調査」により作成。農林漁家世帯を除く全世帯。
2. 財・サービス区分別支出金額におけるサービス支出の割合。
3. 消費支出には「こづかい」「贈与金」「他の交際費」及び「仕送り金」は含まれていない。
4. 地域区分はC

消費サービス化の進展は地域の産業構成にも影響を与えている。ここ10年間における地域別の産業構成の変化をみると、製造業、建設業、卸売・小売業の構成比がほぼ全地域で低下するなか、サービス業は全地域で大きく構成比を伸ばしている。02年度におけるサービス業の構成比をみると、北海道、南関東、九州、沖縄で全国平均(20.2%)を上回っている(第1-1-2(10)図)。

第1-1-2(10)図 92年度から2002年度の産業別構成比 (域内総生産の産業別構成比の変化)
第1-1-2(10)図 92年度から2002年度の産業別構成比(域内総生産の産業別構成比の変化)
【サービス業構成比率(2002年、%)】
北海道 東北 北関東 南関東 東海 北陸 近畿 中国 四国 九州 沖縄 全国
21.0 18.7 18.1 23.2 16.0 17.5 20.1 17.5 19.4 21.6 26.7 20.2
(備考)内閣府(2005)「県民経済計算年報」により作成。

3) サービス産業の市場規模

サービス消費を地域別に把握することは、統計の制約上困難であるため、全国ベースでその市場規模を見ることにしよう。

経済産業省「特定サービス産業実態調査」で主な個人向けサービス業をみると、1兆円強の市場規模を持つ結婚式場業をはじめとして、ゴルフ場が1兆円弱、葬儀業8,000億円弱、遊園地・テーマパークが6,000億円強、フィットネスクラブ3,000億円強、エステティック業と映画館がともに2,000億円強となっている(第1-1-2(11)表)。

第1-1-2(11)表 主な個人向けサービス業の市場規模

年間売上高 前回調査比 調査年(前回調査)
映画館 2,274 11.3 2004年(2001年)
ゴルフ場 9,758 △ 15.5 2004年(2001年)
遊園地・テーマパーク 6,019 1.9 2004年(2001年)
劇場(貸しホールを含む) 1,965 2004年
フィットネスクラブ 3,259 10.7 2002年(1999年)
結婚式場業 10,016 △ 25.1 2002年(1996年)
外国語会話教室 1,826 2002年
エステティック業 2,343 2002年
葬儀業 7,807 2002年
(備考)経済産業省「特定サービス産業実態調査」により作成。

調査自体が新しいため、時系列で比較できるものが少ないが、ゴルフ場や結婚式場は前回調査と比較して大きく落ち込んでいるものの、映画館やフィットネスクラブは伸びている。はじめて全国レベルで調査されたエステティック業は、「業」としては新しいが、すでに映画館と同規模の市場規模を持っている。

このうち映画館では、60歳以上は毎日1,000円というサービスを打ち出し、利用者の増加を図り(通常の当日一般料金は1,800円)、時間に余裕のある高齢者市場の掘り起こしに一役買っている。また、フィットネスクラブの成長は高齢者のスポーツ月謝の増加も一因と考えられる。

4) 高齢者のマンション需要

高齢者世帯のマンション居住比率をみると、南関東が40%弱と最も高く、近畿、沖縄、北海道でも20%を超えている。一方で東北、北関東、北陸、中国、四国では10%に満たない状況である。しかし、98年と03年を比較すると、中国を除いた全地域でマンション居住比率が上昇している(第1-1-2(12)図)。マンションに住む高齢者世帯が増加しているということは、利便性の高い都市部での生活を求めて、都心回帰が進んでいる結果とも言える。

第1-1-2(12)図 高齢者世帯のマンション居住比率
第1-1-2(12)図 高齢者世帯のマンション居住比率
(備考) 1. 総務省「住宅・土地統計調査」により作成。
2. 高齢者世帯は、65歳以上の単身主世帯と65歳以上の夫婦主世帯の合計。 65歳以上の夫婦主世帯は、少なくとも夫婦のどちらか一方が65歳以上である世帯。 主世帯とは、1住宅に1世帯が居住する場合はその世帯、1住宅に2世帯以上が居住する場合はそのうちの主な世帯(住宅の持ち主等)を指す。
3. マンションは、共同住宅を指す。

5) 高齢化に対応する住宅

年齢を重ねるにつれて、身体能力の低下が進むことは誰しも免れないことである。我々の生活の中で、その入れ物であるところの住宅を年齢に合わせていくことは当然と言える。しかし、住居に対する不満要素をみると、「高齢者等への配慮」を不満とする人は全体の65%ほどであり、最も不満の高い項目となっている。

手すりがある、屋内の段差がないなど、高齢者設備のある住宅は、全国平均で4割弱となっている。このうち、沖縄は極端に低くなっているが、他地域では、30%台後半から40%台前半の数値となっている。地域別の高齢化率と高齢者設備のある住宅の割合の関係をみると、緩やかな相関関係がみられる(第1-1-2(13)図)。

第1-1-2(13)図 高齢者設備のある住宅割合と高齢化率の相関
第1-1-2(13)図 高齢者設備のある住宅割合と高齢化率の相関
(備考) 1. 総務省「平成15年住宅・土地統計調査」「平成15年10月1日現在推計人口」により作成。
2. 住宅総数は、居住世帯がある住宅の総数。

今後、高齢化がさらに進行することをかんがみると、新築住宅には予め高齢者設備を設置するか、既存の住宅ストックに高齢者対応設備を設置することが見込まれる。住宅ストックを建築年別にみると、80年以前に建てられた住宅が全国平均で4割弱を占めている(第1-1-2(14)図)。耐用年数をかんがみると、これらの住宅でも適切なメンテナンス次第で、十分住居可能である。

第1-1-2(14)図 建築年別の住宅ストック
第1-1-2(14)図 建築年別の住宅ストック
(備考)総務省「平成15年住宅・土地統計調査」により作成。

財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターによると、住宅リフォーム市場は、03年に5兆4,400億円と推計されている。高齢化の進行は新たな市場を生み出しているとも言えるのである。


3.
この間、老人保健医療事業費が96年度から特別会計に移行し、介護保険が2000年度から導入された。
4.
「エステティック業」は、02年に日本標準産業分類にサービス業の細分類として登録された。
5.
国土交通省「住宅需要実態調査」(03年度)
6.
建築基準法によると、木造住宅の耐用年数は30年、鉄筋コンクリート製住宅の耐用年数は60年とされている。

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