第1部 第2章 第4節 外国人観光客増加への取組を通じた地域経済の活性化 6.
6.観光連携に取り組む九州と北海道観光の現状
(1) 九州における観光連携
日本を訪れる外国人観光客は平均4~6日の日程で訪日する。このため、成功事例でみたように、広域的な観光プランが必要となってくる。一県だけで誘客に取り組んでいても共倒れになる危険性があるのである。以下では、観光客誘致に関する九州内での連携について紹介する。
「九州はひとつ」の理念のもとに、2003年10月に九州地方知事会、九州・山口経済連合会、九州商工会議所連合会、九州経済同友会が連携して、官民一体となった九州地域戦略会議を設立した。同会議は2004年8月に九州地域の観光事業の「復興」を目指す九州観光戦略の短期計画を策定した。
計画期間は2005年度から3カ年である。事業規模は年間約5億円で、総額15億円となっている。対象は九州全7県である。
事業内容としては、[1]体制作り、[2]国内大都市圏からの観光客誘致、[3]東アジアからの誘致、[4]旅行先として九州を磨く、という4つの分野を柱として35のプランを設定している。
海外からの観光客誘致については、2002年の44万人から、毎年1割ずつ増加させ、計画の終了する2007年には74万人にすることを目標としている(51)。このため、中国や韓国、台湾などで、各県や民間の海外事務所を連携させたPR活動や修学旅行の誘致、インターネットで温泉や観光地情報を発信することなどを行っていくこととしている。 中長期的な計画についても、10月に決定し、2005年度から10年間を目途に東アジア各国と連携する「東アジア観光コンソーシアム」設立や「九州遺産」の創設などに取り組むこととなった。
また、11月には九州の自治体が連携し、熊本県菊池市で温泉シンポジウムを開催する計画となっている。これには、中国広東省から観光局長ら約90人も参加予定となっている。
(2) 北海道と外国人観光客
1) 外国人観光客の伸びの高い来道観光客数
北海道は主力産業の一つが観光となっており、観光客の動向は道内景気を左右する重要な一因となっている。また、観光統計が充実しており、外国人観光客の動向も容易に把握することができる。このため、北海道観光と外国人観光客の動向を検証することとする。
2003年度の来道観光客数をみると、国内観光客が604万人であるのに対して、外国人観光客は32万人となっている。外国人観光客は1997年度では15万人であったので、6年で倍増している(第2-1-4(6)図)。
観光客に占める外国人観光客のシェアをみても、97年度に2.4%であったものが、2003年度では5.0%になっており、やはり倍増している。しかし、外国人のシェア自体はいまだ低いものにとどまっている。
一方で観光客の対前年度の伸び率をみると(第2-1-4(7)図)、外国人観光客は5年間で一貫して日本人観光客の来道客の伸びを上回っており、ITバブルが崩壊して世界経済が不調だった2000年度と春先にSARSの問題が起こった2003年度を除いて、二けたの伸びを示している。
2) 外国人観光客はアジアが中心
外国人観光客の内訳をみると(第2-1-4(8)図)、その大部分がアジアからの観光客となっている。これは、とりわけ台湾で気候上なかなかみられない「雪」を見ることが北海道の観光資源となっていることや、道東の雄大な自然や温泉が注目を集めているためである(52)。2004年夏には釧路空港の国際チャーター便が、台湾を中心に、前年の33便から79便に増加した。
直近の2003年度は、外国人観光客全体の伸び率が前年度比3.5%であったところ、アジア人観光客は春先のSARSの影響が響いて前年度比寄与度は2.9%ポイントにとどまったものの、オセアニアからの観光客は1.8%ポイントと前年から大きく伸びた。オセアニアからの来道客を実数でみると、前年度比211.5%と劇的に増加した。これは、オーストラリアが夏の時期に、「北海道でスキーを楽しむ」という旅行がインターネット等を通じて口コミで高まったためと言われている。従来、オーストラリア人はカナダまで出かけてスキーをしていたが、北海道は、距離的にカナダよりも近いことに加え、雪質がカナダと同様であることが競争力となっている。2004年度に入って、オーストラリア企業がニセコのスキー場を買収するといった直接投資の動きや、11月から冬季限定の新千歳-ケアンズ線の定期便が6年ぶりに就航されるなどの動きが続いている。
3) 外国人観光客は北海道経済の救世主となるか
北海道経済をみると、今回の景気回復局面において、特に回復が遅れた状況となっている。これは、製造業の立地、特に景気回復のけん引役となっている輸送用機械や電子部品・デバイス工業の立地が少ないことや、公共投資の削減が要因となっているが、これらに加えて、主力産業の一つである観光がほぼ横ばい状態と今一つであることも原因に挙げられる(詳細は2部1章のコラムを参照)。北海道と同様に観光への依存度の高い沖縄経済が、空前の沖縄ブームを受けて、緩やかに回復しているのと対照的な状況である。
こうした中、外国人観光客の増加が北海道経済をけん引することはあるのだろうか。先にみたように、来道観光客に占める外国人観光客の割合は5%といまだ低い。
景気ウォッチャーのコメントをみると、海外からの誘致客の効果が現れている地域のある一方で、その変動の大きさや、絶対数が小さいことから、あまり期待できないと言ったコメントがみられる。
新たな需要の開拓として、海外からの誘致に努めることも重要であるが、誘致頼みであってはならない。北海道ではオセアニアからの観光客の増加にみられるように、口コミ人気やリピーターが広がりつつある。北海道は「雄大な自然」という他地域が真似できない観光資源を有している。来道者の国籍を問わず、地域としての魅力を高めることが来道者の増加につながり、ひいては北海道経済の活性化に資するものになると言える。