第1部 第2章 第4節 外国人観光客増加への取組を通じた地域経済の活性化 4.
4.誘致成功地域から学べること
(1) 誘致成功地域の成功事例
外国人観光客の誘致はどのような取組によって成功しているのだろうか。また、どのように取り組めば成功するのだろうか。以下では、既に成功している2つの取組事例を紹介する。
事例[1] 温泉旅館(石川県)
[外国人観光客誘致への取組]
- いち早く台湾への誘客活動を開始
- 台湾の北投温泉で当旅館の商号を利用したフランチャイズを展開
当旅館は、旅行新聞新社が主催する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」において、現在まで24年連続で総合1位の座を維持し続けている老舗の温泉旅館である。当旅館の会長は、石川県全体の観光産業や地域の活性化に尽力し、交流人口の増加に貢献したとして、観光カリスマ百選にも選定されている。
外国人観光客誘致への取組
当社は観光の国際化に注目し、その方策として、台湾人観光客に早くから着目していた。台湾では、企業が成績優秀者や取引先を旅行に招待する「インセンティブツアー(報奨旅行)」が日本よりも盛んに行われていることに目を付け、現地の旅行会社を通じて、保険、自動車、化粧品の会社の旅行を誘致していた。このほか、2004年にはチャーター便を能登空港経由で飛ばすなどの取組も始めている。
また、台湾において積極的に広告活動を行い、新聞広告などに北陸に加えて岐阜や長野などの広域的な地域の名所を紹介するともに、当社の記事を掲載するような形式を取っていた。
この結果、台湾誘客に乗り出した96年には約5,500人、97年以降も年間8,000人の台湾人観光客が訪れるようになっている。 観光ルートの設計として、台湾人観光客が日本に来た場合、4~6日程度の行程となり、当社を含めた石川県や北陸地域だけに滞在するプランを作っても魅力に欠けることから、
・能登空港→当社宿泊→立山黒部アルペンルート→長野・岐阜→愛知万博→東京
のような広域的なプランを作成し、誘致に取り組んでいる。
台湾でのフランチャイズの展開
当社の台湾におけるブランド力が功を奏し、台湾のデベロッパーからフランチャイズ展開の申出があった。2006年冬を開業予定として、年間6万人の来客数を見込む。建設予定地の台湾北投温泉は、日本の統治時代の1896年に平田源吾氏が台湾初の温泉旅館を開業した、日本ゆかりの温泉として知られる。当社としては、台湾でのフランチャイズ展開は、アンテナショップのような位置付けと考えており、日本式のもてなしや畳の部屋など、当社の雰囲気は感じてもらえるが、当社本店と競合するとは考えていない。今後、機会があれば、台湾の他地域でもフランチャイズ展開に取り組みたいとのことである。
なお、当社は個人客を掘り起こす取組を続けていることが、誘致成功の要因になっているとしている。
事例[2] 富士河口湖町
[外国人観光客誘致への取組]
・富士河口湖町(47)では町長自ら東アジア地域に訪問、外国人観光客の誘致を強化
富士河口湖町では、「五感に訴える町おこし」をテーマに、観光立町として、基盤整備やイベント展開など様々なハードやソフト政策による町づくりに取り組んでいる。町長(48)自らが中国など東アジア地域を訪問し、外国人観光客の誘致を強化している。2003年には約10万人の外国人観光客が町内に宿泊した。うち約3割は台湾人観光客であった。
矢継ぎ早の企画
観光客の落ち込む冬場には、旧正月の中国人観光客をターゲットに花火大会を98年から開催し、富士山をバックとした花火を打ち上げ、壮大な光景を楽しむことができる。
アジア人観光客の受入のため、客室を増築中のホテルもある。
この4月からは、地域を周遊する観光バス「レトロバス」の新路線の運行(西湖・青木ケ原(49)方面)を開始した。8月からは、専属の担当者を置いて、中国、韓国、台湾、香港を訪問し、観光客受け入れ体制強化のために、現地旅行業者への営業のほか、観光イベントに参加し、町の観光PRなどを行っている。また、町の観光用ホームページには、中国語、韓国語、英語対応のページを作成する方針である。
こうした方針のもとに、5年後には、外国人観光客数を現在の3倍の30万人にすることを目指している。
これら2つの事例から、[1]客を飽きさせない矢継ぎ早の仕掛けを充実させることが重要であり、[2]当該地域のみを対象としない広域的な観光ルートの設計が必要である、ということが言える。