第1部 第2章 第4節 外国人観光客増加への取組を通じた地域経済の活性化 3.

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3.苦戦する地域のテーマパーク

90年代前半には全国各地でテーマパーク(46)の新設が相次いだ(第1-2-4(5)表)。

しかし、近年、当初の来客見込みを大きく下回り、閉園に追い込まれる、あるいは会社更生法の申請や民事再生手続に入るテーマパークも少なくない。

本節では、そのようなテーマパークの成立とその後の経緯を明らかにし、そこから導かれるインプリケーションを示すこととする。

(事例A)

Aは九州地域に「宇宙」をテーマとして、90年に開業した。第三セクター方式を取っているが、中心となったのは大手の鉄鋼会社であり、製鉄所の遊休地に建設された。初期投資は300億円であった。

来客見込みは年間200万人であったが、97年度に216万人を記録した以降、年々来客数が減少している。これは、[1]宇宙関係の施設のリニューアルをしていないこと、[2]施設規模が小さく、リピーターの取り込みができていないこと、等が挙げられる。

現在、学校の校外学習等のプログラムを取り込むべく、専門職員を配置するなど、来客数の増加のために様々な工夫をしているところである。

(事例C)

Cは四国地域に当時四国最大のレジャー施設(敷地面積60万坪)として、91年に開業した。初期投資は700億円、事業主体は民間会社であった。

来客見込みは年間500万人であったが、初年度に290万人を記録した以降、年々来客数が減少し、97年度には105万人となった。これは、[1]観光地としての魅力の乏しさ、[2]交通アクセスの不便さ、等が挙げられる。2000年8月には休園し、事業主体の民間会社も2003年に多額の負債を抱えて民事再生法を申請した。

現在は、県からの要請を受けて、四国を地場とする会社を中心に4社が出資した民間会社が経営を引き継ぎ、2004年4月に4年ぶりに営業を再開した。園内を4つのエリアに分割し、それぞれを各専門会社に委託するという方式を採用し、再建に取り組んでいる。

(事例D)

Dは九州地域にオランダの街並みを再現したテーマパークであり、従来までのテーマパークとは異なり、長期滞在型の観光を目指し、92年に開業した。アトラクションだけではなく、ホテルも立派なものが作られ、総料理長には著名なフランス料理シェフが招かれた。初期投資は予定の2倍近くの2,250億円、事業主体は第三セクターであった。開業当初から債務負担が重く、2回の債権放棄を経て、2003年2月に会社更生法の適用を申請した。

来客見込みは420万人のところ最高で425万人であった。これは、[1]周辺人口が少ない上に首都圏からも遠いため、集客力が乏しかったこと、[2]初期投資負担が大きく、追加投資ができなかったこと、[3]滞在型の観光が受け入れられなかったこと、等が挙げられる。

現在、日系投資ファンドの支援の下、再建に取り組んでいる。

(事例E)

Eは九州地域に周辺地域と合わせたリゾート構想の中核施設として93年に開業した。開閉式屋根と造波装置を備えたドームや高層ホテル、国際会議場等を備えており、初期投資は2,000億円、事業主体は第三セクターであった。

しかし、[1]初期投資の負担が重かったこと、[2]目玉施設のドームは年間250万人の集客を見込んでいたが、最高で125万人しか集客できなかったこと、その見通しの甘さ、[3]当該県には天然の海水浴場が多く、人工造波装置の屋内施設には魅力が乏しかったこと、等から経営困難となり、2001年3月に会社更生法の適用を申請した。

現在、米国系投資ファンドの支援の下、再建に取り組んでいる。

(事例F)

Fは東海地域に周辺地域の中核施設として建設された。スペインをコンセプトとしており、かわら1枚であってもスペインから取り寄せるこだわりを持って、94年に開業した。初期投資は600億円、事業主体は第三セクターであった。

しかし、[1]開業後には不況の影響を受けたこと、[2]リピーターを確保できなかったこと、[3]大消費地である名古屋・大阪いずれからもアクセスが悪かったことから、開業時こそ来客見込みを上回ったものの、年々来客数が落ち込み、2003年度には184万人にまで低下した。

現在は温泉施設の開業や地域ぐるみの観光客誘致を進めており、2004年のゴールデンウィークの集客は前年比約2割増となった。

これらのテーマパークの苦戦の要因はおおむね以下の4つにまとめられる。

第一に、「この街でこのテーマ」というコンセプトがはっきりしていないものが多かったことである。例えば、外国の街並みを再現することは、すなわち模倣であり、年間1,300万人余(2003年)が外国旅行に出かける時代にはそぐわないものと言える。

第二に、初期投資が大きく、支払負担が大きいために、追加投資が思うようにできなかったことである。アトラクションを絶えず魅力あるものにするには、追加投資が重要である。

第三に、事業主体が第三セクター方式を取っていたことである。第三セクターは民間活力(いわゆる「民活」)の注入による経済の活性化を意図して設立されたものであるが、テーマパークの経営に長けた専門家が起用されたかどうかは疑わしい。また、県、市町村、民間会社からの共同出資形式を取る第三セクター方式は、経営責任がどこにあるのかが不明確である。

第四に、来客予測が甘かったことである。これは、第三セクター方式を取っていることとも結び付くが、専門家でない人間が予測を立てたところで、甘くなるのは当然である。ちなみに民間会社が設立したテーマパークでも来客見込みを上回らずに閉鎖に追い込まれるものもあることから、正確な来客を予測することは実に難しいと言える。現に、ここで取り上げた9つのテーマパークのうち、来客見込みを1年たりとも上回っていないものは4つもある。

以上の4点を合わせると、これらのテーマパークは、リピーターの取り込みに苦戦していると言える。初期投資に加えて追加投資を行い、絶えず魅力的なサービスを提供していかないと、リピーターはついてこない。

観光を分析する上で、テーマパークの事例は多くの示唆を与えてくれる。リピーターを取り込まなければ観光地としては成り立っていかず、リピーターを取り込むには地域としての魅力を高めていくことが何よりも重要なのである。

現在、外国人観光客の誘致活動が、活動と言うよりも合戦というくらいに活発となっている。しかし、誘致されて来日した外国人がまた訪れる、あるいは誘致によって来日した外国人からの情報発信によって他の外国人が訪れるようにならなければ、外国人観光客が日本の観光の実力(=魅力)に応じて増加するとは言えない。そのためには、あくまでも地域の魅力を高めることが重要である。

以下では、大規模な初期投資が尾を引いて苦戦しているテーマパークが多い中で、小規模投資で成功しているテーマパークを紹介する。

(事例J)

Jは、昭和30年代前半の山里をモデルとした森や川、棚田、茶畑、牧場を再現したものである。当時の暮らしを回顧するとともに、農作業等を体験することができる体験型テーマパークとして2003年4月に東海地域に開業した。初期投資は220億円であった。

特筆すべき点は、建設主体は県、運営主体は民間会社という公設民営方式を日本で初めて採用したことである。県は契約により管理運営費がかからない上に毎年1,000万円の営業収入が見込めること、民間会社側には初期投資負担を負うことがないという双方両得の仕組みとなっている。

同村は年間50万人の入園者でも採算の取れる構造となっているが、初年度の入園者は来客予測(100万人)の1.5倍の150万人となった。県の協力で集めた高齢者のボランティアも活躍しており、「公」と「民」の良い連携ができつつある。

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