第1章 第1節 緩やかな持ち直しの状況が続いた地域経済 6.
(6) 求人増にもかかわらず失業率の上昇が続いた雇用情勢
景気の動きを反映して、雇用情勢も2002年度中には下げ止まり、2003年にかけて持ち直しの動きがみられるようになった。2002年7-9月期には、すべての地域において有効求人数が前期比増加し、その後も多くの地域において増加が続いた。特に、北関東、南関東、東海、近畿、中国、九州においては5四半期連続して増加した。一方、有効求職者数は、2002年10-12月期にすべての地域で減少した後、2003年1-3月期において沖縄を除くすべての地域において2四半期連続して減少するなど、企業による人員整備や倒産件数が減少した影響がみられた。
求人数の増加と求職数の減少により、有効求人倍率は2002年1-3月期を底に上昇に転じ、全国平均では2003年4-6月期まで5四半期連続して上昇した。全国平均の有効求人倍率は、2002年1-3月期の0.52倍から2003年4-6月期には0.61倍まで上昇し、98年1-3月期以来の水準となった。
地域別にみると、北関東、南関東、東海、北陸、近畿、中国、九州において5四半期連続して上昇するなど、すべての地域において基調として上昇した。有効求人倍率はいくつかの地域において2000年10-12月期の前回のピークを上回っている。また、沖縄においては92年以来11年振りの水準になっている(第2-1-7図)。
2003年4-6月期における有効求人倍率(季節調整済、単位:倍)の水準をみると、東海(0.84)、中国(0.73)、北関東(0.73)、北陸(0.70)、南関東(0.65)、四国(0.62)の6地域が全国平均を上回り、沖縄(0.35)、九州(0.48)、北海道(0.49)、東北(0.52)、近畿(0.55)の5地域が下回っている。前者の6地域においては、新規有効求人倍率が1.0倍を上回っているが、後者の5地域においては、新規有効求人倍率は1.0倍を下回っており、2つの地域グループの間にギャップがみられる。
求人数の増加を背景に、就業者数と雇用者数も増加に転じ、2003年4-6月期に就業者数は9四半期ぶりに前年比増加に転じた。雇用者数も、2003年4-6月期に8四半期ぶりに前年比増加に転じた。地域別にみても、多くの地域で就業者数と雇用者数は増加に転じた。しかしながら、その増加幅は過去の景気回復時と比較して小さなものにとどまっており、地域間に差もみられる。
求人数の増加にもかかわらず、就業者数の増加が顕著にはみられなかったことから、完全失業率は上昇を続けた。全国平均の完全失業率(季節調整前)は、2000年10-12月期の4.5%から2003年4-6月期の5.5%まで2年半の間に1%上昇し過去最悪の水準となった。
地域別にみると、2002年から2003年前半にかけてほとんどの地域において完全失業率が過去最悪を更新した(9)。北海道においては、2003年1-3月期に完全失業率(季節調整前)が8.1%を記録したが、これは全地域を通じて83年の統計開始以来最も高い値である(10)。近畿においては、2002年7-9月期に7.1%を記録し、その後も2003年前半には7.0%となっている。東北では2003年1-3月期に6.6%、九州においても2003年4-6月期に同じ6.6%まで上昇した。四国では5.8%(2003年4-6月期)、南関東では5.7%(2002年4-6月期)、北関東では5.1%(2003年1-3月期)まで上昇し過去最悪となった。比較的失業率の低い中国においても4.8%(2003年1-3月期)、北陸において4.5%(同)を記録した。東海だけは2002年1-3月期以降は過去最悪(4.5%、2001年10-12月期)を更新することなく、4%台前半で推移している。このように、有効求人倍率は2002年1-3月期以降上昇しているにもかかわらず、2003年前半においても多くの地域で完全失業率が上昇し、過去最悪を記録した(11)(第2-1-8図)。
この理由としては、求人と求職の間に様々なミスマッチがあることによって就業者が増えにくいという問題がある。東北、九州について分析すると(コラム2-1、2-2)、年齢別の失業率に大きな差異がみられ、20-24歳の若年層と45-54歳の中高年層の失業率が高く、他の年齢層よりもこのところの上昇幅が大きくなっている。また、求人については短時間労働、派遣、有期雇用などの比重が高い傾向がみられるのに対し、求職については期限を定めない雇用を求める傾向があることから、なかなか就職が増えないとの指摘も多くの地域の職業紹介所からなされている。あるいは、特定の技能を持った人材に対する求人は多いものの、それに対応する求職者が少ないとの指摘も同様になされている(12)。このように、多くの地域で失業率が上昇した背景には、年齢、就業形態、技能などのミスマッチの問題があるとみられる。
2003年における完全失業率の水準を地域別にみると、近畿、北海道、九州、東北、四国の5地域において全国平均を上回っている(13)。一方、東海、北陸、北関東、南関東、中国の5地域においては、全国平均を下回っている(第2-1-8図)。このように完全失業率は地域別にみると失業率の高い地域と低い地域の2つに分けることができる。この順位は比較的安定しているが、やや中長期的にみると順位にいくらか変動がみられる。
98年の状況をみると、完全失業率は北海道、近畿、九州、南関東の4地域において高く、北陸、北関東、東海、中国、四国、東北の6地域において低かった。2003年までには、東北と四国が低位グループから高位グループに移り、南関東が高位グループから低位グループに移っていることが分かる。
有効求人倍率を地域別にみると、全国平均よりも低い地域として、九州、北海道、東北、近畿があり、これは完全失業率の高い地域とほぼ重なっている。このように有効求人倍率を地域別にみても、低い地域と高い地域が中長期的に固定され、有効求人倍率が高いと失業率が低く、有効求人倍率が低いと失業率が高いという関係がみられる。そうしたなかで、97年頃までは有効求人倍率が全国よりも高かった東北が下位グループに移り、かわりに関東が上位グループに移っており、完全失業率についてもこの2地域に動きがみられる。