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第3節 社会インフラの供給基盤

本節では、経済活動を支える基盤として社会インフラの課題を検討する。人材や金融サービス同様、企業が生産や営業拠点を考える際に、社会インフラは重要な判断材料となる。社会インフラの範囲は広く、道路、港湾、空港、上下水道や電気・ガス、医療、消防・警察、行政サービスなど多岐に渡るが、ここでは、生産基盤となる道路、港湾、空港といった交通インフラ、電力事業、電気通信事業を採り上げる。これは、企業の立地選択には、生産基盤の提供する財・サービスのコストと品質の与える影響が大きいためである。

こうした生産基盤となる社会インフラの整備を取り巻く我が国の状況としては、人口構造の変化や技術の変化、既存施設の老朽化への対応と我が国が直面している厳しい財政状況等や、巨大災害に適切に備えることなど、課題が多い。例えば、人口が減少すれば、社会インフラの利用頻度が低下し、当該インフラ整備の費用対効果が悪化すると考えられる。また、産業構造の変化や技術の変化によって、必要となる社会インフラの内容、質、そして量も変化すると考えられる。

以下では、こうした認識の下、企業が必要とする社会インフラを提供していくための課題と対応について検討していく。

1 社会インフラの現状と整備に関する考え方

最初に、我が国の社会インフラに対する企業の評価を確認しよう。その上で、社会インフラ整備を巡る、人口減少、我が国が直面する厳しい財政状況等や社会インフラの維持管理・更新費の増大などの制約や課題について、最近の議論を紹介する。

港湾・空港の質に関する評価は高くない

主要国のビジネス関係者に対して行った社会インフラの質に関する意識調査では、我が国の社会インフラの質に対する評価は分野によって差がある。交通インフラの場合、道路の質に対する評価は144か国中14位でOECD平均よりも高いが、港湾は31位でOECD平均と同程度、空港は46位でOECD平均を下回っている(第3-3-1図(1))。

港湾の評価については、コンテナのターミナル内での貨物滞留時間が、シンガポールなどより長く76、また、大水深コンテナターミナル(水深16m以上の岸壁)の数が近隣アジアの主要港湾に比べて少ないといったことが影響していると考えられる(付図3-5(1)①、②)。空港については、首都都心部から主要空港へのアクセスに時間を要することなどが影響していると考えられる(付図3-5(2))。

電力の質については、2012年にOECD平均を下回っている。ただし、2011年以降に順位を下げており、大震災の影響も考えられる(第3-3-1図(2))。通信の質については、ビジネス面の要求水準を満たしているとの回答割合がOECD平均より高い(第3-3-1図(3))。これは、企業向け電話料金は国際的に見て高いものの、インターネットの通信料金は安いことが関係していると考えられる77

生産年齢人口は、地方圏を中心に全国的に減少

一方、グローバルな企業競争を支える社会インフラ整備を巡っては、維持管理・更新費の増大といった課題に対して人口減少や予算といった制約がある。こうした課題と制約の関係について概観しよう。

まず、人口について、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(2012年)によると、2013年の日本の総人口は1億2,725万人(出生中位・死亡中位推計値)となっている。また、生産年齢人口(15~64歳人口)は、1995年の国勢調査にて8,726万人とピークに達し、その後減少局面に入った。

将来推計人口の出生中位・死亡中位ケースの結果に基づくと、日本の総人口は2030年に1億1,662万人まで減少し、生産年齢人口も2027年には7,000万人を下回る水準になると見込まれている(第3-3-2図(1))。地域別の生産年齢人口は、2010年以降2030年に至るまで、いずれの地域でも減少するが、特に、北海道、東北、四国の減少が著しい(第3-3-2図(2))。また、こうした地域では人口密度(人/平方キロメートル)が低下し、四国では2020年に、中国地方でも2035年に200人を下回ると見込まれている(第3-3-2図(3))。

公共投資は96年をピークに、近年他の主要先進国と同水準まで低下

次に、主に社会インフラ整備を担ってきた予算について振り返ろう。我が国の公共投資の規模(一般政府の総固定資本形成(対GDP比))は、欧米主要国と比較して、90年代は高い水準で推移した。これは、90年代の経済情勢の悪化に際して講じられた累次の経済対策において、公共投資を利用した需要喚起策が頻繁に利用されたためである78。しかし、財政の悪化が顕著になってきたこともあり、2001年以降、政府は公共事業予算について、「主要先進国の水準も参考としつつ公共投資の対GDP比を中期的に引き下げていく必要がある」79、また、「景気対策のための大幅な追加が行われていた以前の水準を目安に、その重点化・効率化を図っていく」80との方針を決定し、公共投資の削減を行ってきた。こうした結果、GDPに対する公共投資の比率は低下が続いた。リーマンショック後、経済危機対応として需要を喚起する経済対策を実施したため、公共投資も増加したが、2011年には主要先進国と同程度の水準となっている(第3-3-3図(1))。

他方、こうした公共投資によって形成されたストックを一般政府の有形固定資産の対GDP比として評価すると、我が国は、2011年時点で欧米主要国に比して約1.5倍以上となっている(第3-3-3図(2))。これは、90年代以降、日本の有形固定資産の伸びに比して名目GDPの伸びが欧米諸国に比べて顕著に低いことによるものである。なお、各国によって算出に用いる減価償却の手法や耐用年数等が異なることなどに留意が必要である。

社会インフラ整備に関する最近の考え方

これまでの資本ストックの増加に伴い、他の状況に変わりがなければ、維持管理・更新費は増加を続ける見込みである。社会インフラの維持管理・更新に要する費用は、これまで過去の投資費用(新設、災害復旧費など)をベースに一定の仮定81を置いて推計されており、その結果によると、高度経済成長期以降の投資分が将来の更新費を押し上げていく姿となっている82

今後の人口見通しや財政健全化に向けた取組を踏まえつつ、必要な社会資本ストックの整備を行うためには、新しい発想と仕組みにより社会インフラの整備に取り組む必要がある。こうした問題意識の下、経済財政諮問会議においては、「21世紀型社会資本整備に向けて」として、今後の社会資本整備について、民間議員から示された考え方83などを踏まえた議論が行われ、「経済財政運営と改革の基本方針~脱デフレ・経済再生~」に取りまとめられた。

その議論の内容などを踏まえつつ、社会インフラ整備に関する最近の考え方に共通するポイントを整理すると、第一は、「選択と集中」の徹底である。公共投資の実施における国と地方の役割分担をより明確にし、民需誘発効果や投資効率などを踏まえつつ、整備を行うことが重要との指摘である。国は、全国的な見地から必要とされる基礎的・広域的事業に集中し、国際競争力を強化するインフラ(ハブ空港・ハブ港湾など)や、民需誘発効果、投資効率の高い社会インフラを選択し、集中投資する。また、ICTを用いた社会インフラ自体の生産性向上の取組も重要となる。地方は、地域に密着した事業、地域の特色を生かした事業を行うが、その際も、コンパクトシティの形成84など、地方における戦略の明確化や優先順位付けが求められる。

第二は、民間資金を一層活用することである。整備・運営の効率化や提供されるサービスの質的向上だけでなく、民間による社会インフラ整備・運営により、財政負担の軽減が見込める事業については、民間資金を積極的に活用することが重要である。

第三は、アセットマネジメント・リスクマネジメントの改善である。アセットマネジメントとは、社会インフラを資産ととらえ、中長期的な視点から、社会インフラのライフサイクル全体にわたって効率的かつ効果的に維持管理・運営することである。情報の整備・活用、長寿命化計画の策定、コスト面・安全面からの最適な維持管理手法の導入などの取組が求められる。また、大震災などを踏まえて、巨大災害からの国家のリスクマネジメント(ナショナル・レジリエンス)の観点からの脆弱性評価、ICT活用によるモニタリングなどを通じた効率的なアセットマネジメントを推進していく必要がある。

以下では、こうした視点を念頭に置きながら個別の社会インフラの現状を見ていこう。

3-6 社会インフラ整備の資金調達方法の多様化とその可能性

我が国においては、民間の資金、経営能力、技術的能力を活用し、効率的かつ効果的に社会資本を整備し、低廉かつ良好なサービスを提供することを目的として、99年に民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律、いわゆるPFI法が制定された85

PFI事業は、99年度から2011年度の累計で418件、事業費は4.1兆円に上るが、その多くは、いわゆる「サ-ビス購入型」と呼ばれる、公共施設を割賦払いで購入していることと同義の事業であった(「延べ払い方式」ともいわれる)。こうした事業は、建設・運営に要する費用が全て公費で賄われており、民間資金の活用度、民間事業者の創意工夫の活用度において、十分ではない。

こうしたことを踏まえ、2011年改正では、2つの制度が導入された。第一に、利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を公共が有したまま、施設の運営を行う権利を民間事業者に設定する公共施設等運営権制度(いわゆる「コンセッション」)を創設した。第二に、民間事業者による提案制度を導入した。

こうした仕組みを整えることで、利用料金などの収入で資金回収を行い、公費負担の少ないPPP?86/PFI事業を具体的に推進することが可能となる(コラム3-6図)。公共施設等運営権制度を活用したPFI事業、収益施設の併設・活用など事業収入等で費用を回収するPFI事業、公的資産の有効活用など民間提案を活かしたPPP事業といった、民間の創意工夫をより生かした事業の実施が期待される87

2 交通インフラの現状と課題

初めに、道路、高速道路、港湾、空港といった企業活動を支える基礎となる交通インフラの整備動向や課題について検討していこう。

(1)公共投資と交通インフラの整備動向及び生産活動との関係

我が国の交通インフラの整備は、これまで主に国、地方及び公的機関が実施する公共投資により図られてきた。以下では交通インフラにあたる道路、港湾、空港の各分野における投資額やストック額を概観し、交通インフラとマクロの生産活動の関係を確認する。

道路、港湾への投資は2000年代に減少

交通インフラへの投資額の推移について個別に示そう88。道路及び港湾への投資額は、90年代に実施された累次の経済対策などにより大幅に増加した。道路への投資は国の一般会計を通じて高水準を維持したが、94年以降は公共事業関係費の当初予算が抑制されたこと、財政投融資資金による道路投資も90年代後半以降、減少に転じたこと、98年以降には、地方の投資額も減少基調に転じたことなどから、2000年代には減少傾向となった。

港湾については、港湾整備特別会計により整備されてきたが、主たる歳入項目は一般会計からの繰入れである。補正予算による一般会計からの繰入れの増額に応じて、95年頃まで港湾への投資も増加傾向が続いたが、繰入れが減少するにつれて、公共投資も減少を続け、2009年度は80年度とほぼ同水準となっている。

空港については、70年に空港整備特別会計による空港整備事業が始まって以降、受益者負担による整備が行われており、投資額の推移は、道路や港湾とは異なっている。空港の公共投資額の高まりは、80年代後半から90年代半ばと、2005年以降に見られるが、前者は東京国際空港(羽田空港)の沖合展開・機能向上、後者は羽田空港の再拡張のために、財政投融資資金を活用した投資が行われたためである(第3-3-4図(1))。こうした結果、交通インフラの粗ストック額は、98年度から2009年度にかけて、道路は約4.5倍、空港は約3.5倍、港湾は約3倍と大幅に増加したが、投資の鈍化・減少を受け、2000年代の増勢は鈍化している(第3-3-4図(2))。

都市圏の交通インフラは人口・経済規模に対して低水準

次に、地域別の交通インフラの水準を比較しよう。交通インフラは、対県内総生産比で見ても、就業者一人当たりで見ても、北海道、沖縄、四国、東北、中国の値が大きく、南関東、東海、近畿の値が小さい(第3-3-5図(1)、(2))。

こうした地域別の交通インフラ(対県内総生産比、就業者一人当たり)のばらつきは、政策の動きを反映している。交通インフラの相対規模(対県内総生産比、就業者一人当たり)が地方圏の方が大きかった背景には、「均衡ある国土の発展」(第三次全国総合開発計画、77年)や「多極分散型国土の形成」(第四次全国総合開発計画、87年)といったビジョン・計画の下で、公共投資による地域開発、地域間経済格差の是正が図られたためである。交通インフラの相対規模の地域間でのばらつきは、対県内総生産比でみて90年、就業者一人当たりでみて87年まで、拡大傾向を続けた。

ただし、87年頃以降、本州四国連絡橋(児島-坂出ルート)の完成などにより地方圏への投資が減少した一方、東京外郭環状道路や羽田空港の沖合展開・機能拡張など、都市圏への投資が増えたこと、さらに90年代後半以降は地方による道路投資の減少や第七次空港整備計画(96年度~)で大都市圏における拠点空港の整備を最優先課題として取り組む必要があるとされたことなどにより、次第に地域間のばらつきの拡大が止まり、変動係数は2005年頃までおおむね横ばいで推移した。2005年以降は、自動車などの輸出主導の景気拡張となったことから、東海や南関東の県内総生産や就業者数が全国平均よりも大きく伸びた。その結果、ストックはあまり変化していないものの、県内総生産比、就業者一人当たりで見た地域別交通インフラのばらつきは拡大した(第3-3-5図(3))89

交通インフラを利用する運輸関連部門の投入比率は低下傾向

こうした交通インフラと生産活動の関係について、主に交通インフラを利用する運輸関連部門の動向を見てみよう。

まず、産業連関表(JIPデータベース)における製造業、サービス業及び全産業の産出に対する道路運送、水運、航空運輸各部門の投入比率をみる90。製造業における道路運送の投入比率は、90年代以降、道路運送の利用の多いセメントの産出低下などにより、緩やかな低下傾向にあったが、2005年以降は1.2%程度の水準にある。サービスについても、卸売、小売における投入比率の低下により、95年頃から緩やかな低下傾向を示してきたが、2005年以降は0.6%程度で推移している91。全産業は0.9%程度の水準となっている(第3-3-6図(1))。水運の投入比率については、製造業では0.3%~0.4%程度で横ばい、サービス業や全産業では2000年代後半にやや上昇傾向が見られたが、リーマンショック以降は低下している(第3-3-6図(2))92。航空運輸については、95年以降、比較的利用頻度が高い卸売やその他事業所サービスでの投入が減少したことにより、サービス業における投入比率が低下した。同様に、航空輸送の投入比率が比較的高かった印刷・製版・製本における投入の減少により、製造業の投入比率が低下しており、全産業への投入比率も低下傾向にある(第3-3-6図(3))。

次に、道路輸送、水運、航空運輸の最終需要が1単位生じた際に誘発される産業全体への生産波及(粗付加価値も含む国内生産額への波及)の相対的大きさを示す影響力係数(生産波及の全産業平均が1)をみると、航空運輸は1.05程度と全産業平均は上回るものの、道路輸送、水運はそれぞれ0.75、0.9と全産業平均を下回り、産業全体に与える生産波及効果が必ずしも大きいとはいえない(第3-3-6図(4))93

3-7 公共投資の生産力効果94

社会資本ストックの生産力効果を限界生産性から見てみよう95。ここでは、労働(マン・アワーベース)、民間資本、社会資本(社会資本全体のケースと交通インフラのケースの2パターン)の3つを生産要素とする生産関数を推定した96

結果をまとめると、第一に、社会資本全体より交通インフラの限界生産性が大きい。ただし、交通インフラの限界生産性は、産出の低下により資本係数の逆数(Y/KG)が低下したことから、2000年代後半は若干低下傾向にある(コラム3-7図(1))。

第二に、地域別には、南関東、東海、近畿といった都市圏の交通インフラの限界生産性が継続的に高く、北海道、四国、沖縄といった地域で低い(コラム3-7図(2))。これは、社会インフラに比して、民間資本や就業者といった生産要素が多く存在する都市圏において生産力が高いためであり97、都市圏への投資の生産力効果が相対的に大きいと考えられる。

(2)交通インフラの老朽化と維持管理

90年代までに交通インフラの整備に多くの投資が行われたが、ストックを利用し続けるには維持管理・更新費用がかかる。今後、時間の経過と共に交通インフラは老朽化が進み、必要な予算額も増えていくことが見込まれる。

老朽化した交通インフラが急速に増加する見込み

さきに述べた更新費の増加の背景には、過去に建設したストックの老朽化がある。交通インフラの老朽化の状況を詳しく説明しよう。

道路、港湾、空港それぞれの施設について、建設年度別の施設数を順にみると、道路(橋梁)の建設施設数は60年代後半から80年代前半頃に最も多く、市区町村による設置施設数が多い。道路(トンネル)については、60年代以降、設置施設数が年々増加しており、97年度にピークに達している。これは、都道府県・政令市による設置施設数が多い(第3-3-7図(1)①、②)。

港湾施設(水域施設、外郭施設、係留施設、臨港交通施設の4施設。以下、「4施設」)については、70~80年代に建設されたものが多く、大半は地方公共団体などの管理する施設である(第3-3-7図(1)③)。空港については、第2次世界大戦後、米軍から徐々に返還がなされる中、56年に空港整備法が制定され、戦後の空港整備事業が本格化した。国管理空港は60年代前半から整備が進められ、地方管理空港も高度成長期に整備されたものが多い。ただし、80年代後半以降は、「一県一空港」の方針(第5次空港整備計画、86年~)の下、空港空白地域のない国土形成が目指されたこともあり、専ら地方管理空港が整備された(第3-3-7図(1)④)。港湾、空港についても、地方公共団体が設置主体の施設数が多い。

次に、2012年度末時点において、建設年度が把握されている施設の管理者別平均ストック年齢は、道路(橋梁)は都道府県・政令市の管理するストック年齢が38年、道路(トンネル)の場合は市区町村管理のストック年齢が46年、港湾施設(4施設)のストック年齢は国有及び港湾管理者所有(地方公共団体など)ともに31年であり、空港の場合は国管理のストック年齢が41年となっている(第3-3-7図(2))。

現存施設のうち建設後50年を経過した施設の割合(経過施設割合)を見ると98、道路(橋梁)は、2013年度末の経過施設割合は18%であるが、70年代に整備された多くの道路(橋梁)が50年を経過する2030年度末には60%に急上昇する。道路(トンネル)及び港湾施設(4施設)についても、2013年度末の経過施設割合はそれぞれ20%と12%であるが、2030年度末にはそれぞれ45%、46%に上昇する見込みである。空港は、60年代初頭までに整備された国管理空港が建設後50年を経過することから、経過施設割合は2013年度末に22%となっている。70年代までに大半が整備された国管理空港と過半の地方空港が50年経過施設となる2030年度末には、その割合は61%に上昇する(第3-3-7図(3)①)。

現存施設のうち建設後50年を経過した施設の割合を施設設置主体別に見ると、道路(橋梁)、道路(トンネル)、港湾施設(4施設)、空港のいずれについても、施設設置主体を問わず経過施設割合が急速に高まっていくことが分かる(第3-3-7図(3)②~⑤)。

厳しい財政状況下では、既存インフラの見直しや民間活力の活用も必要

こうした老朽化が深刻化していく中、国や地方公共団体はどのように対応すべきだろうか。地方公共団体に対するアンケート調査結果によると、今後、社会資本の維持管理・更新需要の増大への懸念としては、「財政負担や住民負担の増大」、「既存の社会資本の更新や改良の断念や遅れ」、「既存の社会資本の維持管理水準の低下」などが挙げられている(第3-3-8図(1))99。特に、都道府県において、維持管理・更新需要増大への懸念割合が高い。

懸念される内容への対応策として関心があることとしては、財源確保の他、長寿命化対策などの実施や既存社会資本の見直し(廃止、縮小、統合等)といった回答が多い(第3-3-8図(2))。回答主体別では、市区町村は財源の確保には関心が高いが、長寿命化対策等の実施や民間活力の活用への関心が低い傾向がある。

また、別の地方公共団体へのアンケート調査の結果によると、施設管理者である地方公共団体に、中長期的な維持管理・更新に必要となる費用の把握もままならないところが多く、都道府県及び政令市の約4割、その他の市町村の約7割の自治体が必要費用額を把握していない。また、費用を把握していない自治体の過半は、費用推計に必要となるデータさえも蓄積しておらず、政令市の三分の二は予算が不足して費用の把握ができないと回答している(第3-3-8図(3)、(4))100

財政健全化という課題がある一方で、質を維持しつつ、公共サービスを提供していくためには、こうした資産の適切な管理は不可欠である。また、将来にわたって適切なアセットマネジメントを実現するためには、将来の社会インフラ需要を見込んだ「選択と集中」が求められる。その際、さきに紹介したPPP/PFI事業や指定管理者制度の活用101により、効率的な維持管理・更新を進めていくことも必要である。

高速道路料金は、2005年以降、段階的に低下

高速道路の整備は、国の計画に基づき、旧道路関係四公団(日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団)が一括して実施してきた。公団の民営化に際し、高速自動車国道を税で整備する、いわゆる新直轄方式を新たに導入するとともに、2005年10月1日以降は、高速道路の建設債務の返済を行うことを目的として設立された(独)日本高速道路保有・返済機構が日本国内の高速道路などの施設を保有することとなり、高速道路の維持・修繕を含む管理運営業務は各道路会社102が行っている。高速道路の整備、維持管理に係る費用103は、利用者が支払う料金により賄われる。その際、サービス提供側の事業経費を賄うに足る料金が設定されることになるが、その水準が高止まりするようであれば、社会インフラとしては好ましくなく、事業者に選択される産業立地環境を提供するためには、安価で安定的なサービスが求められる。こうしたことから、高速道路会社には一般事業会社と同様に予算制約が課されることとなるため、ここでは料金面に着目して分析を行うこととする。

高速道路の料金設定については、区間により対距離料金制あるいは均一料金制がとられている104。対距離料金制については、利用距離に対して課する可変額部分と利用1回に対して課する固定額部分からなる。可変額部分については長距離逓減制がとられている。なお、対距離料金制の例外として大量の交通量を円滑に処理する必要がある区間では均一料金が設定されている(付図3-6(1))。

諸外国では、例えばフランス、イタリア、韓国において、我が国と同様、高速道路を有料としており、料金設定は対距離料金制あるいは均一料金制がとられている。1キロメートル当たりの料金水準を比較すると、我が国の料金設定はこれらの国々と比べて高い(付図3-6(2))。ただし、この背景には、我が国では、全国的なネットワークにおいては、建設債務の償還に必要な負担は利用者に求められていることなど、各国で公費負担の仕組みが異なるという事情が反映されている。

我が国の高速道路料金は、各種割引制度の導入により、低廉化が図られてきた。高速道路料金は、2004年までおおむね横ばいで推移してきたが、2005年4月に大口・多頻度利用者に対する割引が開始されたため大幅に低下した105。その後、原油価格高騰による負担緩和のための割引制度の導入などから2008~09年にかけて更に大幅に低下した。2004年の水準と比べ、最近では約55%程度の水準まで低下しているものの、諸外国と比較すると依然高い水準にある。なお、当該割引制度は時限的措置であるため、2013年度末で終了する予定となっている(第3-3-9図)。

なお、今後の料金制度の在り方については、社会資本整備審議会・道路分科会国土幹線道路部会(2013)において、「ネットワーク形成の進捗状況を踏まえ、高速道路の料金設定の考え方の軸足をこれまでの『整備重視の料金』から『利用重視の料金』に移していくとともに、シンプルで合理的な料金体系とすることが肝要」とされた。具体的には、対距離制を基本として、料金の低減への努力を図りつつ、普通区間・大都市近郊区間・海峡部等特別区間の3つの料金水準に整理すべきとされた。

また、料金水準については、「今後予定されている定期的な償還計画の見直しの中で対応することを検討すべき」ともされている。さらに、更新の負担のあり方については、料金の引上げにより現世代のみに新たな負担を求めることは理解が得られにくいと考えられることなどから、民営化時に想定していた債務の償還満了後の料金徴収期間の延長による負担について検討すべきとされた。この「検討にあたっては、高速道路会社の有識者委員会における更新事業規模を踏まえれば、現行の料金水準を維持するとして、10~15年程度の延長を目安とすることが考えられる」ともされている。

将来の維持管理負担のあり方については、「償還満了後も、高いサービスレベルを維持し、適切な維持管理を実施するため、引き続き利用者に負担を求め、低廉な料金を徴収し続けることも検討すべき」とされている106

高速道路の収益性には大きな路線格差

料金が低下傾向にある中で、高速道路ごとの収益性はどうなっているだろうか。先にも触れた通り、2005年に、高速道路事業は、日本道路公団の地域分割と株式会社化、首都高速及び阪神高速並びに本州四国連絡橋の各公団の株式会社化、そして各公団保有の道路資産と債務を引き受ける独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構の設立という上下分離と地域分割を同時に行う株式会社化(民営化)が行われた。これにより、各道路会社は、高速道路を借り受けて料金を得るビジネスを行う主体となったが、改革後7年を経た状況について調べてみよう。

まず、高速道路事業の収支について確認すると、道路別の供用延長1キロメートル当たりの営業収支差(単位当たり収支)と同道路の供用延長1キロメートル当たり再調達原価(単位当たり資産価値)の間には、正の相関があるものの、道路によって収益率にはばらつきが見られる(第3-3-10図(1))。これを道路会社別にまとめると、道路別収益率のトレンドからのかい離幅の分布は地域会社によって異なることが分かる(第3-3-10図(2))。西日本道路会社は、比較的似た収益率の道路が多く、管内の道路間収益率格差は大きくない。東日本道路会社は、収益率の分布にピークが二つあり、ある程度高めの収益率群と低めの収益率群の二種類が混在している。同様に、中日本道路会社にもピークが二つあり、収益率の低い群の方が高密度となっている点が東日本道路会社と異なる。こうした収益性の違いは、路線ごとに、単位当たり資産価値や料金収入が異なることに起因しており、全国同程度の水準で設定されている通行料金に対し、路線ごとの建設コスト、交通量及び利用距離に差があることを示していると考えられる。

(3)人口動態の変化が交通インフラの維持管理に与える影響

交通インフラへのニーズは、今後の人口減少により大幅に変化する。こうした人口変化が与える影響について、以下で確認しよう。

人口減少下では、地方圏において交通インフラの単位コストが高まる懸念

人口減少が生じた場合の交通需要への影響を示そう。道路の交通量密度(面積1平方キロメートル当たりの年間交通量)、港湾の年間取扱貨物量、空港の年間乗降客数は、いずれも人口との間に一定の関係がある(第3-3-11図(1)①~③)。もちろん、交通需要は、人口だけではなく、交通のモーダルシフト(輸送手段の転換)、観光振興、産業構造の変化、人口の集積などの要因によって変化する。道路であれば、いずれの要因からも影響されるであろうし、空港は専ら交通のモーダルシフトや観光振興、港湾は産業・貿易構造の変化の影響を受けると考えられる。ここでは、こうした影響はあるが、それらが一定であると仮定した上で、人口や人口密度との関係だけが変化した場合の影響を検討する。

まず、2010年の道路の交通量密度と人口密度の関係を前提とし、2040年の人口密度から2040年の交通量密度の見込みを求めると、2040年の交通量密度は、2010年に比して減少し、分布は左下に遷移する(前掲第3-3-11図(1)①)。同様に、港湾及び空港についても、それぞれ年間取扱貨物量、年間乗降客数と人口との関係を前提とすると、2010年に比べ2040年の年間取扱貨物量と年間乗降客数の見込みは、それぞれ減少し、分布は左下に遷移する(前掲第3-3-11図(1)②、③)。

次に、交通インフラの多くは、利用者の増加によって平均費用が逓減するという規模の経済性を有していること、逆にいえば、人口減少により利用者が減少すれば、平均費用が逓増していくことを、道路、港湾、空港について確認しよう。

道路について、交通量密度を道路サービスの産出量とし、交通量当たりのコスト(維持、管理費に道路ストック額を平均耐用年数(50年)で除した額を加えたもの)を道路サービスの単位費用として、両者の関係を描くと、産出量が増加/減少するほど、単位費用が逓減/逓増する傾向が見られる。また、交通量密度が年間6.2万台を超えると、単位費用が逓増していく傾向も見られる(第3-3-11図(2)①)。

さきの2040年における道路交通需要の見込み値に対応する、道路ストックの維持管理・更新に要する平均的なコストが現在と同様の水準のまま推移すると、交通需要量の減少により、道路の維持管理・更新に要する単位コストは、30年の間に全都道府県平均で約0.9%上昇すると見込まれる(第3-3-11図(2)④)。

港湾や空港についても、地域別の取扱貨物量や年間乗降客数を産出量とし、地域別の産出量一単位当たりのコストを単位費用として図を描くと、いずれについても、産出が増加/減少するほど単位費用が逓減/逓増する傾向がある(第3-3-11図(2)②、③)。同様に、さきの2040年の地域別取扱貨物量や乗降客数の見込み値に対応する、地域別の港湾及び空港の維持・更新に要する平均的なコストが現在と同様の水準のまま推移すると、維持管理・更新に要する単位コストは、30年の間に、全地域平均でそれぞれ2.3%増加、3.8%減少(羽田空港を除くと10.2%増加107)すると見込まれる(前掲第3-3-11図(2)④)。

人口減少や少子高齢化といった構造変化によって交通需要量が減少する中、現在の交通インフラを維持した場合、交通インフラの単位コストは大都市圏では下がるものもあるが、地方圏では高まる懸念がある。交通インフラの利用効率を高い水準に維持できるよう、道路については、コンパクトシティ形成や交流人口の増加などの地域ごとのまちづくりと道路管理の整合性を高めていくことが一層求められる。また、港湾や空港については、集中化が有効であり、各地域の地理的条件なども踏まえつつ、効果的なネットワークを国として形成していくことが求められる108

高速道路においても交通量当たりの費用が増加

高速道路事業についても、人口減少が需要減となれば収益に影響を与える。交通量と料金収入及び平均費用の関係について、会社別の収益環境から考えてみよう。ここでは、高速道路の路線別の交通量(各路線の一日の支払料金所の平均通行台数)及び料金収入を用いて分析を行う。路線ごとに、延長や通行車両の平均的な走行距離が異なることに留意が必要だが、一日当たり平均通行台数の動きによって、平均的な収支の動きを見ることができる109

まず、料金収入と交通量の間には、線形の関係が確認され、首都高速・阪神高速の場合は、上記の定義による1日当たり平均通行台数が1万台増加すると年間料金収入は約18億円増える(第3-3-12図(1)。約18億円は、図中の傾きに相当)。また、NEXCO各社(西日本道路会社、中日本道路会社、東日本道路会社)の場合は、28億円から35億円弱の増加となっている。こうした違いには、各会社を利用する1台当たりの平均走行距離が影響していると考えられる。

次に、平均費用を管理費用と利用する高速道路の年当たり再調達原価の合計(万台当たり)と定義すると、交通量の増加は、ある程度のところまでは平均費用を押し下げるが、一定の交通量を超えるところでは、費用を押し上げる傾向が見られる(第3-3-12図(2))。こうして得られた平均料金収入と平均費用を重ね合わせると、平均費用を料金収入で賄うことができる平均的な交通量の目安が求められる(第3-3-12図(3))。

下限についてみると、一日当たり平均交通量を構成する個別道路の平均走行距離と台数の相対関係が不変であれば、NEXCO3社の場合、2011年度の平均交通量を100とすれば、90から120が必要な交通量と求められる。同じような考え方で、首都高速・阪神高速の交通量を求めると、70となる。首都高速・阪神高速の場合、2006年度以降、上記の定義による平均収入は平均費用を上回っているが、NEXCO3社の場合、平均費用が平均収入を超過している年度も見られる。他の条件が一定の下で110、人口減少により通行台数の減少が生じれば、交通量当たりの費用は高まる111

人口減少への対応が課題という指摘は、さきの社会資本整備審議会・道路分科会国土幹線道路部会(2013)においてもなされている。NEXCO 3社の発足当時(2006年3月末)の料金収入見通しと毎年の実績を比較すると、リーマンショック後の2009度から2011年度の実績は、緊急経済対策として国費による時限的な料金割引を導入したことなどにより、料金収入は、発足当初の見通しの70%代半ばの水準にとどまっている。その結果、2006年度から2011年度の累積料金収入は当初見通しから13%程度下振れしている112

また、現行の償還計画の費用においては、新たな建設費用や維持管理費用は計上したものの、大規模修繕・更新に要する費用が十分に見積もられていなかったとの指摘もある。今後、償還計画と料金水準の見直しにあたっては、単に新たに費用を加算するのではなく、都市や地域活性化などの関連する施策の動向を踏まえ、現存施設の更新の要否や必要性を検証することなどにより、合理的な高速道路の更新を図る必要がある。

3 電力インフラの現状と課題

社会インフラである電力は、民間主体がサービスを提供してきたが、公益性のある事業として、業を営む上での義務として供給義務や料金規制が課せられている。こうした規制は、競争強化による効率性の改善や料金低下を意図した改革を通じて緩和されてきた。電力インフラの現状と課題、課題への対応策について検討しよう。

(1)電力インフラの現状評価

まず、電力インフラの供給能力や設備投資動向、マクロの電力需要と生産の関係を見ていこう。

電力事業の供給能力は緩やかに拡大

電力事業の供給能力は、2000年代に入ってから拡大テンポが鈍化している。電力の場合、地域独占の一般電気事業者が供給能力の7割を占めるが、最近では、自家発電の規模が拡大している(第3-3-13図(1))113。同様に、認可されている発電施設数については、一般電気事業者の施設数はほとんど変化しておらず、専ら自家発電の施設が増減要因である。自家発電施設数の推移を見ると、90年代後半から2005年まで増加した後、減少に転じたが、2008年以降、再び増加に転じている(第3-3-13図(2))114。なお、電源別の施設数では依然として火力が大半を占めているが、自家発電施設数の増加には、再生可能エネルギーなどの普及も一定程度寄与していると考えられる115

一般電気事業者の設備投資は90年代前半から2000年代半ばまで減少

こうした電力事業のうち、一般電気事業者(沖縄電力を除く9社計)の設備投資動向を見ると、93年をピークに2005年まで低下した。その後、2008年まで持ち直したが、2009年以降は横ばいとなっている。設備投資の動きを反映し、資本ストック残高は99年をピークに低下している(第3-3-14図(1))。電力事業については、いわゆる総括原価方式により料金が算定されていることから、過剰な設備投資が行われやすいとの指摘がなされていた116。経済成長の低迷に伴って電力需要の伸びが鈍化したことの影響もあろうが、90年代における高コスト構造是正に向けた規制改革や制度改革の流れを受けて電気料金が低下する中、設備投資が抑制又は効率化されてきた面もあると考えられる。

電力事業の投資収益率については、2005年頃までは安定的に推移し、9社間にも大きな格差は生じていなかった(第3-3-14図(2))。しかし、2008年度は燃料費が高騰したため、電源構成の会社間差異が収益率格差を広げる結果となった。また、2011年度には、原子力発電所の稼働停止と発電源の火力シフトに伴う費用増加が収益を圧迫し、平均収益率がマイナスに陥る状態となっており、企業間の収益格差も明確に表れている。

電力需要と生産の関係は安定的

電力と生産活動の関係について、産業連関表(JIPデータベース)における各部門の産出に対する電力の投入比率を見ると、製造業では、電力利用の多い紙・パルプの生産減少などにより、2000年代に若干下落して1.6%程度となっている。サービス業では、90年代に小売業、鉄道業、飲食店における電力の投入比率が増加したことなどが全体を押し上げ、1.1%程度となっている。全産業では1.2%程度である。(第3-3-15図(1))。次に、製造業の主要業種における生産数量に対する電力消費の弾力性を求めると、鉄鋼や非鉄金属が高めの値となり、製造業全体としては、0.5~0.6程度となっている。リーマンショック前後で弾力性の下落が生じているが、化学は低下したままであり、構造的な変化が生じたことを示唆している(第3-3-15図(2))

(2)電力インフラの維持管理・更新を巡る課題:料金制約

利用者が払う電力料金は、サービス提供側の事業経費を賄うに足る水準に設定されているが、事業者に選択される産業立地環境を提供するためには、安価で安定的なサービスが求められる。

電力の料金水準は上昇傾向

我が国の電力料金は高いとの指摘を背景に、90年代以降、累次の電気事業制度改革が行われ、電気料金についても低廉化が進められてきた。料金改革には大きく分けて二通りあり、第一は総括原価方式という料金算定ルールの改善、第二は競争促進である117。料金算定ルールの改善に関しては、これまで、総括原価方式の見直し自体は行われてきていない。総括原価方式には、電力会社の料金を引き下げる誘因は内在していないが、これを補うため、認可の際に類似の事業環境で独占的に事業を行っている複数の事業者間での相対評価を行うことにより、料金の低廉化を図る方法(ヤードスティック法)が95年に導入された。また、2012年3月に、「電気料金の制度・運用の見直しに係る有識者会議」の提言を受け、人件費などの算定基準の明確化や原価算定期間を原則3年とするなどの料金算定ルールの見直しを行っている。また、競争による料金低下を実現できるよう、発電部門においては、参入障壁の緩和や撤廃という制度改正が行われた。

こうした一連の改革が行われて久しいが、OECD/IEAの調査によると、最近の我が国の産業用電力料金は、英国やドイツと同程度であるが、韓国、アメリカやフランスに比べれば高い(第3-3-16図(1))。電力料金の大半は燃料費で構成されており、例えば、燃料となる原油やLNG、石炭の価格に影響される。我が国の購入するLNGの価格は原油価格に連動する仕組みで契約する場合が多く、このところ高止まりしている(第3-3-16図(2))。なお、我が国のLNG価格は欧米諸国に比べて高く、英国(NBP(National Balancing Point))の倍、アメリカ(ヘンリーハブ)の3倍となっており、これは主にハブ価格(パイプライン交差地点の「ハブ」(集積地)で取引される価格)を採用する欧米諸国と原油価格リンクを採用するアジア諸国との間の契約の違いに起因している。したがって、欧米諸国では需給軟化は価格に反映されやすい一方、アジアでは、1)中国、インドを始めとする新興輸入国で原油需要が増加していること、2)天然ガスの代替供給源が少なく、相対取引において価格が下方硬直的となりやすいことなどが、価格高止まりの原因と考えられる。

2012年の発電実績によると、大震災後の原子力発電所の稼働停止による火力シフトの結果、火力発電への依存度が89%と高まったこともあり、燃料の輸入価格が電力料金の上昇要因となっている(第3-3-16図(3))。また、電気料金に関するIEAの予測によると、我が国の電力料金は、2010年から2020年までは年率0.5%程度の上昇、その後2035年まではほぼ横ばいで推移すると見込まれていた。しかし、2012年の電力料金は上述した要因により、2010年に比べて13%高い水準となっている(第3-3-16図(4))118

なお、電力は安全を前提として安価で安定した供給体制が求められており、将来のエネルギー政策の方向性について、検討が進められている119。また、日本においては温室効果ガスの約9割はエネルギー起源CO2であり、地球温暖化対策についても、エネルギー政策の検討状況を考慮しつつ検討が進められている。

(3)人口動態の変化がインフラの維持管理に与える影響

電力インフラの維持管理・更新を巡る課題としても、需要動向を左右する人口減少の影響がある。また、大震災とこれに伴う原子力事故を契機に、電力を巡る状況は大きく変化している。2013年4月に閣議決定された「電力システムに関する改革方針」では、1)電力の安定供給の確保、2)電気料金の最大限の抑制、3)需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大、を目的とした制度改正を行うこととしている(コラム3-8参照)。これらの目的を果たす手段の一つが、発電・送配電・小売が垂直一貫体制となっている一般電気事業者の送配電部門の法的分離である。このような改革が今後行われることも踏まえ、電力需要と電力供給費用の関係について、発電・送配電など部門の違いに着目して考察する。

電力においても規模の経済性が失われるおそれ

交通インフラ同様、電力インフラについても、固定費用が大きく、規模の経済が働くため、長期平均費用曲線は右下がりになることが想定される。電力事業に要する平均費用と需要量の関係を分析すると、各電力会社に固有の要因による差異や年度による差異を除外した上でも、需要の規模が大きくなるほど平均費用が低くなるという関係が確認できる。(第3-3-17図)。他の条件が一定であれば、人口減少に伴い需要が減少すると費用が逓増する関係にあり、現在のインフラの規模を維持していくと、単位費用の増大が見込まれる。

発電部門の平均費用は、発電量に対して緩やかに逓減

部門間分離の意味を考えるため、発電、送電、配電の三部門の費用の特性について調べよう。発電部門については、95年に特定電気事業が創設され、2000年には特定規模電気事業が創設されたが、発電部門は依然として一般電気事業者が主たるシェアを占めているため、一般電気事業者である主要9社を中心に分析していく(前掲第3-3-13図)。

まず、一般電気事業者の発電部門における平均費用(発電量当たり発電費)と発電量との関係からは、平均費用が発電量に対して緩やかに逓減していることがわかり、発電量に規模の経済性がうかがえるが、それ以外に各社の電源構成や発電技術の違いも影響していると考えられる。また、会社ごとの平均費用と発電量の関係も併せて確認すると、会社規模にかかわらず費用に下限が存在しているようである(第3-3-18図)。会社ごとの規模の経済性は強く、発電部門の規模の経済性は各社の電源構成(発電所・発電技術)に由来している面が大きいと見られる。

こうしたことから、新規参入者は、初期費用に加え、一定の運転費用が確保できさえすれば、発電規模が比較的小規模であっても競争可能と見込まれる。一方、一般電気事業者全体についてみると、規模の経済性がさほど強くは働いていないため、地域間の統廃合により経済合理性を追求する誘因は大きくないかもしれない。したがって、発電部門の参入自由化は、新規事業者の参入を促して既存事業者と併存する状況をもたらすと期待されるが、料金が大きく低廉化するためには、平均費用の下限を変えていくような発電技術の進歩が必要であろう。

送電部門には会社固有の要因による費用のばらつきが存在

送配電については、安定供給維持の観点から、電力システム改革において引き続き地域独占とし、総括原価方式などの料金規制により送配電線などに係る投資回収を制度的に保証するとされている。

送電部門における平均費用(単位需要電力当たりの費用)と送電距離(単位需要電力当たりの架線延長)との関係を見ると、緩やかであるが、送電距離が長くなるほど平均費用が高くなることが分かる(第3-3-19図(1))。また、送電費用に関する会社別の固定効果について確認すると、地域環境の差異によるばらつきが大きいことが分かる(第3-3-19図(2))。例えば、東京や関西の場合は、大都市部を抱えるために送電線設置に係る用地取得などに他の地域よりも多くの費用がかかることが影響していると考えられる。四国については、本州と四国を結ぶ連系線の費用が送電費用を押し上げている可能性がある。

当然ながら、会社固有の要因による費用のばらつきには、こうした地理的要因以外のものも含まれている。先述したとおり、総括原価方式自体には企業に費用の適正化を促す誘因は内在されていないため、補完的にヤードスティック方式を導入することにより、地理的制約などに配慮しつつ、企業間で費用の適正化が図られることが期待される。

配電部門の費用は需要者密度が影響

配電部門についても規模の経済性を検証しよう。配電部門における平均費用(単位需要電力当たり配電費用)と需要者密度との関係を描くと、右下がりの関係が見いだせる(第3-3-20図)。すなわち、需要(人口)密度が高ければ高いほど平均費用は安くなり、人口密度が低ければ低いほどコストは上昇する。こうした需要のばらつきは、電力会社がコントロールできるものではないが、他の条件が一定であれば、今後の人口減少や人口密度の低下により、家庭向け、事業向けを問わず、一般的な配電費用の高まりが懸念される。その結果、電力料金を誘因とした会社の立地や人々の暮らし方に変化が生じる可能性もあるが、同時に、街づくりや公共インフラの整備が電力コストにも影響を与える。人口密度の変化という共通課題に対し、地域における街づくりや公共インフラの集約化、コンパクト化は、電力料金の抑制という観点からも重要となってくる。

3-8 電力システム改革の概要

政府は2013年4月2日に「電力システムに関する改革方針」を閣議決定した。同方針においては、大きく分けて3つの改革を行うこととしている(コラム3-8図)。

第一は、需給のひっ迫や出力変動のある再生可能エネルギーの導入拡大に対応するため、2015年を目途に「広域的運営推進機関」を設立し、広域系統運用の拡大を図ることである。これにより、従来の区域(エリア)概念を越えた全国規模での需給調整機能を強化しようとしている。

第二は、家庭部門を含めた全ての需要家が電力供給者を選択できるようにするため、2016年を目途に小売の全面自由化を行うことである。その際、需要家が適切に電力会社や料金メニュー、電源別メニューなどを選択できるよう、国や事業者等が適切な情報提供や広報を積極的に行い、また、スマートメーターの導入などの環境整備を図ることで、自由な競争を促すとしている。ただし、一般電気事業者の料金規制は、実際に競争が進展していることを確認するまでの間、経過措置として継続するとしている。また、料金規制撤廃後も、需要家保護のため、最終的な供給保証を送配電事業者が行う等の措置を講じ、さらに、小売の全面自由化と併せ、発電の全面自由化等を行うとしている。

第三は、発電事業者や小売電気事業者が公平に送配電網を利用できるよう、2018年~2020年を目途に送配電部門の中立性の一層の確保を図ることである。具体的には、一般事業者の送配電部門を別会社とするが会社間で資本関係を有することは排除されない方式(「法的分離」)を実施する前提で改革を進めることを提案している。この際、送配電事業については、引き続き地域独占とし、総括原価方式などの料金規制により送配電線等に係る投資回収を制度的に保証する予定である。

4 通信インフラの現状と課題

電気通信についても、85年の日本電信電話公社民営化以降、電力同様、民間主体によるサービス提供が行われてきた。電気通信も、公益性のある事業として、料金や業を営む上での義務として、ユニバーサルサービスの提供義務や料金改定に関する公的なプロセスが法的に規制されている。これまでの通信インフラの整備状況とともに、こうした規制下で、通信インフラの維持管理・更新の課題について検討しよう。

(1)通信インフラの現状評価

まず、通信インフラの現状評価として、これまで整備されてきた通信インフラの供給力や設備投資動向、通信需要と生産の関係を見ていこう。

移動体通信・IPサービスの増大に伴い、設備投資は95年以降急拡大

通信サービスを量的にとらえ、情報通信ストックの能力を見るために、電話の発信回数や通話時間、情報の通信量(トラヒック量)を確認しよう。固定電話の発信回数は、90年代後半以降、携帯電話の普及とともに低下が続いており、2011年度には95年度の4割程度となっている。他方、携帯電話及びPHSによる発信回数は、2007年度に固定電話の発信回数を超過した後も緩やかながら増加が続いている。また、IP電話120については、2000年代後半に入り、発信回数が増加しており普及が進んでいることがうかがえる(第3-3-21図(1)①)。なお、通話時間については、発信回数とおおむね同様の傾向だが、通話時間の総合計は、このところ緩やかに減少している(付図3-7)。ブロードバンドのトラヒック量は、2004年から2012年にかけておおむね10倍となるなど、飛躍的な増加を示している(第3-3-21図(1)②)。

こうした通信モードの変化と需要の伸びに対応するように、インフラ整備は行われてきた。電信・電話の設備投資は、移動体通信の急激な拡大を反映した基地局整備や光ファイバー関連設備への投資により、96年から2000年に急速な増加を記録し、実質純資本ストックも急速に高まることとなった。情報サービス・インターネット付随サービスへの投資については、2000年代前半まで堅調に増加してきたが、このところ横ばいとなっている(第3-3-21図(2))。

通信サービスの中間投入需要は上昇傾向

通信と生産活動の関係について、産業連関表(JIPデータベース)における投入比率を見ると、小売や鉄道などにおける通信サービスの投入増加により、サービス業の投入比率は90年から2000年代前半にかけて3倍となっている。製造業における投入比率も、水準は低いものの同期間に3倍となっている(第3-3-22図(1))。また、電気通信部門において1単位の最終需要が生じた際に誘発される産業全体への生産波及(粗付加価値も含む国内生産額への波及)の大きさを示す影響力係数はおおむね0.8にとどまるが、インターネット付随サービスの影響力係数は1.1となっており、全産業の生産波及の平均を上回っている(第3-3-22図(2))。

(2)通信インフラの維持管理・更新を巡る課題:料金制約

通信サービス料金の水準が高止まりするようであれば、社会インフラとしては好ましくなく、事業者に選択される産業立地環境を提供するためには、安価で安定的なサービスが求められる。

企業向け通話料金は、依然、欧米諸国より高い

さきにも触れたとおり、85年に日本電信電話公社が民営化されてNTT(日本電信電話株式会社)となり、87年に長距離系新電電(第二電電、日本テレコム、日本高速通信)がNTTよりも安い料金設定で長距離電話サービスを開始して以降、電気通信分野において価格競争が進展し、固定電話を始めとする通信サービスの料金は低下してきた。まず、企業向け通信料金を日本銀行の「企業サービス価格指数」から見てみよう。固定電話の料金は、80年代後半から低下したが、特に上限価格規制(プライスキャップ規制)の適用121(2000年10月)、優先接続(マイライン)の導入(2001年5月)、直収電話サービスの登場122(2003年7月)に伴い、大幅に低下した121。2005年以降の水準は、85年と比べて4割程度低い。自由に設定される携帯電話・PHSの料金は、更に低下傾向が著しく、車載・携帯兼用自動車電話が登場した85年の六分の一以下の水準となっている。また、インターネット接続料については、2001年から2003年にかけて、料金が2割程度低下したのち、横ばい傾向となっている(第3-3-23図(1)①)。次に、家庭向け通話料金を総務省の「消費者物価指数」から見ると、固定電話の料金は、80年代後半から低下してきたが、2000年代に入ってからも、上限価格規制(2000年10月)や優先接続(2001年5月)、直収電話サービスの登場(2003年7月)などから、大幅に低下した。2005年以降の水準は、85年と比べて3割程度低い水準にある。携帯電話・PHSについても、2000年から2割低下した水準となっている。インターネット接続料については、2011年秋以降低下傾向にあり、2013年5月時点で、2005年から5%程度低下した水準となっている。いずれの通信料金も段階的に低下してきており、2000年代、デフレ状況下で低下基調にある企業向けサービス価格、消費者物価の総合より低下していることが分かる。

次に、企業向け通信料金を欧米主要国などと比べると、我が国は従量料金部分が高く123、企業向け加入電話料金は依然高水準にある(第3-3-23図(2))。一方、携帯電話の料金については、欧米諸国並の水準にあり、高速インターネット通信料金については、欧米主要諸国よりも安い水準にある。インターネットが急速に普及した現在においても、ビジネス環境の要素として通話料金は重要であり、低廉化が求められよう。

(3)人口動態の変化と通信インフラの維持管理に与える影響

通信インフラの維持管理・更新を巡る課題としても、人口減少に伴う需要変化のもたらす影響がある。通信は、ネットワークを利用してサービスを提供する費用逓減型産業である。また、一定のシェアを有する等の一部の通信事業者には、公正競争の促進や利用者利便の確保などの観点から、料金規制、接続関連料金規制、ユニバーサルサービスの提供の責務などが課せられており、全ての事業者が同一の条件下で競争しているわけではない。こうした規制にも触れつつ、固定ネットワーク、無線ネットワークの維持管理・更新に係る課題について検討しよう。

通信においても規模の経済性が失われるおそれ

通信は、固定的な設備費用が大きく、規模の経済が働くため、長期平均費用曲線は右下がりになることが想定される。契約数をサービスの産出量、その産出当たりの営業費用を平均費用として関係を描くと、産出が減少するほど単位費用が逓増する傾向が見られる(第3-3-24図)。通信においても、今後、人口減少などにより需要が減少する局面にあって、現在のインフラを維持していくと単位費用が増大すると見込まれる。

固定回線の単位費用は加入密度が減ると逓増

次に、固定回線のネットワーク別にも費用と需要の関係を示そう。加入電話網について、各都道府県において最も高コストの局と最も低コストの局のそれぞれごとに単位費用(回線当たり費用)と加入密度の関係の傾向線を描くと、いずれも右下がりの関係が見いだせる(第3-3-25図(1))124。また、光回線についても、単位費用(契約当たり費用)と加入密度の間には、同様に右下がりの関係がある(第3-3-25図(2))125。こうしたことから、加入密度の低下が生じる地域においては、加入電話回線と光回線のいずれにおいても、単位費用の上昇が生じる。したがって、電力同様、通信についても、料金を抑制していくためには、ネットワークの維持・管理を地域における街づくりや公共インフラの集約化、コンパクト化と連携していくことが重要となる。

固定電話網は収益率が低迷

固定回線ネットワークの単位費用が加入密度に大きく影響を受けるとすれば、人口減少や過疎化の進行は大いなるリスクである。契約者数をみると、携帯電話は増加しているが、固定電話はIP電話を含めてもこのところ契約者数の減少が続いている。このようなこともあり、固定系通信事業者の収益率は、2011年度には移動体通信事業者の十分の一の水準にとどまっている(第3-3-26図(1)、(2))。

ただし、こうした収益率格差が生じる要因は、契約者減少による収入減だけではない。一部の固定系通信事業者には、通信役務を日本全国にあまねく提供する責務126や保有する通信設備を他の事業者が利用した際に受け取る接続料の規律127がある(第3-3-26図(3))。公共サービス提供のための費用については、施設の維持や新たな技術導入への悪影響を避けるため、公正な競争環境の確保といった観点を含め、業者間で適切に負担されることが必要であろう。

IP網の契約数拡大が網の維持管理・拡充に必要

固定通信事業者は、既存のネットワークが機器としての寿命を迎えることや、通信量の増大に対応することなどを目的として、新しいネットワークへの移行を予定している128。この点、既存の施設の維持や拡大という点から、既に課題がある。

まず、従来のネットワークを維持するコストについて、当該ネットワークを利用したサービスである加入電話とISDNから得られる平均収入、平均費用と通話時間との関係から確認してみよう。データとしては、NTT東日本とNTT西日本それぞれが入手可能である。平均収入と通話時間の関係を描くと、通話時間の減少に伴い平均収入も減少する。一方、平均費用については、技術進歩や経営効率化などにより、平均費用曲線が下方シフトすることで、通話時間が減少しても平均費用は逓減する(第3-3-27図(1))。両社の実績から求められる平均収入曲線や平均費用曲線には、わずかであるが会社間の差があるため、ここではNTT東日本の曲線を例示的に描いている。2011年度時点における収入と費用の関係からは、1.4億時間弱の通信時間が収支均衡には必要となる。これは、2011年度の通話時間が、1.3億時間程度であったことから、現状の料金体系と需給状況では費用を賄えないことになる。2001年以降、通話時間が減少を続けていることも勘案すれば、赤字が拡大しつつ継続する可能性も否めない。こうした赤字が続く従来のネットワークを維持しながら新たなネットワークを維持及び拡充するということは、収益を一層下押しすることになる。

次に、新しいネットワークを利用した光サービスの収支についても、平均収入、平均費用と契約者数の関係から考察しよう。2009~11年度のデータからは、NTT東日本及びNTT西日本それぞれの契約者数が、おおむね830万人(両社合計で約1,660万人)を超えないと黒字化しない(第3-3-27図(2))。これは、NTT東日本が2010年度に達成した水準となっている129

固定系通信設備の維持管理・更新を効率的かつ継続的に行い、安定的なサービス提供を確保するに当たっては、従来のネットワークを並行して維持することによる過大なコストを抑えつつ、新しいネットワークを利用したサービスの契約数を拡大することが重要である。

加入密度減少は、移動体通信事業者の平均費用も増大させる

最後に、移動体通信事業者の設備の維持管理・更新と需要を規定する人口の関係について、平均費用(契約当たりの営業費用)と加入密度(1平方キロメートル当たりの契約数)の関係から考えてみよう。平均費用は、契約数の増加以外に、例えば技術的な進歩によっても低下すると考えられる。こうした要因をコントロールした上でも、移動体通信事業者の平均費用と加入密度との間に右下がりの関係が見いだせる(第3-3-28図)。すなわち、加入密度の低下に伴い、移動体通信事業者の平均費用は増加せざるを得ない。無線回線は有線回線よりも需要密度の低下に対して対応力があると考えられるが、加入密度の極度に低下した状態や空間においては、やはり事業の継続が容易でないことが見込まれる。

3-9 社会インフラの整備と新たな金融の流れ

本章では、金融(2節)と社会インフラ(3節)について取り上げたが、金融では民間投資への融資拡大が課題であり、社会インフラについては、民間資金を利用した公共サービスの拡充が課題である。そこで、二つを同時に解決するために信託を一層活用するアイデアがある(コラム3-9図)。

一般的に、社会インフラ整備の資金は公債発行か融資によって調達される。融資は銀行の本業だが、リスク管理の観点からは、融資先のリスク分散を図りたいし、期間のミスマッチも抑えたい。そこで、融資を信託で管理し、受益権を家計や投資家に販売すれば、リスクを移転しつつ、仲介機能を発揮できよう。一方の家計は、元本保証のない投資商品を購入する場合と同じく、リスクプレミアムなどにより、預金利子よりも高い配当を期待できよう。裏付資産である融資先が安定的な収入事業であれば、株式などより安定的なミドルリスク・ミドルリターンの投資といえよう。リスクを積極的に取る投資家を取り込むことにより、社会として効率的なリスクシェアリングの実現が期待される。

ただし、事業の借入金利は公的主体が調達する場合よりも高くなる可能性があり、利用料は引き上げられるかもしれない。しかし、これは、事業固有のリスクが評価され、暗黙の公的保証の見えざるコストを公的主体が負うことを止めたためであり、リスクに対して適切なリターンを求める資金ニーズに沿った結果である。無論、利用者も投資家となれば、このリターンを得ることになる。

中長期のインフラ整備や地域活性化に資する公益性の高い事業の資金需要に対し、将来の租税負担や間接金融部門への負荷を高めることなく一定規模の民間資金を誘導できることにかんがみれば、信託を用いたスキームを拡充する意義は大きい130


(76)貨物滞留時間は、2000年時点で、シンガポールは24時間以内、アメリカ1~2日程度、韓国2日以内などとなっている(一般社団法人日本物流団体連合会調べ)。
(77)第3-3-23図(2)を参照。
(78)92年の総合経済対策から、99年の経済新生対策まで10回の経済対策における事業規模額(減税は除く)を合計すると、約111.5兆円に上る。
(79)「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(2001)による。
(80)「構造改革と経済財政の中期展望」(2002)による。
(81)経済企画庁総合計画局(1998)、内閣府政策統括官(経済社会システム担当)(2002)、国土交通省(2002)、国土交通省(2009)、国土交通省(2011)において、①更新投資は、過去の投資によるストックが耐用年数経過に伴い消滅し、同一の機能で更新、②維持管理費は、社会資本ストックとの相関に基づき推計(つまり、社会資本ストックと維持更新費の関係を一定)などの仮定を置いて、維持管理・更新費を推計してきた。
(82)なお、社会資本整備審議会・交通政策審議会(2013)においては、今後の社会資本の維持管理・更新の在り方について検討が進められており、維持管理・更新費の将来推計についても、「施設の実態を把握した上で、その実態を踏まえて施設数ベースで将来推計を行う方がより信頼性が高いものと考えられる」とし、今後、分野ごとに建設年度ごとの施設数などを把握した上で、維持管理・更新費を算出する方針である。こうした将来推計は、より実態に近い維持管理・更新費の把握という面で望ましいと考えられる。
(83)経済財政諮問会議(2013)。
(84)コンパクトシティの形成とは、市町村の中心部への居住と各種機能の集約により、人口集積が高密度なまちを形成することをいう。機能の集約と人口の集積により、まちの暮らしやすさの向上、中心部の商業などの再活性化や、道路などの公共施設の整備費用や各種の自治体の行政サービス費用の節約を図ることを目的とする。内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2012)を参照。
(85)PFI(Private Finance Initiative)は、公共事業を実施するための手法の一つで、民間の資金と経営能力・技術力を活用し、公共施設などの設計・建築・改修・更新や維持管理・運営を行う公共事業の手法のこと。
(86)PPP(Public Private Partnership)は、官民協調による広義の事業方式のことであり、運営の一部を民間に委託(アウトソーシング)する部分委託、民設公営、公設民営、PFIを包含する概念である。
(87)政府は、本年6月6日の民間資金等活用事業推進会議において「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプラン」を決定し、今後10年間(2013~22年)で12兆円規模に及ぶ事業を重点的に推進することとしている。
(88)ここで取り上げているデータは、公的企業の投資額やストック額を含んでいる。つまり、道路には高速道路への投資額やストック額が含まれる。
(89)内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2007)では、2002年第1四半期からの景気拡張局面において、鉱工業生産や有効求人倍率の回復が地域ごとに一様に回復せず、ばらつきが縮小していない、と分析している。
(90)固定価格評価による接続産業連関表の投入係数の変化は、生産技術水準の変化、生産規模の変化、部門内の構成変化を反映し、変化する。
(91)例えば、都市内や物流拠点周辺での共同輸配送の進展などにより、産出を保ちつつ輸送コストを低下させた可能性が考えられる。
(92)例えば、2000年代後半に新興国との貿易拡大に伴い、大型船の建造などが進み、規模の拡大が生じたことなどが考えられる。
(93)ただし、産業連関表の影響力係数については、一般的に、中間投入率が高く粗付加価値率の低い製造業で大きく、粗付加価値率の高いサービス業で小さくなる傾向があることから、影響力係数が1を下回ったからといって、交通インフラを利用したサービス(道路輸送、水運、航空運輸)の需要創出効果が小さいとはいえないことに留意が必要である。
(94)社会資本の生産力効果については、例えば、浅子・常木(1994)、岩本・大内他(1996)など。内閣府(2010)では、社会資本を明示的に考慮した生産関数を推計し、資本ストックの整備が進むことなどにより、70年代から2000年代にかけて社会資本の生産力効果は逓減していること、ただし、社会資本を経済基盤直結型と生活基盤直結型に分割し、生産関数を推計すると、経済基盤直結型、生活基盤直結型の社会資本の生産力効果の低下傾向は2000年代に歯止めがかかっていること、を明らかにしている。
(95)限界生産性は、追加的な社会資本ストック額1単位により生じる生産の増加額を示す。限界生産性が大きいほど、同じ額を整備した場合の生産力効果が大きいことを意味する。
(96)コブ・ダグラス型の関数を仮定したことから、限界生産性は産出弾性値と資本係数の逆数(Y/KG)との積となる。
(97)第3-3-5図(2)参照
(98)減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四十年大蔵省令第十五号)の耐用年数をもとに、『日本の社会資本2012』では、平均耐用年数を、橋梁52.5年、港湾施設47年、空港16年としている(トンネルは省令で60年)が、空港については、建物の平均耐用年数が38年であるのに対し、資産額の多い滑走路等の平均耐用年数が15年と短く、また滑走路等は更新投資が行われてきていると考えられることから、ここでは一律に建設後50年経過施設割合を見ることとした。なお、国土交通省航空局(2013)によると、2012年に整備・更新後、10年を経過している滑走路の割合は、国管理空港が46%、地方管理空港が58%、20年を経過している割合は、国管理空港が4%、地方管理空港が25%となっている。
(99)総務省行政評価局(2012)による。
(100)社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会 社会資本メンテナンス戦略小委員会(2013)による。
(101)指定管理者制度は、住民の福祉を増進する目的を持つ公の施設について、地方公共団体が指定する法人(指定管理者)が公共施設の整備・管理を代行する地方自治法上の制度であり、例えば、地方空港の空港ターミナルビルの運営事業者に、指定管理制度を利用している例などがある。
(102)東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)、中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)、西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)、首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社、本州四国連絡高速道路株式会社。
(103)現行の償還計画においては、更新に係る費用は見込まれていない。
(104)高速道路の通行料金は、全国路線網、地域路線網、一の路線のそれぞれにおいて、償還主義、公正妥当主義、受益者負担、占用者負担、原因者負担といった考え方に基づき総合的に定められている。
(105)ここで示す高速道路料金は、日本銀行「企業向けサービス価格指数」によっており、統計上反映されない割引制度が存在する可能性がある。
(106)大規模更新などにかかる概算費用については、各高速道路会社が設置した有識者委員会において、首都高速は7,900~9,100億円、阪神高速は6,200億円、NEXCO3社は5.4兆円と試算されている。
(107)羽田空港の影響を含むと維持管理、更新に要するコストが減少するのは、過密状態にあることで混雑費用が発生していることから、人口減少により、最適規模に近づき、単位コストも低下するためである。同様の傾向は、道路においても、第3-3-11図(2)①中、東京都、神奈川県、大阪府、港湾についても、第3-3-11図(2)②中、神奈川県、愛知県、千葉県においてみられる。
(108)例えば港湾については、選択と集中による港湾機能の強化への取組みが進められてきた。2010年には、国際コンテナ戦略港湾として京浜港、阪神港を指定し、高規格コンテナターミナルの係留施設の国費負担率の引上げによる大水深岸壁の整備促進などにより、2020年には東アジア主要港として選択される港湾になることを目指している。また、これまで港湾手続などの電子手続化やコンテナ位置情報などの情報提供にも進展があった。ただし、京浜港、阪神港は、釜山港、上海港などに比べ、現状、大水深コンテナターミナルが少なく、更なる選択と集中が必要とされる状況ともいえる(前掲付図3-5(2)①)。
空港についても、国際旅客の6割超、国内旅客の7割超を担う首都圏空港(成田空港、羽田空港)について、国内線、国際線ともに空港容量が不足してきたが、羽田空港の4本目のD滑走路の整備や成田空港のB滑走路の2,500m化や同時平行離着陸方式の開始など、容量不足への対応が進展している。今後も、首都圏空港の容量確保や、国内・国際の乗継を可能とする内・際ハブ機能の強化、アクセス利便性の向上などの取組を進めることが重要である。
(109)高速道路ごとの走行距離の分布が一定であれば、一日当たり平均台数の動きによって、平均的な収支の動きをとらえることができるためである。
(110)ここでは、高速道路の収益構造を静学的に示し、「他の条件が一定の下」という仮定をおいた上での分析であることに留意が必要である。現行の高速道路の償還計画においては、人口減少による交通需要の減少を見込んだうえで、料金水準を一定に保つ計画となっている。
(111)現行の仕組みでは、収支状況に合わせて道路の貸付料が調整される。具体的には、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法施行令(平成17年政令第202号)第5条の規定により、高速道路資産の貸付料の額の基準は、原則、貸付料の合計額が貸付期間(2005~2050年を予定)において見込まれている高速道路の料金収入及び管理費用の合計額に見合う額となるよう設定されている。ただし、別途定められている協定により、計画から一定程度の乖離が生じた場合には、その乖離差を修正した額を貸付料として回収することとなっており、実際の高速道路の営業収支差に見合う形で貸付料が設定されている。
(112)2006年3月末時点におけるNEXCO3社の料金収入見通し12.1兆円に対し、実際の料金収入は10.6兆円であった。また、2009年度から2011年度の年度別計数は、見通しが2.03兆円、2.07兆円、2.12兆円であったのに対し、緊急経済対策として国費による時限的な料金割引を導入したことなどにより、実績は、1.55兆円、1.60兆円、1.61兆円であった。
(113)一般(不特定多数)の需要に応じて電気を供給する者をいう。具体的には、北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力をいう。
(114)2010年3月の制度変更により、「その他」に含まれているみなし卸電気事業者が卸供給事業者となり、自家発電に含まれることとなったことの影響もある。
(115)電力調査統計(経済産業省)によると、2012年3月末現在における自家発電に占める火力の割合は約78%。再生可能エネルギー(風力、地熱、太陽光、バイオマス、廃棄物の合計)の割合は約8%となっている。
(116)総括原価方式の下では、費用に適正利潤を加えたものが価格として設定されるため、費用を削減するインセンティブは働かない。資本ストックを増やすことによって総括原価を引き上げることができるため、規制対象企業が最適な水準以上に資本ストックを保有しようとして価格が引き上げられる(アバーチ・ジョンソン効果)ことが指摘されている。
(117)料金制度に関連する内容としては、95年のヤードスティック査定、燃料費調整制度、選択約款の導入、2000年の認可制から届出制への移行、2005年の振替供給料金廃止と卸市場の整備、が挙げられる。競争に関連する内容としては、95年の卸供給事業への入札制度導入、参入規制撤廃、特定電気事業創設、2000年の小売託送制度の整備、2004年の小売自由化範囲拡大、2005年の小売自由化範囲の再拡大、が挙げられる。
(118)IEAの予測は2012年11月に公表されたが、東日本大震災後に我が国の電力料金が急上昇しているとして、震災後に生じている状況を前提としない2010年からの伸び率を示したものとなっている。なお、IEAの試算では、総発電量に占める原子力発電量は2020年に20%、2035年に15%となると予測されている。
(119)第1回産業競争力会議(2013年1月23日)を踏まえた当面の政策対応として、内閣総理大臣から関係大臣に対して以下の指示が出された。
1)経済産業大臣は、前政権のエネルギー・環境戦略をゼロベースで見直し、エネルギーの安定供給、エネルギーコスト低減の観点も含め、責任あるエネルギー政策を構築すること。
2)環境大臣と関係大臣が協力して、11月の地球温暖化対策の会議(COP19)までに、25%削減目標をゼロベースで見直すとともに、技術で世界に貢献していく、攻めの地球温暖化外交戦略を組み立てること。
(120)IP電話とは、インターネットで利用されるInternet Protocol(Protocolとは通信規約のこと)を利用して提供される音声通話をする仕組みのこと。音声を電話機でデジタルデータに変換し、パケットと呼ばれる単位に分割した上で、IPネットワーク上を通話相手まで送ることで音声通話を行う。
(121)上限価格規制(プライスキャップ規制)は、98年電気通信事業法改正において導入された。
(122)NTT東日本及びNTT西日本以外の電気通信事業者が提供する加入電話サービスのこと。NTT東西が保有する固定電話回線と相互接続することにより、NTT東日本、NTT西日本の交換機を経由せず、固定電話の基本料、付加機能、県内・県間・国際通話などをワンストップで提供する。
(123)例えば、アメリカにおいては、市内通話や固定電話から携帯電話にかけた場合に従量料金がかからないサービスも利用可能である。OECD(2011)を参照。
(124)単位費用は、加入者回線設備・加入者交換機などの加入者対応設備費用と営業費の合計を加入契約数で割ったもの、加入密度は1平方キロメートル当たりの加入契約数を利用している。データは、各都道府県の最も高コストの電話局と最も低コストの電話局のデータである。
(125)単位費用は、光信号の伝送に係る端末系伝送路の設備費用を加入契約数で割ったもの、加入密度は1平方キロメートル当たりの加入契約数である。
(126)日本電信電話株式会社等に関する法律第3条による。制度上、ユニバーサルサービスの提供により生ずる赤字の一部に充てるため補てんが行われる。2012年度の補てん額は、2011年度にNTT東西合計の加入電話と第一種公衆電話に係る営業赤字1,079億円に対し、74億円である。
(127)固定系通信設備のネットワークは、アクセス回線(通信事業者の局舎と利用者設備とを結ぶ回線)と、コア網(通信事業者の基幹ネットワーク)に分けられる。コア網については、従来ネットワークは、長期増分費用方式(仮想的に構築された最も効率的なネットワーク費用に基づき接続費用を算定する方式)により接続料が計算されている。また、新しいネットワークの費用についても、将来原価方式(原則5年以内の予測需要・費用に基づき算定される方式)による接続料の算定が行われている。一方、移動体通信事業者については、2010年に総務省はガイドラインを定めたが、料金設定の基準は、前年度の実績値に基づき費用(能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの)を算定することとしており、また算定上、裁量の幅も存在している。総務省(2010、2013)を参照。
(128)NTT東西は、2020年頃から新しいネットワークへの計画的移行を開始し、2025年頃に完了するとともに、それまでの期間は両ネットワークを併存させる、との考え方を発表している。NTT東日本・西日本(2010)を参照。
(129)NTT西日本の2011年度の契約者数は721万人となっている。
(130)こうした事業の救済では、公的主体の直接貸付けや融資の保証が用いられるが、これでは、一般国民の損失が拡大するおそれもある。しかし、この信託スキームであれば、こうしたリスクを避けつつ、投資家は自らに生じ得るリスク・リターンを勘案した上で、投資の意思決定をすると見込まれる。
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