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第4節 まとめ

本章では、我が国が企業の立地活動拠点として選択され、雇用創出などを通じた経済成長の果実を享受するために必要とされる、企業活動を支える人材、金融サービス、社会インフラという三つの生産基盤に着目した。要点をまとめると以下のようになる。

人材の供給については、非正規化やICT人材不足といった不安が残る現状

成長力維持には、労働力の質を高めて効率的に活用すること、また、外国から高度人材を取り込むことが必要である。人材については、以下の三点を吟味した。

第一に、若年者の非正規雇用比率は高まってきたが、高校在学中にキャリア教育を受けた者は、そうではない者に比べて「望まずに非正規」の雇用者になりにくい。こうした傾向を考慮したカリキュラムが求められる。また、非正規雇用者は正規雇用者と比べて訓練を受ける機会が少ないため、雇用形態の差異によって人材育成機会に格差が生じ得る。そのため、大学が社会人にとって身近な存在となり、企業におけるOJTやOFF-JTに代わる人材育成の機会を提供する場となるとともに、企業においても、雇用者の学び直しが容易になるような雇用形態又は補助制度の整備などが必要である。

第二は、ICT技術の担い手不足である。ICT関連職種の労働需給や賃金、人材育成の現状を振り返ると、賃金は高めだが労働時間も長い。能力給の企業比率は全産業に比べて高いが、年功的要素も残り、賃金調整は働きにくい。理系学生の減少やICT関連職種のキャリアパスの不明瞭さ、義務教育におけるICT導入の遅れなどから、今後の人材供給には不安が残る。

第三は、外国人高度人材の確保である。近年、在留資格が「技術」や「教授」の外国人は増加しているが、「研究」は減少が続き、ピーク時の三分の一に過ぎない。また、外国人勤務者と雇主の間に「採用後に従事すべき業務の内容」について十分な意思疎通が図られていないとの調査結果もあり、改善が必要である。渡航者数の要因分析では、EPAなどの締結が人数に影響しており、今後の経済連携交渉の結果次第では、貿易・投資活動を始めとする専門的外国人が多く流入する可能性もある。さらに、留学生数が専門家の動きと関係していることから、積極的に受け入れていくべきである。

デフレ脱却後の新たな経済への移行に不可欠な金融の変化

2%の物価上昇率を実現するという日本銀行の物価安定の目標を踏まえれば、デフレ下で合理的だった家計や企業の貯蓄投資行動は大きく変化することが求められ、金融機関もそれに対応していく必要がある。こうした認識の下、金融サービスについて三つの観点から分析している。

第一に、我が国ではマクロ的に資金は潤沢であったものの、いわゆるリスク性資金の供給割合は高まっていない。リスク性資金の動きを見ると、ベンチャー投資は低水準にとどまっており、アメリカの件数や金額を人口と経済規模で調整した上で比較すると、我が国の件数は5割程度、金額は15%程度の規模に過ぎない。他方、公的な機関が関与した資金フローが再び拡大しているが、民間資金をクラウドアウトするのではなく、呼び水となるような制度の設計・実施が求められる。

第二に、中小企業向け融資残高に対する信用保証残高の割合(保証率)が98年の金融危機時と同程度で高止まっている。他方、代位弁済率は低下傾向にあり、保証枠の総量引下げや銀行側への利用に関する条件付与を実施すべきである。

第三に、金融においてもM&Aが増加傾向にあり、規模や範囲の経済性を追求していく傾向がある。統廃合や連携などが進むことでコストを引き下げ、大きな利益を得ることが見込める。また、邦銀の海外活動は小さくはないが、一層の拡大には、経済連携協定などの協議を通じた制度調和が必要である。特に、開発途上国に対しては、金融ビジネスのインフラ整備支援を併せることで、受入国と我が国の双方が利益を得ることが重要である。

人口減少、厳しい財政状況等に直面する社会インフラの抱える課題

社会インフラについては、人口構造の変化や施設の老朽化、そして我が国が直面する厳しい財政状況等の課題がある。社会インフラ整備には、選択と集中、民間資金の活用、そしてアセットマネジメント(長寿命化と情報整備)・リスクマネジメント(ナショナル・レジリエンス)といった考え方が重要となる。ここでは交通、電力、そして通信という三分野のインフラについて取り上げている。

道路等の交通インフラについては、維持更新費が高まっていくと見込まれる。予算制約下にあっては、維持すべき既存インフラの選定や民間活力の活用が求められる。特に、生産年齢人口が全国的に減少する見込みであり、単位コストの高まりが懸念される。選択と集中、そして民間の資金の活用によって克服するべきである。

電力については、安全かつ安価な提供が求められている。しかし、燃料価格の上昇を背景に料金は上昇傾向にあり、収益は赤字化している。安全であってもコスト高になれば、社会インフラとしての評価は低下する。また、発電、送配電各部門の費用特性を見ると、発電部門は全体として緩やかな規模の経済性が存在しているが、技術的なイノベーションが費用低下を促すポイントとなる。また、配電費用には需要密度が大きく影響し、人口密度の低下により単位費用が上昇するリスクが高い。地域毎の街づくりと連携することで費用上昇を回避する必要がある。

通信についても、社会インフラとして安定かつ廉価なサービス提供が求められる。しかし、企業向けの固定電話及び携帯電話の通話料金は、依然、欧米諸国より高い。また、加入電話及び光回線の契約当たり費用は、いずれも加入密度が低下すると逓増する性質がある。加入電話回線の加入者は減少が続くと見込まれ、人口減少局面では回線網の単位当たりの維持費用が増大するおそれがある。適正な料金水準を維持しつつ、全国で一定の通信サービスの提供を維持するためには、電力同様、コンパクトシティといった地域の街づくりとの連携などによるネットワークの維持・管理の効率化などが重要である。

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