第1章 第2節 2 悪化のテンポが緩やかになった雇用情勢

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(2009年夏以降、ほぼ全ての地域で悪化テンポが緩やかに)

2008年秋から2009年初めにかけて各地域で急速に減少した鉱工業生産は、2009年3~4月になると、各地域で増加に転じる動きをみせ、その後、ほぼ全ての地域において持ち直しを示している。このように、春以降、生産で持ち直しの動きがみられたが、雇用情勢の改善は遅れた。しかし、夏以降、雇用情勢においても、悪化のテンポがほぼ全ての地域において緩やかになっている。

地域別の完全失業率(原数値)を2008年7~9月期と2009年7~9月期との2時点で比較すると、全ての地域において上昇し、特に、南関東、東海、近畿の上昇幅が、1.6~1.9%ポイントと地方圏に比べて大きい(第1-2-9図)。また、2009年7~9月期の完全失業率は、東北、近畿、九州・沖縄で6%を超えている9。特に近畿では、6.4%と、全国平均を1.0%ポイントも上回る状況となっている。

第1-2-9図 完全失業率 水準と前年同期差

第1-2-9図

(備考) 1. 総務省「労働力調査」より作成。
2. 地域区分はC。

全国の有効求人倍率は、2009年5月以降、統計が公表されている1963年以来の過去最低を更新し、7月には0.42倍まで低下した。都道府県別の有効求人倍率においても、2009年春以降、16道県において過去最低を更新した。地域別にみると、北関東と東海の地域区分に入る9県全てにおいて過去最低を更新しただけでなく、これらの県では、これまでの過去最低値と新たな過去最低値との差が大きい。北関東や東海では、過去と比較しても非常に厳しい雇用情勢であったことがうかがえる(第1-2-10図)。

第1-2-10図 有効求人倍率 2007年10月以降に過去最低値を更新した16道県の比較

第1-2-10図

(備考) 厚生労働省「職業安定業務統計」より作成。

有効求人倍率は、2009年10月現在、依然として全ての地域において1.0倍を大きく下回っている。しかし、悪化のテンポが、夏以降、2009年初に比べて、緩やかになっている地域が増えてきている(第1-2-11図)。さらに、2008年秋から2009年春頃まで急速な悪化がみられた東海や北関東をはじめとして、上昇を示すようになった地域もみられる。

第1-2-11図 有効求人倍率の推移

第1-2-11図

(備考) 厚生労働省「職業安定業務統計」より作成。

このように、有効求人倍率が上昇するような地域がみられるようになったのは、新規求人に動きが出てきたためである。新規求人数の増減率をみると、2009年7~9月期において、北関東、南関東、近畿等では依然として減少が続いているものの、東海をはじめ、北海道、東北、北陸、九州では増加に転じている(第1-2-12図)。こうした変化は、輸送機械や電気機械では、春頃からの増産に対して、これまで休業者の復帰や関連会社を含めたグループ内の他工場等からの人員の振り分けによって対応してきたが、これらの業種でも更なる増産への対応のため、期間工等の採用を再開する動きが出ているためと考えられる。

第1-2-12図 新規求人数の増減率(季節調整値、前期比)
―いくつかの地域では前期比で増加に転じる動きも―

第1-2-12図

(備考) 厚生労働省「職業安定業務統計」により作成。

新規求人に動きがみられる一方で、企業の新卒採用に対する態度は、依然として極めて慎重である。2010年3月高校新卒者の就職内定状況(2009年9月末現在)をみると、就職内定率は全国平均で37.6%と低い。2009年3月新卒者を対象とした前年調査と比較すると、13.4%ポイント下回っており、低下幅は1988年3月新卒者を対象とした調査開始以来、最大となっている。9月時点での内定率を地域別にみると、前年調査では南関東以外の全ての地域で前年を上回っていたが、今回調査では全ての地域において前年調査を大きく下回っている(第1-2-13図)。

第1-2-13図 高校新卒者の就職内定率(前年同期差)

第1-2-13図

(備考) 厚生労働省「平成20年度高校・中学新卒者の就職内定状況等(平成20年9月末現在)について」、「平成21年度高校・中学新卒者の就職内定状況等(平成21年9月末現在)について」により作成。

(雇用調整助成金の活用による休業者の増加)

雇用情勢は依然として厳しいものの、各地域において、雇用情勢の悪化テンポが緩やかになっている背景として、支給要件の緩和などが行われた雇用調整助成金等の活用により、雇用が維持されていることも挙げられる。雇用調整助成金等の実施計画届の受理件数でみると、2008年末から2009年初めにかけて急増し、2009年4月には対象者数ベースでは253万人に達した。その後、減少したものの、9月時点でも199万人と依然水準は高い。さらに、対象事業所数も、4月は約6.1万事業所であったものが、9月時点には約8.1万事業所へと増加している。

雇用調整助成金の対象者数を地域別にみると、2009年4月には東海が67.2万人と突出して多かったが、9月には、東海では大幅に減少した。しかし、他地域では小幅な減少にとどまり、北陸では増加した(第1-2-14図)。

第1-2-14図 雇用調整助成金等に係る休業等の対象者数(休業計画受理分)

第1-2-14図

(備考) 1. 厚生労働省「雇用調整助成金等に係る休業等実施計画届受理状況、支給決定状況及び大量雇用変動届提出状況」により作成。
2. 地域区分はC。

(全ての地域で減少する賃金)

企業業績の悪化や残業時間の縮小等を反映し、所定外給与や特別給与が大きく落ち込んだことから、2009年1月以降、ほぼ全ての地域において、現金給与総額が前年を下回る状況が続いている。地域別に比較すると、東海では、減少幅が他地域に比べ大きいだけでなく、2009年1~3月期以降、減少幅が拡大している(第1-2-15図)。2009年冬のボーナスについても、夏に続いて大幅な減少が見込まれるなど、今後とも、賃金にとって厳しい状況が続くことが懸念される。

第1-2-15図 現金給与総額の推移

第1-2-15図

(備考) 1. 厚生労働省、各都道府県「毎月勤労統計(地方調査)」により作成。
2. 都道府県別の現金給与総額を、常用労働者数でウェイト付けし、算出。

9.
完全失業率(原数値)が3地域で6%を超えたのは、7~9月期としては地域別集計を開始した1983年以降初めてである。また、他の時期も含めれば、2004年1~3月期の3地域(北海道(6.9%)、東北(6.2%)、近畿(6.0%))以来である。

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