第1章 第2節 1 急激な減産に伴う労働市場の冷え込み

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第2節 雇用を取り巻く状況の変化

1 急激な減産に伴う労働市場の冷え込み

(急速に悪化した雇用情勢)

2008年秋以降の急速な減産を受けて、雇用情勢も急速に悪化した。生産が急速に落ち込む直前の2008年9月とその後の2008年12月、さらに、多くの地域で生産が最も低い水準に落ち込んだ時期とほぼ一致する2009年3月の3時点について、地域別の有効求人倍率の推移をみてみることとしよう。有効求人倍率は、2008年9月以降、ほぼ全ての地域において低下を続け、多くの地域では、2008年12月から2009年3月にかけて、悪化テンポが速まった。地域別にみると、有効求人倍率が1.0倍を上回っていた東海や北関東での悪化テンポが特に速かった(第1-2-1図)。全国平均では、2008月9月の0.83倍から2009年3月に0.52倍と0.31ポイントの低下であったが、東海では1.24倍から0.54倍に(0.70ポイントの低下)、北関東では1.02倍から0.50倍(0.52ポイントの低下)にと、極めて大幅に低下した。統計で比較可能な1963年以降でみると、栃木県、滋賀県、静岡県等では有効求人倍率の過去最低を更新した。

第1-2-1図 有効求人倍率の推移

第1-2-1図

(備考) 1. 厚生労働省「職業安定業務統計」より作成。
2. 地域区分はA。

(製造業の集積が高い地域での急速な悪化)

各地域における雇用の悪化を製造業との関係からみてみることにしよう。都道府県別に、景気の山に当たる2007年10月から、ほぼ全ての地域で生産水準がボトムを示した2009年3月までの間における有効求人倍率の低下幅と、各県の県内総生産に占める製造業の比率(以下、「製造業比率」という。)との関係をみてみると、製造業比率が高い県ほど、有効求人倍率の低下幅が大きいといった緩やかな相関が読み取れる(第1-2-2図)。すなわち、製造業比率の低い北海道、高知県、沖縄県等では、有効求人倍率の低下幅は相対的に小さい一方、製造業比率の高い愛知県、群馬県、三重県、栃木県、滋賀県、静岡県等では、低下幅が大きい。

第1-2-2図 有効求人倍率の低下と製造業比率の相関
―全ての地域で生産が極めて大幅に減少―

第1-2-2図

(備考) 1. 内閣府「県民経済計算」、厚生労働省「職業安定業務統計」により作成。
2. 回帰式の( )内はt値。
3. 製造業比率とは、各県の県内総生産に占める製造業の比率のこと。

(急増した非正規労働者の雇止め)

2008年末から2009年初にかけての極めて大幅な減産に対応するため、各地域では、製造業を中心に、残業時間の削減、休業日の拡大といった措置に加えて、派遣労働者の派遣契約の途中解除や再契約の停止による雇用者数の削減が各地でみられ、非正規労働者の雇用問題が深刻化した。非正規労働者の雇止め等5の対象者数の推移をみると、2008年12月に急増した後、2009年3月まで高水準で推移し、2009年3月末までに合わせて約17.9万人が雇止めとなっている6。また、こうした非正規労働者の雇止め等の対象者数のうち、全体の89.7%が製造業の雇用者であった。

地域別に雇止め等の対象者数(予定者数含む)をみると、東海が6.7万人と最も多く、全国の雇止め対象者の27.4%を占める(第1-2-3図)。都道府県別にみても、愛知県の雇止め対象者数が4.1万人と他県を大きく上回っており、東海地域の他3県(静岡県、三重県、岐阜県)も雇止め対象者数の多い上位10県に入っている。

雇止め等の対象者数の非正規雇用者数全体に対する比率をみても、東海が3.1%と最も高く、東北(2.6%)、北関東・甲信越(2.2%)、北陸(2.2%)、中国(2.1%)でも全国平均を上回った。

第1-2-3図 地域別 非正規労働者の雇止め等の対象者数

第1-2-3図

(備考) 1. 総務省「労働力調査」、厚生労働省「非正規労働者の雇止め等の状況について」(2009年10月30日)より作成。
2. 2008年10月から2009年12月までの雇止め等の対象者数(予定者数含む)。
3. 地域区分はC。

(日系外国人を巡る雇用情勢の悪化)

製造業を中心とした急速な減産に伴い、派遣・請負等の不安定な雇用形態にある外国人労働者の解雇・雇止めが相次いだ。

外国人労働者の地域分布を2008年10月時点においてみると、東京都が外国人労働者全体の24.4%を占め、次いで、愛知県(12.4%)、静岡県(6.5%)、神奈川県(5.6%)、大阪府(4.9%)の順となっている。次に、今回の景気後退局面において雇止め対象となる可能性が高いとみられる派遣労働者等として就労する外国人の分布をみてみよう。労働者派遣・請負事業者の下で就労する外国人労働者がほとんど存在しない県がある一方で、当該県で就労する外国人労働者のうち、労働者派遣・請負事業者の下で就労する労働者の割合が高い県もある。静岡県(64.3%)、滋賀県(59.8%)、岐阜県(59.4%)、山梨県(56.7%)、三重県(52.6%)、栃木県(51.4%)、群馬県(50.1%)といった東海や北関東等の7県では5割を上回っていた(第1-2-4図)。

第1-2-4図 外国人労働者数 都道府県比較

第1-2-4図

(備考) 1. 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況(2008年10月末現在)について」より作成。
2. 派遣・請負事業所に就労している外国人労働者の比率とは、各都道府県において、当該県の外国人労働者総数に対する労働者派遣・請負事業を行っている事業所に就労している外国人労働者数の比率のこと。

さらに、2008年の我が国における外国人登録者を国籍別にみると、中国が65.5万人と最も多く、次いで韓国・朝鮮の58.9万人、ブラジルの31.3万人となっていた。ブラジル人の多くは、製造業において派遣・請負労働者として就労しているとみられるが、静岡県では外国人登録者のほぼ半数がブラジル人であり、栃木県、群馬県、山梨県、長野県、静岡県、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県においても、外国人登録者のうちブラジル人が最も多く、ブラジル人が東海や北関東に偏在していることが分かる(第1-2-5図)。県内人口に占めるブラジル人の割合をみても、静岡県、三重県、愛知県、滋賀県では1%を上回っている。

第1-2-5図 ブラジル国籍の外国人登録者数の比率

第1-2-5図

(備考) 1. 法務省「登録外国人統計統計表」、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」により作成。
2. 外国人登録者数は2008年の値。人口は2009年3月31日時点の値。
3. 県内人口に占める比率の高い上位12県を取り上げた。

このように、ブラジル人が多数居住する地域は、輸送機械や電機機械の工場が集積し、製造業比率が高い地域とも重なっており、今回の景気後退局面で派遣労働者等の雇止めが増加するなかで、日系ブラジル人の雇止め等の問題も発生することとなった。ブラジル人等の日系人の雇止め等に関する網羅的な統計等はないが、例えば、ブラジル人等が多数居住する外国人労働者の集住地域での拠点ハローワークにおける新規外国人求職者数は、2009年2月~4月の間で合計13,091人と急増した(前年同期の約10倍)。外国人労働者数の多い愛知県内の名古屋外国人雇用サービスセンターにおける新規求職者数の推移をみても、2008年秋より急増し、ブラジル人等の日系人の占める比率は2008年秋から2009年春にかけて高まった(第1-2-6図)。

ブラジル人等の日系人の労働者の場合、配偶者や子どもを伴って来日しているケースも多く、日系人が多数居住する地域の地方自治体では、失業対策のみならず、生活支援、子どもの教育支援7といった分野横断的な課題に対処する必要に迫られるとともに、そのための新たな財政負担等も生じている。こうした課題に対して、国と地方自治体が連携し、在留手続や生活関連のサービスについてのワンストップサービスコーナーの立上げ、外国人専門の相談・援助センターの設置、日本語能力も含めたスキルアップのための研修等を進めている。

第1-2-6図 名古屋外国人雇用サービスセンター 新規求職者数の推移

第1-2-6図

(備考) 名古屋外国人雇用サービスセンターホームページ資料により作成。

(人口が転出超過に転じた東海)

我が国の総人口は2005年に戦後初めて減少に転じ、2006年、2007年とほぼ横ばいとなったものの、2008年には再び減少した8。この間、多くの地域において人口が減少するなかで、南関東と東海には、地方圏よりも有効求人倍率が高く、相対的に職を得る機会が多いことから、人口の流入が続いた。南関東では、2004年以降、人口流入の勢いが強まり、転入超過数が増加したが、景気悪化の影響から、2008年以降、超過数は減少している。一方、東海は、1999年から2002年までは転出超過であったが、2003年に転入超過に転じ、2008年まで転入超過が続いた。しかし、東海でも、2009年1~8月の累計では、ほぼ7年ぶりに転出超過となっている(第1-2-7図)。さらに、東海への人口移動の動きを月次ベースでみると、2008年12月に5年ぶりの転出超過となった後、2009年に入っても、入学・就職の時期である4月以外は転出超過が続いている。転入超過となった4月でも、最近数年間において転入超過数が最も多かった2007年4月と比較すると、その数は4割程度となっている(第1-2-8図)。このように、東海の人口が転入超過から転出超過に転じた背景としては、景気拡張局面においては、職を求めて、他地域から自動車産業等の好調な東海への人口流入があったが、急速な景気悪化で新規採用の動きが止まるとともに、東海で多数の非正規雇用者の雇止めが発生し、失業したいわゆる「出稼ぎ労働者」の多くが出身地等へ戻ることを余儀なくされたためと考えられる。

第1-2-7図 南関東・東海の転入超過数の推移
―南関東の超過転入数は縮小、東海は転出超過―

第1-2-7図

(備考) 1. 総務省「住民基本台帳人口移動報告」より作成。
2. 転入超過数=転入数-転出数

第1-2-8図 東海地域における月別の人口転入超過数の推移

第1-2-8図

(備考) 1. 総務省「住民基本台帳人口移動報告」より作成。
2. 転入超過数=転入数-転出数

こうした東海における雇用情勢の急速な悪化により、東海で失業した労働者が地方圏に戻ったことは、地方圏の雇用情勢にマイナスの影響を与えたとみられる。例えば、2008年11~12月にかけて、沖縄県では、県外からの派遣労働者等の求人広告の激減により、沖縄県内の無料求人誌が休刊になったり、全国版に統合されるといったことや、東海を拠点とする自動車メーカーが期間工として県外就職を希望する求職者向けに開催する予定だった面接会を直前に取りやめるといった事例がみられた。景気ウォッチャー調査(2009年1月調査)でも、北海道の景気ウォッチャーから、「求人数が低迷するなか、派遣労働者の本州からのUターンや地元企業の雇用調整がみられ、今後、やや悪くなる(北海道=職業安定所)」というように、他地域の雇用情勢の悪化による北海道出身者のUターンの動きに言及するコメントが寄せられた。


5.
ここでの雇止め等とは、派遣又は請負契約の期間満了、中途解約による雇用調整及び有期契約の非正規労働者の期間満了、解雇による雇用調整を指す。
6.
厚生労働省「非正規労働者の雇止め等の状況について」による。この調査は、離職事例の全てを網羅しているわけではないことに留意が必要である。
7.
ブラジル人学校の学費が日本の公立学校よりも割高であったことから、景気悪化の影響でブラジル人学校を中退する児童・生徒が増加している。このため、ブラジル人の児童・生徒の公立学校への転入支援や学習支援等が生じている。
8.
総務省「人口推計(2008年10月1日現在)」(2009年4月)による。

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