第1章 第1節 2 自律性に乏しい持ち直しの動き

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2 自律性に乏しい持ち直しの動き

(各地域に広がる生産の持ち直し)

各地域の鉱工業生産指数の動きをみると、2009年初まで、多くの地域で極めて大幅な減少がみられたが、電子部品・デバイスや輸送機械等での在庫調整の進展もあり、3~4月頃には、各地域で増加に転じる動きがみられるようになった。4~6月期には、12四半期ぶりに全ての地域で前期比プラスとなり、東北、北陸、四国、九州では全国平均を上回る伸びとなった。これらの地域は、電子部品・デバイスの製造業に占める付加価値生産額ウェイトが比較的高い点で共通しており、在庫調整の一巡や、エコポイント制度導入の効果による家電向けの受注増などを反映し、電子部品・デバイスがけん引して生産が増加した。また、東海、九州などでは、輸送機械も、在庫調整の進展やエコカー減税・補助金の効果によるハイブリッド車の受注増等により、大幅に増加した(第1-1-4図)。

2009年7~9月期には、前期に続き全ての地域で前期比プラスとなり、生産の持ち直しが続いている。地域別にみると、総じて、2008年秋以降の生産の落ち込みが大きかった地域での増加率が高いが、全国平均を上回る増加率となった東海、中国、九州をみると、国内外で実施された環境対応車や家電製品の購入支援策による販売増を受けて、輸送機械や、家電・自動車向けの電子部品の寄与度が高い。このように、生産は多くの地域で持ち直しているものの、アジアを中心に広がった世界経済の持ち直しの動きに加えて、政策効果によるところが大きく、自律性は乏しい状況にある。

第1-1-4図 鉱工業生産指数 業種別寄与度
(2009年4~6月期→7~9月期)―多くの地域で生産は持ち直している―

第1-1-4図

(備考) 1. 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業指数」により作成。
2. 地域区分はB。
3. 電子部品・デバイスにおいて、北海道と四国は電気機械の生産指数を用いて作成。
4. 2005年基準。

こうした結果、2009年9月の生産水準は、各地域とも、リーマンショックが起きた2008年9月の水準にまで戻っていない。北海道や四国のように、内需向け産業である食料品の製造業に占める付加価値生産額ウェイトが高く、海外市場の需要動向の影響を受けやすい輸送機械の製造業に占める付加価値生産額ウェイトが低い地域では、リーマンショック直後の生産の減少幅が相対的に小さかったが、それでも2009年9月の生産は、1年前の9割強程度である。一方、輸送機械のウェイトが高い東海では、2009年4月以降、鉱工業生産が6か月連続で増加していたものの、9月時点で1年前の8割強の水準にとどまっている。

設備投資については、稼働率が依然として低水準であること等から、全ての地域において前年を大きく下回るなど、動きは低調である1

(三大都市圏と地方圏で異なる企業倒産の動き)

売上高の急減による企業の資金繰り悪化等により、企業の倒産件数は、2008年7~9月期に、三大都市圏、地方圏のいずれにおいても高まった。このうち、地方圏では、建設業の倒産が急増したこと等により、2008年7~9月期に前年同期比25.0%増、10~12月期にも同21.2%増と高い伸びとなった(第1-1-5図)。その後、地方圏では、2009年1~3月期に前年同期比5.4%増と増加率を大幅に鈍化させた後、4~6月期には減少に転じ、7~9月期には減少幅が更に拡大した。一方、三大都市圏では、2009年1~3月期においても、製造業の倒産が増加したこと等から増加率が高まっており、増加率が低下してきたのは4~6月期以降で、減少に転じたのは、ようやく10月になってからであった。三大都市圏での改善の動きは、地方圏のそれにほぼ半年遅れる結果となった。

第1-1-5図 倒産件数 産業別寄与度

第1-1-5図

(備考) 1. (株)東京商工リサーチ「倒産月報」により作成。
2. 「三大都市圏」は南関東、東海、近畿を、「地方圏」は北海道、東北、北関東、北陸、中国、四国、九州・沖縄を示す。

日本銀行「企業短期経済観測調査」(以下、「短観」という。)を用いて、地域別の資金繰り判断DI2の推移をみると、2008年9月調査においては、三大都市圏に該当する南関東、東海、近畿ではプラスとなっており、「楽である」という回答が「苦しい」を上回っていたが、地方圏に該当する8地域では、沖縄を除いて既にマイナスとなり、「苦しい」という回答が「楽である」を上回っていた。続く12月調査では、三大都市圏を含め全ての地域でマイナスとなり、2009年3月調査では、ほぼ全ての地域においてマイナス幅が拡大した。なかでも、三大都市圏におけるマイナス幅の拡大は大きかった(第1-1-6図)。しかし、資金繰り支援策等の影響もあり、6月調査以降は、いずれの地域でもマイナス幅が徐々に縮小している。

第1-1-6図 「短観」における資金繰り判断DIの推移

第1-1-6図

(備考) 1. 日本銀行各支店「短観」より作成。
2. 北関東は日本銀行前橋支店管内、南関東は同横浜支店管内である。
3. 「楽である」と回答した企業数構成比-「苦しい」と回答した企業数構成比(%ポイント)。

三大都市圏と地方圏とにおいて倒産件数の動きに違いがみられた背景としては、第1に、リーマンショック直前の資金繰り状況が三大都市圏に比べ地方圏で悪かったこと、第2に、経済対策として、公共事業関係費の追加や公共事業の前倒し執行が行われたことがあると考えられる。

地方圏では、「短観」で示されるように、2008年9月時点で、三大都市圏に比べて資金繰りが悪化していた企業が相対的に多かったこともあり3、年末に向け、建設業を中心に倒産が急増した。しかし、2009年に入ると、公共事業の追加の影響もあり、倒産件数の増加率が大きく低下し、特に4月以降は、建設業の倒産件数が大幅に減少した。地方圏は、三大都市圏に比べ、公共事業への依存度が高いことから、公共事業の増額の影響がより大きくあらわれ、建設業の倒産件数も大きく減少したものとみられる。一方、三大都市圏では、資金繰りの悪化した企業が2008年12月から2009年3月にかけて大幅に増加したが、この時期は、倒産件数がピークに達した時期(2009年1~3月期)とほぼ一致している。

地域別の公共事業請負金額をみると、2008年度において、全ての地域において前年度比減少幅が縮小もしくは増加に転じていたが、2009年度には、4~10月累計で、ほぼ全ての地域において前年を大きく上回る増加率となっている(第1-1-7図)。

第1-1-7図 公共工事請負金額の推移

第1-1-7図

(備考) 保証事業会社協会及び北海道建設業信用保証株式会社・東日本建設業保証株式会社
西日本建設業保証株式会社「公共工事前払金保証統計」により作成。

(価格競争の厳しさの広がり)

2009年春以降は持ち直しの動きが続いている生産だが、先行きには懸念材料もある。「短観」を用いて、各地域の企業の業況感の変化をみてみると、2009年3月調査と比べ、6月調査では、全国10地域のうち、4地域で改善、1地域で横ばい、5地域で悪化となった。続く9月調査では、製造業、非製造業ともに10地域全てにおいて改善したことから、全産業でも全地域で改善となった。12月調査でも、現時点で業況判断DIが公表されている9地域4のうち、沖縄を除く8地域では改善となったが、同調査における今後3か月先(2010年3月)の見込みでは、2地域で改善、7地域で悪化となった(第1-1-8図)。

景気ウォッチャー調査においても、企業動向関連の現状判断DIは、2008年10月から12月にかけて急落したが、2009年1月に上昇に転じ、その後も上昇が続いた。しかし、8月に、製造業と非製造業がともに8か月ぶりに低下し、9月、10月と、一進一退の動きとなり、11月には、非製造業を中心に大幅に低下した(第1-1-9図)。

企業動向関連の景気ウォッチャーのコメントを10月調査でみると、「安値による受注合戦が続いており、受注すべきか否かの判断に迷う。仕事量が少ないため、取り合いになってしまう。(東海=金属製品製造業)」、「低価格品が主力の中小メーカーは、大企業の低価格品が出回り始めたことで、売上不振となっている。(近畿=食料品製造業)」、「受注量は若干増えているが、国内他社に加え、中国、東南アジアとの価格競争が起き、条件が厳しくなっている。目先のコスト削減に目が行き過ぎて、技術の流出や後継者の育成阻害が問題となっている。(北海道=ソフトウェア開発)」といった声が多くなっている。受注や出荷が持ち直してきているとはいえその水準が低く、各業種ともに業界全体のパイ自体が小さい状況で、受注獲得のための同業他社との価格競争が非常に厳しいことを反映しているものと考えられる。

第1-1-8図 「短観」における業況判断DIの推移

第1-1-8図

(備考) 1. 日本銀行各支店「短観」より作成。
2. 九州は沖縄も含む。
3. 2010年3月の値は、2009年12月調査時の予測値。
4. 関東の2009年12月は、9月調査時の予測値。2010年3月の予測値は未公表。

第1-1-9図 景気ウォッチャー調査 企業動向関連DIの推移

第1-1-9図

(備考) 内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。

続く11月調査の景気ウォッチャーのコメントをみると、「名古屋市内中心部のオフィス需要が減り、空室率は上がり続けている。空室が埋まらないため、賃貸単価も下がり続けており、先が見えない(東海=不動産業)」、「不動産価格は下がったままで全く振るわず、建設は本来最盛期のはずだが、今年は一向に上向かない。関連の元請け企業も売上が半減し、役員数を半分にし、ボーナスも随分下げると聞いている。下請も悲鳴を上げており、限界に近づきつつある(中国=建設業)」というような、受注が依然として低調で、価格競争も一層厳しくなっているといった声が、非製造業を中心として多くなっている。

企業動向関連の先行き判断DIは、8月に低下に転じ、9月以降も、製造業、非製造業ともに低下を続けたが、特に11月の低下は大幅であった。11月調査においては、先行きに対して、価格競争の継続や、年末・年度末に向けての資金繰り悪化に対する懸念のほか、11月下旬にドバイの債務問題の発生をきっかけに金融市場が大きく変動したことから、円高を懸念する声が多く、景気の先行きに対する見方が一段と慎重になっていることが見て取れる内容であった。


1.
地域別の設備投資の動きについては、第2章を参照のこと。
2.
資金繰り判断DIは、「楽である」と回答した企業数構成比と「苦しい」と回答したそれとの差(%ポイント)。
3.
「短観」の標本設計は全国ベースの業種・規模を基準にして作成しているため、各支店の「短観」は必ずしも各地域の産業構造を正確に表わしていない。このため、地域間での比較を行う場合には、幅を持ってみる必要がある。
4.
「関東」の業況判断DIの公表は、通常、他地域よりも遅れ、12月調査の結果は、2009年12月時点では未公表である。

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