第1章 第3節 1 小売業における競争の激化

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(2008年秋以降の個人消費の急速な冷え込み)

リーマンショック以降、ボーナスをはじめとする賃金の減少や株価の下落のほか、景気や雇用に対する先行き不安等により、全ての地域において、個人消費が急速に冷え込んだ。百貨店販売額は、2006年、2007年においても、前年をやや下回る水準で推移していたが、2008年10~12月期以降、高額品の販売不振等により、全ての地域において大幅に減少し、2009年1~3月期においては、三大都市圏を中心にさらに減少幅を拡大させた(第1-3-1図)。

第1-3-1図 百貨店販売額

第1-3-1図

(備考) 1. 経済産業省「商業販売統計」により作成。店舗調整済。
2. 北関東は、新潟、静岡の2県を含む関東経済産業局「東京圏以外」。南関東は同「東京圏」。
3. 中部は富山、石川を含む中部経済産業局管内計。北陸は富山、石川、福井の3県計。
4. 原則として、経済産業省本省の公表値を使用。

耐久消費財の代表格である乗用車の販売の動きを乗用車新規登録・届出台数の前年比でみても、全ての地域において、2008年10~12月期、2009年1~3月期と減少幅が拡大した。また、総じて、三大都市圏の減少幅が地方圏の減少幅よりも大きかった(第1-3-2図)。

景気ウォッチャー調査においても、2008年10月に、家計動向の現状判断DIと先行き判断DIがともに大幅に低下し、続く11月、12月も、両DIはともに低下を続け、2008年12月には、現行調査方法となった2001年8月以来、最低の値となった。地域別にみても、家計動向の現状判断DIは、沖縄を除く10地域で、2008年12月もしくは2009年1月に、2001年8月以来の最低値を記録した。2001年8月以来の最低値を更新しなかった沖縄でも、9・11テロ後の2001年11月に記録したこれまでの最低値とほぼ同水準であった。家計動向の先行き判断DIも、2008年12月に、北海道以外の全ての地域において最低値を更新し、北海道も2009年1月には最低値を更新した。

第1-3-2図 乗用車新規登録・届出台数

第1-3-2図

(備考) (社) 日本自動車販売協会連合会「自動車登録統計情報」の登録ナンバーベース及び
(社) 全国軽自動車協会連合会「軽自動車新車日報累計表」により作成。

(各地域で売上不振の続く百貨店)

百貨店販売額は、2009年7~9月期において、全ての地域で4~6月期に比べて減少幅をわずかに縮小させているものの、大都市を抱える関東、中部、近畿では、依然として前年同期比10~11%減であり、低調である。百貨店販売額が前年を大きく下回る状況が続く背景としては、賃金の大幅な低下や雇用情勢の悪化等により消費者の購買意欲が慎重になっていることに加え、百貨店販売額の多くを占める衣料品分野において、2009年に入ってから、トレンドに敏感な20~30代女性向けの低価格カジュアル衣料の大型専門店の新規出店が相次いだことや、大手総合スーパーや大手衣料品専門店が更なる低価格戦略の動きを強化していることなどが挙げられる。

(地方圏を中心に増加した百貨店の閉店)

百貨店の販売不振は、リーマンショック以降、一段と深刻さを増している。しかし、そもそも百貨店の経営環境は、バブル崩壊後から既に厳しいものになっていた。このため、経営合理化の必要性が高まり、2007年以降、従来型の商品調達を中心とした緩やかなグループ化ではなく、M&Aによる積極的な経営統合が進められてきた。大丸と松坂屋、阪急百貨店と阪神百貨店、三越と伊勢丹といった大手百貨店の間で進められてきた経営統合がその例である。こうした経営統合の影響もあり、リーマンショック前より不採算店舗の閉店の動きはあったが、2009年に入ると、業績の急速な悪化により合理化計画が前倒しされたのに加え、北海道の老舗百貨店である丸井今井の経営破たんも受けて、その動きが一層強まる傾向にある。

全国の百貨店の事業所数の推移をみると、2000年以降、減少が続いており、2009年9月時点の事業所数は、2000年末の約7割となっている。地域別の動きをみるため、三大都市を含む「関東・中部・近畿(三大都市圏10)」と、「関東・中部・近畿以外の地域(地方圏)」の2つの地域グループに分けて推移をみてみよう。2001年に、三大都市圏、地方圏ともに大幅に減少し、2002年以降の景気拡張局面においても、ほぼ全期間を通じて、両地域の減少が続いた。特に地方圏では、三大都市圏の減少幅を上回る減少が続いていた(第1-3-3図)。2007年と2008年には、地方圏と三大都市圏とがともに前年比3%台の減少となったが、2009年9月時点でみると、三大都市圏、地方圏ともに減少幅を拡大し、地方圏では三大都市圏の前年比4.4%減を上回る同9.2%減の大幅な減少となっている。

第1-3-3図 百貨店事業所数の推移
―2009年は地方圏を中心に閉店が増加―

第1-3-3図

(備考) 1. 経済産業省「商業動態統計」より作成。
2. 2009年は09年9月の値(確報値)による。
3. 三大都市圏は関東・中部・近畿、地方圏は関東・中部・近畿以外の地域。
4. 中部は東海・北陸の合計。

2008年以降の地方圏の閉店百貨店の所在地をみると、北海道旭川市、宮城県石巻市、名取市、愛媛県今治市、福岡県久留米市といった県庁所在市以外の都市が目立つ。現時点で発表されている2010年上期までの閉店店舗も、地方都市の店舗を中心として既に7店舗程度あるが、その大半が県庁所在市以外の地方都市である。

地方都市における百貨店の閉店後の状況をみると、新たな商業施設としての開店等に向けて再開発が進んでいる事例もあるが、閉店後の再開発等の目途が立っていないところもある。地方都市における中心市街地では、郊外大型商業施設への消費流出を防ぐため、百貨店周辺の地元商店街が集客の核となる百貨店と連携を取りながら、地域ぐるみで街づくりや集客に向けての取組を行っていることも多く、核となる店舗の閉鎖は、周辺に立地する地元小売業者にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。さらに、地方圏においては、大型店舗の閉鎖が地域の雇用情勢に及ぼす影響も懸念される。

(各地で増加してきたショッピングセンター)

百貨店の売上不振が続いてきた背景の1つとして、各地でショッピングセンター11の開業が続いていたことがあげられる。小売業の売場面積に占めるショッピングセンターの割合の推移をみると、1985年には12.9%であったのが、1991年に16.3%、1999年26.5%とその割合を高め、2007年には31.2%に達している(第1-3-4図)。都道府県別にみると、小売業の売場面積に占めるショッピングセンターの割合は、大阪府、千葉県、兵庫県、神奈川県、愛知県、滋賀県等、大都市を抱える県や大都市周辺の県で高い傾向にあるが、富山県(40.2%)、石川県(37.1%)等の北陸でも高い(第1-3-5図)。

第1-3-4図 小売業に占めるショッピングセンターの総売上高、総面積シェアの推移

第1-3-4図

(備考) 経済産業省「商業動態統計」「商業統計」、(社)ショッピングセンター協会「SC白書」より作成。

他方、小売業の総売上に占めるショッピングセンターの割合の推移をみると、1990年代にはその割合を着実に増加させてきたものの、2000年代以降は横ばいの状況が続いている。

第1-3-5図 小売業(売場面積)に占めるショッピングセンターの割合(2007年)

1-3-5図

(備考) 経済産業省「商業統計」、(社)日本ショッピングセンター協会「SC白書」により作成。

(2008年秋以降、ショッピングセンターにも及んだ消費不振)

景気拡張局面にあたる2002年以降においても、小売業の総売上高が前年並みに留まるなど、個人消費に力強い回復はみられなかった。百貨店の売上高(全店ベース)は前年を下回る状況を続けていたが、ショッピングセンターの売上高(全店ベース)は、1990年代の増勢は失っているものの、わずかではあるが増加基調にあった。しかし、2008年10~12月期以降、百貨店のみならず、ショッピングセンターも売上高の減少幅を拡大させており、不振が続いている(第1-3-6図)。地域別にみても、同様の動きとなっており、小売業を取り巻く状況が全体として厳しかったことをあらわしている。

第1-3-6図 百貨店・ショッピングセンターの売上高増減率の比較

第1-3-6図

(備考) 経済産業省「商業動態統計」、(社)ショッピングセンター協会「SC販売統計調査報告」より作成。 全店ベース。

10.
本報告書の地域区分における三大都市圏とは異なるが、便宜的にここでは、三大都市圏と呼ぶことにする。
11.
(社)日本ショッピングセンター協会によれば、ショッピングセンターとは、1つの単位として計画、開発、所有、管理運営される商業・サービス施設の集合体で、駐車場を備え、小売業の店舗面積が1,500平方メートル以上であるものをいう。アウトレットモールは、ショッピングセンターに含まれる。

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