平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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II 1990~91年の主要国の政策動向

第6章 イギリス

3. 金融政策

(1)ERMへの参加

イギリスは,90年10月8日,懸案となっていたECの為替相調整メカニズム(ERM)に参加し,EMS(欧州通貨制度)に完全加盟した。中心レートは,1ポンド=2.95マルク,9.89フランなどとされ,変動幅は当分の間,拡大変動幅(6%)が適用されている。このERM参加は,インフレ抑制のための金融面での節度を強化することを主目的としており,政府のインフレ抑制に対する市場の信頼感を得ることにつながるものとみられる。

政府は,ERMへの参加により,金利水準の決定にあたってはポンドをER Mの所定の変動幅内に止めることを最優先すべきであるとしている。91年に入り,数度の利下げにもかかわらずポンドはERM内で比較的堅調に推移してきたが,9月以降ドイツ・マルクの上昇などから弱含み,11月末には1時1ポンドニ2.83マルク台を記録するなどERM変動幅の下限(1ポンド=2.778マルク)に近い水準で推移している。この様な状況に対し,ラモント蔵相は,ポンドをERM内に止めるためにはあらゆる手段をとり,変動幅の変更(ポンドの切下げ)は行わない旨表明している。

また,91年10月の保守党大会直前には,インフレ率が低下を続けていることなどから縮小変動幅への移行が決定されるのではないかとの期待が市場に高まったが,前述のとおリポンドは弱含んでおり,縮小変動幅への移行は当面難しいものとみられている。

英・独の短期金利の推移とポンドの対マルク・レートの動向

(2)金融緩和

インフレ抑制を主目的とする金融政策のなかで,主要な政策手段とされているのが短期金利の誘導である。イングランド銀行の介入は主に以下の3点によってなされる。

88年央以降,引き締め的な金融措置がとられてきたが,90年10月には,ER Mへの参加と同時に,最低貸出金利の公表を行い市中金利の1%引き下げを誘導し金融の緩和を実施した。これは,景気の低迷が明らかになってきたことと共にマネーサプライの伸びが急速に鈍化して目標圏におさまってきたこと,インフレ率が今後大幅に低下する見通しとなったことから,景気のテコ入れをすべく実施したものである。

91年に入ってからも景気の低迷が続いたため,イングランド銀行は,インフレ圧力の動向と特にERM内におけるポンドの動向に注視しつつ,主に介入金利の変更により,市中金利の引き下げを誘導した。

(イングランド銀行の政策金利の変更)

金融政策の緩和と消費者物価上昇率の推移

(3)マネーサプライの抑制

イギリスでは,1976年12月以降,マネーサプライの伸び率の目標圏が設定,公表されている。当初対象とされていたのはポンド建てM3であったが,84年度からはMOについても伸び率の目標圏が設定されるようになった。87年度からはポンド建てM3の流通速度の変動が大きくなり,目標値の設定に信頼性が欠けるようになったためポンド建てM3の目標圏設定を中止し,MOの設定のみとした。更に89年7月にはM3の公表が中止されたことにともない,M4をMOの補助指標として政策運営の上で重視している。

MOの伸び率の目標圏はいずれも前年同月比で,90年度は1~5%,91年度は0~4%(92年度0~4%)と設定されている。景気の低迷に伴い90年8月からは目標圏内で推移している。M4は80年代後半に高まり,89年度には前年同月比17~18%台の伸びを示していたが,90年下半期からは急激に伸びが鈍化している。

マネーサプライの伸び率の推移


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