平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第6章 イギリス
イギリス政府の予算関連のスケジュールは,春(3月)の予算案発表と秋(11月)のオータム・ステートメント(財政支出計画概要)を中心に年間を通じて作業が進められている。これらは共に大蔵大臣が内外の経済動向を展望し,政府の経済政策を説明する重要な機会となっているが,春の予算案発表は主に税制改正など歳入面の見積もりを示すものとなっており,歳出面については主に秋のオータム・ステートメントにおいて示される。なお,イぎリスの予算年度は,4月~3月である。
91年3月19日こ行われたラモント蔵相の予算演説では,メフジャー政権においても中期財政金融戦略(MTFS)により,公共支出の抑制による公共部門借入(財政赤字)の抑制を目指し,中期的に均衡財政を達成することを政府の目標としている。ただし,景気循環に従って財政収支が赤字又は黒字になることは,中期的に均衡財政を目指すことと矛盾するものではないとし,91年度は,景気の低迷を背景に税収の伸び悩みと失業関連費などの社会保障費の増加などから,一般政府ベースの財政収支が86年度以来の赤字になるとみている。
ア 歳 出
一般政府歳出は2,348億ポンドで前年度比8.7%地と見込まれており,90年度の伸び率(8.3%)をやや上回っている。内訳をみると,社含保障関係費,国民保健関係費などが高い伸びとなっている他,中央政府の地方公共団体に対する助成が大幅な伸びを示している。これは人頭税の負担軽減措置の実施にともなう地方公共団体の歳入減を中央政府が交付金によって補填するためである。
イ 歳 入
一般政府歳入は,景気後退による税収の伸び悩みなどから2,265億ポンドと,前年度比4.6%の伸びが見込まれ,90年度の伸び率(5.1%)を下回るものと予想されている。内訳をみると,法人税では税率の引き下げや企業の経営悪化により減収が見込まれるほか,人頭税は負担軽減措置が実施され大幅な減収となる見込みである。また,人頭税の減収を補填するために,付加価値税(VA T)並びに個別間接税の税率が引き上げられ,増収が見込まれている。
ウ 主な税制改正の内容は,次表のとおりである。
なお,政府は,91年3月21日,正式に人頭税の廃止を発表し,4月23日,それに代わる新地方税(カウンシル・タックス)の導入を公表した。人頭税については92年度までは負担軽減措置により対応し,93年度以降は廃止する。93年度以降はこれに代わるものとして,居住用資産の資産価値を基準として世帯ごとに課税するカウンシル・タックスを導入するといった内容である。これは,世帯に居住する成人が2人であることを前提とし,その資産価値に7段階の区分を設け,各地方公共団体ごとにその区分に応じた税率を定めるものである。
なお,世帯に居住する成人が1人の場合には,税額が25%軽減されるとしている。
91年11月9日に行われたラモント蔵相の秋季財政演説では,92年度以降3か年の財政支出計画が発表された。これによると,全体として支出を抑制し,中期的に均衡財政を目指すといった基本方針を堅持するものの,92年度には,経済活動の低迷による悪影響に対処するために,特に優先度の高い分野に限り支出を増加するものとしている。一般政府歳出(民営化収入を除く)の対GDP比は,92年度まではやや増加するものの,過去の景気後退時よりはかなり低い水準であり,その後は再び低下傾向をたどるとしている。
財政支出計画によると,92年度の一般政府歳出は2,563億ポンド(前年度比8.6%増)とされている。このうち,公共支出総額(プランニング・トータル)は,3,266億ポンドとなっており,当初の政府見通しより56億ポンド増額されている。
91年度予算発表時における92年度支出見通しからの追加増の内訳をみると,社会保障関係費,国民保健関係費,公共輸送関係費,地方公共団体財政助成などが中心となっている。
また,国民保険料徴収に係る最低所得額,最高所得額をそれぞれ引き上げるとしている。