平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第1章 アメリカ
アメリカの金融政策は,90年秋以降本格的な緩和に転じた(表1参照)。91年にはいると,2月にドイツの公定歩合引上げにもかかわらずアメリカの公定歩合が引き下げられたのを皮切りに利下げが実施され,12月末現在の公定歩合は3.5%と64年11月以来の低水準となっている。こうした一連の金融緩和により,短期金利は低下したものの,長期金利の高止まり傾向は依然持続しており,金融緩和の景気浮揚効果を一部減殺している。
アメリカのマネー・サプライ残高は,90年秋以降の金融緩和を受けて91年上半期まではおおむね順調に増加した。しかし,7月以降は,Mlが増加を続ける一方で,M2,M3については7月以降目標圏の下限付近で推移するなど,伸びの鈍化傾向が鮮明となった。
・M2については,過去数か月間の本格的な金融緩和の効果がラグをもってあらわれ,最近のペースよりも今後は伸び率が上昇すると見込まれることから,91年については90年7月に設定した暫定目標圏をそのまま適用して,2.5~6.5%とする(90年の目標圏からは上,下限とも0.5%ポイントずつ引き下げ)。また,この目標圏は91年の景気回復のために必要な水準であるとしている。
・M3については,貯蓄金融機関の整理・清算が加速することに加え,証券市場を通じた資金の供給が増加することによって,預金金融機関に対する資金需要の伸び悩みが見込まれることを考盧して,91年については90年と同様,1~5%の目標圏とした。
・国内非金融部門債務については,91年は政府借入が堅調に推移するものの,民間部門の借入が鈍化すること,家計および企業では債務と所得のバランスを保とうとすることから資金需要が伸びないこと,また,資金の貸し渋りが続くこと等から,目標圏を90年から上,下限とも0.5%ずつ引き下げて,4.5~8.5%とした。
・FOMCは,マネー・サプライの増加目標圏を91,92年とも現行のままとすることを確認した。
・M2については,現状4%をやや下回る水準で推移している。91年についても貨幣流通速度の変化に対応しつつ,緩やかな成長と物価の安定を実現するうえで,現行の目標圏は適当であるとみられる。
・M3(こついては,貯蓄金融機関の整理・清算の進展とそれに関連した預金金融機関からの資金流出を考盧して従来1~5%を目標圏としていた。91年についても,貯蓄金融機関における資産の縮小は加速するとみられる一方で,景気拡大に伴う健全な貸出機会の増大を背景とした米銀の資金需要の増加が見込まれるため,目標圏は現行のままとする。
・国内非金融部門債務については,現状目標圏の下限にあるが,今後景気回復を背景とした民間資金需要の増大,RTC関連の政府借入の増加が見込まれることから,年末には目標圏内に十分おさまるとみられる。このため,91年についても目標圏は現行のままとする。
・ 92年については,暫定的に91年の目標圏をそのまま適用する。これは,この水準が,経済活動の持続的拡大を支えるのに十分な流動性を供給する一方,インフレ低下に向けたこれまでの実績を強化,進展させるうえで適当と考えられるためである。