平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
I 世界経済白書本編(要旨)
第2章 ソ連の再編成と東欧の経済改革
東欧諸国では,91年にかけて経済改革が一層進展したが,生産の減少,物価の上昇,貿易の縮小という経済情勢の悪化は続いている。その基本的要因としては,①市場経済への移行に伴って経済取引が混乱していること,②財政・金融政策が引締められていること,③コメコン体制が崩壊したことなどがあげられる。
コメコン貿易は,①閉鎖的な国家間貿易である,②価格は再分配政策を反映して国際価格と大きく乖離している,③振替ルーブルによる多国間決済が建前上は可能であるという特徴を有していた。このうち振替ルーブルは,縮小均衡に陥りがちな二国間決済貿易の弊害をなくすために導入されたが,ドル又は金との交換性がなく,信認の面で欠陥があったために,実際には多国間決済通貨としては機能しなかった。この点,1950年に西欧貿易の活性化のために導入された欧州決済同盟(EPU)が,ドルと金を決済通貨として域内貿易の拡大に成功したのと対照的である。
91年初めに,コメコン貿易の改革が行われ,国際価格による取引とハード・カレンシーによる決済に移行することが合意された。しかし,外貨が少なく,通貨の交換性が不十分なコメコン諸国がハードカレンシーによる決済に直ちに移行することは困難であった。加えて,91年6月のコメコン解散により,東欧諸国はソ連から石油等の原材料を安価に輸入することが不可能となる一方,西側との貿易拡大も競争力が欠如しているために難しく,コメコン諸国の経済は大きな打撃を受けることとなった。
90年以降の動きをみると,東欧諸国は改革の進展度合によって2つのグループとユーゴスラピアに分けられる。第1グループは,安定化政策,価格・貿易の自由化等,言わば改革の第1段階から,民営化等の構造政策を中心とする第2段階へと移ってきている国であり,ポーランド,チェコ・スロバキア,ハンガリーの3国を挙げることができる。第2グループは,91年に入りようやく価格自由化等の第1段階の改革が本格化しはじめた,ブルガリア,ルーマニアの2国である。ユーゴスラビアでは,90年初に急進的な改革が導入されたが,民族問題等から内戦状態に陥っている。
経済活動の大半を担う国営企業の民営化は,経済改革の核心をなす。東欧諸国の民営化は西側先進国の民営化とは異なり,①国内に企業を売却する仕組みがなく,資本蓄積も不十分である,②正確な資産評価が困難である,③経営資源が不足している,④所有権の確定が困難である,という問題に直面している。ポーランド,チェコ・スロバキア,ハンガリーでは中小企業の売却を中心に成果があがり始めているが,大企業の民営化の進め方は,国によって特色がみられる。
ハンガリーでは,市場を通じた民営化を重視しており,国家資産庁のプログラムに従って,優良企業の株式を資本市場で上場・売却するという漸進的方式を採っている。この方式は,西側の民営化と同様の準備・手続きを必要とするため,多大な時間と費用が必要となる。上記のプログラムによりこれまで43企業が選ばれ,上場・売却が進んでいる。
ポーランドとチェコ・スロバキアでは,金融制度の整備がハンガリーより遅れており,対象企業数も多いことから,バウチャー(企業株式と交換可能な証券)を国民に配付し,これを株式と交換することにより,多数の企業を一括して民営化する方式をとっている。その際,株主の小規模化によって企業経営への監視が弱まることへの対策として,投資信託会社等の仲介機関を導入することとしている。とのような仲介機関としてポーランドでは民営の投資信託会社,チェコでは公的機関である「財産基金」がそれぞれ設立される予定である。両国とも,現在その準備を進めており,92年初めまでにはバウチャーと株式との交換が始められる予定である。