平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
I 世界経済白書本編(要旨)
第2章 ソ連の再編成と東欧の経済改革
85年に始まったペレストロイカは,88年中頃から本格的な政治の民主化とグラスノスチに踏み込んだ。しかし,このような改革は休制批判,民族運動を活発化させ,90年春以降,共和国の独立宣言,主権宣言が相次いだ。これに対し,ゴルバチョフ大統領は新たな連邦制を規定する新連邦条約の締結により連邦制を維持しようとし,保守派も強力な巻き返しを図ったが,91年8月のクーデター失敗を機に,共和国の権限強化の流れは固まった。
各共和国は特定の品目の生産に特化しているため,相互の依存関係は緊密である。例えば,他共和国向け輸出がその共和国の生産総額に占める比率は極めて高い。また,共和国間の取引価格には,経済力の弱い共和国への援助という政策的意図が折り込まれていたため,現実の取引価格は国際価格から乖離していた。ちなみに,仮に共和国間取引が国際価格で行われるケースを試算して現実のケースと比較してみると,ロシアが最大の負担を蒙っており,他のほとんどの共和国は利益を受けていることがわかる。財政制度を通じた移転の面でもロシアの負担が大きく,他のほとんどの共和国は受益者となっている。
ソ連では,新たな政治・経済システムの形成が模索されている。政治面では,バルト三国が独立し,グルジア,モルドバも独立を求めているほか,その他の共和国も主権強化を主張している。このため,新連邦条約では共和国の権限が大幅に拡大する見込みである。経済面では,経済共同体条約による新たな経済関係の構築が進められている。しかし,共和国の独自通貨発行,財政面の独立を認める一方で,連邦全体としての調整をどのように図るか,対外債権,債務の帰属をどのように定めるか,共和国間の取引価格をどのように設定するかなどの問題は未解決であり,その調整にはかなりの困難が予想される。