平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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I 世界経済白書本編(要旨)

第2章 ソ連の再編成と東欧の経済改革

第1節 ソ連経済の悪化とその背景

ソ連は90年にマイナス2%成長を記録した後,91年1-9月期には前年同期比12%滅と生産の減少は加速している。財政赤字の大幅な拡大を背景にマネー・サプライが急増し,物価は高騰している。貿易も大幅に縮小し,対外債務は91年中頃には650億ドルに膨れあがっている。国民生活の面でも物不足,インフレ高進により厳しさが増している。

現在のソ連が直面している経済困難の原因には,①旧システム下で生じた問題点が未解決なこと,②ペレストロイカの下での不適切な施策が新たな機能不全を生んだこと,③連邦システムの崩壊に伴い共和国間・企業間の経済関係が混乱したこと,④旧コメコン貿易の崩壊により貿易が著しく縮小したことに分けてとらえることができる。

第2-1-1図 ソ連の実質GNPの推移

第2-1-2図 ソ連のインフレ率と賃金上昇率

(旧システム時代から継続している問題点)

生産設備は70年代の更新期に,軍拡のため投資を怠ったことから老朽化している。特に,エネルギー,輸送,通信部門の遅れが著しい。流通も設備老朽化,中央指令システムの機能不全により,経済活動のボトル・ネックとなっている。さらに軍事費の重圧による民生部門の圧迫,労働者の移動制限等による労働市場の需給調整機能の欠如,金融システムの不備等により経済の効率は低いものにとどまった。また,ソ連の大規模国営企業は1業種1社に近い独占体制にあるため,1社の生産停止が全産業に大きな影響を及ぼしている。

(ペレストロイカの政策による問題点)

ペレストロイカ政策は,しばしば保守派の抵抗にあい,改革の実行が遅れがちであった。改革そのものも旧システムの構造をそのままにした部分的なものであったため,歪んだ副作用を生んだ。例えば,企業の独占体制下での自主権賦与は,製品価格の安易な引上げ,賃金の無原則な引上げを招いた。このほか,卸売市場がなく,官僚が物資の配分権限を握ったままで協同組合や個人営業を推進したため,官僚への賄賂やヤミ市場利用のコストが価格の上昇につながった。あるいは工業の7割以上が生産財部門(その6割程度は軍需関連といわれている)という産業構造をそのままにして消費財の増産政策をとったため,非効率な消費財生産となった。

(連邦制・指令システム崩壊の影響)

各共和国は,モノ不足とインフレに対処するために自国内の物声を域外に移出することを制限したために連邦全体の物流が混乱した。また,中央指令型の計画経済システムが崩壊する一方で,企業家の経営能力の不足や卸売市場の未発達等により,市場経済システムも機能していないので企業間取引が混乱している。

(コメコン解体の影響)

ソ連が外資獲得のため,エネルギー輸出を東欧諸国から西側にシフトしたことは,対コメコン貿易を縮小させることにつながった。さらに,コメコン内の貿易は91年初から「国際価格,ハードカレンシー決済,企業間貿易」に移行したことにより急速に縮小した。石油の輸出低下により外貨事情が苦しくなったソ連は西側からの輸入を維持することも難しくなり,ソ連の貿易は縮小均衡に陥っている。

第2-1-4図 ソ連における石油の生産と輸出の動向


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