平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
I 世界経済白書本編(要旨)
第2章 ソ連の再編成と東欧の経済改革
ソ連・東欧諸国の対外債務残高は増加を続けている。しかし,これらの地域の政治・経済情勢が不安定化したこと,及び各国の債務状況が悪化していることなどから西側の民間融資は慎重になっている。西側の民間からの信用供与は90年には回収超過となっているとみられる。その結果,これら地域の対外的な資金繰りは厳しさを増している。特に,ソ連の資金繰りは90年以降,急速に悪化しており,大量の金売却等で賄っているものとみられる。ただし,東欧については,91年に入り国際機関を中心として与信回復の動きが出始めている。
戦後の西欧復興においてはMF,世銀による一般的な支援に加え,マーシャル・プラン(48年からの4年間,実際は3年間)と欧州決済同盟(EPU。50年から58年まで)が大きな役割を果たした。マーシャル・プランは,西欧諸国のドル不足と対米債務問題をアメリカからの金融支援によって解決しようとしたものではなく,①西欧諸国か共通の計画の下で,域内必要量を自給できるだけの生産を回復する,②関税面等での域内協力によって域内市場を拡大するとともに,域内外への輸出によって得たドルでアメリカへの債務を返済する,③アメリカは,計画の初期段階で,生産復興に必要な財や貿易決済のための資金を供与し,また,交通インフラ整備への援助を行う,といった性格のものであった。具体的な復興計画は,援助の受手である西欧16カ国が設置した欧州経済協力委員会が作成し,アメリカに提出した。アメリカは,欧州の既存の人的資源,物的インフラを活用しつつ,システマチックな計画によって西欧参加国の自助努力をうまく引き出し,大きな効果をあげることに成功した。ちなみに,アメリカが供与した総額は3年間で103億ドルで,アメリカにおける当時の3年間のGNPの1.3%に相当した。EPUは,欧州各国の通貨が交換性を回復するまでの間,BISを介して域内の多国間決済を可能とするための制度であり,域内貿易の拡大に寄与した。
対ソ支援の意義は,①ソ連経済が破綻するような事態になれば政治・経済あるいは安全保障等様々の面で西側に深刻な影響が及ぶおそれがあること,②ソ連という大国が世界市場にうまく統合された場合,世界全体に大きな利益がもたらされるということに見い出される。
対ソ支援を考えるに際して,マーシャル・プラン等が参考となる。西側がらの支援を有効なものとするためには,ソ連側は支援の統一的な受け皿となる組織を確立する必要がある。このような組織は,共和国間の関係改善にも役立つという副次的効果もあると考えられる。マーシャル・プランに基づく西欧復興の当時と異なる点としては,①被援助国のソ連は70年以上も社会主義経済であったこと,②支援する側には多数の西側先進国や多様な国際機関(IMF,世銀,欧州復興開発銀行,OECDなど)が関係していること,③ソ連はヨーロッパではEC,アジアでは活発な経済圏と隣接するという恵まれた環境にあること,などが挙げられる。したがって,①については市場経済に関する様々な知的・技術的支援,②については援助側の相互調整,③については近接する経済圏との貿易・投資交流の強化が重要性を有することになる。
こうした点を踏まえると,ソ連経済を再建するためには,何よりもソ連自身の自助努力が最も重要であるが,西側の具休的な対ソ支援としては,次のことを推進すべきであると考えられる。第一は,ソ連をMF(91年10月にいわゆる準加盟が実現),世界銀行,GATT等の世界経済システムヘ受け入れることである。第二は,対西側貿易と西側からの直接投資を促進することである。
そのためにソ連側が実施する経済特区設置等の環境整備にも協力する必要があろう。第三は,エネルギーや流通などの分野における整備老朽化の問題解決に協力することである。(なお,中国の農村改革や対外政策との比較は,第4章第2節「中国の経済発展戦略」で取り扱っている。また,我が国の対ソ支援のあり方については,白書末尾の「おわりに」でのべている。)
東欧諸国への西側の支援は,対外債務の削減,技術支援等の形で,既に実行されている。戦後の西欧復興の経験と比較すると,東欧の場合,人的資源の面で市場経済への適応能力を有する人材が少ないことから技術援助の重要性が大きい。また,域内貿易では,東欧はいきなりハード・カレンシー決済に移行した点で無理が大きく,その再建にはEPUの例を参考にした多国間決済システムの設置を検討する価値があろう。さらに西側との貿易拡大を進めるため,ECを中心とした先進諸国のより一層の市場開放が望まれる。