昭和62年

年次世界経済白書

政策協調と活力ある国際分業を目指して

経済企画庁


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第1章 世界経済拡大の持続

第2節 原油価格の回復とOPECの動向

87年の石油情勢をみれば,原油価格は85年末から86年央にかけての急落から回復し,おおむねバーレルあたり18ドル前後で安定した動きを示したといえよう。これは,86年末のOPEC総会における固定価格制への復帰や生産上限の設定といったOPECの政策が奏功したものとみてよいだろう。更に,87年夏以降一層緊迫の度を増した中東情勢の影響も価格上昇要因として作用した。

1. 石油需給と価格の動向

自由世界の石油需要をみると(IEA),86年は日量4670万バーレルとなり,前年比2.4%増(80年代に入り最も高い伸び)となった。これは,石油価格が下落した結果,ガソリン需要やアメリカの重油需要,ヨーロッパの灯油在庫積み増しが増加したことなどによる。87年については,アメリカではガソリンをはじめとして輸送用燃料が好調であるものの,日本やヨーロッパでは石油価格の上昇などにより石油需要は伸び悩むとみられ,自由世界の石油需要は前年比1%程度増の日量4730万バーレルとみられている(11月現在)。

一方,自由世界への石油供給源としては,OPECやアメリカ,北海,メキシコ等の非OPECからの供給,ソ連などの共産圏からの輸出がある。第1-2-1図は,これら諸地域からの供給量と自由世界の需要とのバランスを示したものである。これをみると,非OPECの供給量は日量2500万バーレル程度でほぼ一定しているが,一方,OPECの供給量は同1500~1900万バーレルと比較的増減が大きく,それに伴い原油価格も変動しており,原油価格はOPECの生産水準に大きくかかっているといえよう。特に85年後半におけるサウジアラビアのスウィング・プロデューサー役の放棄とネットバック価格での販売という方針転換及びOPECのシェア確保戦略による増産をきっかけとして,原油価格は年末から86年央にかけ急落している(85年12月29.00ドル/バーレル→86年7月8.55ドル/バーレル,北海ブレント・スポット価格)。

2. 原油価格の低下による非OPECの生産の鈍化

非OPECの原油生産量は85年から頭打ちとなっているが,更に86年の原油価格の大幅低下はこの傾向に一層の拍車をかけたといえよう。特に,アメリカでは原油価格の急落により生産が減少しているほか,今後の生産にも関連する石油掘削活動も激減し,一方で輸入は急増している。現在,非OPEC生産量はOPECのそれを上回っているものの,新規油田開発等のコストをみると,OPECが圧倒的優位にあり,原油価格が当面現行水準程度で推移すると,非OPECの新規開発の低迷により,今後,OPEC原油への依存度が高まっていくものと考えられる。なお,世界原油に占める確認埋蔵量や輸出量,可採年数をみても,非OPECはOPECに大きく及ばない(第1-2-2図)。

3. OPECの原油生産枠の設定と公式販売価格の再固定化

OPECのシェア確保戦略は原油価格を急落させ,OPECの石油収入は急減した(85年1340億ドル→86年750億ドル)。その結果,OPECは無秩序な増産をもたらすデメリットを強く認識し,86年夏以降はサウジアラビアとイランの協調のもとに生産制限によって価格引き上げを図る政策をとった。

OPECは,86年12月の定例総会では原油価格のもう一段の回復を図るため,①固定価格制への復帰(代表的7油種の加重平均価格を18ドル/バーレルとする),②87年上半期の生産上限を日量1580万バーレルとする減産体制(86年12月生産実績同約1790万バーレル)などを決定した。さらに,87年6月の定例総会では,①現行固定価格制の維持,②本年下期の生産上限を同1660万バーレルに設定(前回総会では第4四半期同1830万バーレルで暫定合意していた)などに合意した(第1-2-3図)。

一方,OPECの原油生産実績をみると,87年1~3月・4~6月期には,サウジアラビアが結果としてみればスウィング・ブロデューサー役を果たしたことなどもあり,それぞれ日量1570万バーレル,同1690万バーレルとほぼ上期の減産体制を維持し,原油価格は18ドル/バーレル前後で比較的堅調に推移したといえよう。

4. 中東情勢の緊迫とOPECの枠を超える生産

87年上期において18ドル/バーレル前後で推移した原油価格は,6月のOPEC総会前後から強含みとなり,8月初には20.80ドル/バーレルと1年7か月ぶりの高値を記録した。この要因として,①OPEC総会で87年下期生産上限を抑制したことによる先行き需給バランスの引き締まり感,②7月のアメリ力のクウェート・タンカー護衛と触雷事件を契機とした湾岸情勢の一層の緊迫やメッカ事件といった緊迫する中東情勢などがあげられよう。本年9月で8年目に突入したイラン・イラク紛争は,7月には国連安全保障理事会での停戦決議が全会一致で採択されるなど和平工作が活発化しているものの,米・ソ両大国を巻き込んで国際化傾向を強め,タンカー攻撃が継続するなど依然緊張が続いている。

しかし,OPECの原油生産量は,7~9月期に入り急増し(期平均日量1900万バーレル),原油価格は8月下旬には一時18ドルを割り込むなど軟化したため,OPECは9月上旬に生産割当・価格動向監視委員会を開催するなど生産上限の遵守を図ろうとしている。

以上,現在は,緊迫した中東情勢の一方で,OPECの高水準の生産という需給緩和要因が続くという状況にあり,こうした中で原油価格は18ドル台でおおむね横ばいに推移している。


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