昭和59年
年次世界経済報告
拡大するアメリカ経済と高金利下の世界経済
経済企画庁
第2章 高金利下のアメリカの景気拡大
前節でみたように,アメリカでは79年末以降実質金利が上昇し,現在に至るまで高水準で推移している。その原因としては,金融引締め,財政赤字の拡大等の経済政策面からの影響に加え,インフレの鎮静化,投資の期待収益率の上昇等アメリカ経済の基礎的諸条件の改善に伴う設備投資の増加,個人貯蓄の減少が金利上昇の重要な原因と考えられる。
以下では,まず金融政策が金利に与えた影響を分析する。次に,高金利,特に82年央以降のそれに大きな影響を及ぼしたとみられる国内貯蓄・投資バランスの動向をみる。そして,種々の要因が国内貯蓄・投資バランスをどの程度ひっ迫させ,どのように高金利につながっているかを分析する。
78年末から79年にかけての第2次石油危機は,アメリカに2桁を超えるインフレをもたらした。これに対応して連邦準備制度(FRB)は金融引締めに転じた。特に,79年10月以降は金利重視の従来の政策運営方針をマネーサプライ重視に変更し,厳格なマネーサプライ抑制策を実施した。その結果,79年から82年央にかけて実質マネーサプライは減少傾向で推移した(第2-2-1図)。
このような実質マネーサプライの抑制は79年末以降の実質金利上昇に大きな影響を与えたとみられる。それは,通貨供給量の減少に見合うだけ通貨需要が減少する過程で名目金利ひいては実質金利が上昇するためである(付注2-2の通貨需要関数参照)。経済企画庁の世界経済モデルを用いた試算(83年12月公表のシミュレーション「アメリカのポリシーミックスの日米経済への影響」)によれば,マネーサプライの抑制策は,実質金利水準を81年に2.9%ポイント,82年上期には5.4%ポイント押し上げたと試算されている。
79年以降続けられた厳格なマネーサプライ抑制策は82年央に修正された。
連邦準備制度は82年央に至り,①物価上昇率の低下,②景気後退の長期化,③国際金融不安の発生等を背景に,金融政策を従来に比べ緩和的なものへと変更したのである。その後,82年末を底に,景気回復が本格化するにつれ,連邦準備制度のスタンスはやや修正されたとみられるが,物価の安定基調の継続等を背景に,インフレ抑制と景気拡大維持の双方をにらんだ中立的スタンスが現在まで採られている。その結果,82年央以降,実質マネーサプライは増加に転じている。実質マネーサプライの増加には,新金融商品の認可(MMDA(82年12月認可。M2に含まれる),スーパーNOW勘定(83年1月認可。M1に含まれる)等)が一部影響を及ぼしているが,新金融商品の影響を受けないハイパワード・マネー(現金+銀行準備)が82年央以降増加に転じていることからもわかるように,基本的には上に述べた金融政策スタンスの変更を反映したものと考えられる。
連邦準備制度のこのような政策スタンス変更により,金融政策面からの金利上昇圧力は82年央以降かなり緩和されたとみられる。前述の世界経済モデルのシミュレーション結果でも,82年央以降,金融政策による金利押し上げ効果は次第に低下している。
しかし,アメリカの実質金利は,金融政策面からの影響が小さくなったとみられる82年央以降も高水準を続け,83年初から84年央に至るまで,むしろ強調裡に推移してきた。アメリカの高金利,特に,82年央以降のそれに重要な影響を及ぼしたのは,次に検討するアメリカの国内貯蓄・投資バランスのひっ迫であると考えられる。
アメリカの国内貯蓄・投資バランスは,70年代後半に投資超過となった。その後,80年,81年と若干の貯蓄超過となったが,82年以降再び投資超過に転じ,84年上期にはその対GNP比は2.2%とアメリカとしてはかってない大幅な投資超過となっている(国内貯蓄・投資バランスの投資超過額は,経常収支赤字額に対応する)(第2-2-2図)(注)
国内貯蓄・投資バランスを部門別にみると,70年代後半には,企業部門の投資超過の拡大,家計部門の貯蓄超過額の減少が国内全体の投資超過の主因となっている。そして,82年以降の国内投資超過の拡大は,政府部門の投資超過(すなわち財政赤字)の大幅な拡大に加え,83年初めからは,家計と企業を加えた民間部門の貯蓄超過額の縮小が原因となっている。しかし,以下で分析するように,政府の貯蓄が減少する時は家計貯蓄が増加し,国内貯蓄の減少が一部緩和される可能性がある。したがって,82年以降の投資超過の拡大,ひいては金利上昇の主因が財政赤字のみにあると判断することはできない。
以下では,近年のアメリカの貯蓄・投資バランスに対して,①財政赤字の拡大,②インフレの鎮静化及び期待所得増加率の上昇,③投資減税,規制緩和,④技術進歩等に伴う投資の期待収益率の上昇,がそれぞれどの程度影響を及ぼし,アメリカの高金利にどのように作用したかを検討する。
(1) 財政赤字の拡大が国内貯蓄に及ぼした影響(クラウディング・アウトの大きさ)
先にみたように,82年以降については政府部門の負の貯蓄(財政赤字)の増加が,国内純貯蓄減少の主因となっているようにみえる(第2-2-3図)。しかし,後述するように,政府貯蓄が減少すると民間貯蓄が増加するという政府部門と家計部門の間での貯蓄の代替関係がある場合には,財政赤字が国内貯蓄・投資バランスに与える影響はそれだけ小さくなることに注意しなければならない。
82年以降の財政赤字の拡大には,軍事支出等歳出の拡大や,81年末から82年末にかけての景気の後退とともにレーガン政権による所得税を中心とした減税が大きく影響している。アメリカ政府の推計によればレーガン政権下で実施された税制改正による減税額は,83年度730億ドル,84年度903億ドルに達し,82年以降の財政赤字拡大の大半を占めている(第2-2-1表)。以下ではこの減税が国内純貯蓄の減少にどの程度影響しているのかを調べてみよう。
財政赤字が減税により拡大する時に,民間部門が減税により増加した可処分所得を全く貯蓄に回さないとすれば,消費は増加するものの,民間部門が設備投資等のために利用し得る国内貯蓄の量は,財政赤字の拡大に伴う国債の増発分だけ減少することになる。この場合には,クラウディング・アウトが100%起こることとなり,国内純貯蓄(民間貯蓄一財政赤字)は財政赤字の拡大分だけ減少する。そして金利は上昇し,民間の投資は減少することとなる。
一方,民間部門が減税によって増加した可処分所得の一部を貯蓄に回すとすれば消費の増加はそれだけ小さくなるが,クラウディング・アウトの程度はそれだけ小さくなる。仮りに減税額が全て貯蓄に回されるとすれば,国債の増発分は貯蓄の増加により全て吸収されることとなり,民間部門が利用し得る国内貯蓄の量は変化しない。このように,民間貯蓄が減税による政府貯蓄の減少を完全に代替する場合には,クラウディング・アウトは起こらず,金利も上昇しないこととなる。
現実の民間純貯蓄(個人貯蓄+法人企業内部留保)と財政収支の関係をみてみよう(第2-2-3図)。60年代後半から72年にかけ,財政収支と民間純貯蓄は負の相関を示している。すなわち,財政赤字が拡大した時には民間純貯蓄が増加し,国内全体でみた貯蓄の減少は和らげられている。ところがその後,75年~77年,82年以降の財政赤字拡大期には,民間純貯蓄は増加しておらず,政府貯蓄と民間貯蓄の代替関係は弱まったようにみえる。しかし,民間純貯蓄は,財政収支からだけではなく,アメリカ経済の現局面においては物価上昇率や期待所得増加率等からも影響を受けているとみられるため,民間純貯蓄と財政赤字の関係は総合的に分析される必要がある。
民間純貯蓄の大宗を占める個人貯蓄に,減税による財政赤字の拡大が与えた影響をみるために,財政収支に加え物価上昇率,期待所得増加率(将来の所得増加についての期待)など個人貯蓄に影響を及ぼすとみられる主な要因によって,個人貯蓄率関数を推計した(付注2-3参照)。このような推定式を前提にすれば,減税による財政赤字拡大分の約半分は個人貯蓄の増加に回り,国内純貯蓄の減少は財政赤字拡大分の約半分になると試算される。
このように,減税等による国債増発のある部分は個人貯蓄の増加によって吸収され,減税額の全てが消費に向ったわけではないとみられる。しかし,レーガン政権下での財政赤字の拡大は大幅であり,82年以降の国内貯蓄・投資バランスひっ迫の重要な原因であることには変わりない。
(2) アメリカの経済の基礎的条件の改善に伴う個人貯蓄率の低下
先にみたように,81年以降の減税は,個人貯蓄率を高める方向に作用したと考えられる。それにもかかわらず,現実の個人貯蓄率はその間むしろ低下している。これは主に①インフレの鎮静化,②期待所得増加率の上昇というアメリカ経済の基礎的条件の改善が個人貯蓄率を引き下げたためとみられる。
一般的に物価の上昇は,個人の保有する金融資産の実質価値を下落させるとともに,将来についての不安を高める。そのため,物価上昇率の高い時には個人貯蓄率が上昇し,逆に物価上昇率が低下すれば個人貯蓄率は低下する傾向にある。また,将来の所得が従来考えていた以上に増加することが分かれば,人々はその時点で将来のための貯蓄を減らし,消費を増やす。したがって,期待所得増加率が上方修正されると,個人貯蓄率は低下すると考えられる。
物価上昇率と期待所得増加率(株式市場評価額の前年同期差で説明)の変化が個人貯蓄に与えた影響をみてみよう(付注2-3の個人貯蓄率関数により試算。第2-2-4図)。第1次石油危機後の76年,77年の個人貯蓄率の大幅な低下は主に,石油危機により大幅に下方修正された期待所得増加率が,景気回復もあって再び上方修正されたこと,さらに,インフレが鎮静化したことによってもたらされたものとみられる。また,個人貯蓄率が82年,83年と更に低下した原因としても,82年以降のインフレ鎮静化,期待所得増加率の上昇が重要であったとみられる。
前述の貯蓄率関数を用いて試算すると,70年代後半や82年以降の国内貯蓄・投資バランスを貯蓄面からひっ迫させ金利上昇を招いた原因としては,減税等による財政赤字の拡大とともにインフレ鎮静,期待所得増加率の上昇というアメリカ経済の基礎的条件の改善が少なからぬ影響を及ぼしているとみられる。
貯蓄の減少とともに,設備投資の増加が,国内貯蓄・投資バランスひっ迫,高金利の重要な原因である。
アメリカの設備投資比率は,第1節でみたように70年代後半以降かつてない高水準で推移している。また,現在の景気拡大過程でも,朝鮮戦争時以来の急速な増加を示している。高金利下にもかかわらず,設備投資がこのように力強く増加している原因の1つとして,レーガン政権が行った投資減税や規制緩和が考えられる。
投資を行う際のコストすなわち資本コストは,市場利子率に加え,減価償却制度,投資減税,法人税等の税制等によって決まる。したがって79年末以降の金利上昇は当然資本コスト押し上げ要因となる。一方,レーガン政権による「81年経済再生租税法」による投資税額控除(Investment Tax Credit)の控除率の引上げ(従来,投資額のO~10%であったものを6~10%に引き上げた),投下資本早期回収制度(Accelerated Cost Recovery System)による減価償却期間の短縮(平均償却期間は約8.6年から約5年に短縮)は資本コストの軽減を図るものであった。しかし,その後財政赤字の拡大等に鑑み「82年税負担の公正と財政責任に関する法」により,これらの設備投資促進策は一部修正された。レーガン政権が実施した投資減税は,それ自体としては資本コストを引下げる方向に作用したとみられる。しかし,同時にこの措置は前述の所得税減税とともに財政赤字拡大の原因となり,実質金利上昇,資本コスト上昇の一因ともなったことに留意が必要である。
これらの動向を背景として資本コストは,79年末から80年にかけ金利の上昇を反映して上昇したが,81年には低下し,金利が上昇する以前すなわち79年以前と比較しても,むしろ低い水準で推移している(第2-2-5図)。また,図に示した資本コストでは考慮されていないが,レーガン政権が実施した各種政府規制の緩和措置も様々の形で資本コストを引き下げたと考えられる(第2-2-2表)。
このように,投資減税等は資本コストを低下させる一つの要因となり,これを通じてそれ自体は設備投資の増加をもたらす方向に作用していると考えられる。ただ,こうした企業減税は既にふれたように財政赤字の拡大を通じ資本コスト上昇の一因となって,この面からは設備投資にマイナスの影響を及ぼしたことには留意する必要がある。レーガン政権による投資減税の実施は,81年初であり,設備投資の急速な伸びはそれから2年余りを経た83年以降である。また,70年代後半以降のやや中期的な投資水準の高まりは,投資減税以外の要因により説明される必要がある。そこで以下のような要因をみてみよう。
設備投資の70年代後半以降の中期的な強さ,83年以降の急速な拡大の主な原因としては,景気の拡大とともに技術進歩等による投資の期待収益率の上昇が重要であると考えられる。
アメリカの投資の期待収益率は,第1次石油危機後,企業収益の低下予想から大幅に落ち込み,その後,一時的に若干の上昇はみせたものの,82年央に至るまで低水準で推移してきた(第2-2-5図)。しかし,技術進歩等に伴い投資の期待収益率は82年央以降急速な上昇を示しており(82年央から84年初にかけて約70%上昇),今回の景気拡大局面における投資増加の最大の原因とみられる(近年の技術進歩の性格については第3節参照)。
企業の期待収益率や資本コストに関する計測方法には様々な方法がある。ここでは一つの試算として「トービンの限界q」(投資の期待収益率と資本コストの比)を用い,限界q,景気変動(稼動率で説明),更新投資(粗資本ストックで説明)の三つの要因により現実の設備投資の動きを説明した設備投資関数(付注2-6)により,設備投資に対する各要因の影響の大きさをみてみよう(第2-2-6図)。これによると,83年以降の設備投資の急速な拡大は,景気回復とともに,q比率の上昇によるところが大きいことがみてとれる。第2-2-5図から分かるように82年末からのq比率の上昇はほとんど投資の期待収益率の上昇によるものである。したがって,技術進歩等が投資の期待収益率を高めそれが現在の投資の力強い増加に大きく寄与していると考えられるのである(投資の期待収益率の84年上期の設備投資の前年同期比(21.4%増)に対する寄与度は約13.5%と試算される)。
70年後半以降の中期的な投資の強さの原因を詳しく検討するために,産業別の設備投資動向,生産性の動向と研究開発費の関係をみてみよう。
製造業の中で産業別設備投資動向をみると,電気機械,一般機械といった近年技術進歩が著しいとされる産業における設備投資が70年代後半以降,そ
の他産業を大きく上回る増加をみせている。また,景気後退の影響の受け方も,その他産業に比べ小さい。例えば,その他産業の設備投資は82年に大きく減少したが,電気機械産業の投資はこの期間も増加を続け,84年についても大幅な増加が見込まれている。
このように,技術進歩と強い関連を持つと考えられる設備投資の増加が70年代後半以降,アメリカの設備投資が中期的に高水準にある重要な原因になっていると考えられる。
アメリカの研究開発費(実質)は60年代後半から70年代前半にかけ,ほぼ横ばいと低迷した(第2-2-8図)。これは,ベトナム戦争後,国防関係を中心に政府の研究開発支出が減少したこと,この時期に商業化に結びつく新たな研究開発投資の対象があまり現れず,民間部門の研究開発費がさ程増加しなかったこと等によるといわれている。しかし,76年以降は,エレクトロニクス,バイオ・テクノロジー等の分野を中心に研究開発費は著しい増加をみせている。
76年以降の研究開発費の増加は,主に民間部門における応用・開発研究の増加によるものであり,エレクトロニクス等における技術進歩を新製品や新たな製造工程に結びつけるものであったとみられる。したがって,近年の研究開発活動の盛り上がりは,直接,生産性の向上,投資の期待収益率の上昇に大きく寄与しているとみられる。
60年代後半から73年にかけ年率約1%程度を保った全要素生産性上昇率(技術進歩に基づく生産性上昇率)は,第1次石油危機後,74年~79年にかけて,年率約0.5%まで低下した(第2-2-9図)。このような70年代後半の生産性上昇率の鈍化の主な原因は,先にみた60年代後半から70年代前半の研究開発活動の低迷にあるとみられる。これとは逆に,76年以降の研究開発費の急増は,80年代に入ってからの生産性上昇に結実しているとみられる。80年から83年にかけ,全要素生産性上昇率は再び年率1%を超える水準まで回復している。
70年代後半以降の研究開発の活発化が技術進歩を加速化し,80年代に入ってからの生産性上昇率を高め,期待収益率の上昇を通じて中期的な設備投資増加に大きく貢献しているとみられるのである。
以上のように,82年以降の国内貯蓄・投資バランスのひっ迫は,貯蓄面からは減税等に伴う財政赤字の拡大とともに,インフレの鎮静化と期待所得増加率の上昇が,投資面からは技術進歩等に伴う期待収益率上昇と投資減税による資本コストの低下がそれぞれ大きな影響を及ぼしたとみられる。また,70年代後半以降,先端技術産業を中心に中期的な設備投資の強さがみられること,第1次石油危機後,インフレの鎮静化,期待所得増加率の上昇が貯蓄率を低下させたことが77年から79年にかけての投資超過の主な原因とみられた。
それでは,このような貯蓄・投資バランスのひっ迫は,どのようなメカニズムを通じて調整され,金利を上昇させたのだろうか。
70年代後半や82年以降のように,国内において何らかの要因により,投資超過が発生すると,それは主に3つの径路を通じて調整される。第1は金利が上昇して貯蓄を増やし,投資を抑えるメカニズムである。第2は所得が増加し,それに伴い貯蓄が増加して投資超過を吸収する径路である。そして,これら2つの径路によっても調整されない投資超過額は,海外からの貯蓄の流入(資本流入)という第3の径路によって吸収される。減税やインフレ鎮静化,投資の期待収益率の上昇といったアメリカ国内で投資超過をもたらしたとみられる要因は,実質高金利の原因であるとともに,景気拡大やアメリカへの資本流入(アメリカの経常収支赤字)の原因でもあると考えられる。
国内貯蓄・投資バランスは上にみた4つの要因以外に景気変動によっても変化する。そこで,アメリカ国内の景気の状態にあまり違いがないとみられる81年と84年上期(81年の失業率は7.5%,84年上期のそれは7.6%)の間で,減税等が貯蓄・投資バランスに与えた影響の大きさを比較してみよう。
前述の貯蓄率関数,設備投資関数を基に試算すると,81年から84年上期にかけての国内要因に基づく投資超過額拡大のうち,減税等に伴う財政赤字の拡大等による貯蓄減,投資増とインフレ鎮静化と期待所得増加率の上昇による貯蓄減とがほぼ同程度であり,期待収益率上昇による投資増によるものがそれらの約半分と試算される(付注2-7)。そしてこれらの要因が,特に,金融政策面からの影響が従前に比べ低下したとみられる82年央以降,上に述べたメカニズムを通じてアメリカの実質高金利に重要な影響を及ぼしたと考えられる。
アメリカの79年末以降の高金利は当初は主に金融引締めにより,82年央以降については主に国内貯蓄・投資バランスひっ迫によるものであることをみてきた。そして,82年央以降の高金利の原因として,財政赤字の拡大に加え,インフレの鎮静化,投資の期待収益率や期待所得増加率の上昇等,アメリカ経済の基礎的諸条件の改善が影響してきたと考えられる。
金利の動向と密接な関係を持つ経済政策,経済の基礎的条件の今後の動向に関しては,政策面では①現在進行している赤字削減の成り行きを見守る必要があるが,赤字削減努力を織り込んだアメリカ政府の見通しでも今後引き続きかなりの財政赤字を予想していること(第2-2-3表),②金融政策面では当面,大幅な緩和措置が採られる可能性は小さいとみられることから,今後,金利を急速かつ大幅に低下させる要素は少ないとみられる。また,経済の基礎的条件についても,①投資の期待収益率の上昇,期待所得増加率の上昇の背景に先端技術産業を中心とする技術進歩があるとみられるので当面の根強さがうかがわれること,②技術進歩,高生産性部門の拡大に伴う生産性の向上,安定的金融政策,労使関係の改善等によるインフレ鎮静化効果もすぐになくなる訳ではないことなどから考え,この面からの金利引下げ要因も当分の間は小さいとみられる。
このようにアメリカの高金利是正には容易でない状況がみられるが,アメリカ経済の持続的成長,他国における投資の拡大,累積債務問題の解決等のためにアメリカの金利低下は必要不可欠と考えられ,アメリカの政策対応,特に財政赤字削減に一層の努力が払われることが強く望まれる。