昭和57年

年次世界経済報告

回復への道を求める世界経済 

昭和57年12月24日

経済企画庁


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第1章 1982年の世界経済

第3節 減少する世界貿易と保護貿易主義的圧力の高まり

1. 減少する世界貿易

共産圏を除く世界貿易(輸出数量)は,1980年に0.5%増加した後,1981年は1.2%も減少した。このように数量ベースで前年を下回ったのは戦後では,52年,58年,75年に次いで4度目のことである。この大幅減の主因は鉱産物,特に原油,石油製品輸出量が急減したことである。

また共産圏を含む81年の世界貿易数量(ガット報告)はほぼ横ばいとなった。これは農産品,工業製品がそれぞれ3%,41/2%増加したものの,原油及び精製油が11%減少したためである。

なお,世界貿易総額(ドル表示)は,ドル高等によるドル建て輸出価格の低下から1%減少し,58年以来,23年ぶりに減少に転じた。

共産圏を除く世界貿易(数量ベース)を主要地域別にみると,先進工業国では輸入の減少が著しく,80年2.6%減,81年2.7%減となっている。一方,その輸出は,80年4.4%増,81年2.6%増加している(第1-3-1表)。

産油国では,石油価格急騰に伴う石油収入の増加や開発計画の推進から輸入は80年に引き続き81年23.6%増加したが,輸出は逆に世界の石油需要の減少等から80年に引き続き81年17.4%の減少となった。非産油途上国では81年輸出10.3%増,輸入9.1%増となった。

四半期別の世界貿易(共産圏を除く,輸出数量)をみると,80年4~6月期以降多くの先進国の同時的な景気後退から輸出は80年4~6月期から減少を続けていたが,その後81年に入ってアメリカの景気が一時的に回復したこともあって,81年1~3月期から増加に転じた。しかし,81年7~9月期からは4四半期連続して減少を続けている。

このうち先進工業国の輸出数量は82年1~3月期に前期比0.5%減少したが,4~6月期には同1.0%減となった。

主要国の輸出動向をみると(第1-3-1図),アメリカでは80年4~6月期から引き続いて減少している。また西欧諸国ではアメリカの景気後退の進行,OPEC諸国の石油輸出の減少に伴う開発投資規模等の縮小を反映して,81年7~9月期から減少傾向に転じている。

なかでも西ドイツでは81年を通じて増加を続けた後,82年4~6月期,前期比3.0%減となったが,前期比マイナスとなったのは,80年10~12月期以来初めてである。一方,フランスでは,81年前半に増加したが,81年7~9月期を境にして以後減少を続けている。また,イギリスでも,81年下期にやや持直したもののその後は伸び悩んでいる。

2. 保護貿易主義的圧力の高まり

先進工業国の輸出の減少傾向が続き,世界貿易全体が縮小するなかで,先進工業国の失業問題の深刻化,二国間の貿易収支不均衡の拡大等の背景から貿易摩擦が高まっている。

アメリカ・EC・日本の3地域間の貿易収支の動向をOECD統計でみると,ドル高に伴うアメリカ製品の輸出競争力の低下および日本の内需不振等の理由によりアメリカの対日赤字が,81年171億ドルの史上最高になったほか,大幅な黒字になっていた対EC黒字幅が縮小しつつあり,81年121億ドルヘ減少した。これらの傾向は,82年に入っても変化せず,アメリカの対日赤字の拡大傾向,対EC黒字の縮小傾向が続いている(第1-3-2表)。 一方,ECの対アメリカの赤字が減少しているものの,対日赤字が,81年 126億ドルに達し,82年に入っても高水準の赤字幅が続いている。

このようなアメリカ・EC・日本の3地域間の貿易収支動向を背景にして貿易摩擦,保護貿易主義的圧力が高まりつつある。EC委員会は82年5月以来行われているガット23条1項協議の場も含め再三にわたり日本の一層の市場開放を求めると同時に,日本のEC向け輸出の自粛政策の明白な保証を求めるなど,日・EC間の貿易摩擦は高まりつつある。

また,以下にみるようにアメリカにおいても保護貿易主義的圧力が高まりつつある。

最近におげる保護手段・保護措置の特徴をみると,「輸出自主規制」「市場秩序維持協定」などの量的規制が,割当制,許可制,貿易の技術的障壁などの伝統的な非関税措置と並んで実施されている(国連:世界経済調査報告)。

また,貿易摩擦の解決を図るに当ってガットを迂回する傾向があるといわれている(ガット報告)。

最近における主要な保護貿易主義的圧力の具体的な動きをみると,つぎのように整理できよう。

① 相互主義法案

アメリカ議会に多数の相互主義法案が提出されている。相互主義法案の主なねらいは,アメリカが提供しているのと実質的に同等な貿易,投資上の機会を他国がアメリカに付与しているかどうかについて調査し,それが付与されていない場合は,貿易,投資規制により対抗措置をとることを要求し,これらについて相互性の欠如の理由から対抗措置を認めることを議会に提案するなど大統領の権限の拡大を図るものである。

② 対米鉄鋼自主規制

アメリカとECは,ECの対米鉄鋼輸出自主規制案について82年10月合意した。今回の自主規制の期間は82年11月1日から85年12月31日までの3年2か月である。

③ ローカルコンテンツ法案

ローカルコンテンツ法(自動車生産におげる公平行動法)は,議会に提出され,現在審議中であるが,これはアメリカ国内で年間10万台以上の自動車を販売する外国メーカーに一定比率のアメリカ国産部品の調達を義務づける保護貿易主義的な内容のものである。

④ ECの対日輸入監視制度及びフランスの輸入制限的措置

ECは81年2月より日本製の乗用車,カラーテレビ受像機,同ブラウン管及びNC工作機械を輸入監視下においている。EC加盟国は毎月上記品目の前月輸入量をEC委員会に報告ずることになっている。

なお,フランスは事前輸入監視制度によって日本製の乗用車,NC工作機械,モペットの実質的輸入数量規制を実施している。また,本年10月には,VTRの通関を内陸部のポワチェ1か所に限定し,このためVTRの通関量は激減した。さらに全商品に通関書類,原産国表示,商品添付書類のフランス語使用を義務付けた。

3. ガット閣僚会議と今後の課題

このような保護貿易主義的圧力の高まるなかで,82年11月には,73年の東京会議以来9年ぶりにガット閣僚会議が開催された。

今回のガット閣僚会議の主要な目的は,現在の困難な経済情勢の下で,①世界中で高まっている保護主義の動きに歯止めをかけ,自由貿易体制の維持・強化に向げての各国のコミットメントを再確認すること,②ガットの従来から懸案事項(セーフガード(緊急輸入制限)問題,発展途上国問題,紛争処理手続,農業問題等)について解決に向げての方策を探ること,及びガットの場でサービス貿易等の新しい問題を取り上げることの検討等,今後の貿易問題への取組み方の方向を確立することであった。

今回の会議では,各国代表団間の折衝が難航したが,各国の努力で政治宣言の合意を達成することができた。

今回の会議で決定された主なものは次のとおりである。①政治宣言はガットに合致しない新たな保護主義的措置を執ること及び既存の保護主義的措置を維持することを慎むこととした。②セーフガードについては透明性,適用範囲等を含む包括的了解について,遅くとも,83年の総会で採択されるよう更に作業を進めることとなった。③農産物貿易については輸出補助金を含め農産物貿易に影響を及ぼすあらゆる措置について検討し,勧告を行うための農業貿易委員会を設置,84年の総会までに勧告を行うこととなった。④サービス貿易については関心を有する各国がそれぞれの国で検討するとともに,ガット等の国際機関を通し,情報を交換し,84年の総会でそれらの作業結果をレビューし,多国間の行動が適切か否か,望ましいか否かを検討することとなった。

現在のよ.うに世界的に厳しい経済状況のなかで,保護主義を排除するとの方向に関し,各国の合意が実現し,政治宣言がまとまったことは,評価されなければならない。しかし,当初から解決を目指してきた重要課題のうち,セーフガードについては期限を付して検討が継続されることとなったことを始め,多くの問題が将来の検討にゆだねられることとなった。今後はこうした問題の解決に積極的に取組んでいくとともに,今回会議の成果を具体的に実らせるべく努力していくことが極めて重要になっている。


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