昭和53年度

年次世界経済報告

石油ショック後の調整進む世界経済

昭和53年12月15日

経済企画庁


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第4章 中進工業国の進出と先進国経済

第3節 重要性高まる中進国市場

以上のように発展途上国,とくに,中進国やヨーロッパ新工業国から先進工業国へ工業品の輸出は急速に増大している。しかし,同時に中進国などの工業化の進展につれて,これらの国々が先進工業国にとって工業品の大きな市場として成長している事実を見逃すことはできない。とくに,石油ショツク以来先進工業国の経済成長率が著しく低下し,国内需要が伸び悩んでいるだけでなく,先進工業国相互の貿易も鈍化している状態のもとでは,中進国などへの輸出の増大は,先進工業国の景気にとって大きなプラス要因になっている。

なかでも,中進国などでは経済開発,工業化が急速に進められているために,鉄鋼,建設資材,産業用機械など中間財や資本財の輸入需要が急テンポで増大している。そして,中間財や資本財は当然のことであるが,主として先進工業国から輸入されている。この結果,投資の低迷によって低い操業度に悩まされている先進工業国の中間財・資本財産業にとって,中進国などへの輸出増大は少なからぬ救いとなっている。

このような事情を考慮すると,先進工業国としては「中進国の追い上げ」に対していたずらに身を縮めて,輸入の抑制,国内産業の保護に走ることなく,中進国からの輸入を受け入れる一方,資本財など高付加価値商品の輸出拡大を図り,拡大均衡の方向で対処することが必要である。また,このような方向をたどることによって,盛り上る中進国の活力を生かしながら,世界全体としての経済拡大が促進され,貧困にあえぐ後発発展途上国にも好影響が及ぶことが期待される。それだけでなく,これによって先進工業国自身も生産効率の向上,資本財産業の拡大などにより,物価の安定,生活水準の向上が可能になると思われる。

以下では,このような視点に立って,中進国などへの先進工業国の輸出動向を検討しよう。

1 発展途上国市場の成長

石油ショック以来,先進国の工業品輸出全体の増加テンポは鈍化しているが,発展途上国向けの輸出はむしろ加速されている。先進国の工業品輸出数量の伸びをみると,先進国向けは1967~73年には年平均11.8%も増加していたが,73~76年には年平均3.7%へと著しく鈍化している。ところが,発展途上国向けの輸出増加率は,67~73年の年平均9.2%から73~76年の12.8%へと逆に高まっている。

とくに注目されるのは,石油ショック以後輸入が飛躍的に増加したOPEC諸国は別格としても,その他の発展途上国への輸出も大幅に増加していることである。第IV-3-1表は,73~76年について,先進工業国の工業品輸出額の伸びを,品目別,地域別に示している。

工業品全体についてみると,先進国向けが46%の増加であったのに対して,OPEC向けは3.5倍の激増となっている。同時に,非産油途上国への輸出もこの間67%増と,先進国向けを大きく上回る伸びを記録している。

また,品目別にみると,とくに機械輸出の場合先進国向けの49%増にくらべて,非産油途上国向けが82%と大幅に上回っている(OPEC向けは4倍)。

さらに,73年から76年までの増加額でみると,先進国の工業品輸出増加のうち34.8%が発展途上国向け(うち,16.3%は非産油途上国)で占められ,機械の場合,発展途上国の寄与率は42.2%(うち非産油途上国19.7%)に達する。

2 激増する中進国の工業品輸入

第IV-3-2表は,中進国6ヵ国のOECD諸国からの工業品輸入の急増振りを示している。75年までの10年間にOECD諸国の工業品輸出総額は年平均17.4%の増加を示したが,輸出先別にみるとOECD相互貿易の16.3%に対して,中進6ヵ国向けは22.6%の増加を記録した。

この表に示されている第一の特徴は,アジア,中南米を通じて,中進国工業品輸入の80%以上が重機械等と資本集約的中間財で占められていることである。なかでも,アジアではこの10年間に重機械等の輸入は年平均27%という急テンポの増加をつづけている。

このように,重機械等や資本集約的中間財のウエイトが高いのは,各国が工業開発に努めているためであり,中進国の輸出がふえ,これを供給するために必要な設備投資が増加すれば,それにともなって資本財の輸入も著増する傾向があることを雄弁に物語っている。

つぎに,中進国の工業品輸入を地域別にみると,アジアでは地理的関係もあって日本からの輸入が圧倒的に多く,75年では約50%(韓国では61%)を占め,残りをアメリカと西ヨーロッパが分け合うかたちとなっている。ただ,増加率でみると韓国市場をのぞいて,アメリカからの輸入の伸びが高いことが注目される。商品別の構成をみると,アメリカからの輸入は60%以上が重機械等で占められている(75年)のに対して,日本からの輸入では重機械等は36%にとどまり,資本集約的中間財(31%)や労働集約的軽工業品(19%)の比率が未だかなり高くなっている。

これに対して,中南米中進国の工業品輸入先は主としてアメリカ,西ヨーロッパであり,日本のシエアは近年たかまっているものの,10%内外にとどまっている。

3 中進国における工業化と輸入需要

中進国の工業品輸入が急テンポで増加しているのは,これら諸国の工業化が急速に進展し,そのために機械や中間財に対する需要が高まっているからである。

発展途上国全体としての工業生産増加率をみると,1960年代の年平均6.4%から,70~77年には同7.2%へとむしろ高まっており,この間,先進国の増加率が5.8%から3.4%へとほぼ半減しているのに対して著しい対照を示している。

発展途上国の生産増加率を地域別・産業別にみると,第IV-3-3表の通りである。この表にみられる第一の特徴は,全地域を通じて重工業の伸びが著しく高いことである。この結果,重工業が全工業生産に占める比率は,70年の48%から77年には53%に高まっている。

第二の特徴は,70年代に入ってからアジア諸国の生産増加テンポが年平均8.5%へと著しく高まり,とくに,機械産業と衣類産業が年15~16%もの伸びを示していることである。これは,主としてアジアに多くの中進国が集中しているためであり,比較的早くから工業化の進んでいるインドやパキスタンの工業生産の伸びは低い(70~77年に年平均でインド4.5%増,パキスタン2.7%増)。

中南米の中でも,ブラジルの工業生産は65~73年に年平均11.7%の高成長を記録しており,なかでも機械類の伸びは年平均20%前後に達している。

中進国等の重工業発展の一例として鉄銅業をみると,スペイン,ブラジル,メキシコ,韓国,ユーゴ,アルゼンチンの6か国の粗鋼生産は,65年には合計12百万トンで世界の2.6%にとどまっていたが,77年には38百万トンにのぼり世界の5.6%を占めるに至っている(第IV-3-1図)。

つぎに,中進国の中でも近年とくにめざましい躍進を続けている韓国について,その工業化の進展状況と輸入関係をみよう。

韓国が本格的に工業化に着手したのは1962年以降のことである。それまでの韓国経済は朝鮮動乱により壊滅的打撃を受けたあと,政情の不安定もあって低迷が続いていた。62年は韓国経済にとって大きな転機となった年で,この年,自主経済体制の確立を目指した第1次経済開発5か年計画(62~66年)がスタートした。この計画では繊維,肥料など輸入代替産業育成に力点がおかれた。その後,第2次計画(67~71年)では軽工業の国際競争力強化が基本政策の1つにあげられ,ついで,第3次計画(72~76年)では輸出の画期的増大と重化学工業建設等を目標におき,機械,電子,造船などが重要育成産業に指定された。そして,現在第4次計画(77~81年)が産業構造の高度化・重化学工業化等を目標に実施されている。そのうち,第3次までの計画ではその目標のほとんどが計画を上回る実績で成功裏に終了した。また,第4次計画も目下順調に実施されている。

この結果,62~77年の韓国経済の成長率は年平均10.2%にものぼった。とくに工業化の進展はめざましく,この間の生産増加率は年平均20.7%を記録し,国民総生産に占める工業生産の比率も62年の11.7%から77年には35.3%へ高まるなど,産業構造の近代化も急速に進んだ。

製造業生産の構成をみても,62年には飲食料品と繊維製品だけで全体の6割を占め(付加価値ベース),軽工業のウエイトは73.4%にのぼっていた。しかし,その後,鉄鋼,化学肥料,ラジオ,テレビ,さらに最近では乗用車,船舶など重化学工業が急速に育成されつつある。これを反映して,重化学工業の比率は62年の26.6%から76年には40.2%に高まっている(第IV-3-4,5表)。

このような工業生産力の増大を背景に,韓国の工業品輸出が文字通り飛躍的な増加を示していることは,第IV-2-1表にもみられる通りである。

しかし,同時に韓国の工業品輸入も,資本財,中間財を中心として急激に増加している点も見逃がせない。第IV-3-6表にみられるように,70~77年の工業品輸入額は年平均26.6%も増加しており,なかでも資本集約的中間財は年31.1%もふえている。また,77年についてみると工業品輸入額の48.8%は重機械等で占められ,これに資本集約的中間財を加えると78.0%に達している。これは,近年韓国産業の重化学工業化が進んでいるものの,まだ,工業化の歴史が浅いこともあって産業の裾野は狭く,重機械等や資本集約的中間財の多くは輸入に頼らざるをえない状況にあるためとみられる。

したがって,今後も韓国製品の輸出が急速な増加を続け,工業化が一段と進展をみせれば,これにともなって工業品,とくに重機械などの輸入も大幅な増加を示すものと考えられ,わが国をはじめとする先進国にとって大きな輸出市場として成長する可能性も大きい。

現在,韓国は重化学工業化に向けて第4次5か年計画を推進中であるが,計画によると目標年次の81年には重化学工業のウエイトも49.5%に高まると想定している。そうした中で,将来の輸入構造をみたのが第IV-3-7表である。すなわち,産業の高度化を目指す過程で同国は81年までに年平均16.9%(実質)と極めて高い工業品輸入増加を予定している。

また,91年までの長期計画によれば,製造業の重化学工業化率を現在の先進国並みに高めることを目標としているが,その過程でも工業品の輸入増加は年平均14.5%に達すると想定されている。これは同期間の工業品の輸出増加目標(年平均14.9%)とくらべてもほとんど遜色がない。

4 ヨーロッパ新工業国の輸入

ヨーロッパの新工業国であるスペイン,ユーゴ,ギリシアからOECD諸国に対する工業品輸出が急速にふえていることは前節で述べた通りである。

しかし,同時にこれら諸国の輸入も,中間財,資本財を中心にかなりの増加を続けている。

この3国の他のOECD諸国からの工業品輸入額は,73年の93億ドルから76年の143億ドルヘ54%増加した。この伸びは,OECD諸国の先進国向け輸出の伸び(48.3%)をやや上回っている。

また,この3国のOECD諸国との工業品の貿易収支バランスをみると,第IV-3-8表の通りで,赤字幅(その他のOECD諸国にとっては黒字幅)は次第に拡大している。商品別にみると,労働集約的軽工業品では70年以来黒字になっているが,その他の商品,とくに資本集約的中間財や重機械等での赤字幅は急速に拡大している。つまり,先進OECD諸国にとってはヨーロッパ新工業国は重工業品の純輸出市場として成長しつつあるといえる。