昭和53年度

年次世界経済報告

石油ショック後の調整進む世界経済

昭和53年12月15日

経済企画庁


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第1章 1978年の世界経済

第4節 発展途上国の経済動向

1 成長つづく発展途上国経済

(1) 概  況

1977年の発展途上国経済は先進諸国の成長が緩慢化し,世界貿易も伸び悩むといった不利な環境にありながら比較的高い成長を達成し,非産油途上国の実質成長率は4.9%,産油国も前年の高成長(12.9%)には及ばなかったものの6.3%にのぼった(第I-4-1表)。これは農業が77年も好調に推移したこと,輸出も前年の増加率22.9%には及ばなかったものの,17.8%増と工業製品,一次産品ともに増加し,先進国の輸出の増勢を上回ったことなどによる。非産油途上国の貿易収支は依然大幅な赤字であるものの,輸出増加率が76,77年と2年連続輸入のそれを上回ったことから大きく改善し,資本の流入も順調であったため外貨準備高も増加した。また,工業生産も輸出の増勢が前年を下回ったことなどもあって上昇テンポは鈍化したものの,前年比5.4%増と比較的順調であった。

しかし,75,76年と騰勢を弱めてきた物価は77年に入って再び騰勢を強め,多くの諸国が2桁台の上昇を続けている。加えて,年間では先進国を上回る増加をみせた非産油途上国の輸出が下期以降の一次産品市況の軟化や,同じく先進国の輸入需要が下期に大幅に鈍化したことから,77年の後半以降急速に鈍化している。

78年の経済動向をみると,穀物生産は一部諸国で天候不順に見舞われているものの,総じて前年を上回る生産が見込まれており,上期の鉱工業生産も中進国では順調に推移している。ただ,物価は本年に入ってアジア諸国で落着きをみせているが,他の地域は依然高い騰勢が続いている。

また,輸出の鈍化傾向は78年上期も継続しており,一方,輸入の増勢が高まっていることから,貿易収支は再び赤字幅を拡大しつつある。ただ,輸出の先行きについてみると,軟調にあった一次産品市況が年央以降底固い動きを示しており,先進諸国の輸入も年初来増大に転じていることなどを考慮すると,下期には増勢が回復すると思われる。

(2) 生産の順調な拡大つづく

発展途上国の農業生産は70年代初期(71,72年)に不作に見舞われたものの,その後,順調な拡大を続けており,77年も天候にめぐまれたことなどから前年比2.6%の増加となった。そのうち,穀物生産は豊作であった76年をやや上回る426.9百万トンの収穫で,特にアジア地域はインドの大豊作等好調であった。ただ,地域別にみると西アフリカを襲った干ばつからセネガル等が大きな被害を受けるなどアフリカ地域の低迷が目立っている(第I-4-2表)。

78年の穀物生産はインド,アルゼンチンでの豊作見通しなど発展途上国全体では前年を上回る収穫が見込まれているものの(FAOの78年9月末の見通し),マレーシア(干ばつ),ヴェトナム(洪水),ブラジル(干ばつによるとうもろこしの減産)等では前年を大きく下回ると見られており,西アフリカのサヘル地域の干ばつも継続している。

一方,77年の工業生産は輸出の増勢が前年より鈍化したことなどもあって,前年比5.4%増と前年(8.0%増)より鈍化したものの,比較的順調であった。地域別にみると,アジアでは鉱工業生産指数が7.6%増と前年の11.3増には及ばないものの,工業品輸出増を背景に比較的好調であった。これに対し,中南米では各国でインフレを抑制するために引締政策を強化したことなどもあって,ブラジルで自動車生産が減産となるなど低迷がみられ,前年比2.7%増にとどまった(第I-4-3表)。

78年に入ってからの工業生産は,アジアでは韓国,台湾が工業品輸出の好調から前年同期を2割以上上回る高い増勢をみせている。また,前年不振だったフィリピン,パキスタンでも回復の動きがみられるが,インドネシアでは輸出の低迷から石油生産等は本年に入ってから不振を続けている。中南米でもブラジル,メキシコ,チリ等は順調な拡大をみせているが,アルゼンチンは低迷してる。

(3) 再び悪化傾向をみせる貿易収支

非産油途上国の輸出は75年に前年比4.2%減とマイナスを記録したあと,76年22.9%増,77年17.8%増と順調な拡大を続け,特に,77年には先進工業国の13.2%増を大きく上回った。これに対し,輸入は76年に前年比4.6%増のあと,7に対して,78年9月は1.41となっを下回ったことから貿易収支は急速に改善し,貿易収支赤字は75年の287億ドルから77年には129億ドルにまで縮小している(IMF年次報告による)。先進諸国の景気が低迷し,輸入需要が伸び悩み,かつ,保護主義の台頭と輸出環境が悪化する中で,非産油途上国の輸出が比較的順調に拡大したのは次の理由による。1つは,77年の一次産品市況が上昇したことである。これをロイター国際商品相場指数でみると,77年は前年比10.2%の上昇であった。もう1つは,発展途上国からの輸入ウエイトがヨーロッパ諸国より高いアメリカの景気が順調な拡大を示したことである。このため,アメリカでは非産油途上国からの輸入が前年比24.7%増と大幅に増加している。こうしたことを主因に輸出は拡大をみせたが,なかでも中進国の輸出は前年比20.3%増となったほか,その他諸国も同16.3%増と比較的順調な伸びを示した(第I-4-4表)。

ただ,一次産品市況は年央以降軟化傾向を強めたこと(ロイター指数は上期に比べ下期は10.3%下落)や同様に年末にかけ先進国の輸入需要が減少したことから,輸出の増勢は年央から78年1~3月期にかけ大幅に鈍化している。一方,輸入は著しい貿易収支赤字から75年以降各国とも厳しく抑制してきたものの,この間,経済が順調に拡大してきたことや貿易収支の改善,外貨準備高の増大,あるいは国内インフレ対策として輸入自由化を促進してきたこと等から徐々に増加傾向を強め,77年の10~12月期以降輸出の増勢を上回り,このため再び貿易収支は悪化している。

なお,77年の経常収支は貿易収支の赤字幅縮小などから前年より改善しているものの,依然,220億ドルの赤字である。これに対するファイナンスは,DAC(OECD開発援助委員会)加盟諸国から発展途上国への資金の流れが76年の低迷から77年には前年比17.1%増の477億ドルと増加するなど,順調に行われた。この結果,77年末の外貨準備高は前年末比28.4%増の550.8億ドルを記録している。これは非産油途上国の輸入の約4.1か月分に相当し,76年の3.6か月分相当からさらに改善している。

(4) 上昇に転じた物価

70年代に入ってから発展途上国の物価は2桁台の高騰を続けているが,75,76年と農業の豊作や輸入物価の落着き等から上昇率は徐々に鈍化していた。しかし,77年に入ってからは再び上昇テンポを高め,非産油途上国の消費者物価は前年比22.0%高(75,76年は各17.0%高,16.0%高,但し,中南米の一部急騰国を除く)と高騰している(第I-4-5表)。国別にみると,非産油途上国の88か国中,前年の物価上昇を上回った国が51か国を数える。また,地域別にみても前年1.5%高と安定していたアジア諸国が8.8%と上昇率を高めたほか,中南米諸国はほとんどの国が2桁台の上昇で,中でもアルゼンチン,チリ,ウルグアイの上昇は著しい。こうした,物価上昇は輸入価格の上昇,干ばつ等天候不順による食料品価格の上昇(タイ,西アフリカ諸国等)などのほか,政情不安等に基づく経済の混乱(アルゼンチン,チリ,ウルグアイ等),景気拡大によるマネーサプライの急増(韓国等),公共料金の引上げなどによる。このため,輸入抑制の緩和(インド,韓国等),一時的物価凍結及び物価統制(韓国,フィリピン,ブラジル等),賃金抑制(アルゼンチン,チリ等),金融引締め(韓国等)などの対策を採っている。なお,78年に入ってからはアジア諸国では一部の国を除き物価は再び落着く気配をみせているものの,他の地域では依然高い騰勢が続いている。

(5) 増大する債務残高

1970年代に入ってから年率20.2%と急増している発展途上国の債務残高は77年末には前年末比19.9%増の2,726億ドル(96か国累計,契約済で未受取分を含む)に達している(第I-4-6表)。

このうち,公的資金は前年比15.2%増であったのに対し,民間資金は同26.6%増と引続き返済条件の厳しい民間資金の増加率が高く,債務残高に占める民間資金のウエイトは70年時点の30.1%から77年には43.1%にまで高まっている。また,発展途上国人口の大半を占める低所得国への資金の流入量は少なく,加えて,民間資金のウエイトが高まっているが,77年に限ってみると資金の流入は比較的順調で,それも公的資金の流入が増加している。

債務返済比率(債務返済/経常収入)をみると,76年には一般的に危険ラインと言われる20%を越した国がモーリタニアの37.0%を筆頭に8か国(ギニア,シエラ・レオーネ,チリ,メキシコ,ペルー,ウルグアイ,スリ・ランカ)を数える,(前年も20%を越した国は8か国)が,輸出の回復等もあってこの比率は各国とも概して改善している。ただ,民間資金の比重が高まっていることや,77年には債務残高の増加率が輸出のそれを上回っており,また,77年後半以降貿易収支が再び悪化傾向にあり,かつ,輸出の増勢が鈍化していることを考えると,将来,債務返済比率の上昇が懸念される。

2 産油国

(1) 低迷したOPECの原油生産

OPEC諸国の原油生産は,77年に前年比2.2%増加して過去最高の3,108万バーレル/日を記録した。しかし上半期の前年同期比9.6%増に対し,下半期には同4.4%減と年後半は次第に鈍化の傾向を強めた。特に78年に入ると生産は,上半期に2,856万バーレル/日と2年ぶりの低水準に落ち込んだ(第I-4-7表)。

このような78年上半期までの原油生産動向には主として,世界経済の緩慢な回復に伴う石油消費の伸び悩み,北海,アラスカ,メキシコを中心とする非OPEC原油の生産増加という需給両面の事情が指摘できる(第I-4-1図,第I-4-2図)。すなわち,共産圏を除く世界の石油消費量は,76年に至り73年ピーク時の水準をようやく回復したが,77年は前年比で2.5%増と,67~73年の平均増加率7.6%を下回る伸びとなった。また77年半ばに本格化した非OPEC原油の生産は,78年に入ってさらにアラスカ,イギリス領北海でそれぞれ月間100万バーレル/日を突破する等,順調に増加している。以上の二つの動きを映じて,共産圏を含めた世界の石油輸入も,77年には前年比で1.3%の微増にとどまり,中でも西ヨーロッパは同3.1%減と逆に減少している。また,需要が比較的堅調であったアメリカでも,アラスカ原油に加え,77年末の高水準の石油在庫などを映じて78年初来一時的な石油輸入の減少が見られる(第I-4-3図)。この結果,OPEC内部においても油種面で北海原油と競合し,生産の多くをアメリカ,西欧に輸出しているナイジェリア,アルジェリアおよびリビア,同じくアメリカ向け輸出が多く,アラスカ,メキシコの原油生産の影響が大きいヴェネズェラ等で78年上半期に大幅な減産を余儀なくされた(第I-4-7表)。

しかし,78年夏以後のOPECの原油生産は,年末のOPEC総会への思惑等を背景に,増加に転じており,9月には,本年に入って月間で初めて3,000万バーレル/日の大台を越えた。

一方,原油価格については,この世界市場の需給緩和を背景に開催された77年12月,78年6月のカラカス,ジュネーブの両OPEC総会で加盟国間の意見の一致が得られず,事実上,据え置きとなった(基準となるアラビアン・ライト1バーレル当り12.70ドル)。原油の輸出数量停滞,減少に加え価格が据え置かれたことにより,OPEC諸国の石油輸出額は横ばい状態となり,同時に先進国のインフレ,ドルの減価による目減り問題に直面することとなった(第I-4-4図)。ちなみに石油価格と先進国工業輸出品価格との相対価格も,77年7~9月から産油国に不利な方向に動いている。そのため78年6月のOPECジュネーブ総会ではクウェート等の諸国が,原油価格の引き上げ,あるいは原油価格を現在のドル建てから複数通貨のバスケット方式に改めること等を主張したと伝えられる。しかし,原油価格のドル建てを変更することには,それによってドルの減価に拍車をかけるとして,対米協調を重視し巨額のドル資産を保有するサウジアラビア等が,終始消極的な姿勢を示している。

OPECの次期総会は,12月にアブダビで開催される。今後の市場の需給,産油国の態度を左右する要因として,委節的な需要期を迎える中で年末にかけてのアメリカの石油輸入動向,先進国のインフレ及びドルの減価の推移,またすう勢的に需要の増加しているガソリン,中間留分の多く得られる軽質油の生産輸出を一定の枠内に押えるとのサウジアラビアの新政策の影響,さらに10月末以降のイラン情勢の混乱の影響などが注目される。

(2) 産油国の貿易黒字幅縮小へ

産油国の貿易は,77年の輸出が前年比で9.1%増と,76年に比べ大幅に鈍化したのに対し,輸入は77年に36.2%増と著しい伸びを示した(第I-4-8表)。78年に入ると輸出の勢いはさらにおとろえ,1~3月に前年同期比8.1%減となり,中でもナイジェリア(同29.8%減),サウジアラビア(同15.0%減)等の諸国で大きく落ち込んでいる。このため,産油国全体の貿易収支の黒字幅も縮小に向かっており,77年の黒字幅は前年比15.0%の減少,78年1~3月の黒字幅は前年同期比で39.6%の減少となった。国別に貿易収支の動向を見ると,おおむね,ペルシャ湾岸諸国の黒字が依然として大幅であるのは対照的に,ナイジェリア,アルジェリア,ヴェネズェラの貿易収支の悪化が目立っている。

国内経済では,消費者物価が産油国全体としては鈍化の方向にあるとはいえ,77年には引き続き前年比で14.7%と76年の15.5%にっづき,2桁の上昇を示した。国別では,サウジアラビアで78年1~3月に前年同期比で1.3%と著しく鎮静化した一方,特にイラン,ナイジェリアでは顕著な上昇が持続しているため,厳しい金融引ぎ締め政策がとられている。国内の経済開発計画の進捗状況等のインフラストラクチャーの未整備,労働力の問題に加え,最近の石油収入の伸び悩みやインフレ対策としての引き締めの政策により,その達成牽は決して高いものとは言えない。