昭和52年

年次世界経済報告

停滞の克服と新しい国際分業を目指して

昭和52年11月29日

経済企画庁


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第5章 変貌する国際分業関係

第4節 産油国市場の成長と工業化計画

1. 産油国パワーの台頭

先進工業国を中心とする石油輸入需要の急増傾向を背景に, OPEC(石油輸出国機構)諸国の経済は1960年代後半に入り高い成長を示していたが,とくに73年の原油価格大幅引上げ以来,世界経済におけるOPEC諸国の地位は飛躍的に強化されている。石油輸出額の激増による経常収支の巨額な黒字,それにもとづくオイル・マネーの蓄積が世界経済に与えた影響についてはいまさら述べるまでもないが, OPEC経済そのものが世界経済に占める地位も大きく向上している。たとえば, OPEC諸国のGNPが世界のGNPに占める比率は,65年の2.O%から75年には3.5%に上昇し,輸出額ではこの間に世界の6.5%から14.5%を占めるようになり,いまや世界の金・外貨準備の25%を保有するに至っている(第V-24表)。

なかでも,石油資源に恵まれ,人口が比較的少ない中東諸国ではこの傾向は一層顕著で,イラン,イラク,サウジアラビアの3国についてみると,65年当時は世界平均の40%程度にとどまっていた1人当たりGNPは,76年には世界の平均を上回るに至っている。

2. 輸入市場としての産油国

所得水準の向上と豊富な外貨所得を背景に, OPEC諸国は大規模な工業開発計画を中心とする経済開発を積極的に進めている。その結果, OPEC諸国の輸入は開発用資材を中心に急速に増大しており,世界の輸入総額に占める比率も,1965年の3.4%から76年には7.4%へと大幅にたかまっている。

輸入の増加は60年代後半以来急速であり,石油ショック以前の72年までの3年間においても,年平均増加率は18.5%にのぼり,世界輸入の伸び(年平均15.O%)を大きく上回っていた。その後76年までの輸入増加率は実に年平均45.7%にのぼっている。

しかも, OPEC諸国の輸入の8割は工業製品である。このため,工業品の世界輸入に対する比率はさらに高く,70年の4%弱から,75年には9%弱に高まっている。OPEC諸国のプラント建設や社会資本整備への努力を反映して,鉄鋼や機械の輸入の伸びはとくに大きく,75年の輸入額は,鉄鋼では世界輸入の12,5%,機械では同じく10.5%を占める大市場となっている。

第V-25表 OPECの工業品輸入

このような輸入内容を反映してOPEC諸国は,とくに先進国にとって大きな輸出市場となっている。先進国の工業品輸出を主要仕向け地別にみると,70年から75年にかけての輸出増加2,652億ドルのうち342億どル,13%かOPEC市場向けの増加であった。

3. 工業化計画とその影響

OPEC諸国の多くは,石油資源を利用して所得水準の向上を図るとともに,国内経済の石油への依存を漸時低下させるため,野心的な経済開発,工業化計画を推進している。

イラン,イラク,サウジアラビアなどの中東産油国では,60年代後半以来経済成長率は高く,概して計画目標を上回る成長を達成している。しかし,これは主として石油部門の著しい拡大によるもので,それ以外の鉱工業部門の伸びはそれほど高くなかった。

石油価格大幅引上げ後,中東各国は工業化を軸に成長率を一段と高めるための野心的な経済開発計画を作成している。イランの第5次開発計画(73/74~77/78年)では,政訂後の支出規模615億ドル(72年価格),目標成長率は年平均実質25.9%となっており,工業部門では,①肥料,石油化学,鉄鋼など基幹産業の確立,②消費財,耐久消費財の輸入代替および輸出促進なとをねらいに,第V-26表のとおりの生産目標を示している。また,サウジアラビアの現行第2次計画(75/76~79/80年)の支出規模は1,440億ドル(75年価格),目標成長率は10.2%で,工業化については,①工業の多様化,②国内天然資源の有効利用,などのねらいから,輸出指向型重化学工業の開発に重点をおいている(第V-27表)。

しかし,イラン,サウジアラビア両国の工業化計画が,当初の想定どおりの進展をみせているとはいえない。大規模工業プロジェクトは,操業開始後の国際競争力の有無の問題を別としても,それ以前の建設段階で種々の問題を生じさせる。一つには,港湾施設,電力などのインフラストラクチャーが経済活動の急速な活発化に追い付きにくいことである(もっとも77年に入ってからは,港湾混雑はかなり解消されたと伝えられる)。二つには,労働力の質・量両面での不足,とくに技能労働者の不足である。これが賃金の急上昇を招くとともに,品質改善,生産性向上の大きな阻害要因となる。三つには,インフレの激化である。このような種々のボトルネックの発生に加えて石油収入の見込み違いもあって,現行開発計画の見直し気運が出ており,サウジアラビアでは77/78年度予算において開発プロジェクトの重点がこれまで以上に道路,港湾等の社会資本の拡充におかれたほか,イランでも,近く策定予定の第6次計画(78年3月にスタート)では開発テンポが従来の計画よりゆるやかなものになると予想されている。

このように,最近2,3年における余りに性急な工業化政策は,種々の隘路に直面し,反省の機運がたかまっていることは事実であるが,中東産油国が豊富な資金をバックとして重化学工業の育成を図っていることには変りはない。やや長期的にみれば,これら諸国の石油化学工業や一部の重工業が,国内需要の充足,さらには輸出市場へと進出してくることも十分に予想される。したがって当面,中東産油国は工業品の大輸入市場として一層重要性がたかまると予想されるが,5年,10年後には一部の産業で先進工業国の競争相手として登場してくるものと考えておく必要があろう。


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