昭和52年
年次世界経済報告
停滞の克服と新しい国際分業を目指して
昭和52年11月29日
経済企画庁
第2章 緩慢な景気回復の影響
すでに述べたように,最近においても,先進国全体としての工業生産の水準は,3年前のレベルをわずかに上回る程度にとどまっている。さらに,需要項目別の回復テンポの相違や,発展途上国製品の先進国市場への進出なども重なって,産業別部門別にみて,最近の生産水準には少なからぬ跛行性がみられる。
OECD全体について77年1~3月期の工業生産水準を,業種別に前回ピーク期(73年10~12月期)とくらべると,第II-3図のとおりである。すなわち,工業生産全体としてみると,前回ピークを3.4%上回っているが,業種別にみると,食品工業,輸送用機械(自動車など),化学などでは前回ピーク水準を7~8%上回っている。一方,繊維,非電気機械などの産業では,ピークにくらべてなお1~2%低く,さらに一次金属産業,とくに鉄鋼産業は73年当時の生産を12~13%も下回っている。
このような産業別にみた生産回復度の格差は,アメリカと西ヨーロッパについて別々にみても(第II-3図),また主要国についてみてもほぼ共通している(第II-6表)。ただ,鉄鋼業は全般に不振であるが,アメリカ(ピーク比19%減),西ドイツ(同15%減),日本(同10%減)でとくに低水準であり,なかでもアメリカと西ドイツでは7年前の70年にくらべても低くなっている。また繊維については,日本(同11%減),西ドイツ(同4%減)の回復のおくれが目立っている。
このように,多くの国で食品,輸送機械の回復が比較的好調である一方,鉄鋼や非電気機械の生産水準が低いのは,主として消費活動の順調さと,投資活動の不振を反映しているとみられる。今回の回復過程で,個人消費の増大にくらべて,設備投資の回復が概して振わないことは,第1章でのべた通りである(前掲第I-20表)。
もとより,産業別に生産増加のテンポに格差がみられるのは必ずしも今回に限ったことではない。しかし,今回の回復過程での業種間の跛行性は,つぎの3つの点でとくに重要である。
第一は,アメリカ,西ドイツでは,前回の景気回復期にくらべて,産業間の跛行性が大きいことである。一例として,アメリカの70年不況からの回復期についてみよう。工業生産が全体として不況前のピーク(69年10~12月期)を上回ったのは72年1~3月期であったが,業種別にみてもっとも回復のおくれていた鉄鋼業でも,ピーク水準を9%下回った程度で,今回の19%減にくらべると小幅であった。同様に,西ドイツの67年不況からの回復期についてみても,輸送機械と繊維は不況前のピークを4~5%下回っていたが,鉄鋼はほぼピーク水準を回復していた。いま,この両国について,不況前ピークに対する業種別回復度のバラツキ(分散)を計算してみると,アメリカでは,前回の1.05に対して,今回は1.99,西ドイツは0.59に対して0.78と今回の方がかなり大きくなっており,産業間の跛行性が大きかったことを示している。
第二に,産業別の格差は仮に従来とそれほど違わなかったとしても,工業生産全体としての水準が3年以上前のレベルにとどまっているため,相対的に回復のおくれている産業では不況感がとくに強いという点も無視できない。アメリカについて,工業生産が不況前ピークに回復した72年1~3月期と,77年1~3月期の製造業操業度を比較すると,全体としての操業度は,72年3月の82%に対して77年3月は83%でほぼ同水準にあるが,一次金属,繊維などの最近の操業度は,72年当時を下回っている。