昭和47年
年次世界経済報告
福祉志向強まる世界経済
昭和47年12月5日
経済企画庁
第1部 通貨調整後の世界経済
第3章 岐路に立つ多国籍企業
世界の天然資源需要の80%以上が先進国の需要であるが,供給側をみると,上位5ヵ国で7~8割を占めている。供給国は,①アメリカ,ソ連のように大部分を自給している国②カナダ,オーストラリアのように先進国ではあるが,輸出余力の大きい国,③輸出のために採掘を行っている発展途上国に分かれる。成功したときの超過利潤も大きいが,リスクもまた大きいため,資源開発には大資本を要する。資本主義国の場合,アメリカなどの資源企業は自国の賦存する資源のみならず上記,②,③の国々にも広く利権を求め,まさに多国籍企業として世界の市場で独占的力を発揮している。
今日,資源ナショナリズムとでもいうべき現象が投資受入れ国に生じている。戦前はさておき,戦後についていえば,1951年のイランの石油部門国有化は画期的な事件であった。このときは国際石油資本が技術者を引揚げたため失敗したが,資源保有国の希望はこれで消えたわけではなかった。52年の第6回国連総会は資源に対する保有国の権利を認める決議をした。また60年には,産油5ヵ国によってOPEC(石油輸出国機構―現在11ヵ国)が成立している。しかし,60年代を通じていえば,資源保有国と多国籍企業の摩擦はそれほど目立つほどのことはなかった。緊張が急速に高まったのは70年代に入ってからである。
① 70年以降,ラテン・アメリカの中で急進的なチリ,ペルー,ボリビアが鉱山に限らず,多国籍企業の子会社を次々と接収している。
② 71年に,石油産出国は,OPECなどのグループ活動を通じて,国際石油資本グループと交渉,値上げを実現した。さらに経営参加政策を推進したり,国有化を断行したりして,石油産出国自らが,石油産業を経営する方向への動きを強めている。70年には鉄鉱石輸出国会議が設けられ,71年のドル切下げにともなう補償価格を求め,結束を強めている。また,銅輸出国は67年CIPEC(銅輸出国政府間協議会)を結成,68年に生産者価格をLME(ロンドン金属取引所)の先物相場スライドから現物相場スライドに切換えることに成功している。
資源ナショナリズムを最近とくに昂揚させている要因としては,長年にわたって欧米資本によって収奪されてきたという感情,保有国経済にとっての資源の重要性,資源の有限性の認識などがあげられる。また,これを支える要因としては,初等,中等教育の普及および積極的な技術者の養成政策などによる保有国の民度向上があげられる。
このような保有国の内生的要因のほかに,国際政治経済情勢の変化という外生的要因も見逃せない。
① 資源開発のもたらす超過利潤の存在が新規独立資本を参入させている。
② 資源保有国が自ら,しだいに生産面に乗り出したことの結果,国際大資本の比重が低下した。
③ ソ連が中東やラテン・アメリカに積極的に進出している。たとえば,60年,イラクはイラク石油会社から未開発鉱区を一方的に接収したが,ソ連は最も有望と見られていた北ルマイラ地区の開発を積極的に援助しているし,また72年ブリティシュ・ペトロリアムの資産を接収したものの販売先に苦慮していたリビアと経済,技術協力援助協定や原油買付協定を結んだ。