昭和47年

年次世界経済報告

福祉志向強まる世界経済

昭和47年12月5日

経済企画庁


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第1部 通貨調整後の世界経済

第3章 岐路に立つ多国籍企業

4. 投資受入れ国の立場で企業進出

発展途上国では,資源部門だけでなく,製造部門に進出している先進国企業の行動にも批判が強まっている。産業の未発達な国では,外資系企業が多くの場合その国のトップ企業でもある。ラテン・アメリカ諸国の一部の国では,多国籍企業が民族系企業を買収したり,子会社へのコントロールを強化したりする動きが60年代後半から目立つようになった。

政治への関与,子会社に対する輸出制限,民族系企業に対する圧迫といった従来からの非難のほか住民の消費パターンをゆがめるといった点が指摘されている。輸入代替がときとして高所得者層のための消費財生産になっているのも事実である。多国籍企業を「新帝国主義」として警戒する声はラテン・アメリカだけではなく,他の地域でもきかれる。

外資系企業の操業開始によって,輸入されていた商品は国内で自給されるようになるが,これが輸出されて外貨を稼ぐようになるためには,生産性が向上し,輸出競争力がつかなければならない。しかし実際には外資系企業は国内市場の確保に止まる場合が多い。それに,部品等の供給を外国に依存している段階では生産の増大は必然的に輸入の増加をもたらすことになって,結局,国際収支面で必ずしも期待されたほどの効果をもたないと言えよう。こういったことが,発展途上国においてしだいに明らかになってきたのである。

多国籍企業は投資国と投資受入れ国それぞれのナショナル・インタレストと直面する。それのもたらす非経済的利益・不利益および経済的利益・不利益のすべてにわたり,直接的・間接的,長期的・短期的,および量的・質的な影響を分析することは不可能である。一般的にいって外国籍企業が柔軟な姿勢をとるようになっているが,多国籍企業のもたらすメリットを生かす一方,デメリットを極力少なくすることが政策の基本でなければならないが,1国の力ではもはや不十分であって,各国の共同歩調が必要である。

わが国の直接投資は近年,急速に増大し,とくにアジア地域向けでは,アメリカに迫るまでになっている。欧米先進国の多国籍企業にその例をみるように,企業の海外進出がさかんになるにしたがって現地資本との競合などの摩擦がふえ,民衆感情を悪化させやすいが,わが国としては今後このような点にいっそう留意し投資受入れ国の立場に立った投資を行ない,現地の人々の期待に誠意をもってこたえることが必要である。

第3-5図 アジア向け新規直接投資日本の比重高まる


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