昭和47年
年次世界経済報告
福祉志向強まる世界経済
昭和47年12月5日
経済企画庁
第1部 通貨調整後の世界経済
第2章 遅れる通貨調整の効果
貿易収支の動向は貿易構造の変化,さらに根本にさかのぼれば,産業構造の変化を反映している。アメリカ経済については次のようにいわれている。
① サービス経済への移行が進んでいる。
アメリカの国民総生産(名目)に占めるサービス生産の割合は1950年の31%,60年の37%から70年には42%と拡大しているが今後この傾向はさらに進むであろう。
② 技術水準は高いが進歩率は低い。
a 投資の割合が低い。
b 製造業投資は横這い。
c 技術開発費はきわめて巨額であるが軍事,宇宙に使われている比率が高く,企業技術に結びつく度合が小さい。
このほか,労働意欲の低下を指摘するものもいるが,アメリカの生産性上昇の低さは,このような経済体質の変化を反映している。
貿易面には,これが次のような現象となってあらわれている。
① 傾向的に高まる外国品に対する嗜好
サービス部門や国防,宇宙部門の比重が増すアメリカの企業は,消費者の日常的な物的欲求を十分に満足させることができない。消費者の外国品に対するし好が高まっているという指摘が60年代に入ってから聞かれるようになった。
② 資本ギヤャプ,技術ギャップの縮小
アメリカ企業の優位は,その巨大資本と技術開発力にあるといわれてきたが,ヨーロッパおよび日本の企業の資本力は近年急速に増大しているし,国際的な情報化の進展でアメリカとその他の国との技術ギャップも早いテンポで縮小している。これが相対的に低い賃金と結びついて,労働集約商品のみならず,技術集約商品,資本集約商品でもアメリカ製品に打ち勝つようになっている。アメリカ企業の海外進出と輸入国における幼稚産業育成とが,この傾向に拍車をかけている。
アメリカの輸出の伸びは1961~65年の平均6.3%から1966~70年の9.8%と上昇したが,それでも先進国全体のそれよりは劣っている。これに対して輸入の伸びは61~65年の年平均7.3%から66~70年の13.3%へと輸出の仲びを大きく上回っている。アメリカのピーターソン報告(1971年12月)は,貿易の将来を考える場合にサービス経済化のいっそうの進展に注意を向けている。この場合の国際収支構造は成熟した債権国のそれ,すなわち,貿易収支の赤字を海外投資収益でカバーすることになろう。
第2-7図 アメリカ製造業の生産性上昇率は主要国のなかで最低