昭和46年
年次世界経済報告
転機に立つブレトンウッズ体制
昭和46年12月14日
経済企画庁
第5章 主要国の経済動向
70年のソ連経済はかなり大幅に拡大し,工業および農業生産はともに計画を上回った。71年に入ってからも工業生産はほぼ同様な動きを続けているが,年央から伸び率がいくぶん鈍化している。また,東欧諸国では70年に概して好調に推移した工業生産が,71年に入って一部に鈍化の傾向をみせているが,農業は70年の不振を脱して回復に転じている。
70年の国民所得の伸びは8.5%と計画を2.5ポイント上回った。これは,69年に気象条件が不利で農業生産が減少したばかりでなく,工業生産も低成長におわったのとは対照的に,工業生産が8.3%増,農業生産が8.7%増とともに計画を上回ったためである。
とくに労働力の増加が制約されているにもかかわらず,工業生産の増加が著しかったのは労働生産性の上昇によるところが大きい。70年の国民所得の増加分の85%は労働生産性の向上によるものであり,生産性の上昇は工業で7%,農業で11%であった。
71年に入ってからも,工業生産は70年同様かなりのテンポで拡大している。その伸び率は上期の前年同期比8.5%から1~10月の前年同月比7.8%へと鈍化したが,年間計画の増加テンポを上回っている。部門別では化学工業と機械工業の生産の伸びが比較的大幅で,とくに乗用車,オートメーション機器などが大幅な増産を示した。こうした増産の著しい部門では労働生産性の向上とともに雇用の増大がみられたが,他の多くの部門では生産性の上昇のみによるものであった。とくに石炭,鉄鋼,非鉄,木材などの工業部門では労働力が削減された。
他方,農業をみると,一部地域の天候が不順であったこともあっで,7年の穀物収穫は史上最高といわれた70年には及ばないとみられる。しかし穀物,綿花など農作物の作柄は概してよく,一部の畜産物の生産は70年に比べて著増している。
次に投資と消費の動きをみると,70年の固定投資は69年とは対照的に著増したのに対して,消費の動きを示す小売売上げ高の伸びは鈍化したが,なお計画を上回った。しかし,投資については生産能力の稼動の開始の遅れ,その利用の不十分,新技術導入計画の未達成などの欠陥がいぜんとして解消されなかった。
71年に入ってからの傾向はさらに目立っている。投資関係の指標は好調を示しているとはいえ,内部のアンバランスがある。71年上期の国家投資の伸びは年間計画のテンポを上回り,建設事業量も全体としては上期の計画を上回った。しかし一部の経済部門と工業部門では生産能力の稼動開始が計画より遅れた。
他方,個人所得と消費の面では増勢の鈍化傾向が明らかとなり,一時的にもせよ消費財需給のアンバランスはやや縮小したとみみられる。71年上期の平均賃金は前年同期比4%増で,年間計画の2.8%を上回ったものの,5力年計画の年平均3.9~4.1%の範囲に収まっており,70年の6.8%に比べると小幅になった。またコルホーズ農民の現物を含めた所得も5%増で,70年の6.8%増より小幅であった。
上期の小売売上げ高の伸び率も70年実績および71年年間計画より低目であった。ただし,畜産物,野菜などの食料や一部の衣料品の売上げはかなり高いテンポで伸び,とくに乗用車の販売は前年同期の2倍となった。他方個人貯蓄の残高の増加は71年上期中に40億ルーブルと,70年上期の54億ルーブルよりかなり減少した。こうしてほぼ固定化された固定小売価格制のもとでの消費財需給のアンバランスと貯蓄の著増という近年の傾向に転換の兆候がみられる。しかし71年7月から一部で賃金および年金の引上げが行なわれたので今後の動きには注目を要する。
ひるがえって対外面をみると,70年の輸出は128億ドル,輸入は117億ドルで,その伸び率は69年のそれを上回り,なかでもコメコンを含めて,社会主義諸国からの輸入の増加が目立った。これに対して西側先進国との貿易の拡大は多少小幅になった。しかし長期的にはコメコン諸国との貿易の伸びを上回り,とくに先進国からの輸入は著増した。また発展途上国との貿易は70年にもいぜんとして大幅な拡大を示し,長期的には発展途上国への輸出が激増している。
その結果,貿易の地域構成では65年に比べて70年にはコメコンを含めた社会主義諸国の比重が縮小したのに対して,西側先進国からの輸入と発展途上国への輸出の比重が目立った増大を示した。これは,コメコン域内の相互貿易がいぜんとしてかなり大きな地位を占めてはいるものの,先進国からの技術導入,資本財輸入と発展途上国への経済援助,輸出の増加が著しいことによるものである。
71年に入ってからの先進国との貿易は停滞気味で,第1四半期の実績でみるかぎり,西側への輸出は前年同期に比べ3.6%増しているが,輸入は3.5%減少している。
70年には第8次5ヵ年計画が終わり,71年から新5ヵ年計画が発足した。
第8次5ヵ年計画は,国民所得の伸びなどからみるかぎり,ほぼ計画どおり実施されたといえる。すなわち国民所得と工業生産は計画の当初目標 ( 第5-5表 に示すものは修正目標で当初目標は年率で国民所得6.6~7%,工業生産は8~8.4%)に達した。これに・対し農業生産は目標を大きく下回った。また工業の消費財生産,小売売上げ高など個人消費の関連指標では実績が計画を上回った半面,5ヵ年累計の固定投資総額は計画に達しなかった。
このような第8次5ヵ年計画のあとを受けて71年から始まった第9次5ヵ年計画は,71年3月末の第24回共産党大会でその概要が決定され,細目は71年11月下旬の最高会議(国会に相当)で確認された。党大会の決定によると,各種の指標の成長率は66~70年の実績に比べて低目のものが多い。ただ諸指標間の相対関係では消費財生産と農業生産に重点がおかれていることは明らかである。消費財生産の伸び率が生産財生産のそれを上回るのは,68~70年の傾向の継続であって,5ヵ年計画としては最初のものである。
他方賃金およびコルホーズ農民報酬の伸びはかなり抑えられており,従来の消費財需給のアンバランスを解消することが意図されている。さらに特徴的なことは,労働生産性の大幅な向上が計画されていることで,これは労働力の増加の制約に対処するものである。もう一つの特徴は貿易の伸びが比較的小幅なことであるが,これは消費財および農業生産へ重点を指向することからくる経済構造の変化によるものであろう(ン連の貿易は,輸出では機械その他重工業品のシェアが大きく,輸入では食糧および消費工業品のシェアがかなり大きい)。
この第9次5ヵ年計画の主要課題は,生産効率の向上,科学技術の進歩,労働生産性の向上の加速化を基盤として国民消費水準を高めることにあるとされている。
東欧諸国では70年の工業生産は概して好調であった。69年に不振であったチェコ,ハンガリーで拡大テンポが目立った回復を示したため,東ドイツその他の諸国で幾分伸び率が鈍化したものの,全体としては各国ともほぼ足並をそろえて増産傾向をたどった。これに反して,農業生産は天候不順と洪水などのため,大部分の国で前年に比べ横ばいないし減少におわった。
71年に入って工業生産は東ドイツをはじめ一部の諸国で伸び率が鈍化し,年間計画の増産テンポを下回って,多少のかげりをみせている。これとは対照的に,農業生産は70年の不振から回復した模様で,チェコ,ハンガリーでは穀物の豊作が伝えられる。
東西貿易をみると,70年には全体としての東欧から西側への輸出は69年に比べ2%の微増におわったものの,西側からの輸入は著増し,とくに先進国からの輸入は20%余も増加した。しかし71年に入ってからは,第1四半期の実績でみるかぎり,西側への輸出は前年同期に比べ7%増しているが,西側からの輸入は1.9%の増加にすぎない。