昭和46年

年次世界経済報告

転機に立つブレトンウッズ体制

昭和46年12月14日

経済企画庁


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第5章 主要国の経済動向

7. 不況に悩むオーストラリア経済

オーストラリア経済は,1968~69年度(7月~6月)に実質成長率8,5%を記録したあと,70~71年度には3.9%にまで低下した。農牧畜業の不況を鉱業資源開発ブームである程度カバーしたとはいえ,製造業の不振など,景気は低迷を続けている。

第5-7図 オーストラリアの主要経済指標

(1) 羊毛産業の不振と工業生産の停滞

羊毛産業の不況はきわめて深刻である。1970~71年度の羊毛総販売数量は513万ベールで,前年度比10%の減少であった。総販売金額は4億6,800万オーストラリア・ドル(以下Aドルとす)で前年度比実に28%の激減であった。数量の減少率に比べ金額のそれが大幅になったのは羊毛価格の低落によるもので,1ポンド当りの平均取引価格は29Aセント34(対前年度比15%安)と,22年来の最低を記録した。羊毛の出回り増加と合繊の進出が羊毛価格低落の大きな原因である。この低落のため,70~71年度の羊毛輸出額は前年度比26%の減少(数量では若干の増加)となった。

一方,70~71年度の鉱業の生産をみると,原油の3倍を初めとして天然ガスの2.5倍,ニッケル鉱の2倍,ボーキサイトの31%増,鉄鉱石の16%増と大幅な生産増加を示している。工業の生産は農牧畜業不振の影響を受けて,耐久消費財を中心に全般的に低調であるが,とくに,自動車工業,繊維産業の生産低下が目立っている。以上のような結果,鉱工業生産指数は71年春以降伸悩みとなり,1~9月の生産水準は前年同期比4.4%増にとどまった。

(2) 失業者の増大と賃金・物価の高騰

この不況を反映して失業者は急増している。6月末の失業者数は6万8,479人(季節調整ずみ)で前年同期に比し1万5,525人(31%増)の増加であった。この増勢は7月,8月と月をおって増加し,9月には8万4,279人(前年同月比59.1%増)を記録した。これに対して未充足求人数は6月4万4,000人(前年同月比20%減)9月3万6,429人(前年同月比28.1%減)となり,失業者数とのギャップはますます拡大している。

失業者数の増大にもかかわらず,資源開発ブームを背景に賃金は大幅な上昇をみせている。とくに,70年12月に基準裁定賃金の上昇率が6%に決定し,70~71年度の賃金上昇率は9%に達した。

消費者物価の上昇率も69~70年度の3.2%から70~71年度には4.8%(71年4~6月は6%)と加速化している。

生産性の伸びは70~71年度に3%に過ぎず,9%の賃金上昇率はこの生産性の伸び率を大幅に上回わり,インフレの様相はいちだんと濃くなっている。連邦政府は財政面(財政支出の削減)と金融面(市中銀行をこよる貸付金利の引上げ)でインフレ防止に努めている。

(3) 国際収支の好調

一方,貿易を通関面からみると70~71年度の輸出は前年度比6.0%増,輸入は同6.8%増で,69~70年度の伸びが輸出23%,輸入12%と大幅であったのに比べて,著しく鈍化した。オーストラリアは長い間,羊毛および小麦を輸出の主体としていたため,豊凶等により貿易収支が絶えず変動していたが,70~71年度のように羊毛市況が極端に悪化した年でもなお貿易収支において黒字を計上したことは,鉱物資源輸出を中核としてようやく安定化したことの証拠といえるであろう(70~71年度の輸出を対前年度比でみると,羊毛は29%減,金属鉱物および鉱物性燃料はともに24%増)。輸入物資では,工業化と開発ブームを背景に機械類を中心に増加を続けている。

70~71年度の国際収支をみると貿易収支は,4億4,600万Aドルの黒字(前年度比3,500万Aドル増),貿易外収支は外航船の不足,外資への利払い等を主に12億2,300万Aドルの赤字(前年度比6,600万Aドル増),したがって,経常収支の赤字は,結局7億7,700万Aドルと前年度より3,100百万Aドルの増加となった。一方,資本取引は13億8,000万Aドル(70年7~12月,3億7,000万Aドル,71年1~6月10億900万Aドル)を記録し,総合収支は6億200万Aドルの黒字(前年度は3,700万Aドルの黒字)を計上した。なお,71~72年度に入っても貿易収支は好調で,7~9月の貿易黒字は1億7,900万Aドル(前年同期は260万ドルの赤字)に上った。

国際収支の好調を反映して,金外貨準備は6月末25億5,400万米ドル(前年同月に比し8億3,100万米ドルの増加),その後も月を逐って増加し,10月末には29億4,100万米ドルとなった。

(4) 71~72年度予算

スネッデン蔵相は8月17日連邦議会に71~72年度予算を提出した。予算の前提として実質成長率5%強,労働人口の伸び3%,非農業部門の生産の伸び2.5%とみている。71~72年の財政規模をみると,歳出は88億3,300万Aドル(対前年比9.0%増),歳入88億22百万Aドル(同9,9%増)で伸び率はやや抑制されている。予算の特色をあげると,インフレ対策として6億3,000万Aドルの揚超(前年度は4億6,000万Aドル)を計上するほか,社会福祉費や,羊毛業者への補助金など農牧畜に対する補助金が増加している。

(5) イギリスのEC加盟とアメリカ新経済政策の影響

イギリスのEC加盟に伴い,イギリスとの特恵関係は消滅することになった。オーストラリアは,イギリスがEC加盟を意図して以来,輸出先の転換をはかり,総輸出に占めるイギリス向け輸出は当時と比べて著しく低下した(1961/-62年度の25.8%から1970~71年度には11.1%,71年7~9月には8.5%)。したがって,イギリスのEC加盟に伴なう打撃は当初懸念されたほどではないにしても,酪農品(バターは全輸出の90%近くがイギリス向け),砂糖,果実などは大きな痛手を蒙るであろう。

オーストラリアが憂慮している今一つの問題は,アメリカの新経済政策後の日本の景気である。すなわち,日本経済の不況が深刻化すれば対日輪出はかなりの影響を受け,国際収支の悪化が懸念されている。事実オーストラリアの対日輸出は1970~71年度において全輸出の27.1%(第2位のアメリカ,第3位のイギリスを合せても23.O%に過ぎない)を占めていることを考えれば,日本の不況の程度いかんはオーストラリア経済に相当の影響を与えるものとみられる。


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