昭和46年

年次世界経済報告

転機に立つブレトンウッズ体制

昭和46年12月14日

経済企画庁


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第5章 主要国の経済動向

4. 順調な拡大をつづけるフランス経済

69年8月のフラン切下げとその後における一連の引締め政策の効果が比較的早くあられて,フランスの国際収支は69年末頃から改善に向い,それが70年中つづいた。だがその半面で生産の停滞と失業の増加傾向が次第に表面化したため70年央から引締め緩和措置が漸次とられ,とくに10月には大幅な緩和が行われ,かなりはっきりと拡大政策へ転換した。

そのせいもあって,経済活動は同年末から71年にかけて再上昇に転じた。だがその間に物価上昇の持続とドル投機の激化による短資流入などから,71年春以降再び若干の金融引締め措置がとられた。

(1) 順調な景気上昇

70年夏頃一時弱含みとなっていた鉱工業生産は財政,金融上の刺激措置に助けられて秋頃から徐々に上向きに転じ,第4四半期に前期比2.5%増となったあと,71年第1四半期にも前期比2.4%増となった。そのあと4月と5月に自動車と鉄道のストがあって減産をみたが,6~8月には盛り返しており,生産拡大の基調には変りがないと思われる。生産の増加は主として投資財と消費財にみられ,とくに自動車の生産は好調であったが,他方粗鋼生産は在庫調整の影響をうけて1~8月間に前年同期比8.7%減となった。

こうした生産の拡大を反映して,70年中増加しつづけていた失業数が,71年にはいって減少しはじめたが,年央以降再び増勢をみせている。

70年秋以降の景気回復をもたらした要因を需要別にみると,(1)個人消費が盛り返してきた,(2)一時頭打ちとなっていた輸出が再び増勢をつよめた,(3)設備投資が鈍化とはいえ,なお,かなり大幅にふえており,住宅建築も活発化した等の要因を指摘することができる。

個人消費増大の原因は一つには70年6月と10月に行なわれた賦払信用規制の緩和にあり,耐久消費財とくに自動車の需要がふえ,新車登録台数は70年上期の10.6%減(前年同期比)のあと,下期には19%増となり,さらに71年第1四半期にも16.5%増となった。政府は71年の個人消費を実質で6%増とみている(70年は42%増)。

民間設備投資はINSEEの調査(71年3月)によると,70年の実質23%増のあと,71年は約11%増と予想されている。かなりの鈍化だがそれでもなお増加率としては大きく,景気上昇の一因となることに変りがない。住宅建築も70年秋から再上昇し,71年第1四半期には許可数で16.4%増(前年同期比),着工数で17.5%増となった。

輸出の好調も重要な拡大要因であり,1~9月累計で前年同期比14.1%増となった。EEC向けとアメリカ向けの大幅増加が主因である。

(2) 賃金・物価の上昇基調つづく

製造業の賃金率は69年11.2%,70年10.5%と2年つづけて大幅増加あと,71年上期にも前年同期比11.1%増となった。他方,製造業の生産は上期に3.5%しか増えていないから,貨金コスト圧力はさらにつよまったとみられる。

物価も卸売段階ではかなリスローダウンしたが,消費者物価の騰勢は衰えていない。70年末から71年はじめにかけてやや鈍化の気配をみせたが,春以降再び加速化傾向を示し,前年同期比上昇率は第1四半期の4.9%に対して第2四半期5.2%,7~8月5.6%となっている。政府は当初71年の消費者物価上昇率を3.7%(12月~12月)と予想していたがその後の物価動向から4.9%へ改訂した。8月までの実績をみると,70年12月~71年8月間に既に1%の上昇となっており,政府目標の達成は非常に困難となってきた。

(3) 国際収支の改善

フラン切下げとマルク切上げといった平価調整措置のほか,海外環境の好調持続により国際収支は比較的早めに改善した。貿易収支は69年の赤字86億ドルから70年の黒字38億ドルヘ変り,それが主因となって経常収支も189億ドル赤字から,0.8億ドル黒字へ変った。このほか資本収支もフランに対する信認の回復,金融引締による企業の対外借入などから好転したので,金外貨準備は69年7月の底36億ドルから70年末の49.6億ドルヘ増加した。

71年にはいってからも国際収支の好調がつづいている。1~9月間の貿易収支は輸出が前記のように14.1%増に対して輸入は12%増にとどまったからさらに改善され,輸出の輸入カバー率も70年の平均100.9%から71年1~9月の102.7%へとわずかながら上昇した。ただし,この貿易収支の改善には輸出価格の大幅上昇(71年上期に前年同期比5.6%高)が大きな作用をしていた。

このほかドル投機による短資の流入もあって,金外貨準備は1~9月間に23.5億ドル増の73.1億ドルとなった。

(4) 慎重なリフレ政策

前述のように経済政策の方向は70年央頃から次第にリフレ政策へ転換し,金融面では賦払信用規制の緩和,公定歩合引下げ,銀行貸出制限の撤廃などの諸措置がとられた。また,財政面でも付加価値税の引下げ,景気調整基金の取崩し,公共投資支出の促進,低所得層に対する所得税減税などのリフレ措置が71年春頃までとられた。

だが,71年4月から5月にかけて消費者物価上昇テンポの加速化とドル投機の高まりによる短資流入の増加に直面した政府は,新たな物価抑制措置をとった。

金融面では,公開市場金利を引下げて短資流入を阻止する一方,流入短資の不胎化をはかるために預金,貸出準備率を5月から8月まで数回にわたって引上げ,とくに非居住者預金準備率を差別的に引上げた。

また,直接的な物価対策として,6月にそれまでの契約方式(計画契約)による価格統制に違反した企業に対して価格凍結令を適用,さらに9月はじめには新しい物価抑制策として「物価抑制契約」案を発表し民間企業と折衝を開始した。その内容は,(1)71年10月から向う6ヵ月間,電気,ガス,水道,国鉄運賃など公共料金と税負担の据置きを約束する代りに,(2)民間企業は今後6ヵ月間製品価格の引上げ率を平均1.5%以内へ抑えるというものであり,一種の緊急物価対策とみることができる。

(5) 二重相場制移行と72年度予算

8月央のニクソン新経済政策発表後フランスは二重為替相場制へ移行し,資本取引については,為替相場の自由変動を認める半面,経常取引についてはあくまで固定レートを堅持する方針をとった。来るべき多角的平価調整の場においても現行レート不変か,少くともごく小幅の切上げにとどめたい方針である。これは国際収支好転といっても,まだ経常収支がようやく均衡化したばかりであり,後進国援助等を賄うためには経常収支のかなりの黒字を必要とするとみているからである。

フランスの対米輸出依存度はわずか5%余にすぎずアメリカ輸入課徴金の直接的影響は西欧諸国のなかでは最も少い方であるが,フランスの主要輸出市場である西欧の景気が現在不振であり,それに輸入課徴金と通貨問題の見通難という要因が加わることによる間接的な影響は無視できない。これまでの経済拡大の主柱の一つであった輸出の前途に暗雲があらわれたといえる。

こうした情勢から9月央閣議決定をみた72年度予算案は,物価安定と経済拡大の維持を2本の柱とした。すなわち,3年つづけて,均衡予算を堅持しながらも,公共投資の大幅増加(約14%増)を中心に総額で前年比9.9%増の大型予算となった。とりわけ,公共投資の大幅増加は予想される対外環境の悪化を相殺することが狙いである。とはいえ,72年の経済成長は若干の鈍化がまぬかれぬとして,その実質成長率を71年の実績見込み5.8%や第6次5ヵ年計画(71~75年)の平均成長率5.8~6.0%を下回る5.2%としている。

半面物価(GNPデフレーター)の上昇率は71年の6%から72年の4%へ鈍化することが期待されている。

第5-4図 フランスの主要経済指標


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