昭和46年
年次世界経済報告
転機に立つブレトンウッズ体制
昭和46年12月14日
経済企画庁
第4章 変貌する世界貿易
1971年8月15日,ニクソン大統領は新経済政策の一環として世界経済におけるアメリカの地位強化のための諸措置を実施する旨発表した。
1)10%輸入課徴金
国際収支理由による付課税の賦課に関する1971年8月16日付大統領布告は,憲法および1930年関税法,1962年通商拡大法その他の法律に基づき,この措置を採用するものとし,コナリー長官によれば「もし,他国政府が,ここ数週間の間に,特別の貿易障壁の撤廃に向って明らかな前進をし,かつ,一時的に自国通貨の為替相場に自由に市場実勢を反映させる用意があるならばわれわれの側としても輸入課徴金の撤廃を検討する」ことになっている。すなわち,①米国の国際収支の改善を図る,②米国の雇用の増大を図る,③米国産品が不公平な為替レートを理由に不利な状態におかれないことを確保する,④日本間の輸入の増加率を抑える,ことを目的とするものである。
これによって,原則として従価10%の課徴金がかけられる。ただし,最恵国税率と10%の課徴金の合計税率が,関税表の国定税率をこえることになる場合には,国定税率を限度として課徴金が課せられる。輸入課徴金対象品目はアメリカの輸入総額の約50%である。課徴金が免除される品目は,次のようになっている。
① 無税品目
イ 通常,アメリカで入手できない産品であって,コーヒー,魚,鉱石のような原材料
ロ 米加自動車協定に基づいてカナダから輸入される自動車および同部品
ハ 有税品目であっても,法律でその適用が停止されているため暫定無税となっている品目
② 非譲許品目
諸外国との通商協定においてアメリカが行なった関税譲許の対象になっていない品目および関税表中,第1欄(最恵国税率)と第2欄(国定税率)の税率が同率になっている品目
③ 輸入割当品目
イ 法令に基づいて実施されている有税のもので酪農品,小麦,砂糖,原油,石油製品などの品目
ロ 協定に基づいて実施されている有税のもので牛肉綿製品などの品目
各国のアメリカへの輸出に対する影響範囲をアメリカ政府は 第4-6表 のように試算している。
完成品輸出の比重の大きい国では当然に課徴金対象輸入額の割合が高く,とくに対米依存度の著るしい日本,カナダは総輸出額に占める課徴金対象輸出額の割合が非常に高い。他方,先進国の中でもオーストラリア,ニュージーランドのように粗原材料や食品の輸出国の場合,その割合は低くなっている。
本来,ケネディラウンドによる関税引下げが72年1月に完全実施されてアメリカの工業品(SITC5~8)の平均関税率は67年の妥結以前の14.6%から9%へと大幅に下がることになっていた。それがく今回の措置により,課税免除の綿製品,すなわちSITC5~8のうち65(綿糸及び同製品)を除いたすべての工業品に輸入課微金が課せられる。68年の実績でみると工業品輸入額の95.3%が課税対象となっているら。つまり,工業品の平均関税率は,ケネディ・ラウンド完全実施の税率9%に輸入課徴金の実質付加分9.5%が加わり,18.5%となる。これはケネディ・ラウンド妥結前の14.6%を大幅に越えるものでガット関税交渉の成果が完全に消滅することになる。
もし,輸入課徴金が69年における西ドイツの国境調整税のごとく一率にかけられたとすれば,ドルの実質切下げだともいえる。10%の輸入課徴金を賦課した上に10%の輸出補助金を設定すれば,その効果は商品貿易に関する限りドルの10%切下げに等しい。今回は輸入課徴金の賦課のみで,しかも,課徴金の対象は,輸入総額の50%であることから大雑把に2.5%のドルの切下げ効果だともいえないこともないが,現実には平価調整的効果以上の意味をもっている。すなわち,原材料は引続き無税で製品のみに賦課される点に着目すれば,製品輸出国はドル切下げよりも余計な重圧を受けることになる。すなわち,工業製品に対する保護主義的措置である。交易条件に対する「調整」とは明らかに竣別される政策態度をそこに読みとることができる。
今回のアメリカの輸入課徴金制度について,ガットは71年9月6日作業部会を設けて検討した。
同9月16日,理事会は,
① 作業部会のアメリカ以外のメンバーは,輸入課徴金が不適当なものであると考える。
② 作業部会のアメリカ以外のメンバーは,輸入課徴金はガットをこ合致しないと考える。
③ 作業部会は輸入課徴金の早期撤廃を強く要請する。
④ 作業部会は,課徴金の暫定性を確認したアメリカ発言をテーク・ノートする。
⑤ 作業部会は,課徴金が早期に撤廃されないならば,世界経済と国際貿易に甚大な影響を与える。
⑥ 課徴金を早期に撤廃すべきであるとの前提に立って,開発途上国の輸出関心品目についてさらに課徴金の適用を免除するよう要請する。
⑦ 作業部会の結論は,いかなる意味においても,ガット加盟国のガット上の権利を侵害するものではない。
という結論の作業部会の報告書を採択した。アメリカ政府はこれに対して国際収支の大幅な改善のメドがつくまでこの措置を継続する気構えである。
アメリカ政府は10%輸入課徴金が1年間継続された場合のアメリカの貿易に与える効果として,72会計年度の輸入額は課徴金がなかった場合490億ドル(71会計年度は430億ドル)と予測されるが,課徴金により470億ドル程度に低下することを期待している。その上同じく新経済政策の一環である雇用拡大のための減税措置の見合いとして,21億ドルの輸入課徴金収入を見込んでいる。
2)新規国産設備に対する投資税額控除
10%輸入課徴金と同時に雇用拡大のための税制措置として69年4月18日廃止された投資税額控除の復活が打ち出された。その内容は次のとおりである。
71年4月1日以降発注または,71年8月16日以降引渡された国産の機械および設備(新設のものでなくてはならない)については7%投資減税を行なう。しかし,輸入される機械および設備は10%輸入課徴金が賦課されている間は減税の対象とされない。海外の資本財に対する税額控除の制限は,国産の機械,設備が優先的に使用されると思われるため現在資本財生産業者が経験しているような外国からの競争の激化に対する能力を強化しうることになろう。
したがって,この雇用拡大のための税額控除は資本財生産業者が最もはやくその影響をうけ,これらの業者と関連のある産業において新しい職場が生み出されることになろう。長期的にみれば,生産施設の近代的な設備への更新は米国国内産業の国内外市場における競争力を増し,米国労働者の生産性を高めインフレ圧力も減少させるであろう。
投資税額控除は設備投資の増大,雇用の拡大を目的とするものであり,長期的には国内産業の近代化,それに伴う比較劣位産業の撤退をもたらすことになろう。その場合,国内企業と外国の輸出業者との間に販売条件の壁を設けることにより達成しようとするものである。つまり国産の機械,設備と海外のそれの間に差別を設けるものであるが10%輸入課徴金と同じく,実質的な保護主義的措置でもあるとみることができる。この結果アメリカに機械を輸出している企業は同業のアメリカの企業と競争するために,輸入課徴金賦課と合わせ,20%のドル建輸入価格引下げとしなければならない。
3)米国国際販売会社(DISCディスク)
これは外国企業の国際競争力が強いのは,国の輸出助成策の効果でもあるとし,アメリカ国際収支改善のためにはアメリカも輸出に対する助成を行なうべきであるという考えに基づくものである。72年1月1日施行の予定である。その仕組は,もっぱらアメリカ産品を輸出することを目的としており,一定の要件をみたした会社はディスクに該当するものとして,ディスクの所得に対しては,それが株主に分配されず輸出関連資産として蓄積される限り課税の繰り延べが認められるものである。ディスクの要件は次のようになっている。
① 総収入の95%以上が適格輸出収入(輸出販売活動およびこれをに関連する活動により得た収入)であること。
② 課税年度末において,総資産の95%以上が適格輸出資産(輸出販売活動を行なうために使用する資産)であること。
③ 資本金が2,500ドル以上であること。
④ 株主全員その同意によってディスクとして取扱われるべき選択を行ない,その選択が有効であること。
ディスク制度が実施されると,米国の生産業者に刺激を与えて輸出販売を増大させその結果国際収支に好影響をもたらし,同時に輸出企業の立場を強めることにより雇用も増加させるであろうとコナリー財務長官は説明している。そして1年に約15億ドルの輸出増をもたらすと試算している。
輸出業者に輸出補助金を与え不公正な競争をしている国があるとこれまで非難し,公正,自由な貿易を標ぼうしてきたアメリカとして大きな転回であるといえよう。
4)対米繊維輸出規制
ニクソン大統領が1968年大統領選挙出馬の際に,ニクソン大統領が毛および化合繊,繊維品の輸入規制を行なう旨公約したことに直接端を発して以来,毛・化合繊製品の対米繊維輸出規制問題は,日米経済関係の重要な懸案であった。その後,数字にわたり政府間において交渉が行なわれたが,両国の主張に大きなへだたりがあったため話し合いが了解に達するに至らなかった。しかし,相次ぐ輸入制限立法の提案等米国における保護貿易主義の台頭や自由貿易体制維持の見地から1971年3月に日本の繊維業界は一方的対米輸出自主規制を宣言し,7月1日から実施するに至った。
これによって問題は解決したかにみえたが,米国の繊維業界は一方的自主規制が総枠規制であること等に不満を表明し,ニクソン大統領もこれをもって問題が解決したとはせず,8月のニクソン新経済政策の発表以来,アメリカ政府は再び強硬な態度を示し,政府間取極に応じない場合には,米国が一方的に厳しい輸入規制を実施するという強い意向を示した。しかし,これが実施された場合には繊維産業に甚大な影響がでることが懸念されたことはもとより他の業種に及ぼす影響ひいては日米経済関係の将来に及ぼす悪影響等を考えれば,この際,わが国の長期的国益の観点から政府間協定に踏み切る方が好ましいと判断し,大局見地から日米政府間取極の内容について基本的了解に達し,了解覚書が仮調印され,また韓国,台湾,香港なども前後してアメリカと政府間交渉に入った。
アメリカはこれまでガットの場をはじめとして機会あるごとに自由貿易をとなえてきた。60年代当初の綿製品貿易に対する規制措置は唯一の例外と思われてきた。それが最近では69年の鉄鋼(輸出国の)自主規制,69年以降の繊維交渉,70年通商法案の審議さらに71年8月16日の措置というように,しだいに保護貿易主義の傾向をあらわしている。
何故,近年,このような保護貿易主義的措置をとるにいたったかを以下に考えてみよう。
30年代におけるアメリカの保護貿易主義の台頭を振返ってみると,その大きな原因は失業率の上昇にある。
1929年3.2%であった失業率は30年8.7%,31年15.9%,32年23.6%と急速に高まり,それと並行して保護貿易主義は高まった。戦後においては各国とも適切な財政金融による有効需要政策がとられてきているため,30年代のような高率の失業は存在しないが,アメリカにおいて最近失業率は高水準にある。つまり,69年第4四半期の3.6%が70年第4四半期には5.9%に達し,その後,6%前後の失業率を続けている。そして失業率の高まりとともに保護貿易の主張が高まってきた。
さらに根本的には前節で述べたように,国際競争力の低下の結果として,輸入が急増したことも大きく作用している。比較劣位産業は議会を通じて輸入制限措置を採るよう圧力を強め,政治も急速に保護主義へ傾斜している。
その根拠の一つには国際収支悪化を背景に,ただ乗り論(自由世界防衛のための費用の負担がとくに日本など少ないことに対する非難)を持ち出してきたことである。すなわち,西欧や日本は,今や完全に復興し,政治,経済的地位を上昇させたにもかかわらず,応分の負担をしてないというのである。
たとえばウィリアムズ委員会報告(71年7月,国際貿易投資政策委員会(通称ウィリアムズ委員会)提出の「相互依存の世界における米国の国際経済政策」と称する大統領に対する報告書)にみるように,自由主義だけではアメリカの利益は保ち得ず,公正の原則を適用しなければならないという考えが芽生えてきた。そこで以下にアメリカの保護貿易主義転化の要因を経済的な面を主にして述べることにする。
1)国内市場における競争力低下
60年から70年の間におけるGNP(名目)カ伸び率をみると,アメリカ6.2%,OECD合計8.2%,日本14.8%,,また輸出の伸び率をみると,それぞれ7.4%,9.4%,15.3%でアメリカの相対的地位の低下が明白に現われている。その結果, 第4-8図 にみるようにアメリカは世界製造業製品輸出におけるシエアを低めてきている。製造業合計はもちろん,各商品別にみても輸送機器も68年にそのシエアをかなり回復したあと再び漸減している。したがって,アメリカの貿易収支は急激に悪化した。国別にみると,カナダ,日本,西ドイツの3国との貿易収支が急速かつ大幅に悪化している。カナダについては65年に締結された自動車協定がカナダに有利であったことが大きく作用している( 第4-9図 )。日本,西ドイツについては,国際競争力の格差拡大が素直に反映している。
次に,商品別にアメリカの貿易収支をみてみよう( 第4-10図 )。
現在,日米間で問題になっている鉄鋼,通信機器(テレビ,ラジオセット等),はきもの,繊維(織物および衣類)は60年代央より傾向的に,あるい)は急激にその貿易収支を悪化させている。これに対し,航空機,事務機器,医薬品など知識集約的,技術先端型商品は着実に貿易収支黒字を大きくしている。ウイリアムズ委員会報告書が「アメリカの国際競争力の低下は,アメリカが利潤率の高い新技術製品にエネルギーを注入しすぎ,価格の安い商品が他国で生産される場合,あえて,その商品の生産に固就しなかったと指摘しているように,インフレによる価格競争力の低下と同時に既存産業における生産性向上への努力が不足している。
製造業における労働生産性,賃金コストおよび輸出価格指数をみてみると, 第4-12図 のようになっている。アメリカ,日本,西ドイツの3国を比べてみると,輸出価格指数はアメリカが一番高い。70年の賃金コスト(単位製品当り)指数はそれぞれ112,112,118でアメリカがとくに高いとはいえないが,これは生産性において122,223,146とアメリカの伸びが低いにもかかわらず,日本,西ドイツにおける賃金上昇が大きかったためである。一般的には,このような状況であっても,産業別にみると問題が生じてくる。まず生産指数をみると, 第4-13図 のようになる。アメリカの業界が保護的措置を採るよう要求している粗金属(鉄鋼等),衣類,窯業土石(ガラス等)の生産指数の伸びはすべて製造業平均を下回っているし,最近輸入が急増している輸送機器も製造業平均並みに落ちている。これを反映して,はきもの,ガラス容器,鉄鋼など問題商品の労働生産性の伸びは鈍く,合繊も平均を下回りはじめた( 第4-13図 )。 第4-14図 はアメリカの製造業製品の貿易構造を示している。輸出構造をみると総体的には大きな変化はない。逆に輸入構造が大きく変化している。鉄鋼など従来から輸入品との競争力が弱いとされていた産業のみならず,一般機械,電子機器,輸送機器のような中高位技術産業においても輸入が著しく増加している。
保護主義的動きのみられる商品はいずれも国内消費に占める輸入品の比率が高まっている。しかしこの場合,一律に国内消費比率が何%になったら,保護貿易主義が高まるということはいえない。たとえば,繊維の輸入対国内消費比率はわずか5.9%(70年)であるが政府間協定に向って強い圧力をかけてきている。製造業全体の就業者数に占める繊維業の割合は67年,12%(製造業全体に占める付加価値の割合は6%)と,就業者数の大きな産業である上に南部地方に大きな比重を占め,地域産業的であるし,業界の売上げの伸びは68~70年平均2%にすぎない。
保護貿易主義台頭の原因の一つとして多国籍企業の問題がある。多国籍企業の国際収支に及ぼす影響は,第2章第2節で述べたとおりであるが, 第4-15図 に示すとおり,輸入に占める海外子会社製品の割合,すなわち,逆輸入比率が高まっている。労働組合は従来,自由な資本の移動は国際貿易の拡大を促がし,アメリカの輸出の増大を通じて,雇用の機会を増やし,生活水準を向上させる,との認識のもとに,海外直接投資に賛成であったが,最近,これを「仕事の輸出」であると考えるようになり,従来の自由主義的態度から保護貿易主義に転換している。
2)貿易相手国の保護貿易構造
1 ECと日本に対する不満
アメリカは近年における貿易収支悪化を相手国別にみて,カナダ,日本およびECとくに西ドイツを問題にしている。このうち,特殊関係にあるカナダを除外して,ECと日本に対して,その貿易政策に強い不満をもっている。
現在, 第4-16図 のようなアメリカ,EC,日本3者の間に経済的緊張があるがここではアメリカを中心にして,ECおよび日本に対する不満をウィリアムズ委員会報告によりみると,次のように要約される。
イ. ECについで
ケネディ・ラウンドによって工業品の関税率はかなり下がったが農業関税はほとんど下がっていない上にECの共通農業政策はアメリカ農産物の輸出に対して縮小的に作用している。拡大ECが成立するとアメリカ産地に対する差別的待遇は地域的にいっそう増大することになる。つまり農産品のバイユアロピアン(ヨーロッパ商品購買)により,また,工業品については,ヨーロッパ系企業を擁護し,アメリカ企業を差別待遇している。
また,ECは公式,非公式に日本に対して輸入制限を設けている。このためアメリカの輸入の15%は日本品であるのに,ECの場合その域外からの輸入の3%弱が日本品であるにすぎない。アメリカは,ECの対日差別を除去することにより,日本品のアメリカへの集中を防ぐことができる。
ロ. 日本について
日本が輸出を伸長させた要因として輸出能力を強めることを目的とした産業政策,特定産業および輸出の助成のための税制金融措置がとられてきた。
そして高成長が続いているなかで,いかなる国よりも高い製造業における生産性向上をもたらした。このため並行的に高い輸出の伸びを示した。一方,輸入政策については自由化は進んでいるが,非関税障壁が依然として存在している。また,直接投資については,日本への外国企業参入制限の実質的自由化は遅れている。
したがって日本はもっと自由化を進めると同時に非関税障壁も撤廃すべきである。また,資本の自由化についても進めるべきである。
以上のように,アメリカは,EC,日本に対して強い不満をもっており,「経済利益を守るためにあらゆる交渉をなさねばならないし,損なわれる場合には,利益のバランスを保つために(今までとは)異なった手段をとるべきである」と述べている。
他方, 第4-7表 にみる如く,ECは対日輸入制限を多く残しており,日本はこの点ECに対して強い不満をもっている。また,ECは,日本に対して平価の不均衡,あるいはアメリカの10%輸入課徴金によって日本商品がヨーロッパに流入することを警戒している。
アメリカの新経済政策は,その直前に発表されたウイリアムズ委員会報告が提言している諸措置がかなりの部分実行に移されている。
そこで,アメリカの現在の対外経済戦略を知る手がりとして同報告のねらいと内容を検討してみよう。
同報告第一章「70年代の戦略」の中の「行動のためのプログラム」は,まず次のように述べている。「行動のためのプログラムが成功するためには,それは,はっきりと理解された目標に基づいたものでなけれはならない。
アメリカの根本的利益は,この継続的な目標に基づき,国際貿易と投資のアメリカの福祉に対する貢献を極大化させることである。70年代に対する行動プログラムの作成において,まず,アメリカ自身が,その国際経済における立場を改善しうる方法にとりかかり,その後に,国際的な場で解決されねばならない緊急および長期の問題にとりかかる。
このような観点から国内経済の回復をはかる対応策および貿易相手国との交渉による解決策を詳細に展開しているが,現時点で実行状況をみると,前頁の表のようになる。
同報告は自由貿易をかざしているが,62年通商拡大法の線からはるかに後退し,とくに相手国の貿易政策の内容によっては対抗策を発動するという「公正の原則」が強調されている。新経済政策のうち対外経済政策は,これまでのところ,対抗措置が主になっている。ニクソン大統領は10月7日新経済政策第2段階に関するテレビ演説の中で「わが国が外国の競争を歓迎するのと同様,われわれの貿易相手国がアメリカの競争を歓迎することを期待する権利をわれわれはもっている」と主張している。
ウイリアムズ委員会報告をみると,日本の実状と政策に関する部分には誤解と認識不足の点もみられるが重要なことはそれを基礎にしてアメリカが対外政策を立案し,実行に移していると思われることである。保護主義への傾斜を止めるには,なによりも相互の立場を理解しあうことが必要である。
これらの問題の解決は第一義的に産業調整を含む,アメリカの経済政策と努力に求められるが,それには,かなりの時間的余裕が必要である。こういった点を考えるなら,輸出国側の協調的態度も必要である。各国とも国内産業調整をスムーズに行なうことにより保護的手段を極力縮小し,同時に,国際的産業調整をスムーズに行なうことにより,世界貿易の拡大,世界経済の発展を図っていかねばならない。